505 探 偵 3
作戦司令部は、ゼグレイウス王国の王都、お馴染みの雑貨屋ミツハ3階に設置した。
王宮のサビーネちゃんの私室にホイホイと転移するわけにはいかないし、うちの領地邸というのも面倒だからね。
なので、他に選択肢はない。
自分では領地邸から移動できないコレットちゃんが少しお冠だったけれど、それは仕方ない。
そもそも、コレットちゃんにはこの手の頭脳労働は向いていないしね。
……いや、コレットちゃんは、決して頭が悪いわけじゃない。
それどころか、ここの文明レベルの田舎村の子供としては、理解力が優れている方だ。
そもそも、馬鹿には短期間で3つの言語……日本語、英語、新大陸の言葉……をマスターすることは不可能だ。いくら寝る間も惜しんで勉強したとはいえ……。
ただ、あのド田舎では得られる知識量も経験もとても少ないし、本もなく、テンプレドラマのテレビ放送とかもない。そしてコレットちゃんは素直で誠実なため、人の悪意には疎いのだ。
だから、謀略や諜報戦には向いていない。
そして、私が危険なことをしようとすると、全力で止めに掛かる。
私には転移という逃走手段と、武器があると知っているくせに……。
悪いけど、今回はコレットちゃんは出番なし、ということで……。
でも、完全にハブると後が怖いから、時々は作戦会議に参加させなきゃなぁ。
* *
「……で、状況は?」
今日は、第1回作戦会議。
場所は、雑貨屋ミツハ。参加者は、私とサビーネちゃんのみ。
そして、サビーネちゃんから現状報告を求められた。
当然だ。どんなに優れたコンピューターでも、正しい情報が入力されなければ、答えの出しようがない。
「新大陸のヴァネル王国王都にて、私の周りを嗅ぎ回る者達が出現。
拠点にしている物産店に見張りが付いてる。
お隣の警備隊詰所の人達が気に掛けてくれているけれど、まだ何も起きていないから積極的な手段には出られないと思う。あくまでも公務員だからね、警備兵の皆さんは……。
そして私的なことだし、危険が予想されるから、『ソサエティー』のみんなは巻き込めない。
勿論、商売絡みという確証もないから、レフィリアとレフィリア貿易も巻き込めない」
「……他に、使えそうな戦力は?」
「う〜ん……、ナシ、かな……」
あ、サビーネちゃんが少し怖い顔をしてる。
「ウルフファングの人達は?」
「あのガタイ、あの服装と装備でずっと張り付かれたら、みんなにドン引きされちゃうよ!
こっちの言葉も通じないし、隠れ護衛の技術なんかないだろうし……」
いや、戦場で身を隠す技術はあるかもしれないよ? でも、こっちの世界で、町中や貴族がいるような場所で目立たないように護衛ができるとは、とても思えない。
向こうじゃ、ゼグレイウス王国のように、『神兵さんだよ』のひと言で済む、ってわけじゃないんだ。
私的な護衛というレベルを超えた戦力を勝手に入国させれば大問題だし、ビジュアル的に、貴族の少女の護衛とは思ってもらえないよ、多分……。
「地元の護衛を雇うのは……」
「しょっちゅう転移するから、私の事情を知っている者以外は駄目。
斡旋所で知らない人を紹介されるのも危険だし、知り合いの貴族に護衛を融通してもらったりすると、大きな借りになっちゃう上、情報が向こうに筒抜けになるよね」
「…………」
サビーネちゃんも、私に護衛を付けるのは無理だと思ったのか、黙り込んじゃったよ。
まあ、ひとりやふたりの護衛をつけたところで、それを大幅に上回る数のその道のプロをぶつけられればどうしようもないしね。
護衛も、明らかに勝てる見込みがないのに命を捨てて私を護る義理はないだろう。
高々1日当たり小金貨数枚の報酬額で、そこまでは要求できないだろうからね。
戦うのは、せいぜい護衛達と同数か、多くても1.5倍くらいの人数までだろう。
相手がチンピラとかであればもう少し行けるだろうけど、護衛が付いている者を襲う、それも殺すのではなく誘拐するとなれば、腕の良い者を何人も揃えるだろうからなぁ……。
「そうなると……」
おっ、サビーネちゃん、何か名案が浮かんだか?
「常に密着護衛ができて、敵を油断させることができて、姉様が『渡り』を使うことを躊躇する必要がなくて、強力な武器による戦闘力がある者……。
護衛として適任なのは、やっぱりコレットと私だよね!」
「何でそうなるんだよっ!!」
王女様が子爵の護衛とか、意味が分からんわっ!
……そして、そんなことが王様に知られたら、殺されるわっっ!!
「却下!!」
当たり前だよ!
* *
「まあ、襲われたらワルサーで反撃。それができない場合は、『渡り』で逃げる、ってとこかな。
新大陸だと、私を利用したい者はいても、ヘッドショットで一撃必殺、なんてことを考える者はいないだろうからね。
そんなに恨まれるようなことはしていないし、殺しちゃ金儲けのタネにできないからねぇ」
「う~ん、まぁ、それはそうかもしれないけれど……」
私の言葉に反論できず、かといって私が護衛もなくひとりで異国での行動を続けるということを容認できないらしく、額にシワを寄せて渋い顔のサビーネちゃん。
……うん、まあ、気持ちは分かるんだけどね。
私も、襲われないに越したことはない。
でも、ガチガチに防御を固めて襲われないようにしていると、いつまでもこの状況が続くから気が休まらないんだよね。
やはり、ここはひとつ……。
「やっぱ、釣りしかないか……」
「あ~……」
サビーネちゃんも、それしかないだろうと考えたのか、嫌そうな顔をしてはいるけれど、反対はしないみたいだ。
「釣りなら、自分が思った場所で、自分が思った時にヒットさせられる。
そして、常時張り付けるのは難しいウルフファングも、それなら使えるからね。
本拠地で待機していてもらって、私が連続転移で連れて来れば、『隠れ護衛が現れた!』ってことで、そんなに怪奇現象っぽくはないでしょ。
ヴァネル王国には銃があるから、セミオートで各自1発ずつなら撃っても御神器や場違いな工芸品扱いされることもないでしょ?」
「……そんな面倒なことをしなくても、『渡り』で賊をウルフファングの拠点に連れていけばいいんじゃないの?」
「あ~、そうすると、捕らえた連中を帰してあげられなくなっちゃうからね……。
秘密を守るためには帰せない、そして一生牢の中で衣食住の世話をしてあげるわけにもいかない。
かといって、私を殺そうとしたわけでもなく、ただ雇い主に命じられて同行をお願いしに来ただけの人達を『つちのなかにいる』にしちゃうのは、ちょっと可哀想かな、と思って……。
悪党ならばともかく、貴族や金持ちに雇われている兵士や護衛が、ただ上官や雇い主に命じられて、って場合もあるかもしれないし……」
「あ~……。姉様は、お人好しだからねえ……。
普通、自分に危害を加えたり何かを強制したりする相手は、問答無用で殺傷するものだよ。
悪党じゃなくても、その時点で自分の敵、犯罪者なんだから……。
そして、命じた相手を調べて、報復を行う。
敵を徹底的に叩き潰すことによって、以後同じような者が現れないようにする威圧効果、抑止効果が得られるんだよ。
あそこは襲っても実行犯を殺さない、なんて噂が広まったら、仕事を受ける犯罪者が減らないでしょう?
アイツには手を出すな、関わるな、って恐怖を与えなきゃ駄目だよ!」
「あ~、絶対関わるな、ってやつか……」
でも、日本の常識で育った私には、腐った悪党というわけではなく、ただ職務を遂行しているだけの人にはあまり酷いことはしたくないんだよね……。
まあ、こっちを殺そうとして襲ってくる者は別だし、戦場で敵兵を殺すのも仕方ないけれど、既に捕らえて無力化した相手をバッサリ、というのは、さすがに気が引ける。
「ま、姉様が甘いのは昔からだから、仕方ないか……。
それに、いざという時にはちゃんと自分や味方の安全を優先するってことは分かっているからね。
慈悲の心を持てるのは、余裕のある者だけだからね」
うん、まあ、そういうことだ。
さすがに私も、そんなに博愛精神に富んでいるわけじゃない。




