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すれ違いセラミックス6



すれ違いセラミックス6



(隼人)


三月半ば。


俺たちの生活は変わらずだった。


関係も変わらず。




祐人は仕事を探してはいるけど、なかなか丁度いい仕事がみつからないようで、コンビニでのバイトを続けている。


祐人いわく、勤務時間と通勤時間の希望は外せない、

通勤に時間がかかると、飯を作れない。

らしい。


できれば土日休み、じゃなくても土日のどちらかが休みであること、

勤務時間はできるだけ俺と同じような時間帯

通勤時間は車で30分圏内。


なかなか限られてくると思う。


飯を作ることにこだわらなくてもいいのに、とは思うけど、

祐人のつくるご飯が好きだ。

それに、今の祐人との生活での金銭的な負担で、不満も困ってることもない。



祐人は今まで仕事でしんどい思いをしてきたから、

ちゃんと自分に合った、無理のない仕事を選んで欲しい。




今日は金曜、夜。


俺は明日休み。

祐人は夜勤なので夜中に出勤するから、朝は慌てない。



てことで、


変わらない奴がもう1人。



「今日泊めて?」


「泊めねぇって何回も言ってるだろ」



相も変わらず嫁も子供もいても、家から追い出されてここに酒を飲みに来る真太。



「狭くていいって!添い寝でいい!」


「俺は狭いの嫌なんで…祐人に頼んで」


「祐人ぉぉぉ添い寝して(ハート)」


「隼人以外お断り」


真太はケチーーーと言ってグビグビとチューハイの缶をあおった。



「てかさー、お前らまだ付き合ってないんだろ?」



思わず体がピクっと反応する。



俺たちは「変わらず」生活してる。


俺たちの関係も「変わらず」



時々思う、祐人はいいのか、って。


不安になる。



だけど、祐人の気持ちにこたえる勇気は持てなくて、

自分の気持ちもはっきりしなくて


変わらずズルズルと生活してる。



年末のあの日以来、時々…

祐人は俺に、あの日と同じように触ってくることがある。


後ろにくっついてきて、触っていい?と聞いてから。

俺がイクまで触って、自分のをガチガチにさせて、自分はトイレにいく。



「隼人はやくオッケーしちゃえばいいじゃん。優良物件でしょ。俺ほどじゃないけど顔はいいし、俺より低いけど背も高いし」


「前置きうっっぜぇ」


いや、お前より祐人のが顔はいいと思う。



「しかも今日なんて隼人が、鶏肉食いたいって言ったから肉焼いてくれたんだろ?飯美味いし最高じゃね?」



それはそう。


…俺は、祐人に甘えてる気がする。




「うるせぇよ真太。隼人にプレッシャーかけんな。焦らせんな。俺は俺のペースで隼人に愛伝えてるし、隼人は隼人のペースでいいんだよ。俺は今なんの不満もねぇ。一緒にいられるだけで幸せなんですぅ」



「甘ぇ…祐人寛大すぎるな。生殺ししんどくないの?性欲ないの?」


ドキッとした。


祐人に甘えてる

祐人に我慢させてる


そう思ってるから…



「は?性欲はばりばりあるわ。だけどなんもしんどくねぇ。隼人がいなくなるのがなによりしんどい。てかまじもう黙って、そーゆー話いいって。下世話」




祐人は本当に優しくて、真っ直ぐだ。

嘘をつかない。



俺らは、ローテーブルの向こう側に真太、

こっち側に俺と祐人が並んで座ってる。


祐人は、気にすんな、というように、真太に見えないところで、俺の手をきゅっと握って、それからポンポンとたたいた。









真太が帰ったあと、片付けて、交代でお風呂に入った。


お風呂出て、洗濯をまわして、リビングに戻る。



「隼人ー、雪見ふくふくたべよーぜ」



「おー」



2個入りのアイス、祐人がひとつとって、もうひとつを俺に渡した。




「んめえ」


「なんか冬に食べたくなるアイスだよなー」


「風呂上がりのアイスってうまいよなぁ…てか、祐人も俺待ってないで自分が風呂出た後に食べたら良かったのに」


「隼人とシェアすんのがハッピーなんだよ」


「あっそ…」


「へへっ」



嬉しそうでなにより。




。。。。。。



(祐人)



「明日はチョコモナカビッグ半分こしよーぜ、あれ夏は1個食べたいけど、冬は半分でよくね?」


「たしかになー」





アイス食べ終わって、洗濯機がとまるまで一緒にゲームして、


隼人が洗濯を干してる間に、俺は布団をコロコロで綺麗にした。




二人で歯磨きして、トイレ済ませて、布団にはいる。





「おやすみー」


「おやすみ」



隼人はいつも俺に背中を向けて寝る。


向こう向くのがクセなんだろうな。



無防備な背中。



もぞもぞと布団を移動して隼人の背中にくっつく。



隼人は何も言わない。



俺はゆっくり隼人を抱きしめる。




「………隼人、触っていい?」



隼人が頷くのを待って、手を移動させる。














「はっ…イッ、ク…あっ」



隼人のソレが俺の手の中でビクビクと動きながら、液体をドクドクと数回吐き出していく。




しばらくそのままじっとしていると、隼人は、はぁと息を吐いて体から力が抜けた。




自分のソレもパンパンにはりつめていて、

隼人を抱きたくて仕方ない気持ちに襲われる。


その気持ちを抑えて隼人のズボンから手を抜く。


抜いた手をそのまま頭上にのばして、布団の上の方に置いてあるティッシュで手を拭う。



えっ


隼人がソロソローっとゆっくり手を後ろに伸ばして、カチカチの俺のソレにズボンの上から触れた。



触れただけで、どうしようと迷うようにかたまっている。



「ふっ…隼人」



ティッシュをとりあえずその辺に置いて、


隼人の手つかんで、隼人の体の前に返した。



「…無理しなくていい。」



無理させたくない。嫌な思いはさせたくない。


そりゃもちろん、触って欲しいし、なんなら抱きたいってめちゃくちゃ思ってる。


だけど、


今じゃない。



生殺しとか気にしてるなら、全然気にしなくていい。



「大丈夫。ありがとな、無理はさせたくないから。」



隼人の耳元にそうできるだけ優しく伝えて、


俺は自分のソレを処理するためにトイレに向かった。






隼人今日もクソ可愛いな……




。。。。。。


(隼人)




ザ、賢者モード…


祐人はトイレに行った。




俺ばかり気持ちよくなって、いつも祐人に我慢させてる。


真太も生殺しだという。


祐人はしんどくないと言ったけど、性欲はばりばりあるって正直に言ってた。

そりゃそうだ

あんなガチガチにしてんだから…


今だってトイレに行った。



俺もした方がいいかと手を伸ばしたけど、怖気付いて、結局……このざま






………祐人は、すごい真っ直ぐ、俺に、好きを伝えてくれる。


けど、これがいつか、祐人が、勘違いだったと思ったら?


他に好きな人が出来たら?


実際俺は、祐人への恋愛感情を、失った。

祐人もそうなったら、



……この、真っ直ぐな、大きな愛を、誰かに向けるのは、







いやだ、





っあーーー


俺最低だ……


ずるいよな



ずるい。


祐人のこと、恋愛感情ですきだといえないくせに、


祐人が他の人好きになったらちょっとやだとか、


なんだよそれ……



最低だ……





ああああ…



俺は布団をひっぱって、スポンと頭まで隠れた。

下半身に余韻が残ってるので仰向けで。






祐人が寝室に戻ってきた音がする。



ぽふっ、と俺のすぐ横に祐人が倒れ込んだ。



「隼人、また賢者モードでなんか考え込んでね?」



図星すぎて。俺は自分は石だといいきかせて、無言をきめこんだ。


うごかないしゃべらない、私は石です。




布団を隔てた外から祐人は抱きしめてくる。



「難しいこと考えちゃうくらいなら、俺が質問するから、その答え考えて、聞かせて」



なんだそれ



いやいや俺は石。



きこえませーん




「明日、チョコモナカビッグを買いに行くなら、スーパーorコンビニ。はい、答えて」



スーパーのが安いよな。


コンビニのが近いけど。


食材買いに行くしスーパーで一緒に買った方がいい。



「スーパー」



あ、答えちゃった…



「はいつぎ、俺はたまには歩いて買い物もありだなーとか思ってるんだけど、明日スーパーまで歩いて買い物行くのはありorなし」



歩いてか、

行けない距離じゃないんだよな


歩いていったこともある。


車があるから、近くてもつい車使っちゃうだけで。



昼間は散歩がてら歩くにはいい気温になってきた。

朝晩はまだ冷えるけど。


ありかなしかでいうなら



「あり」



でなんで俺はまた真剣に考えて答えちゃってるんだ…



まぁ、いいか…



布団に潜ってるのが暑くなってきて、顔を出した。


天井をみたあと、首を横に向けると、オレンジ色のこだまだけで薄暗い中で、祐人が笑ってるのが見えた。



「じゃあ次の質問な」



祐人がニッと笑った。


「高校の頃、俺のどんなとこが好きだった?」



は?


急におかしな質問来たけど…??



質問に戸惑ったけど、


つい最近、自分でふと考えてたことだった。



俺は祐人のどんなとこがすきで、どんな風に好きだったのか、って。





「…嘘つかなくて、ばかで、バカ正直で真っ直ぐで、カッコつけたがりで、優しい。」



「バカって2回言ってね?ははっ、他には?」



あとは、俺のそばにいつも居たとこ


俺は、


祐人とずっと一緒にいたいって思ってた


だれもみたことがない祐人の顔を見たいって思ったり


祐人の特別なひとりになりたいって思ってた



…そんなこと、言えねぇ





「今、好きなところは、飯が美味いとこ」



「ははっ、やったね、ははは。…じゃあ高校の時、俺とs〇xするの想像した?」



「は?!」


いきなりぶっとんでね?



「正直に答えよ!」



〜っ…





「……がっつりすることは、考えてなかった。一緒に、なんていうか、なんていうんだけあれ、兜合わせ?みたいなのは、想像した……てか何聞いてんだよ!何答えてんだよ俺も!俺ら馬鹿じゃねーの!てか今はやりたいって思ってないからな!高校の時の話だからな!バカ!」




俺はもう一度布団に頭まで潜った。









(祐人)



今日は一緒に歩いてスーパー行こうぜ。


俺は、こんなこと、隼人に言うんじゃなかった……。








財布と、折りたたんだ買い物袋をポケットに突っ込んで、家を出た。



鳶職をやっていた職業病で、つい足場を組んでいる現場とかをみかけると、みてしまっていた。


家を出て三分くらい歩いたところで、足場を組んでいる現場をふと見上げた時、


「あれー?お前武之内じゃん」


ビクッと体がかたまった。


足場の上の方をみていたおれは、声のした方、足場の下の方へゆっくりと視線を動かした。



「うわーひっさびさ見たわお前、何お前この辺住んでんの?」



ぎこちなく、ギギギと音がしそうな首の動きで、近くに貼ってあった、建設会社や代表、足場、などが書いてある貼り紙を見た。


っ…


俺がいた、会社だ…



一緒に住んでた先輩が、俺を見つけてこっちに歩いてくる。



心臓がバクバクと嫌な音を立てる、俺はなんとかして、とっさに、隼人を自分の後ろに隠した。


隼人になにかあったら…


いや、なにもしてこない、


大丈夫…


でも、一緒に住んでいた時、殴られたことがある。


その記憶が一気に鮮明に思い出される。



「なになにお前生きてたんだ、ははーつかなに?お友達?なに隠してんの?彼氏?やべーくそおもれー」



「あの、サボってると、怒られるんじゃ、ないですか」



必死に震える声を絞り出してそういうと

先輩はとたんに顔を怖くした。



「あ?ちょーしこいてんじゃねーぞ。何様だてめぇ、なにダチとおままごとしてんだよ。」


心臓が痛い…


早くこの場から去らないと…



「お前いなくなってしわ寄せこっち来たってわかるよな?まぁお前がいなくなって使える新人来たからありがてーけど?いなくなってくれてありがてーけどな?てかお前ってもともといなくてよかったよな」



やばい、視界がぼやけてきた…


ぐるぐるする




「あ?」



!!


隼人が、俺の後ろからでてきて、

俺の前に立った。


「隼人のこと何もしらないくせに、そんな言い方しないでください。ていうか関わらないでください。

俺たちは暇じゃないので、失礼します。」


そう言って、俺の手を掴んで歩きだそうとした隼人


「あぁん?!」


「隼人!」


先輩がグッと隼人の後ろ首をつかまえて、引っ張った。



「ッぐっ」


先輩が隼人の首をガシッと前から力いっぱい掴んだ


隼人が苦しそうに先輩の腕を叩く



「やめろ!隼人に触んな!!離せ!!」




一瞬だった。




ゴッッッツ!!




「隼人っ!ー!」


隼人の首をしめる先輩の腕を思いっきり引っ張った直後、

反対の手で俺はおしのけられてよろけ、


隼人は、

思いっきり殴られて、1mくらいはなれたとこに転がった



俺は自分でも聞いたことがない、出したことがない叫び声で隼人の名前を叫んだ。


隼人に駆け寄って、無事を確かめる。



隼人は殴られた頬をおさえて、涙を流しながら、ハッハッハッと短く苦しそうに呼吸していた。


「隼人、隼人…隼人ごめん…大丈夫、大丈夫…ごめん隼人…」



俺の叫び声に気付いた現場のえらい人間が走ってきた。


隼人の上半身をじぶんの膝にのせて、頭を自分の胸に優しくおしつけ、できるだけもうなにも隼人に見えないように聞こえないようにする。



この期に及んで先輩は反省するような表情でもなく、ただこちらを見下ろしていた。


俺は思いっきり睨んで、低い声で、走ってきた現場監督らしき人に言った


「警察呼びます。」



現場監督は必死に、勘弁してくれと頼んできた。



「許しません。アイツだけは、許しません」



俺の低い声にビビる現場監督だったが、

自分の仕事を守るために必死だった。



最終的に、現場監督は、病院に付き添う、治療費を出す、警察だけは勘弁してくださいと土下座する勢いで頭を下げた。



「いらない。ついてくるな。治療費もいらない。二度と近づくな。」



口約束では意味はないかもしれないが、現場監督の前で先輩に、二度と関わらないことを約束させた。


現場監督は、社長にもきちんと連絡すると言った。

愛知の現場には来させないよう言っておく、と。


少なくとも、この現場にいる時は、絶対もう関わってこないはずだ。


こんな近くに現場があること自体稀だから、きっともう関わることは無い。






隼人をしっかり支えながら家に帰った。




。。。。



(隼人)




こんな風に人に殴られたことがなかった。

生まれて初めてだった。


首を絞められた時、痛くて苦しくて、死ぬかと思った。

殴られた時、今まで感じたことない痛みと恐怖を感じた。


そこからはもう、頭がぐらぐらしてあまり覚えてない。


ただ怖くて、痛くて、

家に帰る間も、ちゃんと歩けてるのかわからなかった。

歩いてる感覚がなかった。



たぶん、いや、ぜったい

余計なことした、余計なこと言った

祐人に迷惑かけた



祐人が怯えてて、祐人をわるくいわれて

めちゃくちゃ腹が立って


もっとよく考えて行動すべきだった




祐人は家に帰るとすぐに、冷凍庫に入れてあった、前にケーキを買った時についていた保冷剤を薄手のタオルに巻いて、俺の頬にあててくれた。


それからスマホを操作し始めた。



しばらくして、スマホをおくと、俺を見た




「病院にいこ。午前中でよかった、安戸病院が形成外科だし土曜は午前中やってる。。…動けそうか?」




俺は小さく頷いて、祐人に支えられながら立ち上がった。







。。。。。




(祐人)





病院で処置してもらって、隣の薬局で薬を貰った。



病院では、口がどのくらい開くか、歯が折れたりぐらついたりしていないか、顎の骨に異常がないかなどを診てもらった。


幸い、隼人は口の中が少し切れていたものの、歯や骨に異常はなく、痛みで大きく口は開けられないけど、顎の動きにも問題はないと言われた。


痛み止めを処方され、


「今日は腫れが強く出ると思うので、保冷剤をタオルで包んで15〜20分くらい冷やしてください。ずっと当てっぱなしにはせず、休憩を挟みながらで大丈夫ですよ」


と説明を受けた。




家から持ってきたタオルで包んだ保冷剤を、自分で右頬にあてている隼人を、支えながら車に乗せた。




隼人はずっと、声を出さない。


痛くて喋れないのかもしれないし、


喋りたくないのかもしれない。





俺も、何を言えばいいのかわからなかった。




喋ったら、泣いてしまいそうだった。




おれのせいだ。

おれのせいだ。


おれのせいで…







家に帰ってきても、俺たちはいつも言う

ただいま、さえ声に出せなかった。



「…隼人、横になってた方がいい。服だけ着替えれる?汚れてるから…」



隼人は時々、痛っ、というように顔をしかめながら、服を何とか脱いだ。


俺は朝おきて布団かけにあげた隼人の布団を敷いた。


隼人は俺が持ってきた部屋着に着替えると、布団にゆっくり横になり目を閉じた。





痛々しい…



謝らなきゃいけない、


けど、今、ごめん、って言ったら、涙が止まらなくなりそうだ。


情けない。




今しんどいのは隼人だ。


俺が泣いてたらだめだ。




「……飯、たべれない、…か?」



隼人は目を閉じたまま首を少しだけうごかした。




「お粥とか、雑炊とかも、無理そ?」



「………………………無理…痛い………てか……食欲…………ない…」



小さな声で、腫れと痛みのせいでくぐもった声で、

隼人はそう言った。



痛々しくて、申し訳なくて、泣きそうだった。



「…わかった、食べれそうって思ったら言ってな、すぐつくるから。痛いかもしれんけど、水分はがんばって時々とって。」




薬局で売っていたペットボトルにつけられる、ストローキャップをペットボトルのスポーツドリンクにつけて、


隼人の寝ている横に置いておいた。







。。。。。。



(隼人)



夜、たぶん22時半頃



っ…


痛い…痛い…痛い…




「ふーっ…ふーっ…ふーっ…」



痛い、痛い、痛い…




痛みが増してきて、必死にごまかそうと息を吐くけど、


痛い…



タオルで包んだ保冷剤を当てるけど、中身がもう溶けて冷たくなくなっていた。



「っ、ふ、ふーっ…っく」



涙まで出てきた。



情けない。


いつもは右を下にして寝てるけど、殴られたのが右側で、下にできない。


仰向けで寝ていたけど、

痛みを誤魔化そうと少し動いて、左側を向いた。




横で寝ていた祐人が気付いて、慌てて起き上がって、俺の背中を撫でた



「大丈夫か?痛いか?まってな、痛み止め今持ってくるからな」



祐人はすぐに痛み止めと、コップに水をいれて、ストローをさしてもってきてくれた。


「起き上がらなくていいからな、ゆっくり」



俺の口の中に痛み止めの錠剤をいれて、口元にストローをあててくれる。



痛みに耐えながらなんとかそれを飲み込んで、はぁっと息を吐く。


「水もういいか?」


頷くと、コップをリビングに持って行って、新しい保冷剤を持ってまたすぐに戻ってきた。



それからまた俺の横に座って、保冷剤をつつみ直すと、俺の頬に当てて、背中を撫でてくれる。



「ふーっ…ふーっ……祐人……夜勤……仮眠…」



「大丈夫、俺は大丈夫だから、無理して喋らなくていい。」



祐人は優しい声でそういいながら、俺を優しく撫で続ける。



だんだんと痛み止めが効いてきて、ウトウトしてくる。




「…おやすみ隼人。」





。。。。。。


(祐人)




夜勤を終えて、急いで帰る。



帰ってすぐに手も洗わず寝室を確認しにいく。




隼人はスヤスヤと眠っていて、心底ホッとした。



仕事中、気が気ではなかった。


痛みで眠れてなかったらどうしよう

泣いて震えていたらどうしよう

いなくなっていたらどうしよう


不安で仕方なかった。




普通に眠っていてくれたことに安心して、

手を洗いに行く。


それから着替えて、いつもならリビングで仮眠をするところだけど、

隼人が眠っている布団の横、床に横になって、隼人の規則的な寝息を数えた。





ウトウトして目を閉じていたら、隼人の動く気配がして、目を開けた。



「んん…」



顔を少し顰めて、うなっていた。


起き上がって、仰向けで寝ている隼人の肩をぽんぽんと叩いた



「痛いか?痛み止め持ってくるな」



昨日寝る前と同じようにコップに水を入れ、ストローをさして、痛み止めと一緒に持っていく。新しい保冷剤も。


寝室に戻ると隼人は上半身を起こしていた。



横にしゃがんで薬を渡す。



隼人が薬を口に入れてから、コップを渡した。



隼人が飲んでいる間に、タオルの中の溶けた保冷剤と、今持ってきた凍っている保冷剤を交換した。



隼人からコップを受け取り、かわりに保冷剤タオルを渡す。



「…ありがと…」



隼人の声は変わらず腫れと痛みでこもっていて、

小さな掠れたような音がした。



「横になってていいよ」



「いや……トイレ」



支えようと思ったけど、手にコップを持ったままでは無理だった。


急いでリビングに置きに戻って、寝室に戻ろうとしたら、隼人は自分でリビングの方へ歩いてきていた。



「大丈夫か?」


「…平気」




トイレを済ませてリビングに戻ってきた隼人は、テーブルに置いていた保冷剤タオルを右頬にあて、


いつも座っているクッションチェアに、ぽふんとゆっくり沈むように座った。



「横になってなくて大丈夫か?」



隼人はうん、と頷いて、

ぽんぽんと自分の横の床を叩いた。



来てってことか?




隼人が叩いていた、隼人の左隣に座ると、


隼人は、コテっと自分の頭を俺の肩にのせた。




こんな状態なのに、きゅんとした。

可愛い…





俺は平静を装って、


「朝ごはんは?食べれなそう?」


と聞いた。



俺の肩の上にある頭がまた、うん、と頷いた。



「そっか……テレビでもつける?」






配信サービスでみられるアニメをつけて、

しばらくみていたら、痛み止めが効いて楽になったのか、隼人が少し喋りだした。



「…ごめんな、迷惑かけて」


「何言ってんの、迷惑かかってないし、むしろおれのせいで…ほんとごめん、痛い思いさせて」


「祐人のせいじゃないじゃん、…俺、余計なことした。」


「…こうやって謝りあってるとたぶん、きりないよな、俺が歩いてスーパー行こって言ったせいだ、とかさ…どう間違っても隼人は悪くないから…」



隼人の肩に手を回して、少し撫でた。



。。。。。。



(隼人)


「どう間違っても隼人は悪くないから」



そう祐人は言ったけど、


俺はどうしても、ごめん、とまた心の中で呟いた。



余計なこと言って、して、祐人に嫌な思いさせた。


今、俺がこんな状態になって、世話させて、迷惑かけてる。


それから、俺は、また甘えてる。



今はとても恋愛感情とか考えてられる状態じゃないから、また、祐人には宙ぶらりんのまま待たせる。我慢させる。


なのに俺は、祐人がこうして隣にいて、撫でてくれたり、くっついていたりしてくれると、すごく安心して、

そばに、いて欲しいって思ってしまう。


ごめん…



俺は余計なことをしたし、祐人に嫌な思いをさせて、今、祐人に甘えすぎてるけど、申し訳ないけど、


だけど今は、そばにいて欲しい…


祐人がいなくなるのがこわい。










その日は1日ほとんど、祐人にくっついていた。


くっついてもらっていた?と言うのが正しいかもしれない。




座って祐人の肩に頭を預けて、テレビを見たり。


リビングの床に横になって、薄いブランケットをかけて昼寝する時も、祐人に隣にいてもらった。





夜になると、少しだけ食欲がでてきた。


まだ痛みはあるから、食べるのは少し怖いけど…




「ちょっとだけ、腹減った気がする」


「雑炊にする?」


「うどんがいい」





祐人は小鍋でお湯を沸かして冷凍庫からうどんを2玉出した。



お湯の湧いた鍋に、うどんを冷凍のまま入れて、そこに、市販のうどんスープの素を入れていた。





ローテーブルの上に、

具の何も入ってないうどんが2杯。



祐人はお椀のような器をひとつと、キッチンバサミを持ってきて

俺のうどんの丼から麺を半分ほど器にとると、レンゲでつゆを少し入れて、キッチンバサミでうどんを二回ほど切った。





「ふっ…俺バブじゃん」


「バブじゃなくてけが人だ」



二人で手を合わせて、いただきます、と声にだした。



祐人は相変わらず俺が食べるのを待ってる。



短くされたうどんを箸で1本つまんで、ふうふうと少し息をかけてさます。


ふうふうするのも、痛いところに痛みがこないように、頬を膨らまさないように気をつける。



痛くない左側めがけて口に運ぶ。



ゆっくりあまり大きく口を動かさないように食べる。



「食べれそう?」


心配そうに見つめていた祐人に聞かれて


俺は数回縦に頷いた。



祐人が短く切ってくれたおかげでかなり食べやすい。


バブだ…





もう1本口に入れて食べると、やっと祐人は自分のうどんに手をつけた。






最初にお椀に盛られた分は食べきったけど、残り半分、丼に残ってる分は多分もう無理だ…


食べるの疲れたし腹いっぱい…



「祐人…ごめん、もう食えん」



「ん?わかった。じゃあ食べちゃうぞ?」



頷くと、とっくに自分の分を食べ終えていた祐人は、俺の丼を自分の方に寄せて、残りを2、3口で食べ終えた。



「美味かったよ、ありがとな」


「食べれてよかったよ」





祐人が食器を流しに持って行って、そのまま洗い始めた。


朝に比べると少し痛みがマシになったような気がする。


実際、飯を少しだけど食べられたし。



けどどうしても何故か、祐人が離れたところにいると不安になる…



洗い物をしてる祐人のそばにいって、足元で座ってたいくらいの気持ちだ。



…いや、バブじゃん。



祐人が洗い物を終えて、お風呂をためるスイッチを押して、俺の横に戻ってきた。



俺は俺でバブだけど、祐人も祐人で当然みたいに俺の横にくっついてくる。



けど不安と安心に抗えず、隣に座った祐人の肩に頭を預けて少しでも密着しようとしてしまう。



「へへっ、隼人今日は甘えたじゃん。風呂も一緒に入る?」


「さすがに風呂はひとりで」



「アイスだったら食えそ?かじるのとかじゃなくて、スプーンで食べる系だったらどう?」



「んー、少しならいけるかも」



「じゃあまた風呂出たらアイスたべよーぜ」





風呂出た後に痛くなってきてアイス食べれないと嫌だと思って、風呂入る前に痛み止めを飲んでおいた。




。。。。。。


(祐人)




隼人は痛み止めを飲んでから風呂に入った。



痛みとか、昨日のショックでとか、よくわからないけど、隼人はやたら俺にくっついてくる。


可愛いし嬉しいけど、精神的に参ってて、すごく不安になってる、とかだっだとしたら、それは良いことじゃないよな…


でも俺には、なにもしてやれない。


そばに居たいと思ってくれているなら、そばにいる、それしかできない。




隼人が風呂に入ってる間にできることはやっておいて、

少しでも隼人のそばにいよう。



布団をコロコロで綺麗にしておく。


洗濯物も片付けておく。





隼人が出てきた。



クッションに座るようにポンポンとたたいて呼ぶ。



隼人の後ろに回って、コードもさして準備しておいたドライヤーを手に取りスイッチをONにした。



大人しく髪を乾かされてくれる隼人。


痛みもあるし、ドライヤーって腕上げて動かすからしんどいと思う。




「ほい乾いたー」



ドライヤを置いて、隼人の頭をわしゃわしゃっと撫でる。



「アイス食うか?」



「祐人がでてからでいい」



覚えてる隼人?この前俺に、


…風呂上がりのアイスってうまいよな、祐人も俺待ってないで自分が風呂出た後に食べたら良かったのに…


って言ったんだぜ??



「可愛いヤツめ」



俺はもう1回隼人の頭を撫でて、


「ちゃちゃっと入ってくるわ」



風呂に向かった。










風呂を出て、選択を回して、ドライヤーを済ませて、


隼人と一緒に冷凍庫をのぞく。


小さめのカップアイスが6個入っている箱のアイスがあった。

ちょっといいやつ。


ラムレーズンと抹茶とバニラが2個ずつ入っている。


隼人はレーズンが好きじゃないから、ラムレーズンは必然的に俺のだ。



「俺、抹茶がいい」


「んじゃ俺ラムレーズン」





やっぱ高いアイスうまいなー

とか話しながら、俺たちはアイスを食べた。


隼人もひとつぜんぶ美味しそうに食べきってて、

笑顔も増えて、安心した。





。。。。。。。。



(隼人)


アイスを食べ終わって、歯磨きを済ませた。

歯磨きとその後くちをゆすぐのがかなりきつい。




「隼人、保冷剤一応まだ持っとく?」


「うん、痛くなったら使う」


祐人が保冷剤をタオルに包んで渡してくれた。



「洗濯干してくるから、先に布団いってていいよ」



「ん」




布団に足だけ入れて枕をおしりに敷いて、壁にもたれて座る。


枕元のコードにスマホを挿して置いておく。



祐人が見えないところにいると不安だ。




落ち着かなくて足がソワソワと動いてしまう。




落ち着こうと深呼吸を繰り返しているうちに、祐人が来て、


ほぉっと息を吐いた。




「どした?大丈夫か?」



祐人は素早く自分のスマホを充電器に繋ぐと、

俺の横に座って、肩に手をまして、腕をさすった。


俺は祐人の肩に頭を寄りかからせる。




「隼人、明日仕事行くん?」


「うん、いく」


「大丈夫?」


「朝より多少痛みひいてるし、痛み止め飲んで、持っとけば大丈夫だと思う。マスクはしてく、まだ腫れてるし、色やばいし…たぶん色明日になったらもっと酷くなると思うから」


「ん、無理すんなよ、痛いの酷くなったりしたら無理せず早退しろよ?なんかあったら連絡してな?」


「うん、ありがと」




正直、痛みどうこうより、異常なくらい、今、ひとりになるのに不安を感じてるから、そこが心配だ。


祐人が別の部屋で洗濯を干してる間すら、ソワソワしてしまった。





明日、なるべく早く帰ってきて


子供か。

彼女か。


んな情けないこと、言えないよな…




「隼人、横になんねーの?」


「ん、なる」



俺がモゾモゾっと下に移動して布団に肩まで入ると、


祐人もすぐよこにくっついて布団に入った。



いつもなら俺は背中を向けるとこだけど

今は右を下にして横を向けない。


仰向けの俺の横で、祐人は俺の方をむいている。



「…祐人、気になる。あっち向くか上向いてて」



「じゃあ…」



なにしてんだこいつ。


うつ伏せになって敷布団に顔面を埋めている。


息できなそう。



しばらく放置してると、


「ぷはっ…いや、つっこんで?なんか言って?」


「馬鹿なの?」



祐人はヘラヘラしながら自分の布団の上にある自分の枕を俺が頭に敷いている枕の横に置いた。


「よっしゃ寝よ、おやすみ隼人」


「おやすみ」















……苦しい、息ができない、怖い、死ぬ、死ぬ…痛い、痛い、痛い、怖い、…



「はっ、は…はっ… は、はっ…」




夢、夢…落ち着け、落ち着け…



痛い…



頬が痛い…



痛み止めが切れたのか…



心臓がザワザワする…



痛い…




天井から、横に視線を移す、



祐人…


祐人が寝てる。


大丈夫だ、大丈夫…


頭がすこしグラグラする…






静かにゆっくり布団から出る。

立ち上がったときに少しフラついた。



祐人を起こさないよう、寝室の引き戸をしめてから、

リビングの電気をつける。


洗って水切りマットにふせてあるコップをとって、ウォーターサーバーの水を入れる。


ウォーターサーバーの上あたりの壁にかかっている時計をみると、4時少し前だった。



冷蔵庫横についているマグネットフックにかけたビニール袋の中から、痛み止めを取り出して、


飲んだ。



コップも、痛み止め薬のシートも作業台におきっぱなしで、

リビングの電気を消した。



寝室の引戸をあけて、そっと布団に近づ


仰向けで寝ている祐人の方を向くように、体を横向きにして布団にはいる。


痛い方を上にすると、必然的に祐人の方を向く形になる。


祐人を起こさないよう、そっと祐人の腕の服を掴んで、また目を閉じた。



大丈夫、大丈夫、大丈夫…


一生懸命頭の中で唱えて、祐人の体温を感じて、またゆっくり眠りに落ちた。







。。。。。。。


(祐人)




目覚ましのアラームで目が覚めた。


6:45にいつも俺のと隼人の両方のスマホが鳴る。



体を起こして、2つのスマホの ストップ、スヌーズ、とかかれているふたつのボタン、間違わないようにストップ、を押した。



アラームの音が消えると、雨の音がよく聞こえた。



ふぅ、と息を吐いて、改めて自分の横を確認すると、


隼人は俺にぴったりくっつくようにして、俺の方を向いて寝ていた。


可愛い。


ちゃんと寝れてるようで安心。



でも、頬の色がえぐい色になってきてる…



隼人の髪をそっと撫でて、静かにゆっくり立ち上がった。



隼人が家を出るのは8時。

念の為に6:45にアラームをかけてるけど、7時に起きてもじゅうぶん間に合う。


朝ごはん用意して、7時になったら起こそう、と思ってリビングへ行く。


寝室の戸をしめてから、リビングの電気をつける。



あれ…



作業テーブルの上にコップと薬が置いてある、夜中に起きて飲んだのか…


朝方に飲んだのかもしれないな、それで今よく寝てるのかも…


やっぱまた痛いのか…



胸がちくりとした。




今日隼人が仕事に持っていく用に、痛み止めを一つだけハサミでシートから切り離して、残りは袋の中にしまった。


コップはまた起きて水飲むかもしれないから置いておこう。



朝飯用意しようと思ったけど、トーストとかシリアル、食べるのしんどいか…


隼人が起きてから、確認して作った方がいいかもな



冷凍庫を確認しておく。


白ご飯は冷凍があるから、雑炊もつくれる、

冷凍うどんはあと1玉か…


今日仕事帰りに買い物行ってうどん買ってまた冷凍しておこう。


5玉入りの冷凍食品の冷凍うどんを買うより、一玉数十円の茹でうどんを買ってそれを冷凍しとく方が安いんだよ。



マグカップを出して、インスタントコーヒーを一杯だけいれた。


テレビをすごく小さな音でつけて、コーヒーを飲みながら7時までぼんやりしていた。



痛みで目が覚めて、明け方に薬を飲んで、今やっとまた眠れているのであれば、起こしたくない、そのまま寝かせておきたい、って気持ち。


だけど仕事行くって言ってるし起こさなきゃだよな…




寝室の戸をあけて中に入り、寝室のカーテンを開けた。


雨降りで薄暗いから、カーテンを開けてもあまり光が入らない。



眠っている隼人の横に膝をついて、隼人の肩をポンポンと軽くたたく。



「隼人、朝だよ。隼人」



隼人は、ん、と声を漏らしながら数回瞬きをして目を開けた。



目だけ動かして少しまわりをみわたし、俺をみつけると、ホッとしたように息を吐いて、


「おはよ」


と言った。



「おはよ隼人。…朝飯どうする?」



隼人はうーんといいながら上半身を起こした。



「あんま食べたくねー…」


「食べねーと仕事しんどくね?」


「んー……」


隼人は少し項垂れて黙った。



「………雑炊」


「ん、すぐ作るわ」




リビングにもどって、冷凍庫からラップで包んである冷凍ご飯を取り出し、レンジに入れてボタンを押す。



隼人が寝室から出てきて、洗面所に向かった。



小鍋に水を入れてお湯を沸かす。



レトルトやカップ麺などを入れているカゴの中から、雑炊の素をとりだして、鍋の横に置いた。


冷蔵庫から卵をひとつとりだして、同じく鍋の横に置いた。




レンジがピーと音を立てた頃、隼人がリビングに戻ってきた。


頬をおさえている。



「痛い?」


「いや…鏡見たら、色やばかった…ヤバくね?」


「2、3日で消えるだろ、大丈夫だって」



俺のせいだ、と、心臓がぎゅっとなるのを堪えて、

隼人に笑顔で、大丈夫とこたえた。



レンジから米をとりだして、お湯が沸騰している鍋の中に米をいれる。


それから、雑炊の素も。


箸でつついて米を少しほぐす。



「隼人、コーヒーはいらないか?」


「んー、水だけにする」



作業テーブルの上にあったコップの中の水を捨てて、ウォーターサーバーからみずをいれて、ローテーブルに置く。



「ありがと」



コンロ前に戻って、鍋の中に卵を割入れて、箸でかき混ぜる。


丁寧な人なら、1度器にたまごをわって溶いてからいれるだろうけど、

このやり方でも別に問題は無い。



テーブルの上に鍋敷きを置いて、小鍋を置く。


茶碗とレンゲを隼人の前に置いた。


「熱いからな」


「ん、ありがと、祐人は何食うん?」


「シリアル食べとくわ」



自分がシリアルを食べる用の器とスプーンを用意しつつ、

隼人の様子をみる。



レンゲを使って鍋から茶碗に雑炊を少しうつして、

フゥフゥと冷ましながら1口たべた。


「あつっ……んまい」


二口目に手が伸びて安心して、俺もシリアルを器にいれた。






。。。。。。


(隼人)



なんかあったら連絡、無理するな、と何度も念を押されて家を出た。



仕事場近くのコンビニに寄って昼飯のおにぎりを一つ買う。





仕事場に入って、すれ違う人と挨拶を交わす。



「おはようございます」


「おはようございます、田口さん風邪ですか?」


「あ、いや少し怪我しちゃって」


「そうなんですね、お大事にしてください」




普段マスクをしてない人がマスクしてたらそうなるか…





仕事中は特に問題なく過ぎていった。


いつも通り仕事をするだけだ。


さすがに痛みもだいぶ引いた。



昼休憩、なるべく人にみられないように隅っこでおにぎりのフィルムをむいた。



大きく口開けてガブってしようとするとやっぱまだ痛い。


けど、食べれないほどではない。



時間が解決するとはこういうことか……いやなんかちょっと違うか?


まぁいいや、食べよ。




痛いなーと思いつつおにぎりを1つ完食して、お茶を飲んで、マスクをした。





午後の仕事も問題なく終わり、車に乗った。



雨がフロントガラスを叩いてる。



なんだか暗い気持ちになりそうなところを、ふぅ、と息を吐いて落ち着かせて、エンジンをかけた。








「ただいま」



そう言って玄関をはいり、ドアをしめる。


家の中が、やけに静かに感じた


祐人がまだ帰ってない




家の中が薄暗い、リビングまで続く廊下が、ずっと遠くまで続いていて、吸い込まれそうな感覚になる。



気持ち悪い……


怖い……


ひとりだ……



雨の音は外から聞こえてるはずなのに、雨の中で一人ぼっちでたっているようなとんでもない孤独感に苛まれる。



「はっ、は……はっ……」



息が苦しい、心臓がバクバクする、


その場に崩れ落ちてしまった



立てない、苦しい



俺、このまま、死ぬの?


怖い、怖い、


……怖いっ

















カチャっ


「あれ、鍵空いてる」




ガチャっ……




「ただい…隼人?!?!」




。。。。。。。



(祐人)



なるべく早く帰るために、スーパーで他のものをみたり買ったりしないよう、卵とうどん、卵とうどん、卵とうどんと唱えながら買い物した。



家の前について、傘を閉じて、ドアの横に置いてある傘立てにいれる。



鍵を穴にさしこんで回すと、鍵の空いてる感触だった。



「あれ?鍵空いてる」



隼人の車があったから帰ってきてるとは思ったけど、ちょうど今入ったばっかなのか?


いつもは入ってすぐ鍵をしめるのに



「ただい…隼人?!」



隼人が靴も履いたまま、玄関でうずくまっている。



手に持ってた買い物袋を壁際に置いて、

両手で隼人に手を伸ばす。



「隼人、どした!大丈夫か?」



蹲っている隼人の背中をさすって、顔色を確認しようと頬に手を当てて少し上を向かせる。


隼人のマスクを外す。


はっはっはっはっ、と苦しそうに浅い呼吸を繰り返している隼人。


不安そうに俺を見つめて、

弱々しく手を伸ばして俺の服を掴んだ



どうすればいいのか、正解がわからない。



「大丈夫だ、大丈夫、隼人、大丈夫」



隼人のめをみて、背中をさする



「深呼吸して、深呼吸、息、息、吸って、ゆっくり吸って、吐いて、」



「はっ、はっ、すっ、すうっ、はぁ…はぁ、すぅ…はぁ」


少しづつ呼吸が落ち着いてくると、ポスッと隼人は俺の胸の中に頭を落とした。



「落ち着いた?」



胸の中で隼人がこくんと頷いた。


髪を撫でてから、支えながら立ち上がるのを補助する。




俺につかまりながら、隼人は靴を脱ぐ、わりと俺に体重をかけてるから、あまり足に力が入らないのかもしれない。


壁に手をつきながらヨロっ、ヨロっ、と1歩ずつ歩いてリビングへ向かう隼人。


俺も急いで靴を脱いで、買い物袋を持って、もう一度隼人を支える。



クッションチェアに隼人の体を任せて、横にしゃがんで、

顔をのぞく。


「大丈夫だな?」


隼人は俺を見てうんと頷いた。


立ち上がって、作業テーブルに買い物袋を置いて、洗面所で手を洗って、

グラスにウォーターサーバーから水を入れて、隼人の前のローテーブルに置いた。


それからもう一度横にしゃがんだ。



「どした?」



隼人は水を飲むと、グラスを置いて口を開いた。



「わかんね…なんか帰ってきたら、息苦しくなって、なんか、死ぬかもって気持ちになった…なんか足ちょっとプルプルしてる…」


「それ…………パニック発作か?姉貴がなってた時期があった…体強ばってたから、足も力はいってたかな」


「わかんねー…びびらせてごめん」


「なにいってんだよ、急にそんなんなって怖かったのは隼人だろ、そりゃびびったけど、俺は大丈夫」



……強がったけど、本当は俺もめちゃくちゃ怖かった。



どうしたらいいかわかんなかった。




今も、胸が少し苦しい。



頭の中で何かが、俺のせいだ、俺のせいだ、俺のせいで隼人が苦しんでる、って繰り返してる。



でも、一番怖いのは隼人本人だ。

苦しいのは隼人だ。



「落ち着いたら飯くえそ?先に風呂にする?」



「ん、風呂入りたい、寒い」



「お湯入れてくるわ、座ってて」



いつから玄関で蹲ってたかわからないけど、雨で湿ってる体で、玄関にいたらそりゃ冷える。




風呂場でお湯をためるボタンを押して風呂場からでると、洗面所で隼人が手を洗っていた。



普通に動けてるし、顔色も悪くないし、大丈夫なんだろうな。




隼人はリビングに戻るとまたクッションに座ったので、

俺は横に座る。


隼人は昨日からこれがデフォルトになったように俺の肩に頭を預けてくる。



「仕事中はなんもなかったん?大丈夫だった?」


「うん。おにぎりも1個全部食べた」


「おおえらい。」


「おにぎり一個食べて褒められるってだから俺はバブかよ」


「ははっ、可愛いバブ隼人よしよし」


「やめろ」


「今日はうどんそのままでよさそうだな」


「ああ、たぶん1玉食べれる。」


「よかったよかった、今日はうどんに卵とネギ入れてもいけそうだな」


「わかめは?」


「海藻って消化あんまり良くなかった気がする。昨日から食べてる量少ないからやめとこ」


「いぇすマム」


「だれがママやねん」



話して笑いあってるうちにお湯がたまった音楽が流れる。



「立てるか?」


「なんかすげーだるいけど、ちょっと落ち着いたし大丈夫そう」




隼人がお風呂に向かって歩いていく。その横を、俺は歩き始めたばかりの子供を見守る大人みたいに、触れそうで触れない距離を保って歩いた。いつでも支えられるように。



「いや大丈夫だから、なにその姿勢、アホっぽい」


「いやアホて」




。。。。。。。。



(隼人)



風呂につかりながら、大きくため息を吐いた。



俺情けねぇ……



祐人に迷惑かけっぱなしだわ……



てかそもそも俺飯作ってもらってるじゃん、

面倒見てもらってばっかりじゃん。


俺役たたずすぎねぇか……



余計なことしてでしゃばって、殴られて、祐人に嫌な思いさせて、あげくパニックみたいなの起こして祐人びびらせて、祐人たぶん、自分のせいだとか思ってるよな……



首締められて殴られただけなのに、こんな急にどデカいトラウマみたいになるもん?



めちゃくちゃ怖かったし死ぬかもって思ったけどさ……



俺弱すぎ……







風呂出て、バスマットの上で体を拭いて、服を着て、


それだけの動作なのにだるい…



バスタオルを洗濯機の上に置いて、

リビングに入ると、祐人は当然のようにドライヤーを構えて待っていた。



俺も吸い込まれるように祐人がそばにいるクッションチェアに座って、大人しくドライヤーの風を受けた。




「ほい乾いたーっと、飯にする?」


「祐人も先に風呂入ってこいよ、その後でいい」



「ん、んじゃ先入っちゃうな、」





面倒かけっぱなしじゃあれだからな……


祐人が風呂入ってる間に、布団かけにかけてある布団を敷いた。


コロコロをしようと思ったけど、だるすぎて無理だった。


情けねぇ。




大人しくクッションに座ってテレビつけて待った。





祐人は風呂から出ると、洗濯を回して、髪を乾かして、


すぐ飯作るわーと言ってうどんを作り始めた。








「んまい。普通に食える」


「おーよかった。」


「かきたまってさー、美味いし好きなんだけど、なんか取り切れない分がもったいなく感じちゃうよな」


「わかる。汁飲み干そうかすごい迷う」


ねぎとかきたまのうどん。

温かくてうまい。


昨日は器に分けてしかも短く切ったバブ仕様のうどんをたべたけど

今日は普通に丼から麺をすすって食べれる。



ぽとんとおとしたたまごも好きだけど、うどんはかき玉がいいな。


袋ラーメンの醤油味は落とし卵がいい。

自分だけの時は卵をどのタイミングで入れたらいいかわからなくて、卵いれてなかったけど、

祐人が作る時は卵入れてくれる。

丁度よく半生で流石すぎるんだよな。


今度ちゃんとどのタイミングで卵入れてるのかみておこう。




「隼人、今何考えてる?」



「え?…ラーメンにいれる落とし卵について」


「いやしょーもなっ!ははっ、なんか真面目な顔して黙ったからなにか考え込んでるかと思ったじゃん、落とし卵って、はははっ」



「最初に入れると麺ほぐせないし煮すぎになるし、最後だと生じゃん、あれどうやってんの…」


「いや真剣で草、ははっ、今度一緒に作ろ、あんなんテキトーだよ」


「料理に対してテキトーって言葉を使うやつは、料理が出来るやつなんだよな。料理できないやつはテキトーではできねーんだよ。レシピとかに書いてある、適当な大きさに切る、とか、適当な大きさってなんだよ!ってなる」


「やべぇおもろい。まぁ確かになー」




どうでもいい話して、笑って、


ここ数日沈んでた空気がいつも通りに戻ったような気がした。




今日も一緒にアイス食べたかったけど、今日はうどん1玉たいらげたらお腹いっぱいになってしまった。



「祐人たべていいよ、俺は腹いっぱい」


「じゃあ俺も今日はアイスいいや。一緒に食いたいし」


「ごめん」


「なんであやまんねーん!」



隣に座って、

おでこをチョップされた。



「いてえ」


「隼人さー、自分が悪いって思うのやめろって」


「じゃあ祐人も自分が悪いって思うのやめろよ」




。。。。。。。


(祐人)



「じゃあ祐人も自分が悪いって思うのやめろよ」



真面目なトーンでそう返されて、ギクッとした。




「祐人こそ、俺が怪我したのとか、さっき俺がパニックになってたのとか、自分のせいだって思ってね?」



「それは………」



隼人の頬の青黒い痣をみて、目を逸らした。



「…だって、俺のせいだろ………………俺のせいだ。

あれは俺の前の職場の先輩で、俺が歩いてスーパー行こうって言ったからで、そもそも……」



ずっと思って、ひっかかってて、苦しかったことが、

言ったらダメだと思うのに

全部溢れてくる




「そもそも、俺がここに居たせいで……俺がいなきゃ、隼人はこんな思いしなくてよかった、あいつの言う通り、俺なんていらない人間なn」



隼人が俺の頬を軽く、ペチンと叩いた。


隼人がおれをにらんでいた



「んな事言うなら、家から追い出す」



隼人が俺の目をじっと睨んで、はあぁと息を吐いた



「俺には祐人が必要だ。間違いなく必要な人間だ。」



真剣な目でみつめながらそう言われて、心臓がギュンとなった



「だから、なんも知らねーあのクソ野郎があんなこと言って、俺はクッソ腹立ったの。……祐人の気持ちに答えられてないのに、祐人に甘えてばっかで悪いと思う、こんな事言うの、ずるいと思う、だけど……俺には祐人が必要で、祐人のことがめちゃくちゃ大事だから、……んな事言うな、考えんな」



殺し文句かよ……


涙が溢れそうになった。


何か言おうとして口を開いたけれど、声にならなかった。

代わりに、震える手で隼人の頭をそっと撫でる。



隼人は向かい合うように座って目を合わせていたが、

ポスッと頭を俺の胸の中に落とした。



「わかったら、俺がパニック起こした時とか、そうじゃかくても、俺が落ち着くようにこうしてろよ。だまってそばにいろよ」



「まじでキュン死させる気かよ。…ありがと」



隼人の頭を優しく抱きしめた。




「……ごめんな、まだ、こたえられなくて」



「気にすんな、俺はそばにいる」








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