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城壁横の古龍さんは住民票がありません  作者: 乾燥しいたけ
第一章 赤い布の内側で

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12/14

第12話 ドラゴン、子爵に現実を突きつけられる



ドラゴン生活九日目・朝。


俺、竜咲空。


巨大ドラゴンとして、城壁都市レグナの西門外に仮滞在している。


十日後に王都へ正式報告が送られる。


そう言われてから、今日で九日目。


つまり、残りはほとんどない。


俺は、この街にとって害だけではないと示さなければならない。


言葉にすると、かなり重い。


俺は街を襲いたいわけじゃない。


人を食べたいわけでもない。


火を吐き散らしたいわけでもない。


ただ、森で一人きりが無理だった。


人の声が聞こえる場所の近くにいたかった。


その結果、警鐘を鳴らされ、城壁前で伏せ、寝返り申請を作られ、鼻息の向きを指定され、パンを食べるにも手順が必要になった。


そして今日は。


アルバート子爵による中間確認の日だ。


「ソラ殿」


赤い布の外側で、リシェルさんが書類板を抱えて立っている。


昨日よりは、少しだけ顔色がいい。


本当に少しだけ。


グレタさんに半分だけでもパンを食べさせられ、一刻だけ休まされた効果はあったらしい。


「朝の確認を行います」


「はい」


「姿勢、伏せ。尻尾、赤布内。翼、畳まれた状態を維持。火炎反応、なし。鱗、自己抜去なし。爪、指定位置内。夜間の予定外行動なし」


「よかった」


「発声量、良好」


「それもよかった」


「本日の事前申告をお願いします」


来た。


昨日から始まった新しい項目。


その日にやりたいこと、不安なこと、気になることを、朝のうちにまとめて言う。


思いつきで動かないため。


突発的に喋らないため。


リシェルさんの仕事を少しでも減らすため。


俺は、昨日の夜から考えていたことを順番に言った。


「今日、アルバート子爵に聞かれたことには、できるだけ正直に答えます」


「はい」


「言い訳はしません」


「はい」


「でも、怖いです」


リシェルさんの筆が動く。


「王都報告、中間確認への不安あり」


「はい」


「他には」


「俺がここにいたい気持ちだけで、街に迷惑をかけてることも分かっています」


「はい」


「でも、森に戻りたいとは思っていません」


言ってから、少し喉が詰まった。


森。


一人。


風と木と獣の音しかない場所。


あそこに戻れば、街に迷惑はかからないかもしれない。


でも、俺は戻りたくない。


その本音は、かなりわがままだと思う。


リシェルさんは、すぐには書かなかった。


少しだけ俺を見て、それから筆を動かした。


「孤立状態への忌避感あり。街近郊への滞在希望は継続」


「はい」


「他には」


「リシェルさんが無理してないか気になります」


「その項目は昨日確認済みです」


「今日も気になります」


「記録します。ただし、本日の中間確認とは直接関係しません」


「関係します」


リシェルさんの筆が止まる。


「理由は」


「リシェルさんが倒れたら、俺はたぶん止まれなくなる場面が増えます。だから、俺の安全管理の一部です」


リシェルさんは、少しだけ黙った。


「……記録します」


「お願いします」


言えた。


ちゃんと。


圧にならないように。


心配ではなく、必要な管理の話として。


「最後に」


俺は息を整えた。


「今日、俺がここにいていいかどうかを厳しく言われても、翼と尻尾を動かさないようにします」


リシェルさんが、ゆっくり頷いた。


「重要です」


「はい」


「その申告を、本日の最重要注意事項とします」


最重要。


怖い。


でも、正しい。


俺は今日、たぶん厳しいことを言われる。


その時に、体が反応しないようにする。


それができなければ、俺はまだ街の近くにいられない。


午前の鐘が鳴った頃、アルバート子爵が西門へ来た。


城壁の上ではなく、今回は門の外側。


もちろん、赤い布からは十分離れている。


ラウル隊長がそばに立ち、兵士たちも配置されている。


グレタさんは少し離れた場所で荷車を押さえていた。


ゴルドさんも腕を組んでいる。


市場係の人間も数人。


トマたち子どもは、今日は近づけないことになっていた。


中間確認は遊びではない。


子どもが見物する場ではない。


リシェルさんの判断だ。


アルバート子爵は、俺を見上げた。


最初に会った時と同じように、目を逸らさない。


怖がっていないわけではないと思う。


でも、その怖さを判断の外へ出さない人だ。


若いのに、領主の顔をしている。


「ソラ殿」


「はい」


「今日は、あなたの仮滞在について中間確認を行います」


「はい」


「これは処罰の場ではありません」


少しだけ安心しかけた。


だが、アルバート子爵は続けた。


「同時に、慰めの場でもありません」


胸の奥が冷えた。


「あなたがここにいてよい理由と、ここにいてはならない理由。その両方を並べます」


「……はい」


声が少しだけ震えた。


でも、風は出ていない。


たぶん。


リシェルさんの筆が動く。


発声量、許容範囲。


そう書かれた気がした。


アルバート子爵は、リシェルさんに視線を向けた。


「報告を」


「はい」


リシェルさんは、書類を一枚めくった。


「仮滞在開始以降の主な危険事例。寝返り未遂による杭損傷未遂。起床時の地面損傷。発声および腹鳴による周辺振動。食事時の破片落下。鱗の自己抜去未遂。商人による竜素材接触。爪跡による地面損傷。爪跡内の銀色粒子確認。市場取引への間接影響。名称使用および連想商法の発生」


長い。


思ったより、ずっと長い。


俺は、一つ一つ思い出した。


寝返り。


パン。


鱗。


爪。


算術。


商品名。


その時は、一つずつ対応してきたつもりだった。


でも並べられると、重い。


俺は、たった九日でこれだけ問題を起こしている。


悪意はない。


でも、問題はある。


リシェルさんは続けた。


「主な利益事例。グレタさんの硬焼きパン試作への食味協力。西門硬焼きの商品化候補。子どもへの遠隔算術指導。市場価格表示の誤記発見。爪跡調査による足場補強および爪保護具の検討。ソラ殿自身による危険性理解と停止指示への反応確認。事前申告による突発行動低減の可能性」


今度は、少し息がしやすくなった。


良いこともある。


少しだけだけど。


俺は、ただ迷惑だけを増やしているわけではない。


パン。


算術。


市場。


手順。


記録。


それらもちゃんと並べられている。


アルバート子爵は、静かに聞いていた。


途中で頷くこともなく、遮ることもない。


全部を聞いたうえで、俺へ視線を戻した。


「ソラ殿」


「はい」


「ここまでを聞いて、どう思いますか」


どう思う。


答えにくい質問だった。


言い訳をしようと思えばできる。


わざとではありません。


悪気はありません。


俺も困っています。


でも、それはたぶん足りない。


「思っていたより、問題が多いです」


俺は言った。


「自分では一個ずつ気をつけてるつもりでした。でも、並べられると、俺がここにいるだけで街の仕事が増えてるのが分かります」


アルバート子爵は、表情を変えない。


「他には」


「でも、少しだけ役に立てたこともあると思います」


「はい」


「それは嬉しいです。でも、その嬉しさで調子に乗ったら危ないとも思います」


リシェルさんの筆が動く。


「続けてください」


アルバート子爵が言った。


「俺は、この街の近くにいたいです」


はっきり言った。


言ってしまった。


「森に一人で戻るのは嫌です。でも、街の人を危険にしたいわけじゃない。だから、俺がここにいるせいで街の人が危ないなら、俺が嫌だとか寂しいとかだけで居座るのは違うと思います」


言葉にすると、胸が痛かった。


でも、ここを誤魔化したら駄目だ。


「ただ」


俺は、赤い布の内側で爪を動かさないように意識した。


「もし、手順や距離や記録で危険を減らせるなら、ここにいられるように努力したいです。自分を削るんじゃなくて、ちゃんと止まる努力をしたいです」


風が少しだけ吹いた。


俺の鼻息ではない。


ただの朝風だった。


アルバート子爵は、しばらく黙っていた。


そして、リシェルさんへ聞いた。


「今の発言について、記録上の評価は」


リシェルさんは即答しなかった。


一呼吸置いてから答える。


「自己危険性の理解は進んでいます。滞在希望も継続。ただし、役に立とうとする焦りは残っています。事前申告により一部軽減の可能性あり」


「停止指示への反応は」


「良好です。ただし、感情反応は依然として危険因子です」


「管理可能性は」


「現時点では、限定条件下で可能。ただし、リシェル個人への判断集中は危険です。昨日より、一次対応の分担を開始しています」


アルバート子爵の視線がわずかに鋭くなった。


「判断集中」


「はい。私一人での継続管理は、長期的に不適切です」


リシェルさんが、自分でそう言った。


俺は少し驚いた。


昨日までなら「問題ありません」と言っていた気がする。


でも今日は違う。


ちゃんと認めた。


自分一人では不適切だと。


アルバート子爵は、短く頷いた。


「ようやく言いましたね」


「申し訳ありません」


「責めてはいません。ですが、遅い」


容赦がない。


リシェルさんは頭を下げた。


「はい」


アルバート子爵は、俺を見る。


「ソラ殿。あなたの存在は、リシェル一人の努力で支えられるものではありません」


「はい」


「あなたが善良であるかどうかとは別に、この街の仕組みで支えられなければなりません」


「はい」


「仕組みが作れないなら、あなたをここに置くことはできません」


その言葉は、重かった。


でも、分かる。


俺の隣に一人だけ頑張る人がいて、その人が倒れたら終わり。


そんな状態では、街は俺を受け入れられない。


アルバート子爵は、書類を一枚取り出した。


「本日より、ソラ殿に関する管理体制を暫定的に変更します」


リシェルさんが姿勢を正す。


ラウル隊長も一歩前に出る。


「第一。リシェル補佐官は総合記録と判断整理を担当。ただし、一次対応は分担する」


「はい」


「第二。守備隊は接近制限、夜間監視、突発時の退避誘導を担当」


ラウル隊長が答える。


「承知しました」


「第三。食事および食味協力に関する窓口はグレタさん。ただし、安全手順はリシェル確認後」


グレタさんが腕を組む。


「分かったよ」


「第四。足場、爪跡、補強、道具案はゴルドさんが一次確認」


ゴルドさんが頷く。


「ああ」


「第五。市場における名称使用、竜関連表記、計算指導の影響は市場係が一次記録し、必要に応じてリシェルへ送る」


市場係の人が慌てて頷く。


「承知しました」


「第六。ソラ殿は毎朝、行動予定、不安、希望を短く申告する。ただし、申告内容をそのまま許可とは扱わない」


「はい」


「第七。ソラ殿は、街への貢献を理由に、身体由来物の提供、無許可行動、過剰な自己抑制を行ってはならない」


「はい」


過剰な自己抑制。


昨日の「何もしません」まで含まれている。


俺は少しだけ恥ずかしくなった。


アルバート子爵は続ける。


「そして最後に」


声の温度が、少し下がった。


「これらの体制を整えてもなお、あなたが街に対して重大な危険を生むと判断した場合、私はあなたに退去を命じます」


空気が止まった。


退去。


その言葉は、まっすぐ俺に刺さった。


「場合によっては、王都や神殿、軍への対応要請も行います」


「……はい」


声が、少し低くなった。


城壁の上の旗がわずかに揺れる。


「ソラ殿」


リシェルさんの声。


「翼」


俺は止めた。


気づかないうちに、翼の根元が動きかけていた。


「止めました」


「確認しました」


呼吸。


上へ。


細く。


退去。


討伐ではない。


でも、俺にとってはかなり怖い言葉だった。


森に戻される。


一人に戻る。


街の声から遠ざかる。


でも。


アルバート子爵は、今それを言わなければならない人だ。


領主だから。


民を守る人だから。


俺を慰めるためにここへ来たわけではない。


「分かります」


俺は言った。


「俺が危なくなったら、追い出される。それは、分かります」


「理解しているだけでは足りません」


アルバート子爵は言った。


「理解したうえで、止まれることが必要です」


「はい」


「今日、翼を止めたことは記録します。ですが、翼が動きかけたことも記録します」


「はい」


両方。


良いことだけではない。


悪いことだけでもない。


俺はいつも、その両方で見られている。


「ソラ殿」


アルバート子爵の声が、少しだけ柔らかくなった。


「あなたがこの街にいてよい理由は、少しずつ増えています」


胸が少し温かくなる。


「ですが、いてはならない理由も、同じように増えています」


すぐに冷える。


「パン、算術、救助の可能性、住民との対話。それらは利益です」


「はい」


「しかし、竜素材、名称利用、市場影響、地面損傷、周辺魔力らしき痕跡、管理負担。それらは危険です」


「はい」


「あなたは、その両方を持っています」


俺は、ゆっくり頷きそうになって、止めた。


代わりに、瞬きを一回した。


「肯定反応として扱います」


リシェルさんが言う。


少しだけ、場の空気が緩んだ。


アルバート子爵も、ほんのわずかに目元を緩めた。


「よろしい」


でも、その声はすぐに領主のものへ戻った。


「十日目の報告では、あなたを即時討伐対象とは記載しません」


俺は息を止めかけた。


「呼吸」


リシェルさん。


「はい」


俺は息を吐く。


上へ。


「ただし、安全確認済みの存在とも記載しません」


アルバート子爵は続けた。


「現地管理下での継続観察。限定条件下での仮滞在継続。危険性高。利益事例あり。王都判断を要する可能性あり」


一つ一つが、書類の言葉だった。


でも、その中に俺の未来が入っている。


即時討伐ではない。


安全でもない。


仮滞在継続。


王都判断。


「それが、現時点で私が出せる最も正確な判断です」


アルバート子爵は言った。


「受け入れますか」


俺は、しばらく黙った。


嬉しいと言うには怖い。


怖いと言うには、少し救われている。


受け入れたら、この曖昧な立場が続く。


受け入れなければ、どこへ行くのか。


答えは決まっていた。


「受け入れます」


俺は言った。


「まだ住民じゃなくても、まだ危険でも、ここにいられる可能性が残るなら」


アルバート子爵は頷いた。


「では、その前提で進めます」


リシェルさんの筆が、静かに走った。


中間確認が終わった後、グレタさんが小さく息を吐いた。


「子爵様は相変わらず容赦ないねえ」


アルバート子爵は穏やかに言った。


「容赦で竜は管理できません」


「まあ、そうだけどさ」


グレタさんは俺を見上げた。


「竜さん。落ち込むなよ」


「落ち込んではいます」


「正直だねえ」


「でも、納得もしてます」


「ならいい」


ゴルドさんが腕を組んで言う。


「足場の補強案は今日中に出す。今のままじゃ、長くは保たねえ」


ラウル隊長も続けた。


「夜間監視は交代制にする。リシェル補佐官に報告が集中しないよう、こちらで整理する」


市場係の人が少し緊張しながら言う。


「名称使用と価格表示は、こちらで一次確認します」


俺は、その人たちを見た。


グレタさん。


ゴルドさん。


ラウル隊長。


市場係。


リシェルさん。


アルバート子爵。


俺を受け入れる、と言っているわけではない。


でも、俺を扱う仕組みに関わり始めている。


怖がりながら。


面倒だと思いながら。


それでも。


俺の周りに、少しずつ役割が生まれている。


「ありがとうございます」


俺は言った。


声は、できるだけ小さく。


「俺、まだ迷惑ばかりですけど」


リシェルさんがすぐに言う。


「迷惑だけではありません」


その言葉に、胸が詰まった。


アルバート子爵も言った。


「迷惑ではあります」


「子爵様!」


俺は思わず声を出した。


旗が少し揺れる。


「発声量」


リシェルさん。


「はい」


アルバート子爵は、少しだけ笑った。


「ですが、迷惑だけではありません。それが現時点の評価です」


迷惑。


でも、迷惑だけではない。


たぶん今の俺には、それが一番正しい。


一番きつくて、一番ありがたい評価だった。


夕方。


アルバート子爵は領主館へ戻っていった。


中間確認の結果は、正式な書面にまとめられるらしい。


十日目の王都報告に向けて、最後の整理が始まる。


俺は赤い布の内側で、静かに伏せていた。


今日は疲れた。


動いていない。


戦ってもいない。


でも、かなり疲れた。


自分がここにいていい理由と、いてはいけない理由を並べられるのは、爪で地面を削るよりずっと痛い。


でも、必要だった。


必要。


この街に来てから何度も聞いた言葉。


今日は、その意味が少し深く分かった気がする。


「ソラ殿」


リシェルさんが近くに来た。


「はい」


「体調変化は」


「疲れました」


「魔力反応、翼、尻尾は」


「今は大丈夫です」


「精神状態は」


「怖いです。でも、少し安心もしています」


「理由は」


「即時討伐じゃないって言われたから。あと、迷惑だけじゃないって言ってもらえたから」


リシェルさんは記録する。


「恐怖と安堵が混在。ただし外部反応は安定」


「はい」


「本日の中間確認を受けて、何か希望はありますか」


俺は少し考えた。


「希望」


「はい」


「ここにいたいです」


「記録済みです」


「それでも、もう一回」


リシェルさんの筆が止まる。


「ここにいたいです。でも、街の人を傷つけてまで居たいわけじゃない。だから、止まれるようになります。手順も守ります。事前申告もします」


「はい」


「あと、リシェルさん一人に頼りすぎないようにします」


リシェルさんは、ほんの少しだけ目を伏せた。


「その項目は、私側の課題でもあります」


「じゃあ、お互いの課題ですね」


「そうなります」


お互い。


その言葉が、少しだけ嬉しかった。


俺だけの問題でもない。


リシェルさんだけの問題でもない。


街全体の問題。


だから、街全体で仕組みを作る。


それは、少しだけ居場所に近い気がした。


夜。


俺は赤い布の内側で丸まっていた。


今日も、何も壊していない。


いや、心は少し削れた。


でも、それは必要な削れ方だった。


自分の甘さが少し削れた。


ここにいたいだけでは足りない。


善意だけでも足りない。


役に立った実績だけでも足りない。


危険を理解し続けること。


止まること。


一人の誰かに支えを押しつけないこと。


その全部が必要だ。


「ソラ殿」


城壁の上から、リシェルさんの声がした。


「はい」


「就寝前確認です。姿勢は」


「伏せでお願いします」


「尻尾」


「赤布内です」


「翼」


「畳みます」


「火炎」


「吐きません」


「鱗」


「抜きません。渡しません」


「爪」


「指定位置を守ります」


「算術」


「基本計算のみ。市場の意図判断はしません」


「名称使用」


「俺の名前や竜っぽい宣伝を見つけたら報告します」


「事前申告」


「明日の朝も、不安と希望を短く申告します」


「中間確認」


「俺は、迷惑だけど、迷惑だけじゃない存在として仮滞在を続けます」


リシェルさんは、少しだけ黙った。


「……よろしい」


その声は、少しだけ柔らかかった。


「リシェルさん」


「はい」


「今日の記録、お願いします」


「すでに行っています」


「ですよね」


「ですが、改めて記録します」


リシェルさんは城壁の上で、静かに言った。


「ソラ殿、現時点での危険性と利益を理解。仮滞在継続のため、管理体制への協力意思あり」


「はい」


「また、退去可能性を告げられた際、翼反応未遂あり。ただし停止指示により制御」


「はい」


「恐怖あり。安堵あり。滞在希望あり」


「はい」


「以上です」


俺は目を閉じた。


怖いままだ。


でも、怖いまま眠れそうだった。


森で一人だった夜とは違う。


城壁の上には灯りがある。


記録してくれる人がいる。


厳しく判断する領主がいる。


パンを焼く人がいる。


足場を考える人がいる。


見張ってくれる人がいる。


俺はまだ住民ではない。


でも、ただの討伐対象だけでもない。


その間の細い場所で、今日もなんとか夜を迎えた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


今回は、アルバート子爵による中間確認の回でした。


ソラは少しずつ街に役立っていますが、それと同じくらい危険や負担も増えています。


「迷惑だけど、迷惑だけじゃない」


今のソラの立場は、まさにそのあたりです。


次回は、街区評議会の議題としてソラが扱われます。


住民たちの意見が出てくるので、街がソラをどう見ているのかがさらに見えてくる回になります。


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