第21話 マリーローズの救出~出撃準備~【ルピナス視点】
私は歯がゆい思いで騎士団の調査を見守る。
「カルフィナー隊長!」
長身の金髪美形男子が校舎の方からやってきた。生徒ではなさそう。制服じゃない。
その後ろから誰かを引きずって歩いてくる男の人がいる。引きずられているのはキュラス様だ。
え、なんでキュラス様が引きずられているの? 後ろから羽交い絞めにしようとしてそのままズルズル引きずられている。
引き止めようとしている感じだけど、身長差もあって引き止められていない。
金髪美形男子さんは息を弾ませながらフリージア様のお父様に報告する。
「アルドラ殿下がマリーの行き先を突きとめました」
なんですって!? アルドラ殿下って、王太子の? 優秀過ぎない!?
「なんですと!?」
騎士団の部隊からも驚きの声が上がる。
そりゃそうだ。たった今、計測器で追えないってわかったところだったんだから。
「いったいどうやって?」
フリージア様も驚きを隠せないでいる。
金髪美形男子さんは頷いて答えた。
「ルピナス嬢にも届いたと思うが、手紙を出した時、マリーの鳥だけ別の方向に飛んでいったんだ。それに気づいた殿下がすぐに使い魔を飛ばして追跡してくれた」
す、すごい。殿下、優秀過ぎる。ていうか、使い魔って、なに? 授業で習ってないよ。
「カルフィナー隊長。俺もご一緒します!」
「だから落ち着いて!」
キュラス様を引きずって来た男の人が申し出た。
滅茶苦茶怒っているオーラが私でもわかる。キュラス様は必死にそれを抑えようとしているんだ。
金髪美形男子さんも一歩前に出る。
「僕もお供します。殿下から許可は頂いております」
「し、しかし、侯爵家の御子息たちを前線にお連れするなど……」
フリージア様のお父様は困惑気味だ。そりゃ侯爵家の御子息たちを連れて行くなんて恐れ多い。
ん? 侯爵家の御子息たち?
「大丈夫です。休みは(無理やり)取っています」
「なにも大丈夫じゃないでしょ!」
キュラス様は羽交い絞めを解いて、その男の人の頭をスパンと叩いた。キュラス様がここまで容赦なく接する男性。随分と親しいようだけど、ご家族、には見えないし、婚約者とか?
ということは、まさか、この方がマリーローズ様のお兄様!? 言われて見れば目元が似ている気がする。
じゃあ、こちらの金髪美形男子はマリーローズ様の婚約者と噂のアルドラ殿下の側近であるローダン様!?
どっちも侯爵家の御子息じゃない!? いや、さっきからそう言ってるか。
え、なんか、私が一番場違いな気がする。で、でもマリーローズ様を助けたい気持ちは私だって同じよ!
怖気づくな、私!
マリーローズ様のお兄様、確かアナベル様はまさに鬼の形相だ。
「マリーに嫌がることをした上にさらったんだぞ! 氷漬けにして砕くだけでは足りん!」
あ、お兄様は過激派だった。
キュラス様の顔に不気味な笑みが浮かぶ。
「そんな一瞬でやったら面白くないでしょ。死にたくなるほどの苦痛を与えてやるわ」
あらやだ、過激派カップル。
将来、メリディアナ家は絶対に敵に回しちゃダメだわ。
「二人とも落ち着いて。カルフィナー隊長が困っているじゃないか」
落ち着いた、それでいて呆れを含んだ声でローダン様が二人を咎める。
確かにフリージア様のお父様、カルフィナー隊長が困惑しているわ。
フリージア様も目を点にしている。こんなキュラス様を見ることもなかったし。たぶん、アナベル様とも初対面なのかもしれない。
ローダン様はカルフィナー隊長を振り返る。
「この通り、マリーローズ側はもう爆発寸前なんです。せめて僕たちを連れて行ってください。でないと、アルドラ殿下とカトレア妃自らが動きかねません。僕が行くからと二人を説き伏せて来た次第です」
ローダン様の顔はちょっと申し訳なさそうだった。王太子と王太子妃自らが動くなんて、極上の脅し文句だわ。
カルフィナー隊長は渋い顔をしているけれど、これは連れて行くしかない。
そもそも、アルドラ殿下の側近を務めるほどの人なんだから、ローダン様だって強いんじゃないの?
アナベル様だって、前にマリーローズ様が談話室で
――私の魔法なんてお兄様に比べたら水鉄砲に等しいですわ。
って言って、周りのA組をビビらせてたし。マリーローズ様の魔法もすごかったんだろうな。
「ルピナス嬢も連れて行きましょう。彼女の魔力量は武器になる」
アナベル様がニヤリと笑った。
え、連れてってもらえるの? 私でも役に立てるの?
アナベル様はフンと鼻で笑う。
「どうせあの臆病者のことだ。何重にも結界を張っているに決まっている。それを取っ払うには、魔力の物量で押しつぶすのが手っ取り早い」
そ、そんなこと、私に出来るのかな。確かに魔力の操作は授業やクラスのみんなに教えてもらって、だいぶ操れるようにはなってきたけど。
不安な気持ちが顔に出ていたのかもしれない。
アナベル様が私を見てニッコリと笑った。マリーローズ様を彷彿とさせる笑顔から、とんでもない言葉が飛んできた。
「ルピナス嬢、魔力の量というのはね、暴力になるんだよ」
「変なこと教えるな。マリーに怒られるぞ」
すかさずローダン様のツッコミが入る。
でも、覚えはある。身体強化の練習で、捨てられるだけの鎧を的にしたら、ビンタ一発で粉砕した。
自分でも信じられなかったし、先生も唖然としていたし、男子が震えあがっていた。
「き、きっと鎧が古かったのよ! 捨てられるものだし!」
「そうよ、すでに脆かったんだわ」
女子だけがフォローに回ってくれた。けど、きっと違う。あの時は誰もがそう思っていたに違いない。
今はそれが、役に立つんだ。
「私も連れて行ってください! マリーローズ様には何度も助けていただきました。恩返しがしたいんです!」
「父上、私もお供させてください! 足手まといにはなりません!」
私に続いてフリージア様も、カルフィナー隊長に懇願する。
カルフィナー隊長は黙ったまま考え込んだ。
「わかった。今回は魔法に長けている者の力が必要だ」
考えた末、カルフィナー隊長は私たちを連れて行くことを承諾してくれた。
ホッとしたのも束の間、隊員の一人が声を上げた。
「隊長! いくら何でも、お嬢様たちを連れて行くなんて……彼女たちはまだ学生ですよ!」
私たちを心配しての進言だった。
どんな状況になっているのかわからない現場に学生を連れて行くなんて、確かに危ないよね。
「私では他の部隊を動かす権限はない。団長と副団長が動けない今、自分たちで何とかするしかないだろう。責任は私が持つ」
それでもカルフィナー隊長の意思は固かった。
そっか、騎士団の団長さんはラタム様のお父様だった。息子からのとばっちりがいっているのかな。
副団長さんは、どうしてだろう?
「サーペンティン副団長は拘束され、家宅捜索が入っています。団長もラタム殿の件で謹慎中。騎士団の機能がマヒしかけているのが現状です。それも、スラウの狙いだったのかもしれません」
ローダン様が進言した騎士に説明した。騎士は視線を落として、苦い顔をする。
副団長の息子だったんだ。もし何も知らなかったら、お父さんは大迷惑だな。
団長と副団長が揃ってこんな状態じゃ、騎士団が回らなくなるのも無理はない。
しかし、手が回るのが早い。家宅捜索ってそんな簡単に出来るものなの?
その辺の事情は知らないけど。
カルフィナー隊長がローダン様に向き直った。
「スラウの居場所は、ここからどのくらいかかる?」
「騎獣で飛べば、だいたい三時間ほどの場所です」
き、騎獣……。私、まだ作れない。まずい、まずいぞ。
冷や汗がじわじわと額に滲んでくる。
「私が乗せていくわ」
こそっとフリージア様が声をかけてくれた。ありがとうの意を込めて、何度も頷いた。
カルフィナー隊長は皆を見回した。
「夜間の飛行は危険だ。明日の早朝、出発する。各自、準備をしておくように」
その言葉に、私たちは頷いた。
マリーローズ様、絶対に助けますからね!
お読みいただきありがとうございます。
アルドラ殿下は咄嗟の判断力に優れたお方です。
一方、お兄様はぶち切れていて手に負えません。




