第12話 令嬢たちは団結する1
フリージア様の言っていた作戦会議は女子寮の談話室にて行われました。
ここならば、殿方に聞かれることはありません。
クラスごとにまとまって座り、一年生全員が集まりました。なかなか壮観です。
司会はフリージア様が務めるようです。私は何故かその隣に座らされました。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」
フリージア様が一礼されました。みんなもスッと頭を下げます。
「ご存知の通り、ルピナスさんがついに倒れてしまいました。症状は過呼吸。心身に強いストレスがかかると発症することが多いです」
「明後日までは部屋で養生するよう、アルラ先生から言われております」
カルミアさんが補足説明をしました。
「問題は、その後ですね」
「公爵家だからと言って、これ以上、好き勝手にされてはたまりませんわ」
「化粧室の前で待つなんて信じられません!」
次々に不満の声が噴出します。
やはり皆さん、アスター様たちには迷惑していたのですね。本当に申し訳ありませんわ。
フリージア様がみんなを見回して頷きます。
「はい。なので私たち全員の意思疎通が必要だと思い、この場を設けました」
一人のB組の生徒が私に目を向けました。薄茶色の瞳は何かを決意しているようです。
「マリーローズ様も、サフィニア様も、イベリス様も、前期はご尽力いただきました。それでもダメなら、みんなで動くしかありません」
「私たちB組の女子全員で、ルピナスさんに張り付きます。同じことをやり返さないと私たちの迷惑なんて気づきませんもの」
B組の皆さんが一斉に頷きます。
「気付けばいいですけど……」
思わず本音がぽろりと漏れてしまいました。
禁呪のことはまだ伏せていたほうがいいでしょう。
騒ぎになってもいけませんし、どこの誰がプルーム男爵にあのペンダントを渡したのかまだ判明していませんからね。
すると、フリージア様が首を縦に振りました。
「ええ。おそらく、またマリーローズ様の仕業だと言いがかりをつけてくるでしょう。なので、マリーローズ様には私が付きます」
「そ、そんなご迷惑をおかけするわけには!」
あのネチネチクドクドした罵詈雑言にフリージア様を巻き込むなんて!
フリージア様はフッと不敵に微笑みます。
「あの方たちは"学園内では身分の差はなく平等"を謳っております。ならば、子爵家の私が口を出しても問題ありません」
「マリーローズ様はもうアスター様の婚約者ではないのですよ! もっと他人行儀にしていいんです!」
「むしろ、もっと怒っていいんです」
A組の生徒が大きく頷きました。
他人行儀に、もっと怒っていい……?
そう、ですね。もう他人なのですから。
私にはローダン様がいます。アスター様とは違い、一緒にいると心が温かくなるお方がいます。
心の中に張られていた糸が、プツリと切れた気がしました。
アスター様の元婚約者だから。そんな糸が心のどこかに張っていたのかもしれません。
「それにアスター様の様子だと、マリーローズ様に手を挙げるのは時間の問題かもしれませんよ」
「そのためにも、フリージア様と一緒のほうが私たちも安心です」
今度はC組の生徒たちが声を上げました。
確かにフリージア様は運動神経抜群です。剣術の鍛錬を毎日欠かさずされている姿を拝見しています。
フリージア様は胸元に手を当て、恭しく頭を下げました。まるで、本物の騎士のようです。
「私の要人警護の練習だと思って、お付き合いください」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
私は笑顔でそれを受け入れました。これほど心強い護衛はいません。
正直なことを言えば、アスター様たちの攻撃なんて防御魔法でいくらでも弾き返せます。
ですが、学園内では特定の場所以外で魔法を使うことは原則禁止です。相手が魔法を使わない限り、正当防衛は成り立たないかもしれません。
体術に優れた方が近くにいてくださるほうが安心です。
「さあ、皆さん。女子を怒らせるとどうなるのか。見せつけてやりましょう!」
フリージア様の言葉に、みんなで力強く頷きました。
休養を経て、登校することになったルピナスさんの顔は、浮かないものでした。
無理もありません。心労は一日二日で良くなるものではありませんから。
談話室の窓から外を見ると、もうアスター様たちが待っています。朝からご苦労なことです。
B組の皆さんは顔を見合わせて頷き合い、一斉に玄関を出ました。
歩くのに邪魔にならない程度の距離を保ちつつ、密集して進みます。
その中にルピナスさんを見つけたアスター様が早速近づきました。
「ルピナス! 良かった。元気に――」
「おはようございます、アスター様。良いお天気ですね。ルピナスさんは私たちと教室に行くのでご心配は無用です。お気になさらず登校してください。体調が悪くなった時の対処法も先生に聞いておりますから大丈夫です」
伸ばされたアスター様の手をグイと押し下げ、矢継ぎ早に言葉を叩きつけたのはレイニー様です。
さらに進み出ようとしたニゲラ様の行く手を片手で阻みます。にこやかな顔で言葉を続けました。
「お三方の手を煩わせるまでもありません。私たちにお任せください。では」
レイニー様はサッと身を翻してみんなの後を追いました。オレンジ色のセミロングがさらりとなびきます。
アスター様たちはその場に立ち尽くしました。何が起こったのかわかっていない様子です。
私とフリージア様はその様子を寮の玄関から眺めていました。
「すごいですわ、レイニー様。あんなに早口でまくし立てるなんて」
「彼女、小さい頃に泣かされた女の子に代わって、からかった男の子が泣き出すまでチクチク責め立てたことがありますからね」
付き合いのあるフリージア様が教えてくださいました。
幼い頃から負けん気が強い方だったのですね。
私やカトレア様はそんなタイプではなかったので、アスター様たちにとってあんな風に言われたのは初めてだったことでしょう。
ちょっとスカッとしましたわ。
「私たちも参りましょう。遅刻してしまいます」
「はい」
いつもは一人の登校が、今日からは二人になりました。少しだけ楽しい登校時間です。
並ぶとフリージア様の背の高さを実感します。私も女性としては背が高いほうですが、フリージア様はさらに高いです。
私より三センチくらいは差があるでしょうか。横目で見るとやはり凛とした佇まいです。
寮の門を出て、レンガが敷き詰められた道を歩きます。
「おい! マリー! またお前の入れ知恵か!?」
背後から怒声が響きました。
またですか。
禁呪の影響下にあるとわかっていても、呆れますし、何よりイラッとします。
私は足を止め、ゆっくり振り返りました。出来る限り感情を抑え、彼らを見つめます。
「何度も同じことを言わせないでください。もう婚約者ではないのです。気軽に愛称で呼ばないでくださいませ」
それだけ言って、足を校舎へ向けます。まともに相手にしていては、本当に遅刻してしまいます。顔なんて見ている暇はありません。
フリージア様は私に合わせて歩いてくださいました。
今日は唐突だったので上手くいきましたが、今後はどうなるか。
「この作戦、いつまで通用するでしょうか」
「そう長くはもたないかと。いくら固まっても私たちは女子です。力で来られたら男性には敵いません」
答えるフリージア様の顔は苦いものでした。男女の筋力の差を彼女は身をもって知っているはずです。
今までも強引にルピナスさんを引っ張っていった彼らです。苛立ってどんなことをするか予想ができません。
「最終手段として、挑発して校内で魔法を使わせて拘束させるという方法もありますが」
学園内では決まった場所以外での魔法の使用は禁止です。そういう結界が張られています。事故やトラブル防止のためです。
魔法を使おうとすれば結界の効力が発動して独房へ飛ばされます。
ちなみに演習場や寮の中では魔法の練習をするために使うことができます。
それを逆手にとって、わざと魔法を使わせるということも手段の一つですわ。もう手段は選んでいられません。
「そんな危険なことさせられません!」
「ですから、最終手段ですよ」
慌てるフリージア様に、私は小さく笑って返しました。
ちょっと本気ですけど。
お読みいただきありがとうございます。
女子たちの反撃開始です!
おや? 吹っ切れたマリーローズが何かを企んでいますね。




