表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカマバー「アコーリス」へようこそ  作者: 蘭鍾馗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

7.あずきのマネシュトラ

 RRRRRRRRR……RRRRRRRRR……RRRRRRRRR……RRRRRRRRR……


「はい。」

「マスター、私です、ダンタリオン。」

「ラドミラちゃんね。」

「う……そうよラドミラよ。遅い時間にごめんなさい。」

「アンテと話したいんでしょ、代わるわ姫様。」



 ……………………



「………ラドミラ?」


「ラドミラです。アンテね?」

「そうだよ。」

「遅い時間にごめん。どうしても話したいことがあるの。………貴方、もう一度悪魔討伐前のクロアチアに戻るつもりでしょ?」

「………その通りだよ。マスターといい君といい、人の心が読めるみたいだ。」

「貴方の場合、全部顔に書いてあるのよ。」

「それマスターにも言われたな。」


 ダンタリオン、本題に入る。


「一度戻るのは良いの。迷子になった男の子を助けるためでしょ?」

「そうだ。」

「でも峠までは行かないで。峠の手前に、谷に降りる細い道が分かれる所があるわ。」

「知ってるよ。」

「貴方は男の子を連れてそっちへ行って。峠には槍を持った兵士が待ち構えていて、貴方を殺そうとするわ。言ったでしょ?」

「覚えてるよ。」

「900年前の私は『峠まで見送る』って言って貴方に従いてくるけど、どのみち峠を越えて里へはいけない。里の人にとっては悪魔だからね。だったら、峠の手前の谷へ降りる道で私と別れて。貴方は里の手前まで男の子を送って、そのあと井戸まで引き返して、そこから900年後のシンジュクに戻ってくればいい。900年前の私は、村へ引き返して、皆と一緒に逃げるわ。」


「……………………。」


 電話の向こうで、アンテが沈黙している。どうするか考えているんじゃなくて、私に言う言葉を選んでるみたいな、そんな気配がする。


「ラドミラ。」

「はい。」

「君は、あの井戸小屋からの転移の仕方を、まだ村長から教わっていなかったよね。」

「そうよ。」

「実は、井戸からの転移は、ひとり2度までしか使えないんだよ。」



 え?



「井戸小屋からの転移という、便利な手段がありながら、村長がそれを今まで皆に教えなかったのは、そのせいなんだ。」

「…………。」

「僕が井戸小屋から転移したのは、村からの脱出の下見をするためだ。」


「井戸小屋から転移できる先はひとつしかない。その転移先が安全だったら、村長に話して皆を井戸小屋から転移させて逃がす。僕はもう一度クロアチアへ帰って、転移先は安全だと村長に報告する。そしてあの男の子を里へ帰す。僕の転移はそれで終わりだ。」

「なんてこと……。」

「僕はクロアチア軍人だから、そのまま里に下りても大丈夫のはずだった。だが、君の話では、僕が君たちの村と通じているのがばれていて、槍を持った兵が待ち伏せしているんだろう?」

「……そうよ。」

「たとえ峠を抜けられたとしても、クロアチア軍は僕を探して殺そうとするだろう。ましてや戦うはずだった君の村はもぬけの殻になっているから、彼らは面子にかけて僕を探し出して殺す。僕は多分、逃げ切れない。」

「…………。」

「でも、男の子の方は、里まで戻れば大丈夫だ。峠で殺せば悪魔のせいにして口封じできるが、さすがに里の中で男の子を殺すことはできないだろう。そんなことをすれば、里の民は鍬や鋤を持って軍に抵抗する。騒ぎが大きくなれば王もただでは済まない。」


 …………


「泣いているのかい?」

「……ううん、大丈夫。」

「でも、君は希望のありかも教えてくれた。君は神の導きで、僕の魂を連れて行ってくれる。それが、今の僕に残された唯一の希望だ。これで僕は、君と共に旅が出来る。」


 …………


「だから、心配しないで。」


 …………


「じゃあ、明日、僕は帰るよ。」



 ……………………



 翌日、アンテは900年前のクロアチアへと帰っていった。


 私はその日、会社を休んだ。

 その日の夕食に、カイラはゆであずき入りの甘いマネシュトラを作ってくれた。



 ◇ 



「姫様。」


 カイラが、甘いマネシュトラを食べながら、突然思い出したように私に話しかける。


「どうしたの?」

「あのね……嫌だったらやらなくていいんだけど。」

「何?」

「あの日のこと………アンテが殺された日のこと、思い出せる?」

「……思い出せるわ。アンテは甲冑を着た騎兵に槍で刺されて殺されたの。」

「そして、その後私は、馬で逃げる騎兵を空から襲って、馬から引きずり落として、槍で刺して殺したの。」


「ごめんね思い出させて……それでね、次は迷子になった男の子のことを思い出してみて欲しいの。」

「男の子?」

「そう、どうなった?」


 私はしばらく思い出そうとしていた。

 そして、気づいたの。


「思い出せない。男の子が槍で刺されるところだけ、思い出せない。そうだ。峠の手前で……峠の手前で、アンテが谷へ降りる細い道へ行かせたの。そうよ!」


 カイラは、静かに微笑んで、私にこう言ったの。

「運命が、変わったのよ。」



 運命が変わったせいかどうかは分からない。

 私が自分で記憶を作り替えただけかも知れない。

 でも、この日、たった今、私は救われたんだ。



 私は、カイラの作った、ゆであずきの入った甘いマネシュトラを、ゆっくりと一口食べた。

 涙があふれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ