第9話:聖夜の流動性危機(リクイディティ・クライシス)! 三大銘柄による「独占権」争奪戦
1. 師走の暴騰相場と「クリスマス・ラリー」
文化祭という名の巨大な市場変動を乗り越え、私立八重洲学園に冬の足音が聞こえてきた。
12月。カレンダーが最後の一枚になると同時に、学園内の電光掲示板は赤と緑のクリスマスカラーに染まり、電算室のサーバーは「聖夜の期待値」による過負荷で悲鳴を上げ始めていた。
「いいか高坂、これが世に言う『クリスマス・ラリー』だ。投資家(生徒)たちは皆、クリスマスイブという特大の配当日に向けて、全財産を好みの銘柄に突っ込んでいる」
親友の佐藤が、マフラーを巻きながら吐き出す息は白い。だが、その瞳には相場師としての熱い光が宿っていた。
「見てみろ。現在の『神宮寺カレン株』の気配値。イブの予定が『未定』と出ただけで、秒単位で1万超えの買いが入っている。アリスもひまりも同様だ。……そして、その全ての買い注文の先には、お前という名の『聖夜のプラチナチケット』があるんだよ」
俺、高坂優人は、自席で深い溜め息をついた。
「佐藤、俺の人生には『損切り』という選択肢はないのか? このままだと、俺の体力がイブまでに破産するぞ」
『ピコンッ』
【市場概況:12月相場に突入。全校生徒の視線が「高坂優人の24日の予定」に集中】
【注記:高坂優人が「一人の時間が欲しい」と呟いた瞬間、学園内の七面鳥の先物価格が大暴落しました】
「俺の孤独と七面鳥の需要を連動させるな!」
2. 三つの「クリスマス提案」
放課後。俺の机には、三つの「極秘提案書」が叩きつけられた。
「優人くん。イブの夜、神宮寺財閥が北極圏のオーロラを独占予約したわ。プライベートジェットであなたを迎えに行くから、荷物をまとめておきなさい。これは『株主優待』ではないわ。神宮寺家による、あなたという資産への『直接投資』よ」
カレンが、ダイヤが埋め込まれた招待状を突き出す。
「高坂くん、騙されないで。海外への資産流出は生徒会として認められないわ。イブの夜は、生徒会室を特製シェルターに改造して、二人きりで『学園予算の最終監査』を行うわ。これが最も合理的で安全な資産運用よ」
アリスが、真っ赤な顔で「入室許可証(デート券)」を差し出す。
「優人くん! どっちもダメだよ! イブは、わたしの家で『お母さん特製・巨大ケーキ入刀式』をやるんだから! 幼馴染の権利を優先株として行使しまーす!」
ひまりが、生クリームのついたヘラを掲げて参戦する。
『ピピピピピピピピピピッ!!』
俺のスマホが、警告音のメロディを「ジングルベル」に変えて激しく振動する。
【緊急警報:聖夜の独占権を巡り、三大銘柄が「敵対的買収(三つ巴の告白)」の準備を開始】
【予測:イブ当日、高坂優人が一人を選んだ瞬間に、選ばれなかった二つの銘柄が「暗黒月曜日」級の暴落を起こし、学園が凍結します】
「……選べない。どれを選んでも、学園が物理的に死ぬ……!」
3. 聖夜の流動性危機
12月24日、当日。
学園は「臨時休校」という名の、事実上の市場閉鎖に追い込まれていた。理由は、三人のヒロインが放つ「殺気にも似たデレ」が校舎の窓ガラスを次々と粉砕したからだ。
俺は自宅で、戦々恐々としながら時計を見ていた。
18時。運命の時間が迫る。
すると、俺の部屋の窓の外が、突如として真昼のように明るくなった。
「な、なんだ!? ヘリの音か!?」
見上げると、神宮寺財閥のヘリ隊が空を埋め尽くし、強力なサーチライトで俺のボロアパートを照らしていた。
「優人くん! 迎えに来たわ! 今すぐその窓から飛び降りて! 私の愛が、あなたをキャッチするから!」
拡声器で叫ぶカレン。もはや愛の告白というよりは、武装蜂起に近い。
「待ちなさい! 空域の占有許可は出していないわ!」
アパートの屋上に、生徒会の特殊部隊と共にアリスが降下してきた。
「高坂くん! 私の腕の中に飛び込みなさい! これが生徒会による『緊急介入(公的ハグ)』よ!」
「二人ともズルいよ! 下にはわたしが特大のクッションを用意してるんだから!」
地上ではひまりが、トラック一台分のマシュマロを敷き詰めて待機していた。
『ドッゴォォォォォォォォォン!!!』
三人の想いが俺の部屋一点に集中した結果、物理的な空間が歪み、アパートの周囲に「恋愛重力場」が発生した。
【市場パニック:聖夜の流動性が完全に消失。高坂優人の一秒一秒が、金塊よりも高いレートで取引されています】
「……もう、こうなったらヤケだ!!」
4. 逆転の「共同持分」
俺は窓を開け放ち、身を乗り出した。
「全員、聞けぇぇぇぇっ!! 誰か一人のところになんて、行けるわけないだろ!」
三人の動きが、ピタリと止まる。
「神宮寺カレン! お前が用意したオーロラは、確かに世界一綺麗だろうな! でも、俺はお前と一緒に、このボロアパートの窓から見る、安っぽい電飾の光だって見たいんだ!」
「っ……! 優人くん……私のプライベートジェットより、この部屋がいいっていうの……?」
「四宮アリス! お前の言う『監査』は、確かに将来のためには必要かもしれない! でも、今日くらいは計算機を捨てて、俺の隣で、ただの不器用な女の子として笑ってろ!」
「あ、あわわわ……。計算できない……。私の恋の数式が、全部書き換えられていく……っ!」
「橘ひまり! お前のケーキは世界一甘いだろうな! でも、俺がお前に求めてるのはケーキの味じゃない! お前と一緒に『おいしいね』って言い合える時間なんだよ!」
「優人くん……大好き! ケーキなんて、おまけでいいもん!」
俺は三人を交互に見据え、最後の一撃(買い注文)を放った。
「今年のクリスマスは、俺の部屋を『中立地帯』にする! 三人全員、ここに来い! 俺がまとめて、最高に贅沢な『特別配当』をくれてやる!!」
その瞬間。
『パラリラパラリラパラリラパーン!!!!!』
【市場状況:奇跡のV字回復。三銘柄の「独占欲」が「共同所有」へと昇華。学園経済始まって以来の、全銘柄同時ストップ高を記録!!】
ヘリ隊は祝砲の花火を打ち上げ、生徒会部隊は「聖夜のハグ」を解禁し、ひまりのマシュマロは近所の子供たちに無償配布(慈善活動)された。
5. 聖夜の終わりに:非上場のプライベート・ナイト
数時間後。
俺の狭い部屋は、カレンが持ち込んだ高級シャンパンと、アリスが用意した最高級の七面鳥、そしてひまりの手作りケーキで溢れかえっていた。
「……狭いわね。でも、不思議と落ち着くわ」
カレンが俺の左腕に寄り添い、グラスを傾ける。
「……ええ。空間効率は最悪だけど、心の占有率は100%だわ」
アリスが俺の右腕にしがみつき、少しだけ酔ったような顔で微笑む。
「優人くん、はい、あーん! 今日は特別だよ!」
ひまりが俺の膝の上に座り、ケーキを差し出してくる。
外は、いつの間にか雪が降り始めていた。
「ホワイト・クリスマス……か」
俺が呟くと、三人が同時に俺の顔を見つめた。
「「「優人くん、メリークリスマス」」」
その声は、相場よりも温かく、どんな金利よりも高く、俺の心に響いた。
『ピロリンッ♪』
【聖夜・大引け:本日の総幸福量、地球の自転を0.1秒加速させるほどのエネルギーを記録】
【理由:筆頭株主・高坂優人が、三人のヒロインに対して「永遠の保有」を誓ったため(※暗黙の了解)】
「……なあ佐藤。俺、来年の正月はどうなると思う?」
(屋根のないアパートの外で、凍えながらも「聖夜のカップル」を監視して100億円の利益を出した佐藤が、親指を立てた)
「おめでとう高坂。お前の正月は、三つの実家から同時に『挨拶に来い』という、死の招待状(M&A)が届くことが確定したぞ」
俺の高校生活という名のポートフォリオは、聖夜の雪を溶かすほどの熱量を孕んだまま、輝かしい新年という名の「次期決算」へと向かっていくのだった。




