2.カイラ、あんた『いつ』から来たの?
「……どうしてここにいるの?」
◇
「ごめん、私もわかんないんだけど。姫様こそここで何してるの?ていうか、ここ何?酒場?」
「うんまあ大体あってるわ。……えーっとね、とりあえずざっくり説明するからそこ座って。で、カイラあんたお酒いける?」
「大丈夫いけるわよ。羽は仕舞わなくていいの?」
「ここは大丈夫だけど、外出るときには仕舞ってね。じゃあマスター、とりあえずカイラにワインを。」
それから、ダンタリオンはカイラに説明した。
900年程前のある日、クロアチアの王が悪魔討伐の名目で、軍をさし向けて村を襲いにきた時、軍の若い騎士のアンテが、事前に彼女の家にこっそり襲撃を知らせに来ていたこと。そのおかげで皆逃げることができ、自分も逃げてスペインまでたどり着き、そこで都合300年ほど暮らしていたこと。
そして、最後にたどり着いたのがここ、900年後の「日本」という国の、新宿という町だということ。
「待って。私の知らない話ばっかりよ。」
「え?」
「悪魔討伐って何?」
「……カイラ、あんた『何時』から来たの?」
◇
どうやらカイラは、クロアチアの王が悪魔討伐の名目で村を襲う前に、ここに迷い込んできたらしい。
「カイラ、あんた『何処』から来たの?」
「村のはずれの井戸に水汲みに行ってたの。」
「ああ、あの石造りの小屋の中にある古い井戸ね。」
「そう。でも、水を汲んで小屋から出たら、ここだったの。」
「……ところで、水汲んだ桶はどうしたの?」
「そこに置いてる。」
見ると、トイレの前に水の入った桶が置いてある。
「ああ、あとで片付けとくから気にしないで。」
マスターが言う。
「……ごめん話逸らしちゃったね。」
「あーいいのいいの今のでなんか落ち着いたかも知れないし。」
「じゃあ、あのあとみんな村を捨てて逃げたのは知らないのね。」
「……知らない。なんでそんなことになったの?」
「新しい王になってから、クロアチアの国教がキリスト教になったでしょ。前から『お前たちは悪魔じゃないのか』みたいなことを言う里の人はいたけど、それが国を挙げての悪魔討伐にまで発展しちゃったのよ。」
「なんてことを。」
「里で小さな男の子が行方不明になってね。それが私達『悪魔』のしわざってことにされちゃって、それを口実に王が村に軍隊をさしむけたの。」
「…………。」
カイラ、段々と口数が少なくなって、とうとう黙り込んじゃった。
「ごめん、嫌な話聞かせちゃったね。」
「……いいの、ありがとう姫様。」
カイラは、大きく溜息をついてから、こう言ったの。
「続きを聞かなきゃ。」
◇
私は、全てを話した。
行方不明になった里の男の子は、道に迷って私達の里にたどり着いて保護されていたこと。
そこへアンテが農夫に化けてやってきて、悪魔討伐の軍隊が来ると伝えてくれたこと。
皆は、すぐに村を捨てて逃げたこと。
アンテに男の子を里まで送ってもらうことにして、私も峠まで従いていったこと。
そして、峠には馬に乗って槍を持った兵士が一人待っていて、アンテと男の子は殺されたこと。
そして、その兵士を私が殺したこと。
◇
カイラ、泣いてしまった。
「アンテが知らせてくれたおかげで、村の人たちは逃げたから死なずに済んだ。でも、アンテと男の子が犠牲になってしまったの。」
「…………。」
「アンテは農夫に化けていて武器を持たなかったから、兵士に槍で突かれて殺された。男の子も、里に帰って本当のことを話されたらまずいから、殺された。私は怒りで何も分からなくなって、気が付いたら兵士から奪った槍で、兵士を甲冑ごと刺し殺していたの。」
「……私ら、力だけは本物の悪魔みたいだしね。」
「その後、アンテと男の子の元へ戻った。男の子はこと切れていたけど、アンテは心臓がまだ動いていた。でももう意識はなかったの。私は別れのあいさつのつもりで、アンテに口づけをした。」
「ま。」
「そしたら、頭の中に神様の声がした。『そのままにしておれ。アンテの体は助からぬが、今からアンテの魂をお前に預ける』って。」
「ええ……?」
「だから、アンテは今も、私の中にいるの。アンテの持ってた色んな知識や武芸の技術なんかは、今でも私の中で生きてるの。」
「そんなことがあるんだ……。」
「逢えなくなっちゃったけどね。」
◇
「いや、そんなことはないぞ。」
って、突然話しかけてきたのは、誰?
「カウンターへどうぞ。とりあえずワインでいいかしら?羽のない貴方。」




