第18話 テスト攻略はみんなで
私たちの婚約は瞬く間に手続きが進み、公に発表されました。あまりの早さにアルドラ殿下の影を感じますが。
おかげで学園内も社交界もこの話題で持ちきりです。私とアスター様の婚約破棄など遥か昔のことのように忘れ去られました。
そしてスラウ様と私のトラブルを見ていた方がいたらしく、社交界でも私に強引に迫ったと噂になっているようです。
校内では私を守るようにフリージア様がほとんど一緒にいてくれています。
そのおかげかわかりませんが、スラウ様からの接触はありません。
他にも星祭りで結ばれたカップルがたくさんおり、学園内が心なしか華やかな雰囲気と意気消沈した雰囲気が混在します。
しかし、その浮足立った生徒を現実へ引き戻すものがあります。
それは中間テスト。
学生ならば避けて通れない道です。
学園祭のバタバタでほとんど勉強の時間が取れませんでした。授業しか勉強していないと言っても過言ではありません。
これはピンチです。
皆さんも学園祭の準備に追われ、勉強時間の確保が難しかったようです。
そんな中、キュラスお義姉様からお呼び出しがかかりました。
個室の談話室へ行くと、ルピナスさんが待っていました。他にもサフィニア様とイベリス様の姿もあります。
「マリーローズ様、婚約おめでとうございます」
ルピナスさんが立ち上がって、丁寧なお辞儀を披露しました。練習の成果があったようですね。顔もニッコリ笑っています。
「ありがとうございます」
私も笑顔を返しました。
キュラスお義姉様に促され、席に着きます。その顔は普段の明るいものではありません。
「まず、ルピナスさんから預かったペンダントだけど、禁呪が施されていたわ」
禁呪という言葉に、ルピナスさんは目を見開きました。
サフィニア様とイベリス様も信じられないといった表情です。無理もありません。
禁呪は禁じられているから、禁呪なのです。使う人がいるなんて、思いつきすらしませんもの。
「ど、どんな魔法なんですか?」
「人の精神に干渉するタイプのものってことまでしかわからなかった」
ルピナスさんが驚いた顔で尋ねると、キュラスお義姉様は落ち着き払った声色で答えました。
それを聞いて、イベリス様は「まさか」と呟きました。キュラスお義姉様はゆっくり頷きます。
「三人の様子がおかしくなったのは、禁呪のせいだと思っていいでしょうね」
サフィニア様は頭を抱えました。
最初から、私たちではどうすることもできなかったのです。
サフィニア様はため息をついて顔を上げます。濃い青の髪がサラリと揺れました。
「その禁呪の効果は、まだ続いているんですか?」
「ええ。光属性を持った神官が解呪を試みているんだけど、少しずつしか解けないみたいなの。特にアスター様は影響が強くて、解呪すら受けようとしないのを押さえつけて受けさせているって聞いたわ」
キュラスお義姉様もため息をつきます。
あれだけ影響を受けていたら、そうなりますよね。ハックナイト公爵も大変でしょう。
ルピナスさんは両手を握りしめ、小さく震えています。
自分が持ってきた物のせいでこんな事態になったのですから、恐ろしいでしょう。
「義父はいったい、そんなものをどこから手に入れたのでしょうか?」
キュラスお義姉様は首を横に振りました。
「そこはまだわからないの。アルドラ殿下の力もお借りしているんだけど……」
殿下の力をお借りしても未だに掴めていないとは。かなり慎重な相手のようです。
私が話を聞いてから、それなりに経っているのに。
イベリス様が珍しく険しい顔になりました。
「でも、このことが公になったら、大騒ぎになってしまいますわ」
「そうね。だから、今は関わりのあるこのメンバーにしか話さないことにしたのよ」
キュラスお義姉様はみんなを見回しました。
「このことを知っているのは、ここにいる私たち以外は国王様と王妃様、アルドラ殿下とカトレア妃、調査に当たっている数人だけ」
私たちは表情を引き締めて頷きます。他言は無用ということですね。
「ルピナスさんのペンダントは禁呪の影響が漏れないよう封をしているから、安心して」
キュラスお義姉様の言葉に、ルピナスさんはホッとした様子です。
すると、サフィニア様が怪訝な顔をしました。
「もしかして、サーペンティン様もその禁呪の影響があったのかしら?」
先日のスラウ様のことを言っているのでしょうか。確かにあんなスラウ様は見たことがありませんでした。
「ですが、あの日以外は異様に近づくことはありませんでしたよ」
チラッと近づいたくらいで、アスター様たちのように四六時中ついて回るようなことはされていません。
キュラスお義姉様もうーんと唸ります。
「スラウ様はなぁ、妙に粘着質なところあるから気をつけなさいよ」
まあ、知りませんでしたわ。よく考えたら、スラウ様とは夜会などで軽く挨拶する程度で会話らしい会話もしたことがありませんね。
なんでそれで、私が花束を受け取ると思ったのでしょう。
私がアスター様と親しいと勘違いしていたように、親しいと思われていたのかしら。
キュラスお義姉様がパンッと手を叩きました。
「とにかく、暗い話はこれで終わり! さぁ、中間テストを頑張りましょう!」
お義姉様は笑顔で現実を私たちに叩きつけてきました。
テストモードに入り、それぞれが勉強に勤しんでいます。前期の期末テストのように、ルピナスさんの終礼ダッシュがない分、さらに静かです。
私は教室ではなく女子寮の談話室で勉強をしていました。キュラスお義姉様のアドバイスで、万が一のスラウ様対策です。
「はあ……」
近くからため息が聞こえました。ちらりと視線を送ると、フリージア様のものでした。歴史の教科書を見下ろして、眉間にしわを寄せています。
「どうかなさいました?」
「あ、いえ。今期の歴史の授業がどうもややこしく感じて、頭に入らなくて……」
フリージア様は歴史に苦戦しているようです。
「私でよければ、解説しましょうか?」
歴史については幼い頃から勉強しています。国の歴史を知ることは、侯爵家の人間として大事なことですから。
フリージア様は驚いて首を横に振ります。
「いえ! マリーローズ様のお手を煩わせるわけにはまいりません!」
「そんなことありません。教えることでこちらも理解が深まります。お互い勉強ができますわ」
私がそこまで言うと、フリージア様が折れてくださいました。ちょっと強引過ぎましたかね。
でも、お互いに勉強を教え合うのは良い勉強法です。
「マリーローズ様は、躓いている教科はありませんか?」
「お恥ずかしながら、数学がちょっと不安です」
フリージア様の問いに正直に答えました。
数学は公式の暗記教科のようなところがあります。ただ、問題に対してどの公式をどう当てはめれば良いか。いつもは出来るはずなのに、今期はそれが上手くできません。
やはり、予習と復習のどちらも出来なかったことがここに来て響いています。
「でしたら、数学は私がお手伝いします」
フリージア様はパッと顔を輝かせて頷きました。数学は得意のようです。
こうして私たちは協定を結びました。お互いの不得意を補い合う協定です。
の、はずだったのですが。
私が歴史の解説をしているとどこからともなく人が集まり、フリージア様が公式の解説と使うべき問題のポイントを説明しているとじりじりと人が寄ってくるという不思議な現象が起こり始めました。
悩みはみんな、同じだったようです。
ならば、私たちが取るべき行動はただ一つ。
「みんなで赤点を回避して、殿方たちを出し抜きますわよ!」
一年女子は再び一致団結。
得意な教科を持つ人が苦手な人に教える仕組みでテスト期間の放課後を勉強時間に当てます。
テストの点でマウントを取ってくる愚かな殿方も中にはいます。
そんな方々を見返してやりましょう。
みんなでやれば、何とかなるはずです!
お読みいただきありがとうございます。
ちなみに作者は高校生の時にこの方法で得意な生物を看護師志望の友人に解説して点数を上げて、無事に看護学校への合格に貢献しました。
模試でも一度だけ生物で学年一位を取ったことがあります。他は、ゴニョニョ……。




