6.アンテの帰還をめぐって
はーい、「アコーリス」のマスターよ。性別男。
さて、今度はアンテの方の話。
「楽にしてね」(日本語)
→【楽にしてね】(クロアチア語)
「はい、すみません」(クロアチア語)
→【はい、すみません。】(日本語)
今、こんな感じでスマホの自動翻訳アプリを挟んでアンテと会話してるんだけど、めんどくさいからもう普通の会話みたいに書くわね。
◇
「貴方、ダンタリオンちゃんの恋人なの?」
「いえ、そういうわけでは……」
「昨夜の様子見てたら、恋人同士にしかみえなかったけど。」
「いえ、まだ何もないので。ところで、貴方はラドミラのことを『ダンタリオン』と呼んでいるようですが……」
「彼女がスペインにいた頃、そう名乗ってたみたい。」
「スペイン?」
「貴方のいた時代だと、アル・アンダルスって呼ばれてたかしら。」
「わかります。……ピレネーの向こう側ですよね。あんな所に。」
「イスラム教徒の国の王に拾われて、軍の参謀兼近衛隊長を務めてたらしいわ。」
「ラドミラが?」
「ま、私は見てきたわけじゃないけど、彼女はそう言ってた。剣の達人だったらしいわ。ああ見えて嘘つく子じゃないから、多分本当でしょ。」
「でも、ダンタリオンって、悪魔の名前ですよ。」
「どうしてその名を名乗ったのかまでは、私も聞いてないのよ。」
「そうですか。まあ、彼女の事ですから、何か深い考えがあったんでしょう。」
これは後で聞いた話だけど、王に名前を聞かれて、その場で適当に悪魔の名前を名乗っただけみたい。
◇
「ところで貴方、もう一度クロアチアに戻るつもりね。」
私がそう言うと、アンテは驚いた顔をしていた。
「……何故、そう思うんですか?」
「ひとつはその顔。そういう顔をしてるわ。」
「……顔で分かるんですか?」
「貴方はわりとわかりやすい方ね。それともう一つ。」
「もう一つ?」
「貴方が皮袋に入れて肌身離さず持ってる水、それ、もう一度転移する時に必要なんでしょ?」
「……何でもお見通しなんですね。貴方は恐ろしい人だ。」
私は別に「恐ろしい人」なんかじゃないわ。
カイラが店のトイレから出てきた時も水の入った桶を持ってたしね。アンテも何やら液体の入った皮袋を大事そうに抱えて出てきた。偶然転移してきたらしいカイラは、それっきり桶のことは忘れてるみたいだけど、アンテはずっと手元に持ったまま手放そうとしない。そこから、多分そうじゃないかと思ってカマかけてみたの。当たりね。
「何か理由があるんでしょ?もう一度戻らなきゃいけない理由が。」
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「そうだ電話よ!」
「姫様どうしたの突然。」
「マスターに電話して、アンテに代わってもらえばいいんだわ。」
「そっか、アンテを説得するのね。……って今から?」
「今からよ。明日マスターが起きて来るのは3時ころだし、夕方にはもう店に行くから、アンテはきっとマスターに付いて行ってトイレに入って転移してしまう。めんどくさい話が出来るのは今しかないわ。」
「そっか。」
「あと姫様呼びに戻ってるわよカイラ。」
「ごめん姫様。」
ダンタリオン、本名ラドミラ、通称姫様、「アコーリス」のマスターに電話をかけ始める。




