4.取り敢えずの同居生活
「布団敷いたから、取り敢えずこの部屋で寝て。寝巻はこれね。」
「わかった。」
「おやすみ。」
帰宅後、私ん家で恋バナでもして盛り上がると思った?
しないわよ。明日仕事だしね。
◇
翌朝、カイラに合鍵と食費渡して、念のため買い物の仕方とか説明して、私は仕事に出掛けた。
「買い物の仕方とか、生活に必要な事はまた週末に実地で説明するわね。取り敢えず冷蔵庫と戸棚の中に3日分くらいは食べるものあるから。何か困ったら私の仕事携帯に電話頂戴。」
「わかったわ姫様。」
「じゃ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
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姫様、こっちの世界で普通に生活してるんだ。
いや「こっちの世界」じゃないわよね。私がいたのとおんなじ世界。ただ900年経ってて、クロアチアから距離がだいぶ離れた所にいるというだけ。姫様は、900年かけてここまで歩いて来たんだ。
でも、900年の間に、世の中はだいぶ変わっている。単に違う国だから、というだけでは説明出来ないほど、色んなものが変わってしまっている。ほぼ「異世界」と言っていいくらいに。
まず、電気。何これ?
家の中にある「コンセント」に繋ぐだけで使える、いろんな道具。「スイッチ」を押すだけで明かりが点く、風が起こせる、氷が作れて肉が保存できる、料理がつくれる。掃除までできる!
テレビにもびっくり。遠くの景色や音が四角い画面から流れて来る。なんだか占いまでしてくれる。
パソコンって、テレビとはまた違うの?インターネットって何?
水道とガスも驚いた。水汲みとか薪割りとかしなくていいのね。
◇
お腹が空いたら、冷蔵庫から作り置きの料理を取り出して、「チン」して食べる。
すごく便利。私、怠け者になりそう。
昼食後、アンテ様のこととか村のこととか、ちょっと考えてみた。
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「ただいま、カイラ。」
「お帰り、姫様。」
野菜と肉があるから、今日の夕食は私が作ってみる。ジャガイモとソーセージとトマトがあるから、「マネシュトラ」が作れるわね。あ、豆の缶詰もある。
◇
「マネシュトラかー、久しぶりだわ。おいしそう。」
「召し上がれ。」
私も食べてみる。うん、まあまあだけど、なんか思ったより甘いわね。
あれ?豆が甘い。なにこれ?
「小豆入れたの?」
「豆の缶詰があったから。」
「ゆであずき?あれ砂糖で煮たスイーツよ。」
「ええ?」
「でも意外においしいわね。悪くないわ。」
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さて食後。昼間、私が考えていたことを、姫様に話してみる。
「姫様。」
「その姫様もうやめよ。私、別に偉いわけじゃないし。」
「村長の娘だから、なんとなくみんな姫様って呼んでたけど、まあ確かにみんなタメ口きいてたしね。」
「これからは子供の頃みたいにラドミラ、って名前で呼んで。」
「わかったわラドミラ。でも昨日のお店じゃ『ダンタリオン』って呼ばれてたけど、あれ何?」
「あれね。話せば長くなるんだけど……」
私は、あれから、悪魔討伐を逃れて、翼を隠して西へ逃げたこと。たどり着いたスペインのグラナダ王国で、市場で暴れてるところを王様に拾われて、アルハンブラ宮殿に招かれて、以来そこで暮らしたことを説明した。
「宮殿で王様に名前を聞かれたの。その時、王様が私のことをやたらと『良い悪魔』って呼ぶもんだから、私、なんかそれがちょっとイラっとして、咄嗟に記憶の中にあった大悪魔の名前を名乗っちゃったのよ。」
「それが『ダンタリオン』?」
「地獄の大侯爵の名前らしいけど。」
「こわっ。」
「でも今思えば、それは私の記憶じゃなくて、アンテの知識の中にあったものだったわ。」
◇
「それでね姫様。」
「ラドミラ。」
「……ごめん。」
「この際ダンタリオンでもいいわ。それで?」
「転移のこと、ちょっと考えてみたんだけど。」




