すれ違いセラミックス2
。。。。。。
『ああ…隼人が好きなんだ』
隼人は、高校の時に既に、俺より大人だったんだな。
まだ俺は、若すぎて、わかってやれなかった。
子供みたいな、彼女欲しいとか、あの子が好きとか、そんな気持ちしか知らなかった俺は
隼人の俺への気持ちが、どんなものか。
どれほど大きなものだったのか。
あのときは、自分のことしか考えられなかった。
黙ってずっと一緒にいてくれれば、俺は辛い思いしなくてよかった、なんて思ってた。
『つらい…』
『ああ……………好きだ』
。。。。。
(隼人)
コソコソと俺と祐人のことを、勝手に妄想のネタに使っていたクラスメイトの腐女子たちは、ショックを受けていた。
俺たちが一切口を聞かず、目も合わさないようになったのをみて、仲間達やクラスメイトたちには、俺と祐人は、大喧嘩して縁を切った、という噂が流れて、
俺たちもそれを否定しなかった。
仲間たちも深掘りせずに、自然と俺たちが話すこどがないように、それでも俺たちそれぞれと付き合いを続けてくれた。
高校を卒業後、俺は地元、愛知の田舎の大手の会社の工場に就職した。
仕事は疲れる時もあるけど、職場環境は悪くなかった。
もちろんいろんなタイプの人がいるけど、優しくて常識のある人がほとんで、社会人になってからも付き合っている友達ともたいしたトラブルはなく、俺は穏やかに過ごしてた。
穏やかに、それでもたしかに、大人になっていった。
実家で生活していたが、入社して3年半経った頃に母方の祖母が体調をくずして、両親は隣県、岐阜にある母方の祖父母の家に引っ越すことになった。
俺は今の仕事を辞めたくなかったし、岐阜からここまで通うのは無理だし、職場から車で15分くらいの実家の近くのアパートで一人暮らしを始めた。
27歳になるとしの夏
友達との飲み会の帰り道、最寄り駅の改札を出てすぐ、植木を囲っているベンチに座っている、ものすごく久しぶりに見る顔をみつけた。
見た目が全然変わってなかったから、すぐにわかった。
でも、表情が、虚無…
思わず、声をかけた
「祐人、だよな?」
大人になるってすごい。
高校のときのことなんてなかったかのように、ずっと友達だったような感覚で、声をかけた。
祐人は俺を見て、目を丸くした。
「隼人…」
なんだかすごく疲れて見える。
「すげー久しぶり。なにしてんの?」
祐人は困ったように苦笑いを浮かべた。
「あー…なんていうか…はは」
すごく、無理して笑ってるようだった。
「いろいろ、しんどくてさ、逃げてきたってゆーか…」
背中の方から、改札を出てきた女性たちの声で
ほんと暑いねー、やばいね
なんて話が聞こえた。
夕方まで雨が降っていて、夜なのに外はジメッとした気持ちの良くない暑さだ。
「とりあえずうちくる?外暑いし、俺一人暮らしだから。明日も休みだからなんなら泊まってってもいいよ?」
祐人はまたきょとんと目を丸くしたけど、
少し考えたあと、
「いいの?」
と聞いてきた
「いいよ、おいでよ。」
アパートまで徒歩5-7分。
だらたら歩きながら、話の続きを聞いた。
「千葉で仕事してたんだけど…いや、高校でてから、高校のときにバイトしてた飲食でそのまま正社員になったんだけど、2年ちょっとしてから、東京に新しく出す新店舗に行けって言われて、東京の店で働いてたんだけど」
暗い表情で話す祐人の横顔をみながら、
ふんふんと頷きつつ、アパートに向かう
「4年前に仕事で上司にミス押し付けられるような感じで、クビになってさ」
「まじか…」
「ほとんど貯金もできてなかったから、給料よくてすぐ働けるような仕事って探して、たまたまみつけた千葉拠点の鳶職の会社に入ったんだよ。社員10人くらいのとこで、社員何人かずつで会社がかりてる安いアパートで生活してて…」
「ふんふん…あ、道こっち」
「そこの社員みんなやばくてさ、社長もなんか元ヤンっていうか、いや元ヤンなんて可愛いかんじじゃないか…一緒に生活してる社員ふたりは金の貸し借りとか、音がうるさいとかなんとかすぐ殴り合いの喧嘩して、」
「殴り合いって…やべーな」
「千葉拠点って言っても仕事であっちこっち四国とか九州とかまで行くこともあって、仕事もしんどいし」
そんなことあるのか、って思うけど
なんとなく置かれてる状況はわかってきた
「社長は無茶言うし、周りの関係ある会社もそんな感じのとこばっかで、理不尽に殴られたことも何回かあってさ」
「まじで…」
「盗み常習の社員に財布から金取られたことも何回かあるし、いやもうほんと、言葉では説明しきれんけど、まじでもう、ほんと…しんどくなって…」
「でも4年前って言ってたよな?4年耐えてたってこと?」
「そう。給料だけはよかったから。でももういろいろ、ほんとやばくて、…今日また同じ部屋の社員二人が大声で怒鳴って殴りあってて、耐えきれなくなって、飛び出してきたけど、貴重品いれたカバンだけかろうじて持ってる、って状態たったし、どうするか迷って、とりあえず実家に帰ろうと思ったんだけど」
うんうんと頷きながら、アパートの鍵をあける。
「入って…とりあえず手洗って、そこ、横、入ったら洗面」
「ん」
狭い玄関、先に祐人をいれて、祐人が靴を脱いで中に入ってから、自分も玄関に入って鍵を閉めて、靴を脱いだ。
2lkで駅も近いけど、田舎だから家賃は5万ちょい。
祐人がうがいをしている、ガラガラガラという音をききながら、リビングに先に入って、電気とエアコンの冷房をつけて、カバンを床の隅に置いた。
洗面所に戻る。
「リビング適当に座ってて」
「ん」
自分も手洗いうがいを済ませて、リビングにはいる。
ローテーブルのそばに祐人が控えめに座っている。
「そのクッション使っていいよ、その上座り」
ああ、さんきゅ
といいながらもクッションをつかわずそのまま座ってる祐人に背中を向けて、
冷蔵庫から麦茶を出して、シンクの横にある洗ってふせて乾かしていたグラスにお茶を注いだ。
テーブルにお茶を置いて
「粗茶ですが…」
と少しふざけてみた
「ふっ…なにそれ」
祐人が少し笑った。
自分も食器棚からグラスをだして、ウォーターサーバーの冷たい水をいれて、祐人の向かいに座った。
「で、実家に帰ろうと思って、の続きは?」
「あー…親ともあんま連絡ちゃんととってなくて、実家帰ったけど誰もいなくてさ、てか、家の鍵あかねーの。びっくりしたわ。とりあえず親に電話したら、姉ちゃん家族と旅行行ってて、帰るのは明後日、鍵は先月こわれたから変えた、って言われて…なんか、すげー…なんかな…なんか…」
はは、と苦しそうに笑う祐人をみてたら、なんか自分も息苦しく感じてきた
「そっか、旅行か…幸せだな。俺は?…鍵、変えたんだ、知らなかったわ…はは、みたいな、…なんかむなしいっていうか、」
言いたいことは、気持ちは、なんとなくわかった
「どうしよっかなーってとりあえず駅まで歩いて戻ったんだけど、また結局、どうしよっかなーって」
「なるほどな。…しんどかったな」
「はは…まぁな」
なんて言おうか…
「はー…悪ぃな、こんな話。つか隼人は?元気だった」
「ああ、見ての通りな。」
「はは、そらよかった」
はーっとため息を吐きながら、天井を仰ぐ祐人と、その横にある小さいカバンをみて、
少し考えた。
着替えとかなにもないような状態ってことなんだろうな…
祐人は、この後、どうするんだ
今日はうち泊まってけばいいけど、っていうか別に何泊しても大丈夫だけど
またそんな地獄みたいなとこにもどるのか?
…なんか、しんどいな
…こんなこと、言ったら出しゃばりすぎだろうか。
面倒事には巻き込まれたくない。
面倒なことはきらいだ。
でも、放っておけない。
「…祐人」
。。。。。
(祐人)
「ああ、見ての通りな。」
「はは、そらよかった」
一通り状況を話し終えて、大きく息を吐いた。
てか、俺もあんまり冷静じゃなかったっていうか、あんま考える余裕なかったから普通にここにいるけど、
隼人はなんで俺に声かけたんだ?
なんで家あげてんだ?
まだ俺のこと…?いや、俺きも。ありえないから。
あれからどんだけ経ってると思ってんだよ。
ただ、普通に善意だよな
悪意は全く感じない。
まぁ、普通に優しいやつだったしな
俺みたいに荒んだ状況でもないから、余計に優しい大人になったんだろうな
てか俺このあとどうするかな。
まあ……戻るしかないよな。
いや、今なら少し貯金あるし、辞めて新しい仕事探すか?
無理か…俺たいした資格とか持ってないし、
鳶職じゃ同じような環境だろうし
飲食ももうやりたくない。飲食もしんどかった。休みないし。
貯金あるって言ったってしれてるしな。
部屋かりたら家賃ですぐなくなるだろ。
なんかもう実家に帰るのも気が引ける。
東京行ってからこっちの友達とも連絡取らないようになって、頼れるような人いないし。
戻るしかないよなぁ…
「はぁぁ…」
思わず項垂れて大きなため息を吐いた。
「祐人」
「んー?」
項垂れたまま返事をする。
隼人は何かを考えているのか、名前を呼んだあとしばらく黙っていた。
「しばらくここ住めば?」
「は?」
顔を上げたら、隼人と目が合った。
真面目な顔をしてた。
「いや、無責任に仕事辞めろとは言えないけど、正直、辞めればいいじゃんって思ってる。んで、俺にできるとしたら、ここで一緒に住むくらいかなって。家賃とか気にしなくていいから、適当にバイトしながら仕事探すとかでもいんじゃない?」
は???
え?
いや、なんで?
まじでなんで?
「祐人がよければだけど」
「え、いや……な、…なんで?」
「なにが?」
「いや、…なんでそんなことしてくれんの?」
「なんでって…別に深い理由なんかないけど、そんなしんどそうだし…なんか嫌味みたいな、変な言い方になるけど、俺はそんな切羽詰まってないから。 少しでも俺に出来ることがあるんだったら、なんかしたいって思って。なにもしないでこのまま千葉に返したら寝覚め悪い」
「え…なんか…めちゃくちゃ良い奴じゃん」
「ははっ、だろ?」
「いやなんか心配だわ…」
「なにが?」
「困ってる人たすけたつもりが騙されてたとか、詐欺とか…」
「いや待て待て、俺だって誰でも助けるわけじゃねぇ!お前だからだよ、ははっ…あ、いや、勘違いするなよ?お前が特別!とか、まだお前のこと好きとかそういうんじゃないからな」
チクっ…とした
なんでだ…
「まじで、この状況だからわかると思うけど、彼女とかはいないけど、祐人のことはほんともうこれっっぽっちもそういう気持ちないから、安心して」
隼人は、ははは、と笑っていたけど
俺は急に笑えなくなった
急に、ものすごい孤独感に苛まれた。
自分が誰にも思われていない、世界中て独りぼっちのような感覚に襲われた
「祐人?」
気持ち悪くなってきて片手で口元をおさえた。
「祐人?どした?気持ち悪い?」
高校の時にふったのは俺なのに
今、好きじゃない、と言われて、傷つくなんて、最低だ
自己中すぎる
「わり…ぃ」
「どした急に?大丈夫か?」
隼人が横にきて、背中をさすってくれる。
自分が最低で、
孤独感に押しつぶされそうで、
それでも、隼人がやさしくて、
今までしんどくて、
頭の中がぐちゃぐちゃになった
涙があふれてきて、とまらなくなった。
「わり、わりぃ…っ、」
「わるくないって、なにも。しんどかったな。…しんどかったな。大丈夫だって、な。」
ああ、たぶん、すごく毒されてたんだ。
心の中が真っ黒になってたんだ
すごいネガティブな思考しかできなくなってたんだ
隼人が、優しい…
「大丈夫大丈夫。な?しんどかったな。もう強がるなよ、できることはするから。頼りになるかはわからんけどさ、俺はいるよ」
あぁ、ひとりじゃないのか
背中をさすってくれてる隼人の手が心地いい。
「っ、さんきゅ、な…」
「おう。気にするな。いつか倍で返してくれ」
「っ、ははっ…わかっ、た」
「ははっ」
俺が落ち着くと、隼人は
「よし、パンツ買いに行くぞ」
と言って立ち上がった。
二人で近くのコンビニまで歩く。
隼人は何か考えているのか、何も考えてないのか、ぼんやり空を眺めながら歩いていた。
俺は歩きながら、これからどうするかなと考えた。
隼人に甘えて、隼人の家に住むとしても、まずは1回会社に連絡しないといけない。
ていうか1回は向こうにいかないと。
服とか私物回収しないとだめだよな。
たいしたものはないけど。
考えるとしんどいな。
連絡するの嫌だわ。
顔合わせたら殴られるんかな。
暗い気持ちになってきたが、コンビニについたから、とりあえず頭を軽く振って、考えるのをやめた。
パンツと歯ブラシをカゴに入れて、詫びというか感謝というか、ささやかだけど酒でも買おうかと、隼人の姿を店内の通路を探した。
「ふっ」
思わず笑った。
隼人はお菓子売り場にしゃがみこんで、チョコエッグをじっとみつめたあと、中身を当てようとしてるのか、耳元で軽く振って、それを繰り返していた。
高校の時にもみた行動だった。
再会してから時間的には長い時間経ってないのに、隼人がすごく大人になったように感じていたから、
急に子供みたいだな、ああ隼人だな、と、懐かしい気持ちになった。
「振っても中身分からないだろ」
「やべ見られた、恥ず。ははっ」
隼人は少し照れながら立ち上がった。
なんだかすごく穏やかな気持ちだ。
「欲しかったらここ入れろよ」
「いいの?!」
「ぷっ」
あまりに嬉しそうな顔をするから、思わず吹き出してしまった。
俺が笑ったのをみて、少し不貞腐れたような顔をした隼人が、子供のようでやけに可愛らしく見えた。
「ごめんて、いいよ、買うよ、カゴいれて。酒とかはいい?」
隼人は少しムスッとしながらも、手前から2番目に並んでいるチョコエッグを取ると、カゴに入れた。
「…酒買ってくれんの?」
「ああ、これからのことはまだちゃんと考えなきゃだけどさ、とりあえず今日泊めてもらうことは決まってるし、礼にな。」
隼人は少しなにか考えたあと、ふっと少し目線を逸らした
「酒はいいから…チョコエッグ2つ買って」
え??
なんだこいつ。
自分の中にこんな穏やかで温かい気持ちが湧いてくるのはどれくらいぶりなんだろう。
そもそもこんな風に笑顔になったのがどれくらいぶりなんだろう。
隼人が可愛くて面白い。
「ふふっ、いいよ」
そう言うと、隼人は少しだけ嬉しそうに笑った。
たったそれだけなのに。
その笑顔を見ていると、
さっきまで胸の中を埋め尽くしていた不安が、
少しだけ遠くへ行った気がした
コンビニへの行きは、真面目に今後考えて気持ちが真っ暗だったけど、
帰りは隼人とチョコエッグの中身のキャラがでてくるゲームの話をして、時折笑いながら、穏やかに歩いた。
。。。。。。。。
(隼人)
コンビニから帰ってきて、買ったものが入ってる袋を祐人の手から抜いた。
チョコエッグを袋から出し冷蔵庫にしまいながら、洗面所で手を洗ってる祐人に向かって聞こえるように少し大きめの声で声をかけた。
「祐人、先にシャワーしなよー。暑いしお湯なくていいよなー?」
「ああ、さんきゅー。」
2lkの1部屋は、物置兼、洗濯を干す部屋になっていて、
もうひとつの部屋は寝室。
洗濯を干してる部屋で、物干しに干しっぱなしになってる寝巻きにしているシャツとハーフパンツ、パンツ、
バスタオルを手に取ったあと、
部屋の隅に置いてある、ハンガーラック下の引き出しから、予備のバスタオル、予備の寝巻き用のシャツとハーフパンツを出して、洗面所の洗濯機の上に置いた。
トイレから出てきて洗面所に入ってきた祐人。
「服は脱いだらそのカゴ入れといて、まとめて洗濯しとくから。」
「ははっ、ママかよ」
「ママ言うな」
一人暮らしに慣れて家の事は一通り自然にできるようになっただけだ。
「バスタオルと服これな、…あ、さっき買ってきたパンツ忘れてたわ、あとでここ置いとくから、入ってていいぞ」
「さんきゅママ」
「ママいうな」
リビングに置いた袋からパンツを出してパンツの包装の袋を捨て、洗面所にもどる。
シャワーの音がきこえる。
さてと……
寝室を眺めて考える。
普段は布団を敷いているよこのスペースに布団をかけてあるが、今日は飲み会の予定で、遅くなっても帰ってきてすぐ寝れるように布団を敷きっぱなしで家を出た。
両親が引っ越す時に、両親が使っていたダブルサイズの布団をくれた(俺が使ってたシングルのベッドはボロボロだったので処分した)を床に敷いて寝ている。
物干しを少し動かせばそっちの部屋で寝るスペースは作れるが、
誰も家に泊めないから、客用布団はない。
リビングで昼寝するときにつかってる薄いタオルケット一枚で寝るのは体に悪そうだし。
……まぁいいか、一緒に寝れば。
寝室の隅に置いてある黄色いキャラクターのぬいぐるみクッションを手に取って、パッパと手で払った。
職場の人に去年誕生日プレゼントでもらったポミポミプリン。
触り心地も大きさもちょうど良さそうだ。
布団の上に置いてある枕を少し布団の隅に寄せて反対の隅にそれをおいた。
プリン、わるいけど祐人の頭に敷かれてくれ。
枕元にある充電器のケーブルにスマホをさして、明るくなった画面で、特に通知が来てないのを確認してから電源ボタンで画面を暗くした。
浴室のドアが開く音が聞こえた。
洗面所を覗くと、バンツだけ履いた祐人が頭をガシガシとタオルで拭いている。
「祐人、ドライヤーはリビングのカラーボックスの上にあるから使って。歯ブラシもリビング、コンビニの袋に入れっぱなしな。でリビングの隣の部屋、引き戸の部屋に布団敷いてあるから、横なっててもいいし」
祐人がバサッと顔を上げた。
うーん…仕事柄かな、もともとどちらかというと色黒だったけど、さらに少し日焼けしてるかも。
「ん、さんきゅ。わるいななにからなにまで」
祐人は暑いのか、バサバサと大きくバスタオルで足元を仰ぎつつ足の水滴を拭いている。
「気にすんなって。…あ、祐人スマホってアンドロイド?俺アンドロイドで、Type-Cしかケーブルないんだけど」
「ん、Type-Cでいける。てかカバンにたぶんケーブルはいってるわ。」
「んじゃ俺もシャワーするわ。なんか欲しいもんあったら言ってな」
シャワーの前にトイレ。
洗面所の横のトイレに移動して用を足す。
洗面所に戻ると祐人はもういなかった。
リビングからドライヤーの音が聞こえる。
服を脱いで洗濯機に入れる。
祐人が使ったバスタオルと、洗濯カゴの中の祐人の服もバサバサっと洗濯機に入れて、
洗濯機のスイッチを入れる。
いつものおまかせのコースを押して、洗濯機の後ろの壁に取り付けた棚にある、洗剤と柔軟剤を入れて、
洗濯機の蓋を閉めた。
自分が使うバスタオルは明日洗濯しよう。
シャワー終わってドライヤーとか歯磨きとかやること終わったら、洗濯機も止まってるはずだから、ちゃちゃっと干してそれから寝る。
シャワーを終えて、歯磨きをして、リビングにいくと祐人の姿がない。
隣の部屋の引き戸をあけると電気のついてない寝室の布団の上で祐人は仰向けに横になって顔の前だけスマホの明かりで明るく見えた。
無事にプリンは祐人の頭に潰されている。
「歯磨きしたか?」
そう聞くと、スマホから目を離さず、
「おー」と返事が帰ってきた。
「先寝てていいからな」
そう言うと1度ドアをしめて、
リビングの床に座ってドライヤーをはじめた。
自分がしているドライヤーの音を感じながら、
自分ではない誰かの、シャワーや、ドライヤーの音を思い出した。
平々凡々に無音と等しく過ぎていた日々に、なにか新しいものが流れ込んで来るような不思議な感覚。
ドライヤーをしてから、ローテーブルに置きっぱなしだったグラスをシンクのなかに置いた。
シンク横の洗ったものを置いてある水切りマットの隅っこに控えめに祐人の歯ブラシが置いてある。
使い捨て歯ブラシが、捨てられずに、隅に控えめにだけど置いてあった。
そのことに何故か安堵した。
前にムロゾフのプリンを食べた時にカップ洗ってしまっといたよな…
特に使うあてもなかったがしまっておいた、ガラス製のプリンカップを食器棚からだして、祐人の歯ブラシをそこにたてて、洗面所の自分の歯ブラシスタンドの横に置いた。
洗濯機が止まってたのでついでに洗濯物を取り出して、カゴに入れて、
洗面所の向かいの部屋に入って、電気をつけた。
物干しの横にある扇風機のスイッチを足の指で踏んで入れた。
洗濯カゴを床に置いて、干しっぱなしなっているもの
扇風機を1晩つけっぱなしにしとけば、朝にはだいぶ乾いてる。
洗濯を干し終えて、寝室にもどると、目を閉じている祐人の横におかれたスマホ画面が明るく光っていた。
寝落ちたのか?
リビングの電気を消して、祐人の横に転がる。
画面を消しておこうと祐人のスマホをみると、
『…安い順………→…着09:04発金山→9:57着10:07発豊橋→…浜松→…』
乗換案内。
最終目的地は知らない地名だけど恐らく千葉。
え?あっちに戻るつもりなのか?
胸がざわついた。
起こして聞くべきか?いや、起こすのはよくないよな。
せっかく眠れてるんだし…
もう一度画面を確認する。
表示されている乗換案内では、最寄り駅を出発するのは8時過ぎだ。
7時に起きていればまだ祐人はここにいるはず。
ザワつく胸をおさえて、祐人に背を向けて横になり、目を閉じた。
。。。。。。
(祐人)
ドライヤーをしてから、コンビニの袋の中から歯ブラシをだした。
洗面所に移動して、隼人がシャワーをしている音を聞きながら歯を磨く。
磨き終わって口をゆすいで、歯ブラシをみた。
これ、明日も使えばいいよな。どこに置こう。
てか、明日も……いて、いいんだよな?
正面を向き、鏡に映る、隼人のシャツを着ている自分を眺めた。
隼人のシャワーの音をききながら。
歯ブラシはとりあえずシンク横の水切りマットの隅に置かせてもらったた。
カバンの中からモバイルバッテリーをだして、ケーブルだけ抜く。
戸を開けると、布団が敷いてあった。
おう、一緒に寝るのか。
とりあえず隼人のスマホがつながってる充電器の元にUSBをさして、反対をスマホにつなげた。
たぶん枕なんだろう黄色いクッションに頭を預けて目を閉じて横になる。
横になるって、体すげー楽だな。
疲れてたんだろうな…
「ふぅー…」
数回目を閉じて深呼吸したら、そのまま眠ってしまいそうになったが、
「あー…」
ここで現実逃避して、何も考えずに何もしなければ、隼人に迷惑になるだけだ。
やることやってケジメはつけないとな。
てか俺完全に隼人のこと信用しきってるけど大丈夫だよな。
俺襲われたり殺されたり売られたりしねーよな?
いやいやそれどんな世界だよ。アホらし。
マジで脳みそ真っ暗に毒されてるわ…
隼人を信じよう。
今日この数時間、隼人と過ごしただけだが、俺は…情けないけど、今頼れるのは、安心して頼りたいと思えるのは、隼人だけだと思ってしまった。
隼人に助けてもらって、この暗闇から抜け出す。
もしも万が一、隼人に騙されてるとかで悪いことが起きたなら、それは潔くもうどん底に落ちてやるよ。
まあ、そんなことはありえないけど。
やばいやつばっかの会社だけど、それでも一応まともな会社だから、黙って俺が消えたとこで、家特定して殴り込みに来るとか、そんなヤクザみたいなことはないと思うけど、もしもそんなことがあったとしたら、隼人にとんでもない迷惑がかかる。
大きく、はぁっと息を吐いてから、目を開けて、スマホに手を伸ばした。
母親に電話したあと、電源を切ってしまったスマホの電源をいれた。
特に何も連絡は来てない。
辞めるってとりあえず社長に電話するか?
連絡先一覧を開いてみていたら、戸が開いてリビングの方の光が入ってきた。
「歯磨きしたか?」
「おー」
「先寝てていいからな」
もう一度、おーと返事しようとしたが、その前にまた戸がしまって、部屋の中がスマホの明かりだけになった。
おそらく……辞めると言ったらボロクソ言われる。
隼人に聞かせたくない。
やっぱり、1回戻って直接話そう。
それで、何を言われても、殴られても、
俺は辞める。
スマホで乗換案内を開く。
なるべく早く出て、早く事を済まよう。
乗換案内の検索で、始発、を選択した。
……いや、隼人が寝てる間に出たらわるいか。
ちゃんと話してからのがいいな。
隼人何時に起きるんだ。
とりあえず最寄り駅を8時発くらいで検索しよう。
明日起きて、
隼人には…今から戻って辞めるって話つけてくるから、こっち戻ってきたらしばらくよろしくって話して…
すぐ仕事できそうなコンビニのバイトでもしよう。
さっき行ったコンビニバイト募集してっかな…
…あ?寝てたわ
こだま(常夜灯)だけついてる天井が少しオレンジ色に明るく、あとは暗い。
何時だろうとスマホを探して手を動かすと、
もしゃっとしたものに触れた。
横をむくと、隼人の後頭部をなでてる自分の手がみえた。
あー…隼人がいるわ。
隼人をの背中が規則的に上下に動いてる。
すげー…地獄にいすぎたせいかな、なんかすげー安心する。
なんか…まぁいいや、もっかい寝よ。
。。。。。。
(隼人)
「ん…」
目が覚めて、背中にぬくもりをかんじた。
いや……近っ。
布団ギリギリのすみで横向きで寝てる俺の背中に、祐人がはりついてるように寝てる。
いや近ぇ。
あちぃ。
起こさないように自分の体を起こして、腕を伸ばして体を伸ばす。
「ふぅ…あっつ」
スマホをつけて、時間を確認する。7時半。
そうだ、祐人って8時過ぎに電車…
起こした方がいいのか?
いや……
いいか。
寝せとこ。
立ち上がろうとしたら
「うおっ、びびった…」
祐人に手首を掴まれた。
「んー…なん、じ…今…」
「7時半」
「んー…あー…まじか…寝すぎた…」
やっぱり向こうに戻ろうとしてたのかと思って少し胸がザワつく
でも、起き上がる様子がなく、あまり焦ってる感じはなくて、調べてた時間に絶対戻ろうとしてた訳では無いのかと思って少し安心した。
「起きる?朝飯食う?」
「んー…起きる、食う…」
「シリアルか食パンか冷凍の焼きおにぎりしかないぞ。」
「めっちゃ選択肢あるじゃん、すげー」
はぁーあ、とあくびをしながら祐人が体を起こした。
「朝マックでも買いに行くか?」
「いや、あるもんでいーよ。すぐ食べれるもんで」
トイレに行ってから、洗濯物の部屋をのぞく。
干してある服を触って、乾いてるのを確認してから、扇風機のスイッチを足で踏んできった。
冷凍庫に1枚ずつラップにして冷凍してある食パンを2枚出して、トースターに並べる。
「昨日の祐人の服、乾いてるからな」
「んーさんきゅ」
トイレから出てきた祐人は、ローテーブルのそばのクッションの上に座った。
「パン何で食う?バターかあんこか砂糖か」
「ははっ、あんこあんの?」
「当たり前だろ。愛知県民だぞ。」
「お前あんこすきだったもんなー…じゃあ小倉トーストにするわ」
「お前も愛知県民だな。安心したわ。コーヒー飲むか?インスタントだけど」
「おー」
インスタントコーヒーをマグカップにいれて、ウォーターサーバーのお湯でとかす。
2杯作ってローテーブルにおいたとこで、トースターがチーンと音を立てた。
焼けたパンにバターを塗って、さらにあんこをのせて、
ローテーブルに置いた。
「いただきまーす。…あめぇ。うめぇ。」
「そらよかった」
俺好みに少しこんがり焼いたトーストが、サクッと音を立てる。
「すげー穏やかな朝でなんか泣きそーだわー」
「泣け泣け。感謝しろ。」
はは、と少し笑い合いながら、ふたりともだまってもくもくともぐもぐした。
食べ終わると祐人はコーヒーを飲んでふぅと息を吐いた。
「隼人ー」
「ん?」
「これから頼むな」
「あ?…ああ。任せとけ」
。。。。。。
(祐人)
「隼人ー」
「ん?」
「これから頼むな」
「あ?」
隼人は一瞬不思議そうな表情をしたあと、
へへっと笑って
「ああ、任せとけ」
といった。
こんな穏やかな朝今まであったかな…
こんなふうに過ごせる日々が日常だったら、最高だな。
その為にも1回…だよな
やだなー
いきたくねぇ…
でもこの穏やかな日々のためだよな…
「まじで気をつけてな?俺待ってるからな?」
「わかったって、ははっ、ほんとにママかよ」
「ママ言うなっつーの」
ぷっとむくれる隼人が面白可愛くて、笑えてくる。
きちんと話してケジメつけてくるって話したら、
すげー心配された。
まぁ、正直に、多少殴られたりするかもって言っちまったから余計に心配させた。
こうやって駅までついてきてくれるくらいに。
「じゃ、行ってくるわ」
「おぅ…」
「……くくっ…まじで、さすがに殺されやしないって。そんな顔するなよ、ははっ。何言われてもちゃんと辞めてくるって言ったろ?」
心配そうな表情だが、俺が笑ったことにまたぷっとむくれる隼人の頭をペチペチと叩いて、笑って見せた。
「…まじで、帰ってこなかったらころすから」
どうしてそこまで心配してくれるんだ。
お人好しが過ぎる。
可愛いし面白いし、…救われる。
「さんきゅ」
『まもなく1番ホームに電車がまいります…黄色い線の…』
…てかよく考えたたらこれ、改札前でイチャつくカッブルみたいだな。
笑える。
隼人は俺が電車に乗るまで改札の外でたってみていた。
隼人がみえなくなってから、座席に座って、スマホを出した。
『昨日から今朝まで、まじさんきゅーな。すげー助かった。』
1度それを送信してしまってから、考え直した。
これだとあれか?今までありがとうって別れの言葉みたいか?
不安にさせるか?
慌てて続きをうった
。。。。。。
(隼人)
祐人が乗った電車が見えなくなるまでその場にいた。
動き出すとポケットの中のスマホが震えた。
『昨日の夜から今朝まで、まじでさんきゅーな。すげー助かった』
は???
心臓がバクっと音を立てた。
は?
いや…
え?
すぐにもう一度メッセージが送られてきた。
『イチゴジャム買っといて』
「っ、くくっ…」
よかった…
『了解』
スマホをポケットにしまい直して、家に向かった。
帰宅すると、これがいつも通りの家だったはずなのに、
やけにシンとしてる気がした。
変な夢をみていたようななんだか変な不安を感じて、
早足でリビングに入った。
ローテーブルのそばにあるクッションは、明らかに人が座ってたように潰れていて、
シンクの中には、皿が2枚とマグカップか2つあった。
ホッとした。
手を洗おうと洗面所にはいると、プリンカップにはいった歯ブラシもあった。
機械的に過ぎていっていた毎日に、突然イレギュラーなことが起きて、
ふわふわと違和感のようなものを覚える。
けどたしかにここに祐人がいた形跡があって
それは不思議な感覚だけど
でも、
無音に等しかった自分の世界に、新しく入ってきたこの感覚を、今は離したくないような気がした。
俺は一日中ソワソワしている。
イチゴジャム買っといて、の後から、
祐人から連絡が来ない。
もう夜の9時半をすぎている。
とっくに千葉についてるはずだ。
海にしずめられてないだろうか
殴りころされてないだろうか
けどこっちから連絡するのも…
ソワソワしながら、シャワーや洗濯、夜飯も終えて、
俺はいつもより早く布団に横になっていた。
仰向けで、祐人が枕にしていたポミポミプリンを腹の上にのせて、顔の上にかかげているスマホを睨みつける。
手持ち無沙汰でSNSを開いて、適当にながめる。
オススメの投稿が流れてくるけどほとんど頭に入ってこない。
ポコン
!
『起きてる?』
すぐに通知をタップした。
返信をする前に追加でメッセージが送られてきた
『既読はやww』
『待ってた?』
図星でなんか腹たった
『待ってねぇ。普通にインスタみてた。』
嘘では無い。
が、ちゃんと聞く。
『どうだった?』
少し間が空いてから
『電話していい?』
「もしもし?どうだった?」
『おう。社長は意外とまともだったわ。つってもまぁ…お前居なくても問題ないしな、とかは言われたんだけど、…はは』
酷い言葉に、心臓がギュッとなった。
けど、昨日再会したあとの無理やり笑っているのにくらべたら、
声はずっと明るく感じた。
『ただ、もう決まってる仕事は責任もって出ろ、って言われて、あと半月ちょい、三週間くらいか?今月いっぱいは仕事出ることになった』
「まじか…………大丈夫か?」
『ああ、余裕。あと半月っぽっちでここから抜け出せる、やっと自由になれるって思って、モチベーション上がりまくりだわ。』
昨日の夜の祐人は別人みたいに明るい。
なんか、俺が支えてやろうって気持ちだったのに、
逆に今は俺のが不安がってる気がする。
今日、夜まで連絡なかっただけで、無事かどうか心配で仕方なかったのに。
あと三週間…
『まぁ、そういうことだからさ、半月かけて、俺が快適に住めるように家きれいにしといて』
「…わかった。イチゴジャムも買っとく」
『っ、おいおい、えらそうだなとかなんか悪態つけよ、ははっ、素直かよ』
…俺は、
『なるべく連絡するわ。俺連絡する相手、お前しかいねーしな、はは』
「ああ。」
『じゃあまたな、おやすみ』
もう少し話していたいと思った。
「…おやすみ」
祐人の声の聞こえなくなったスマホを置いて、目を閉じた。
静かだ。
当たり前のはずの静けさ。
なのにどこか落ち着かない。
三週間後、ここに祐人が来る。
三週間後、ここに祐人がいる。
そう考えると、少し楽しみだった。
…お前居なくても問題ない
祐人がかけられた酷い言葉に、祐人が可哀想だと客観的な気持ちと
グサリと自分にも刺さった気持ち。
祐人のような地獄な毎日じゃなかった。
普通に毎日仕事して、普通に友達がいて、普通に飯食って…
でも、
毎日、機械的に過ぎていっていた。
自分は、大きな機械のように動く社会の中の、
小さな部品の、さらにその中の小さなネジくらいの存在じゃないのか、いなくなってもいい、必要のない人間なんじゃないか、
そんなふうに思ったことがあった。
…連絡する相手、お前しかいねーしな
俺は今、だれかに必要なパーツになれてるんだろうか…
やっと一週間たった。
あと、二週間。
毎日、
ちゃんと飯食ったか?
殴られてないか?
しっかり寝れてるか?
そんなことをききたくなりながらも
何様だよ…
と思って思いとどまっている。
『おつかれー。仕事おわったー。雨降ってきて早く終わったわ。隼人なにしてる?』
『おつかれ、俺も今おわって帰るとこ』
『おつー。腹減ったー、昼なんも食ってねぇ』
『食えよ。運転』
『時間なかった。気を付けてな』
家までの十数分運転して、降りる前に車を止めてスマホを確認する。
運転中に通知のバイブ音が聞こえたから。
『あとで電話していい?いいとき連絡して』
毎日連絡はくるけど電話は初日以来だな。
なにかあったのか?
イレギュラーなことがあると不安になる。
慌てて返信した。
『電話、いつでもいい』
『まじ、さんきゅ。家出るからちょい待ち。』
俺も家の中に入っておこう。
急いで車をおりて、部屋に入った。
手洗いうがいをすませたところで、ちょうど電話がなった。
『もしー、お待たせ。家で電話してんの聞かれたくなくてさ』
「全然大丈夫だけど、どした?」
『確認なんだけどさ……俺、隼人んとこにしばらく住んでいいんだよな?』
「は?????当たり前だろ。そのつもりでいるよずっと」
『はは、よかった。んじゃさ、荷物送れるものは隼人んちの住所宛で送ってもいい?』
「ああ、いいよ」
『実はさ、明後日から1週間半くらい、現場が他県なんだよ。んで、千葉戻ってきて2、3日仕事したらそっちいけるから、明日中に発送するわ。2、3日なら布団なしでなんとかするし』
「わかった」
『扇風機っている?』
「んー…一台あるけど洗濯物乾かすように使ってるからな…あるならあってもいいかも」
『おっけ。あとはなにかな…ちっさいテレビは?隼人んちにあったのの半分くらいのサイズだけど』
「んんんん…どっちでもいいかな…別にテレビならうちの使えばいいし…こっそりひとりでみたいテレビとかあるなら持ってきてもいいかも」
『別にねぇな、はは。あとはハンガーラックくらいかな』
「あーハンガーラックはあってもいいかもな。クローゼットに服は掛けれるけど、洗濯物干す時に場所足りないときに使ってもいいし」
『おっけー。つか扇風機とハンガーラック送ろうと思うとだいぶ箱でかいのになるな…送料もバカ高くなるか』
「だなー…」
……さすがにそのためだけに千葉と愛知の往復はしんどくねぇかと思うけど
言うだけ言っちゃってみるか
「俺が車で取りに行こうか?」
『バカなのか?』
「てめ…優しさで言ってるのに、バカとはなんだ」
『そんなんさせられるわけないだろ。バカか。…つか、まぁ、だなー…夜中に社用車こっそり使ってそっちまで持ってくかなー』
「いやそれ大丈夫なのか?」
『あー全然、夜中にこっそり使うのは問題ねえよ。そっちまで4時間半くらいかかるだろ、今から準備して、20時くらいに出たとして…0:30、んで、千葉に戻って、5時くらいか。余裕だな』
「まじかよ…えらくね」
『よゆーよゆー。自分の車持っとくんだったなー…そっちいったら買うから、隼人んちのなるべくちかくで月極め駐車場とか探しといてくれん?』
「ああ、探しとくわ。こっちじゃ車なきゃ生活できないしな」
『ははっ、田舎だからな…んじゃ、悪いけどゼロ時半くらいにいくけど、いい?』
「いや、いいけど…まじで大丈夫?居眠り運転とかこえーんだけど。送料はらってやるから送ってきたら?」
『大丈夫だって。長距離運転も深夜運転も慣れてるから。それに行ったらお前の顔みれるしな』
「どーゆー意味だよ」
『ははっ、んじゃ。またあ…あ!ああ、聞きたいことあったんだった』
「ん?」
『お前さ、そのー…ほんとに、今は俺の事、あれなんだよな?』
「ああ、なんとも思ってねえよ」
『そのなんとも思ってないってちよっとチクッとするから言い方なんとかなんかいのか…はは』
「恋愛感情あるやつとダブルの布団で一緒に寝ねぇよ」
『はは、だよな、』
「つかそんな心配してるんだったらお前も同じ布団で寝るなよ」
『だよなー、はは…じゃあさ、普通に触ったりしても大丈夫か?』
「…は??」
『いや、いや変な意味じゃねよー?!ハグとか、しても大丈夫か、って』
「別に構わねーよ、普通にしろよ」
『はは、そっか、さんきゅ。じゃあまたあとでな。電話して起こすから、寝ててもいいからな。』
「ん。まじで気を付けて来いよ」
『ういー』
。。。。。。
(祐人)
『まじで気おつけて来いよ。』
「ういー」
あっという間に一週間経った。
あの日から、隼人との生活を考えて楽しみに過ごしてたら、あっという間だった。
隼人と過ごしたあの一晩は、忘れていた楽しいとか嬉しいとか、そういうプラスな、温かい気持ちを思い出させてくれた。
隼人は、光だ。
真っ暗な世界にいた俺を照らしてくれた、光だ。
これからその光を頼って、暗い世界からでていく。
一週間、隼人との生活のことを考えて、
隼人のことを思い出してた。
俺の事をめちゃくちゃ心配してくれてる顔、
からかったときのむくれてる顔、
チョコエッグ買ったときの嬉しそうな笑顔。
どれも、なんかこう、愛おしい、みたいな、そんな感じがする。
会いたくてたまらない。
…そのつもりでいたよ、ずっと
ずっと、と言っていた。
隼人も、一週間ずっと、俺とのことを考えていてくれたんだろうか。
…普通にしろよ
高校の、あの日から、普通にそばにいた隼人はいなくなった。
今、もう…
普通にしていいんだ、普通にそばにいていいんだな。
俺より少し小さい隼人を、おれより低い位置にある頭を抱え込むようにしてハグするのがすきだった。
深夜0時半過ぎ
隼人のアパートの前に着いた。
車から降りて、車にもたれかかって、スマホをとりだした。
田舎の深夜は、暗くて静かだ。
スピーカーにしてないのに、こっちからかけてる電話のコール音がよく響いてきこえる。
『ん…着いた?』
「おう。着いた。寝てたか?わるいな」
『だいじょーぶ…鍵開けるわ…つかそっち、いくわ、運ぶの手伝う』
寝起きの声が可愛くて、思わず顔が緩む。
寝巻き用のダラダラのシャツとハーフパンツで、サンダルをはいて、ざりっざりっと隼人が歩いてでてきた。
ああ、隼人だ。
たった一週間しか経ってないのに。
…会いたかった。
「ん、久しぶり祐人」
「久しぶりって、ははっ、一週間前に会ったろ」
「あー…そうだった」
「寝ぼけてんのか?」
可愛いなと言いそうになって慌てて口を噤んだ
さっきから俺は可愛いとか会いたかったとか…
おかしいぞ。
荷物を下ろして、ハンガーラックや扇風機も運んで、
車の中は空になった。
「これで全部か?」
「ああ、さんきゅーな。助かった。こんな時間にわるかったな」
「気にすんな。コーヒーいっぱい飲んでくか?」
「いや、すぐ行くわ。また戻るのにも時間かかるしな」
「そっか。気をつけてな」
ぎゅっ
????
なにしてんだこいつ
顔が祐人の胸におしつけられている。
「祐人なにしてんだ」
「ははっ、普通にしていいっつったから」
いや…いいけど…
ふつーにあちい。
「てか俺ら身長差かわってねーのな。いや若干俺のが伸びたか?」
「あちい。うぜぇ。」
「つらっ!」
俺を離した祐人はヘラヘラと笑った。
「まじたすかった。お前がいてくれてよかった。さんきゅーな」
…お前がいてくれてよかった
自分が必要なものなんだと思わせてくれると、
胸がきゅっとなる。
嬉しいけど、なんだかむずむずする。
ただ、はやくあと二週間経って欲しいと、そう思った。
。。。。。。。
(祐人)
「気を付けてな、祐人」
車に乗り込んだ俺に、運転席側の窓の外から、隼人が軽く手を振っている。
「ああ。じゃあまた2週間後な」
「っ、うん」
はやく2週間経ってほしい、って顔に見えたのは、
自分がそう思ってるからだろうな
この場を離れるのが名残惜しい
もう今から、ここにいたい…
いつまでも出発しない訳にはいかない
レバーを下げて、ドライブにいれ、サイドブレーキを踏む直前
「祐人っ」
隼人の声が俺を呼んで、もう一度窓の外を見た
「俺…その、…祐人がこっち来るの、結構、楽しみにしてるから…」
少し恥ずかしそうにそう言う隼人を
もう一度抱きしめたくなった。
でも、抱きしめたらそれこそこの場を離れられなくなりそうで
軽く返した。
「おう。俺も。…さんきゅな」
そう言ってサイドブレーキを踏んで、ハンドルをきった。
カーブを曲がる直前、ミラーをみると、隼人はまだその場に立っていた。
まだ、二週間俺は地獄に等しかった世界にいるけど
でも、俺はもう、同じ場所に居る気はしなかった。
。。。。。。
(隼人)
祐人がこっちにくるまで、あと1週間になった。
祐人から連絡が来ること以外、俺の世界はまだなにも変わってなかった。
変わらず機械のように仕事をして、毎日同じように、
ただ、
祐人が来る日を待って、一日一日を巡らせている。
家にいる時間の密かな楽しみだった、祐人の荷物の片付けもほとんど終わってしまった。
洗濯物を干している部屋のクローゼットに自分の服を整理して、
寝室のクローゼットは祐人のものをしまった。
寝る部屋を分けるか聞いたら、一緒の部屋のが修学旅行みたいで楽しいだろ、って言われて
とりあえず布団は寝室においてある布団かけにかけてある。
賃貸会社にも同居人が増える旨連絡して、おっけーをもらった。
家から1番近くの月極め駐車場に空きがあることを確認した。
祐人に伝えたら、祐人はすぐに管理人に電話して、契約をしたらしい。
『隼人〜』
『おつかれ、なんかあった?』
『くっそ疲れた。理不尽に胸ぐら掴まれてクソ腹たった』
『まじか、怪我はねーの?大丈夫?』
『胸ぐら掴まれただけだから大丈夫。あと暑くて死にそうだった』
『外仕事はしんどいよな。おつかれ』
『今パピコ食っててさ、半分にする相手いねーから2つとも自分で食ってんの』
『腹ひえねーか?ww』
『外で食ってるしいけるわ。そっちいったらシェアしよーな』
『おー、パピコ買っとくわ』
祐人は今までずっと、
疲れたとか、なにか腹が立つことがあっても、
誰にも言わずに過ごしてきた。
今は、俺に言える。
ひとりで食べるしかなかったものも、俺とシェアできる。
自分がだれかに必要とされてると思うと
すごく安心したし
嬉しかった。
それは原動力になる。
次の日の仕事終わり、俺は早速パピコを買いに行った。
パピコを冷凍庫にいれて、写真を撮って、祐人に送った。
『はやwww一緒に食うのばり楽しみだわ。さんきゅ』
『感謝しろ。ちなみにイチゴジャムも買ってきた』
イチゴジャムも写真を撮って送った
『さんきゅww』
もう、準備満タンだからはやく来いよ
と言いたくなるのを我慢した
そんなこと言ったって早く来れるわけじゃないし
すごく浮かれてるみたいで恥ずい。
でも、早く来て欲しかった。
これだけ準備しても、まだ、実感が湧ききれない。
なんだかふわふわ宙ぶらりんな気がして
『はやくそっち行きてーわ。またトースト焼いてコーヒー入れて』
やってくれ、と言われてるのに
少し嬉しく思った
『コーヒーくらい自分で入れろ。トーストもチンするだけだろーが』
おねがい、というふざけたスタンプが送られてきた。
祐人と再会してから、俺は笑う回数が増えた。
。。。。。。
。。。。。。。
(祐人)
ついにこの日が来た。
昨日仕事が終わってから、ずっとソワソワウキウキしていた。
俺はあの世界からやっと抜け出した。
電車の外の景色がやけに綺麗に感じる。
始発で出てきたが、到着は14:00頃。
最寄り駅に着いて、電車を降りると、ガンガン照りの太陽に体を焼かれそうになる。
はやく隼人んちで涼も、と思いながら、改札をでる。
!!!
家で待ってると思ってたのに…
「隼人〜!!!」
嬉しすぎて飛びついて抱きしめた。
「あつい!あついから!!うぜぇ!!」
隼人の家について、
残りの服を詰めてきたでかいカバンを置いた
肩がめちゃくちゃ軽い。
「はー!涼し!はー!自由!!隼人、パピコ!パピコ食おーぜ!」
「テンションたけーな」
呆れつつ、笑ってくれる隼人に嬉しくなる。
つい、抱きしめたくなる。
抱きしめられる距離にいる。
「だから!あちいって!」
「パピコうめー」
「んー、んめーな」
「明日バイトの面接行ってくんな、いちばん近いとこのコンビニ」
「まじで?行動はえーな」
「働いてないと車買えないだろ。中古車サイトでよさそうなのあってさ、はやく決めたいんだよね。駐車場はもう払ってるし」
「ここ駅近といえどやっぱ車ないと田舎は生活できねーもんな。」
「出かけたい時に隼人にいちいちかりるのも申し訳ねーしな。」
祐人は、すごいな。
甘えさせてもらってわるいな、とかいうくせに、全然甘えてない。
すげー前向き。
これ、俺ほんとに必要だったか…?
ちょっときっかけさえあれば、それが俺じゃなくても、
俺が居なくても
自分でこうして抜け出して、前を向けたんじゃないか…?
たまたま、あの日俺と再会しただけで…
「隼人?」
「ん?」
祐人が首をかしげて俺をみつめていた
「気のせいか。なんでもね。…隼人まじさんきゅな。俺今すげー心穏やか。」
「そらよかった」
「迷惑かけねーよーに頑張るけど、コーヒーはいれてな」
「くっ…なんだそれ、ははっ」
俺がたすけたはずなのに、祐人が俺を笑顔にしてくれてる気がする。
「そーいや俺今日昼飯食ってねぇ…まぁいいか、2時だしな。パピコ食ってるし。」
「不健康だな…」
「夜ご飯早めに食おーぜ。何食う?」
「俺普段対して自炊しねーよ。外食か、惣菜とか弁当とか…ってかんじで」
「不健康って人のこと言えねーな、ははっ、まぁ俺もそうだったけど。同棲初日のディナーなににすっかなー」
「言い方きめぇ。同棲とかディナーとかなんだよそれ」
「いいだろ別に!」
祐人がガバッと肩を抱いて、へへっとヘラヘラ笑った。
祐人が俺のそばで楽しそうにしてることが、なぜか、すごくほっとする。
「だからあちーって…」
。。。。。
(祐人)
夜は結局、高校の頃一緒によく行ってた安い回転寿司に来た。
あの頃より値段すげー上がってんのびびる。
「祐人のキモイ言い方かりたら、同棲初日の記念日ディナーだからな、奢ってやるよ」
「記念日とまでは言ってねーし!てかいいよ、初日だから俺出す。」
「働いてから言えばーか」
「鳶職なめんなよ?」
「現無職だろ?大人しく奢られとけ。んで出世払いの3倍返しな」
「わかったよ。…さんきゅな」
…すげーうまかった。
泣きそうだった。
こんな風にだれかと一緒に笑いながら食う飯ってこんなうまかったんだな。
あの日の朝のトーストのときもそうだったけど、今は、もう完全に解放されてるから、余計に感極まりそう。
「うめぇ…」
「んめーなぁ。俺も久しぶりだわ寿司」
「…まじでさ隼人、俺の事、たすけてくれてありがとな。…あ、やべぇこんなん言ったら泣く俺」
「泣くなよ、ははっ…たまたま見つけただけだよ、俺も楽しいから気にすんな」
「たまたま見つけてくれたのが、隼人でよかったわ。つか隼人じゃなきゃこんなふうに笑ってねぇと思うわ」
。。。。
(隼人)
「たまたま見つけてくれたのが、隼人でよかったわ。つか隼人じゃなきゃこんなふうに笑ってねぇと思うわ」
っ…
そういうこと言うか…
「てか隼人、スマホ鳴ってね?」
「え?…あ、ほんとだ。…うわーなんかめんどくせー予感する」
「どゆこと、はは」
「真太だよ。…スピーカーにするわ、祐人がしゃべって」
「は?!」
通話ボタンを押して、スピーカーにする
『隼人ぉ〜〜』
「なに?」
『えっ?まっ…え、だれ?』
戸惑う真太の返答に、2人で顔を見合わせて息を殺して笑う。
「くくっ…」
『え、まじ、今のだれ?…隼人?』
「わかんねーのつらぁ」
『え、まっ…え?もしかして…え?祐…人??あってる?』
俺も祐人もこらえきれなくなって
声を出した
「はははっ、ははっ正解。」
『はー?!?!?!祐人?!おまっ、お前生きてたのか!!は!やば!』
〜間もなく ご注文の 商品が 到着します〜
タッチパネルで注文した商品が到着する音が流れた。
『は?てかスシタローいんの?まだ17:30だぞ?てか隼人?隼人いんだよな』
「くくっ、いるいる。なに?」
『いや、飲もうぜって電話なんだけど、…いやなんで祐人おんの?まじで。とりあえず隼人ん家行くから寿司食うな、隼人ん家で飲む』
「は?いやもう寿司食ってんだよ。だいぶ食ったわ」
『酒は別腹。自分の分は持参する。今から家出て、隼人ん家の前で待ってるからはよ帰ってこい』
「バカなん?自己中すぎん?…どうする祐人」
「俺は別にかまわねーけど」
「え、てかお前嫁と子供は?」
『子供の夏休みで麻里の実家に泊まり行ってる。1人寂しい俺と飲もうぜ?』
祐人と顔を見合せて、ふたりで小さくコクコクコクっと頷いた。
「わかったよ、ツマミも酒も自分の分は自分で持ってこいよ」
『りょ!』
「あ!まて!うちでもいいけど」
『分かってるって、絶対家には泊めないぞ、自分で帰れ、だろ』
「わかってるならいい。じゃあとでな」
注文してたもんだけたべて、
スシタローのそばのスーパーで酒とツマミを買って、いえに帰った。
帰る途中真太から、圭も一緒に行く、と連絡があった。
「たっだいまー」
明るくそう言いながら靴をぽいぽいっと脱いだ祐人を思わず、たぶん、キョトンとした顔っていわれるような顔でみてしまった。
あまりに自然に、日常みたいだった。
「どした?入れよ」
「入れよって…おれんちな?」
「はははっ」
しばらくすると、家のインターホンがなった
鍵を開けると、ビニール袋を持った真太と、圭がいた。
「うぇーい!久しぶり!お邪魔しまー」
靴を揃えて脱いで入っていくふたり。
鍵を閉めてからもどると
「おう、真太、圭、いらっしゃい!」
「だからおれんちな?」
。。。。。。。
(祐人)
「マジでお前生きてたんだなー」
「ほんと良かったわ」
「さわんなさわんな」
方をポンポンたたいてくる真太の手を払った。
「いまなにしてんの?」
「ヒモ。隼人のひも」
「ぶふっ、おまっ、言い方」
吹き出して、笑いながら自分の口元をぬぐう隼人。
「ニートで隼人の家で隼人のヒモしてる」
「まじで??」
何言ってんだって顔するふたりと
「まじでやめろって祐人」
ケラケラと笑っている隼人
「いろいろ事情があったんだよ。とりあえず家に居候させてるけどな。別に養ってないからな?」
「はは、ああ、明日バイトの面接いってくる、コンビニな。」
「ほおー、なんかよくわからんけど、仲良しでよかったわ。」
「ほんとにな、てか祐人生きててよかったわ。」
「まじで。連絡なくなってどっかで野垂れ死んでるかと思ってた」
「そうなるとこだったかもなーははは」
隼人がたすけてくれたからな
カタンっ
「あ、やべ少しこぼれた、わりい隼人」
「ああ、いいよ気にすんな」
隣に座ってた隼人が、俺の肩に手を置いてよいしょっと立ち上がった。
「あーいい俺やるわ」
隼人の手をひっぱって座らせて、立ち上がって、隼人の肩を軽く叩いた。
棚の上の箱ティッシュをもってきて、ローテーブルに置いた。
「ん?どした圭」
圭が不思議そうに俺を見ている
「馴染みすぎてね?」
まぁ、そりゃあこの三週間ずっとこの生活を、隼人とのこの家での生活を、シミレーションして妄想して生きてたからね。
「いや、お前らさ、たしか高2の時いきなり絶交してたじゃん。あれまじなんだったん?」
ギクッとした、というのはこういうときのことをいうんだろう。
「あー…いや、なんか、…些細なことじゃねーの?覚えてないくらいだからな。ほんとガキすぎて、小さいことでお互いブチ切れてああなったんだと思う。」
慌てて適当に早口で喋って、
「な?」と言って隼人をみる。
隼人は落ち着いた表情で口につけてたグラスを置いた
「俺は覚えてるよ」
え?!
は?
言うの?
「でも、今の祐人の感じだと、言いたくなさそうだから。言わないけどな。
祐人が言ってもいいって言うなら言うけど、祐人も関わる話だから、勝手には話せね。」
え?なんでそんな落ち着き払ってんの?
「なんだそれ。めっちゃ気になるじゃん。…まぁ言いたくないならいいけどな。」
真太と圭も大人でそれ以上深く追求はしてこなかった。
しばらく飲んだあと
「そろそろお前ら電車なくなるぞ」
隼人の呼び掛けに、かなり飲んで陽気になってる真太が大きな声で返事をした
「泊めてー!」
「泊めねえ約束だろうが」
冷たく一蹴する隼人に、
けちー!!とまた真太は大きな声をだした
「圭、こいつ引っ張り出すの手伝ってくれ」
隼人が真太の腕を持って引っ張るが、真太は踏ん張っていて動かない
「えーやだだるい。置いて帰る。」
圭はまだ酒の缶を口につけていた
「おーいーーーって、うわっ」
真太が隼人に引っ張られていた腕を、自分の方に逆に力いっぱい引き寄せ、
バランスを崩した隼人が、真太の膝の上に座るように倒れ、真太はその隼人の体をホールドした。
「おい離せ!真太!この酔っぱらい!!」
圭はケタケタと笑っている。
俺は少しだけ眉間に皺を寄せてそれをみている。
「なんでだよぉ、隼人ぉぉ、たまには男同士楽しく一緒に寝よーぜー。」
「だから何回も言ったろ。俺は絶対家に人泊めねーの。めんどくさいから。客用布団しまっとくのも場所とるだけだし、大して使わねーのに。んで一回使ったらまたしまわなきゃなんねーし。俺はめんどくさがりなんだよ…ってかまじで離せ!」
「祐人だけずりぃぃぃぃー!祐人だけ特別扱いずりいいいいい!」
「うぜぇうぜえうぜぇ、」
真太が、隼人をホールドしたまま、隼人に自分の頭をぐりぐりぐりぐりと押し付けているのをみて
気づいたら、
真太の腕を強引にこじあけて、隼人を離させていた。
「しつけーぞ。もうここは今俺ん家でもあるんだから、さっさと帰れ。」
うだうだと文句を言いつつ、二人が撤収していった。
「相変わらずだったな」
楽しかったなって感じでヘラヘラ笑う隼人に、
あー、と適当に返事を返した。
隼人がシャワーを浴びてる音を聞きながら、自分のモヤモヤを整理しようと考えた。
隼人はあいつらに、言ってもいいっていった。
でも、俺が嫌なら言わない…
どういうことだよ
言って嫌な思いするのは隼人じゃないのか?
男の俺に告ったって、黒歴史じゃないのか?
それに、もし言ったら、…言ったら…?
どうなる…?
大人になったあいつらのことだから、ドン引きたり、嫌なからかい方をすることはないだろう。
でも…
いや、ていうか隼人はどう思ってるんだ…
「お先ー。祐人もシャワーしやー」
「ん…」
立ち上がって、
もう一度座った。
「祐人?なにしてんだ?」
頭をタオルで拭きながら、立ち上がったのにまた座った俺を不思議そうに眺める隼人をみつめた。
「隼人、お前あいつらに言えんの?」
「なにが??」
「…高校の時のこと」
「あー…別に?かまわねーよ。もう昔のことじゃん。俺的なは昔話で、笑い話だよ。今俺にそんな気持ち一切ないし、お前もそれ分かってて一緒にいる訳だし。…過去の、昔話だろ?」
モヤッと…
ズキっとした…
ただ、やっぱり自分の気持ちが整理しきれなくて、
少し視線を逸らして、
「たしかにな」
とだけ言って、その場を離れた。
シャワーをしながら、もう一度考える。
過去のこと、昔話、笑い話…
じゃあ、俺たちが今一緒にいるのが、昔話じゃなく、今話?だとして…
昔話、過去の話ってしてしまったら、
今、これからの話、
…俺と隼人は、どうなる?
いや、万が一だぞ、なにかの、なんか、何かが起きたとして、
俺と隼人が恋人同士になったとするだろ、
万が一の、例え話な!うん!
そうなったとき、もし、過去の笑い話って話してしまってたら、
…違うじゃん?
俺は…過去のことだって、したくないのか?
お互いに、傷ついて、傷つけた、そんな思い出ではあるけど、
でも…
俺には大事なこと…?
ってこと…?
いや、ていうか俺と隼人が付き合うっていう例え話なんなんだよ俺!!
ちげー…
ちげーよな…
でも…
あーもう!わかんねぇ!!
でも…
隼人がたすけてくれたのは俺だ。
きっと俺だからたすけてくれた……んだと信じたい。
家に人を泊めるのをめんどくさいことだと思ってるのに、俺は受け入れてくれた。
少なからず特別だと思ってくれてるはず。
だから…
要するに…
なんていうか…
隼人をそうやって抱きしめていいのって、特別な俺だけじゃね?ってことなんだよな。
真太が隼人つかまえてんのみてモヤッた理由わさ。
な?
は?俺きも。
え?俺キモくね?
隼人はあいつらに笑い話だって言って話せるくらい、大したことない過去の話になってる。
本気で俺の事はもう友達としか思ってない。
うん。
いやいやそうじゃなきゃまずいよな。
あってるあってる。
…………これじゃまるで、
まるで…
俺が隼人のこと…
ない!ない!ちげぇ!!!
おかしいだろ!!!
三週間!三週間ずっと隼人のこと考えてたせいだ!!
そうだ!
「ふろ出たぞ!!」
「あ゛あ゛あ゛〜お゛づがれ〜」
あ゛あ゛ぁ…扇風機に喋ってる隼人くそ可愛い…
…前髪かぜでフヨフヨしてんのたまんね
。。。。。。
(隼人)
ドライヤーすんのめんどくて、扇風機の前座って髪乾かして、おおかた乾いて、扇風機に向かい合う形に姿勢を変えたとこで、
「ふろ出たぞ!!」
やけに勢いよく祐人がリビングに入ってきた。
「あ゛あ゛あ゛〜お゛づがれ〜」
え…なんで頭抱えてんの?
さすがにアホらしすぎた??
歯磨きも終えて、布団に入る。
俺のダブルの布団と、祐人のシングルの布団がくっついてならんでる。
隙間開けると隣のスペースに布団かけを置きっぱにできないから。
俺はダブルのふとんの真ん中で、祐人に背を向ける向きで横になった。
「隼人ー」
「んー」
酒も入ってるし眠くなってきて、目を閉じたまま適当に返事をした。
「まじでさー…ありがとな」
「んー…もうわかったって…もういいからありがとうは…」
やべーねみぃ
「隼人ー」
「んだよ…」
「もう少しこっち寄りで寝てくんね?」
「んでだよ…」
「んじゃ俺がそっち寄っていい?」
「…」
「隼人ー?」
「すきn…しろよ」
。。。。。。
(祐人)
たぶんもう半分以上寝てるけど、好きにしろよといわれたので遠慮なく
隼人の布団に移動した。
せま…うざ…とか呟きながらも、モゾモゾと動いて少し詰めてくれた。
あー…
隼人がいる。
安心する。
落ち着くなーこの距離。
やっと…
…まるで、帰るべき場所に帰ってきた、みたいな、そんな気持ちだ。
…きっと、俺はだれにも、とられたくないんだ。
やっと手に入れたこの落ち着く場所を
やっと帰ってきた自分の場所を
だれにも…
「ちかっ!」
隼人の声で目を覚ました。
「なにしてんのおまえ…自分の布団で寝ろよ」
上半身を起こしている隼人に、ぺしっと腕を叩かれた。
「そっちいっていいってきいたらすきにしろっつっったから」
「俺そんなこといったか…」
まぁいい明日は自分の布団で寝ろよ、と言いながら隼人が寝室からリビングへ歩いていった。
隼人の布団から自分の布団へ、ゴロゴロゴロと意味もなく転がって
かつて俺の枕になってくれていたプリンのクッションをポンポンと上に投げて遊んだ。
チーンとトースターの音が聞こえて
体を起こした。
リビングに行くとトーストが1枚ずつ皿に乗せられていた。
「イチゴジャムとバターこれな、好きなだけ塗り」
「うぇーいさんきゅー」
トースト食べて、コーヒー飲みながら
隼人が、面接なんじだった?と言った
「14時。あとでスーパー行って昼飯と夜飯のなんか買ってこよーぜ。昼飯は俺が作る」
「つくれんの?」
「簡単なもんならな。ちょー簡単なものな。まだ東京行く前に彼女と付き合ってた時にちょっとやってた。揚げもんとかはできねーけど」
「すげえじゃん」
「隼人はやんねーの?」
「できる…」
なんだその自信なさそうに泳いでる目。
「…米、炊ける。」
「お、おう」
「パスタも茹でれるし…」
「おう、いいじゃん」
「袋ラーメンも作れるし、レトルトカレーもあっためれるし…」
「あとは?」
「…………」
「………」
「トーストちんできるし、…自炊できなくても死なねーよ」
拗ねてんの可愛すぎねぇか?
だから、可愛いってなんだよ!
隼人だぞ?
俺まじどうした…
地獄生活とそこから救われたなんかあれで、
おかしくなったのか?
「頭抱えんなよ!」
「ちげぇちげぇ、別にお前が自炊できねーから頭抱えてるとかじゃねーの!んんんん」
「…大丈夫かお前」
。。。。。
(隼人)
食器を片付けてる間に、隼人は冷蔵庫の中や、調味料とかレトルト食品とかをいれてるラック、調理器具を確認してた。
引っ越す時に母親に調理器具を押し付けられたので、普通に料理するには十分な調理器具が揃ってる。
食器もおなじく。
一人暮らしではこんなに使わないってほど食器がある。
食器片付けたりもろもろを済ませて、
祐人と家からいちばん近いスーパーに来た。
「隼人何食いたい?」
「祐人が何作れるのかわかんねーからな」
祐人がカートにカゴをのせて、それを押していく。
それについていく。
「麺か米かだったらどっち?」
「どっちも食いたい」
「一品料理専門だからどっちもは無理だわ」
「じゃあ米」
「じゃあチャーハンにしよ。簡単だし材料もそんないらねー」
「俺、冷凍食品のチャーハン、レンジでチンできる」
「ぶふっ…あんまかわi…面白いこと言うなよ」
祐人はスーパーの中を歩きながら、
野菜コーナーで長ネギと人参をカゴに入れた。
自分が買い物に来て絶対買わない野菜だ。
洗わずそのまま食べれる千切りキャベツ、とか、そういう野菜しか買わない。ネギは買うか、もう刻まれてるやつ。冷凍庫に入れてある。
俺が作る袋ラーメンの具は、冷凍してあるネギと、乾燥わかめだけだ。
卵を入れてみたいけど、どのタイミングで入れればいいのかわからなくていれたことがない。
「チャーハン何いれる?ウインナーか鶏肉か、…えびでもいいな、隼人エビ好きじゃなかったか?」
「エビがいい」
思わず前のめりにエビと返答したらまたちょっと笑われた。
祐人は魚介コーナーで、殻が剥かれてそのままつかえるエビをカゴに入れた。
そのままつかえるといっても俺は食べ方が分からない。
茹でるのか焼くのか何で味をつけるのか…
調味料のコーナーに行くと、
「塩コショウはあったから…」といいながら、
顆粒の鶏がらスープの素とごま油をカゴに入れる。
俺が何年もひとりで暮らしていたときには、手に取らなかったものがたくさん
俺の生活の中にながれこんでくる。
「お、鶏ももこれ安いんじゃね?いや、長いこと自炊してねーから、相場がわかんねーけど、本日限り特価って書いてあるし。これ1枚ずつどーんと焼くか。夜ご飯はチキンステーキにしよう」
肉コーナーを眺めながらそう言ってグラム108円(税抜)とかかれた鶏もも肉2枚入のパックをカゴに入れ、
「一緒に食う野菜なんか買うか」
といって野菜コーナーにもどる。
「醤油はあった、塩コショウもあった…ドレッシングあったっけ」
「ゴマドレだけある」
「んじゃいーな」
レジに向かうかと思ったら、
「ついでだし明日の食材も買ってくか、そしたら明日買い物しなくていいし」と祐人が言った。
「まじで料理できんの」
「簡単なもんだけだって、隼人もやれるって、肉売り場にあった形も作ってあるハンバーグなんて、火が通るまで焼くだけだろ?あと魚売り場んとこに売ってた味のついたイカ炒めとか、炒めるだけじゃん?そーゆーもんよ。あと実家にいた頃姉貴がよく言ってた、料理はレシピ通りやれば基本作れるって」
最終的に買ったものは
長ネギ1本、人参1袋(3本)、えび、鶏がらスープの素、ごま油、鶏もも肉(2枚)、卵1パック、千切りキャベツ2袋
焼きそば麺2玉、豚こま肉、刻んである人参キャベツもやしミックス、焼きそばソース
すげー自炊する人の買い物じゃねーか…
それも…
2人分だ。
家に帰ると祐人はすぐ米をかして、炊飯器のスイッチを押した。
その間に俺は買ってきた食材を冷蔵庫に入れたり、ラックにしまったりした。
すげぇ、一人暮らしはじめてからこんな冷蔵庫の中身みたことねえ
生肉入ってる……
祐人がまな板と包丁をだして、
ネギを切り始めた。
縦にスーッと半分に切って、十字になるように半分回してまたスーッと切った。
それから、トントントントンと切っていく。
大きめのみじん切り的なやつだろうか。
母親が料理してたときに聞いてたまな板と包丁の音は、もっとはやく、トントントントントントントントントン!だったけど、
料理しない俺からすれば祐人も十分すげえ。
思わず祐人のうしろにはりつくようにしてみていた。
「隼人、くっついてみてたら危ねぇって、ははっ、座ってていいよ」
言われた通り座ったけど、人がご飯作ってて自分だけ座ってることになんだかソワソワして落ち着かない。
実家にいる時は当たり前だったのにな。
なにもかも、やってもらうのが当たり前だった。
一人暮らしを初めてからは、洗濯も掃除も、自分でやるのが当たり前だった。
自分じゃない人の分のトーストを焼いて、コーヒーいれて、
一緒に食べるとか
だれかが自分の分を作ってくれるとか、
改めて考えるとなんか、すごいことだよな
……………あーー…
彼女いたことないから新鮮なんだなー…
はは…
ちょっと情けなく思いながら、フライパンに食材をいれて炒めている祐人の背中をみた。
…恋は…辛いだけ。
そう学んだから、あれから一度も俺は、人を恋愛として好きにはならなかった。
そう思える人に出会わなかっただけかもしれないけど、
人を好きになるって怖いと思ってる。
辛いし、苦しいし、
失ったらとか、不安だし、
独占したいとか、そういう感情が芽生えてくると、自分の感情が怖くなる。
友達は楽だ。ただ一緒にいるのが楽しい、それだけでいい。
気が合う仲間。
…俺じゃなくても、問題ない、仲間。
「あっ、わりー隼人、皿忘れた!皿だしてくんね」
祐人の声が聞こえて自分のもやっとした思考を手放して立ち上がった。
チャーハンのせるのに丁度よさそうな大きさの皿をだして、コンロの横に置いた
「これでいい?」
「おけおけさんきゅ」
さっき近くで見てたら危ないと言われたので、少しだけ離れて、
祐人がチャーハンを皿に盛っているのを眺める。
いい香りがする。
「よっしゃ完成!」
と言って祐人がフライパンを置いた。
祐人が両手に1皿ずつ、2つのチャーハンをもっていってくれたので、
俺はスプーンを日本だして持っていった。
「すげー…うまそ」
「たべよーぜへへっ」
ふたりで声を合わせて、
「「いただきます」」
といってから、
チャーハンを口に運んだ
!!!!!!!!
うまっ!
思わずチャーハンから顔を上げて、前に座っている祐人の顔を見た。
祐人はまだチャーハンを食べず、俺を見ていたので目が合った
どう?といってるようだった
「んんー!(うめー)」
もぐもぐしながらそういうと、祐人は嬉しそうに笑った。
「やべー!うめー!すげえよ!すげー!」
「ははっ、よかった。…んー、うめーな。」
やば
うまっ
なにこれ
自炊した飯って、人が作った飯って、こんなうまいのか…
食材はみじん切りの人参と長ネギ、エビと卵だけだ。
うまっ
…うまっ
。。。。。。
(祐人)
ひとくち食べる度にいちいち、
うまっという顔をして
嬉しそうに美味しそうに食べる隼人。
俺はたまらなく幸せだと思った。
あと、
もっといろんな料理作れるようになりたいと思った。
あとでレシピサイトみよう。
「あーうまかった…ごちそうさまでした。…もっと食いたい」
「ははっ、よかったよかった。また作るわ。」
「何入ってんのこれ」
「食材以外に使ったのは、ごま油、鶏がら、塩コショウ、醤油。おわり」
「天才じゃん…やば。」
空になった2枚の皿をもって流しに持っていく。
シンクにいれて、みずをかける。
食べてる間に冷めたフライパンを洗い始めたら
「片付け俺がやるからいいのに」
と言われた
「使ったものを片付けるとこまでが料理、って昔の彼女に言われたからな」
「すげーちゃんとしてんなぁ」
「ゆっくりしてたらいいって、」
「でも祐人2時から面接だろ?休憩してていいのに」
「だいじょぶだって。」
洗い物を片付けて隼人をみると、
隼人はスマホをみていた。
もうすぐ13:00。微妙な時間だな。
俺も座ってスマホをみることにした。
レシピサイトみよう。
とりあえず今日の夕飯はチキンステーキだ。
鶏肉をどーんと1枚焼くのは簡単だ。
文字通り焼くだけだ。
塩コショウふって、両面焼く、火が通れば完成。
けどせっかくだし…
チキンステーキ コツ
で検索した。
なにこれ、知らね。
上から押す?鍋で重しをする?
皮がパリパリになる…なるほど。
けど重しのために鍋使って洗い物増えるのなんかいやだな…
とりあえずフライ返しでギューギュー押してみるか。
明日は何作ろっかなー
隼人がチャーハンをあんまりうまそうに食べてくれるから
いろんなもん作ってみたくなったな。
「隼人ー」
隼人はスマホから顔をあげずに、
「んー?」と返事をした
「明日は何食いたい?」
「んー……………」
しばらく考えたあと、隼人が顔を上げて、視線を上にしてもう少し考えた。
「インスタントじゃない…味噌汁…飲みたいかも」
「味噌汁かぁー…小学校か中学校の調理実習でしか作った事ねーな…まぁできるだろ、やってみっか。具なにいれる?」
「ワカメならあるよ、乾燥のやつ。うちの母さんが作ってたのはなんかいろいろ入ってた。大根人参…えのきと、…油揚げだったり豆腐だったり…なんでもいいけど、味噌は赤だし一択」
「赤だしは当然なー。人参は丁度チャーハンに半分使って半分切ってとっといてあるから、人参半分とワカメと…味噌汁の人参ってどんな大きさだったっけ…大根って1本買っても使い切るのに時間かかるよな…どんだけ日持ちすんだろ。いいやあとでしらべよ。…おかずは?なにがいい?」
「一品料理専門じゃないのか?」
「いや、ははっ、さすがに味噌汁とご飯じゃさみしくね?」
「納豆でいいよ。」
「質素だな、ははっ」
スマホ見たり、少し話したりしているうちに、
すぐに13:30をすぎていた。
俺は隼人に見送られて、コンビニの面接にでかけた。
面接は特に問題なく淡々と話が進んでいって、
じゃあ採用だったら2、3日中に電話します、と言われて終わった。
隼人は基本的に土日祝休みで、平日の8:30-17:30で働いてる。
できれば同じ時間帯で仕事できたら、
家で一緒に過ごせるんだよな。
飯も作りたい。
「ただいまぁー」
「おー、おかえり。どうだった?」
靴を脱ぎながら。
「ふつー」
と答えて、洗面所に向かった。
手洗いうがいを済ませてリビングに入る。
すっかり俺用になったクッションに座って、ふーっと息を吐く。
。。。。。。
(隼人)
祐人が手洗いしている間に、グラスに麦茶を入れてローテーブルに置いておいた。
祐人はクッションに座って大きく息を吐いた。
「おつかれ、暑かったろ」
「おー。さんきゅー」
祐人がゴクゴクと麦茶を飲んだ。
「どの時間帯勤務できるかーとか、そんな話しておわり。採用なら2、3日中に連絡しますーってさ」
「そっかー、決まるといいな。てか、何時から何時で働くつもりなん?」
「一応何時でもいいって言ってある、できれば隼人が仕事してるのと同じくらいの時間帯、8:30-17:30あたりだといいなってのは言ってきた。あとできたら土日休みがいいって。 夜勤でもいいけど、夜勤だと夜中とか出てく時に隼人起こしちゃったら申し訳ねーなーと思って」
「それは別にいいけど…夜勤とかは体しんどそうで心配じゃん」
「ははっ心配してくれんの?へへっ、いやいや、今までに比べたらどんな仕事もよゆーだって。あーでもあれ、事務仕事とかは多分無理だな。俺そーゆーの苦手だから。今までそういう事やってないから仕事探すの大変だわ… 」
「まぁ、ゆっくりでいんじゃね」
「おー、さんきゅ」
祐人はまた麦茶をゴクゴクと飲んだ。
6、7分とはいえど、真夏に徒歩は暑いよな。
「あー隼人、 明日は郵便局とか市役所とか警察署とか色々いってくるわ。
転居届とか、免許書やマイナンバーの住所変更とか、もろもろ済ませてくる」
「俺明日仕事で車使っちゃうぞ?」
「いいよ、郵便局は徒歩で行けるし、
市役所と警察署は〇駅降りてすぐじゃん?電車で行くよ。どこも平日じゃねーとだしな
「どこも平日じゃねーとだしな」
祐人はつくづく……
謎すぎ
「そんなに前向きな性格で、
引っ越してすぐバイト探したり、速攻面接行ったり、
中古車目星つけといたり、住所変更とかもすぐ行く、
超迅速に動けるやつが、
なんでもっとはやく仕事辞めなかったんだ。」
「はははっ、ほんとになー、ははっ、
てかたぶんまぁ辞めたから、…隼人がたすけてくれたから、こうなったんだと思う。隼人だったからだよ。さんきゅな」
「いや…どういたし、まして…」
祐人はこうやってことあるごとに、俺じゃなきゃだめだった、みたいに言ってくれる。
ムズっと恥ずくなって語尾がモゾモゾなってしまった。
でも、俺も、すぐに手を伸ばせたのは祐人だったからだ。
理由はよくわからないけど、いや間違ってもまだ恋愛感情あるとかでは絶対ないけど、
たしかに、祐人だったから手を伸ばせた。
そう思ってる。
お互いがたまたま、ちょうど欲してたものを、持って、与えあえるところで出会えたんだよな。きっと。
偶然、奇跡的に、タイミングよく、って。
「祐人はいつか彼女できて一人暮らしとか、彼女と同棲するってなっても、こまらねーな。引越しに慣れてると」
「いやそれゆうなら、隼人だって彼女できるかもだろ?彼女できてここ住むってなったら、え、てか俺追い出されるじゃん??」
「俺はもうなんか、恋愛無理だなーって思ってるからさ 彼女もいたことねーし…別にいつまで祐人がここにいてもいいよ。」
。。。。。
(祐人)
「いつまで祐人がここにいてもいいよ」
え?
ええええええええ!?
優しく笑いながらのその言葉はどうなんだお前それ…
てか彼女いたことないって
「えっ、童貞?」
動揺して失礼な質問してしまった…
「さすがにちげぇ。
まぁ、若い頃の強い性欲に負けて、友達とちょっと体のあれはあった。けど付き合うとかはねぇ。」
意外だ。
隼人にもそういうことあったんだな…
「てか恋愛感情感じる相手に出会わなかったんだよ、たぶんな」
え、それはどういう…
人生でいっかいもってこと?俺へのあの告白は勘違いだったってこと?
それとも、俺以外にってこと?
「ああ、勘違いすんなよ、祐人のことをずっと想い続けてたーとかそんなきもいことじゃねぇよ。恋愛なんて辛いだけだって思ったらもうそういう感情湧かなくなったんだよ。何回も言うけど祐人のことは今友達としか見てねーから安心しろよ。じゃなきゃ祐人を見つけたあの日、声なんかかけなかったって」
「そうか」
そうか…
俺のせいか?
…辛いだけだよ、恋なんて…
そういってたよな
ていうか、よく考えたら、恋愛感情の好きってなんなんだろうな。
俺が彼女いたとき、どう思ってた?
可愛いとか、一緒にいると楽しい、落ち着く、嬉しい…
辛い…?
…叶わなかったら…
そうか、俺は叶わない恋をしたことがないんだな。
別れる時も、俺が東京いって自然消滅みたいな感じで、そんな辛くもなかった。
伝えたらおわるような、恋か…
どんな感覚なんだろうな。
。。。。。。
俺と隼人が再会したのは、7月の頭。
それから三週間千葉に戻って仕事して、
7月の終わりに俺は隼人と住み始めた。
気付けば、もうすぐ八月も終わりそうだ。
隼人は月曜から金曜、8:30-17:30で、高卒からずっと正社員で勤めてる地元の大手企業の工場。
俺は、月から金9:00-18:00、土曜日から日曜にかけては夜勤で0:00-06:00、隼人の家から1番近くのコンビニでバイトをしてる。
歩いても6-7分だが、車で仕事に行ってる。
コンビニで働き始めてすぐ、無事に車もゲットしたからだ。
それに、仕事終わったあとそのままスーパーに買い物に行けるからだ。
家賃も光熱費も隼人が払ってる。
「食費くらい俺に出させろ」って言ったら、
「じゃあ飯よろしく」 と笑われた。
それ以来、食費は俺。 夕飯は俺が作る。
たまに外食した時は、隼人がだしてくれたり、割り勘にすることもある。
俺たちの朝ごはんは、トーストか冷凍食品の焼きおにぎりかシリアル、その日の気分でどれかをたべる。
俺も隼人も昼ごはんはコンビニで買った物を仕事場で食べてる。
夜は俺が仕事終わりにスーパーで買い物に行って、簡単なものを作る。
たまに買ってきたものとか食べに行くこともあるけど。
俺が夕飯を作るからと、隼人は洗濯物を毎日をしてくれる。
風呂出たあとに洗濯を回して、寝る前に干してくれる。
土曜日の夜ご飯は早めに食べる。土曜日の23:50位に仕事に出かけるから、遅くても21:00には仮眠を始めていたいからだ。
日曜日は朝6:00に帰ってきて、仮眠をして、隼人が起きてた時間に起こしてもらうことにしてる。
仕事終わって帰ってきて、仮眠して、隼人が焼いてくれたトーストを食べるのがすげー幸せなんだよな。
「祐人ー、次の土曜なんだけどさ」
「んー」
夕飯を終えて洗い物をしてると、後ろから声が聞こえた
「仕事だよなー」
「おー、いつも通りな」
「そっかー…」
洗い物をしている手をとめて、手を拭いて、流しに背中をもたれさせて、隼人をみた。
「どした?」
「いやー…そこの海で花火あんだよね。けど行ってたら夜勤しんどいかなやっぱ」
「え?!よゆーよゆー!行きてえ!」
そういうと、隼人は少し嬉しそうに「まじで?いっちゃう?」と言った
俺は隼人に対する気持ちを、ほんの僅かに、認め始めてた。
最初は戸惑ったけどたぶん…って。
いや、完全には認めてないけどな。
錯覚かなにかかもとかとも思ってる。
けどやっぱり、隼人の嬉しそうな顔を見るとすげー嬉しいし、
隼人と一緒にいたいし、
隼人と花火見に行くとか最高だと思った。
「4時からキッチンカーとかそういうのはじまって、花火は7時からってなってる、何時に行く?」
「えーせっかくならなんか食いたいな。てかやっぱ人やべーのかな」
「んー、毎年花火の日は夜けっこうこの道も人歩いてるの見るなー。」
「5時くらいに行ってなんか食いながら7時まで時間潰す?店並んでたりしたらたぶんすぐだろ」
「だなー、そうしよ。」
話がまとまってからまた洗い物の続きをした。
やべー楽しみ。
洗い物をしながら、隼人にもう一度声をかけた。
「天気調べて、雨じゃねえ?大丈夫?」
「うん、予報は晴れ。」
「よっしゃー、楽しみだな」
17時過ぎだったがもう人が大勢いた。
「隼人なにくうー?」
「イカ焼きあったら食いたい。」
「おー、祭りっぽくていいな」
屋台すげー行列だな。
10分ほど並んで無事にイカ焼きをゲットした。
丸ごとのイカは食べにくそうと言って、半身にした。
「半分こなー」と言いながら隼人がイカにかぶりつく。
「んー、んま」
ひとくち食べたあと、ん、と言って渡そうとしてきたので、受け取らずに一口だけかじった。
「いいよあと食べや」
隼人が嬉しそうにイカ焼きを食べながら、ほかの店を見てまわる。
「祐人はなんかたべたいのないの?」
「んー…なんかあのチーズ伸びるやつ食ってみたい」
「買お買お」
並んでると密度高くてより暑いな…
思わず、「あっつ…」と呟いたら
隼人が自分の首にかけていたハンディファンをつけて、俺に向けてくれた。
「涼し!ハンディファンすげーな!」
隼人は「だろっ?」とドヤ顔で笑った。
今日は俺が食べるもの買うから、隼人は手ぶらでいいと言ったから
隼人はポケットにスマホをいれて、ハンディファンだけ首からさげていた。
俺は小さいショルダーバッグに、財布とスマホ、ペットボトルのお茶だけ入れてきた。
並んでる間にお茶を一口飲んで、隼人にも渡す。
しばらくならんで、ゲットしたチーズハットグを隼人に手渡す。
「隼人、先1口食ってみてよ、びょーんてやって」
「んー!んんー!」
「あっははは、伸びてる!めっちゃ伸びてる」
「んー、んめぇ……てか写真撮ってんなよ、恥ず」
「花火大会は写真撮るもんだろ?」
「花火の写真撮れよ、ほら祐人も食えって」
「なんかちゃんとメシっぽいもんたべてないな。焼きそばとか買うか?」
「焼きそばなら祐人が作ったやつがいい。」
……なんだそれ。
思わず笑ってしまう。
……いや。
今の、ちょっと反則だろ。
思わず目元を手のひらで隠して天を仰いだ。
「どした?」
「いや…可愛くて」
そう言って隼人をみると、隼人が怪訝な顔をしてこっちをみてた。
嬉しい、にしとけばよかった。
「隼人ほかに食べたいものないん?」
「んー…唐揚げとかどう?」
「おー、いいじゃん。唐揚げは俺作らねーしな。」
「食お食お」
並んで、食べて、並んで、食べて、をしてるうちに
ヒューーーーーーーーーーーーー
と音が聞こえて、周りの人達も自分たちも、
空を見あげた。
ドーーーーーーーーーーーーーーン
「「おーーーーー!」」
花火なんてどれくらいぶりにまともにみただろう。
綺麗な花火がドーンパラパラ、ドーンパラパラ、と、
打ち上がって咲いては消えて、咲いては消えていく。
すごくきれいで、
大きな音が身体中に響いてくる。
ふと目線を横にすると、隼人もじっと空を見あげ、時折、おー!とか、あー!とか声を上げている。
花火の光が何度も隼人の横顔を照らす。
横顔を見る。
また花火を見る。
また隼人を見る。
なんだか無性に、隼人と手を繋ぎたくなった。
けど、
ぐっと我慢して、手を後ろで組んだ。
最後の大スターマインが始まると、隼人は慌ててスマホで録画を始めた。
俺もつられてすまほを空に向けた。
「すげすげ、おー…おーすげー」
スマホは空に向けつつ、俺は楽しそうな隼人から目が離せなかった。
隼人の目にうつるスターマインの光がすごくきれいだった。
スターマインが終わると、周り中から拍手が起こった。
「きれーだったな、帰るか」
「だなー」
人の波が一気に同じ方向へ動いていく。
自分たちもその流れに乗って、はぐれないよう、人にぶつからないよう、歩いていく。
浴衣を着ているカップルや、
ベビーカーを押している人、
ぴょんぴょん飛び跳ねている子供、
色んな人がいた。
カップルや親子が手を繋いでるのを見て、
俺は自分の手をぐっと握りしめて、また、自分の背中に回した。
隣にいる隼人との距離が、妙に遠く感じた。
「ただいまー」
「たでーまー」
狭い玄関で1人ずつ靴を脱いで中にはいる。
交代で手を洗う。
「祐人先に風呂しやー、仮眠せなかんだら?」
「んー、さんきゆ、じゃあちゃっとシャワーするわ」
シャワーをしながら、俺は自分の心に観念した。
ああ…隼人が好きなんだ
あの頃の隼人は、 俺なんかよりずっと真剣だったんだ。
まだ俺は、若すぎて、わかってやれなかった。
子供みたいな、彼女欲しいとか、あの子が好きとか、そんな気持ちしか知らなかった俺は
隼人の俺への気持ちが、 どれほど大きかったのか。
あのときは、自分のことしか考えられなかった。
黙ってずっと一緒にいてくれれば、俺は辛い思いしなくてよかった、なんて思ってた。
手を繋ぎたかった。めっちゃ繋ぎたかった。
でも、繋いだら、隼人がどんな顔するか…
俺がうっかり隼人に、可愛いと言った時のあの怪訝そうな顔。
つらい…
隼人と風呂を交代して、
隼人が浴びてるシャワーの音を聞きながら、
スマホをひらいた。
今日撮った写真や動画を見返す。
美味しそうに食べてる顔がたまらなく可愛かった
楽しそうなのをみてると、すごく嬉しかった
花火を見ている顔が、きれいだった。
最後のスターマインの動画は、途中から花火の隅っこしかうつってなかった。ほぼ空を写してた。
途中から、隼人しかみてなかったからだ。
ああ……………好きだ。




