第10話:新春の「三社参り」と、命がけのお年玉(特別配当)!
1. 2026年、元旦。暴騰の初日の出
「……高坂。お前に、新年の『マーケット展望』を伝えておく」
一月一日、午前六時。
まだ薄暗い極寒の自室で、俺、高坂優人は、スマホのスピーカー越しに親友・佐藤の、妙に冷徹で、かつ慈悲深い声を聞いていた。
「……何だよ、佐藤。まだ夜明け前だぞ。せめて初日の出を見てからにしてくれ」
「呑気なことを言うな。お前のスマホを見ろ。すでに『特別気配』が表示されているはずだ」
俺が重い瞼を擦りながらスマホの画面を点灯させると、そこには不吉な、しかし眩いばかりの通知が並んでいた。
『ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!』
【新春相場:寄り付き前気配。主要三銘柄、本日限定の「お年玉・超高還元キャンペーン」を予告】
【理由:新年の初詣を「婚約報告」と勘違いしたヒロインたちによる、爆発的な買い注文の予感】
「……佐藤。俺、このまま布団を被って2027年まで冬眠してもいいか?」
「許可できない。お前という『本尊』がいない初詣は、暴動に発展する。いいか高坂、今日の三社参りは、お前にとっての『決算発表』だ。……生き延びろよ」
電話が切れると同時に、俺のLINEに三つの、ほぼ同時に送信された「招待状(召集令状)」が届いた。
『優人くん。神宮寺家の専用リムジンが、あなたの家の前で待機しているわ。新年の挨拶は、最も価値のある私と最初に行うのが「市場の鉄則」よ』(神宮寺カレン)
『高坂くん。新年の規律を正すため、生徒会指定の神社で合同参拝を行うわ。私の「お年玉(愛)」を、直接あなたにキャッシュバックしてあげる』(四宮アリス)
『優人くーん! お餅焼けたよ! 早くお隣のわたしの家に来て! 2026年の最初の「あーん」は、幼馴染の特権だよ!』(橘ひまり)
「……始まった。2026年という名の、命がけのマネーゲームが」
2. 第一の訪問:神宮寺財閥の「黄金の迎春」
午前八時。
俺は、神宮寺カレンが手配した、金箔が貼られた(!)リムジンに乗せられ、彼女の屋敷へと運ばれた。
広大な日本庭園の奥、豪華な着物に身を包んだカレンが、凛とした立ち姿で待っていた。
「……遅いわね、優人くん。新年の相場は、一秒の遅れが命取りになるのよ」
そう言いながら振り返ったカレンの姿に、俺は息を呑んだ。
金糸をふんだんに使った、まさに「青天井」の名に相応しい、極上の振袖。彼女のプラチナブロンドの髪には、本物の宝石が散りばめられた簪が光っている。
「……神宮寺。それ、一着でいくらするんだ?」
「……神宮寺家の総資産からすれば、誤差のようなものよ。それより……どうかしら。今年の私の『利回り(見た目)』は」
カレンが、頬を林檎のように真っ赤にして、少しだけ裾を翻して見せる。
その瞳には、「可愛い」と言わなければ財閥の力で俺を買い占める、という強い意志が宿っていた。
「……最高だよ。世界で一番、価値のある着物姿だ」
「っ……! そ、そう。当然の評価ね。……はい、これ。私からの『お年玉(配当金)』よ」
カレンが差し出してきたのは、ぽち袋ではない。
神宮寺財閥のロゴが入った、漆塗りの「プレミアム・ブラック・カード」だった。
「……これ、何だよ」
「私の個人口座に直結したカードよ。今日一日、あなたが欲しいものは、この世界の端から端まで、私の財力で買い取ってあげる。……だから、今日一日は、私のことだけを見ていなさい」
『ギュイイイイイイイインッ!』
【カレン株:新春ストップ高。初値から400%の上昇を記録】
【理由:愛する男に『世界そのものを買い与える』という、異次元の資本投下に興奮しているため】
「重すぎる! 気持ちも金額も重すぎるぞ、カレン!」
3. 第二の訪問:四宮神社の「厳格なる規律」
カレンの「黄金の呪縛」をなんとか躱し、俺が次に向かったのは、四宮家が代々管理しているという格式高い神社だった。
そこには、紺色の清楚な振袖に、キリリとした袴を合わせた四宮アリスが、おみくじの棚を整理しながら待っていた。
「……高坂くん。神宮寺さんとの『不適切なインサイダー取引』を終えて、ようやく来たのね」
アリスは眼鏡をクイッと押し上げ、冷徹な(ふりをした)視線を俺に向けた。
だが、その振袖の袖から覗く指先は、寒さのせいか、それとも俺と会えた喜びのせいか、小刻みに震えている。
「四宮、その格好……似合ってるな。巫女さんみたいだ」
「っ……! べ、別に、これは実家の伝統に従っただけの『標準仕様』よ。勘違いしないで。……でも、あなたがそう言うなら、今年の私の『管理コスト(魅力)』は、予定よりも上方修正してもいいわ」
アリスは俺を本殿の裏へと連れて行くと、こっそりと一つの袋を差し出してきた。
「はい。これ、私からのお年玉よ。……中を見なさい」
開けてみると、そこには「高坂優人・専用・2026年生活管理手帳」と書かれた分厚い本が入っていた。
「……これ、お年玉か?」
「ええ。あなたが今年一年、どの時間に誰と会い、何を食べるべきか、私が秒単位で計算して記しておいたわ。……これで、あなたの人生は私の『完全管理下』に置かれる。……嬉しいでしょ?」
アリスの顔は、雪の上に落ちた椿のように真っ赤だ。
「……嬉しいというか、もはや監視社会……」
『ピロリンッ♪』
【アリス株:年初来高値。安定した買い注文が殺到】
【理由:優人の一年間を全て『予約済』にしたことによる、独占的な全能感に酔いしれているため】
「高坂くん。……今年の初詣のお願い、何にしたか教えてあげましょうか? ……『彼と私の資産(愛)が、恒久的に合併(結婚)しますように』よ。……異議は認めないわ」
「四宮、それはもはや神様への強制介入だろ!」
4. 第三の訪問:橘家の「無償の温もり」
「優人くーん! 待ってたよー!」
二人の美少女による「経済戦争」でボロボロになった俺を救ったのは、我が家の隣から響く、聞き慣れた元気な声だった。
橘ひまりは、明るい花柄の着物に、ふわふわの白いファーを首に巻き、餅つき機の横で大きく手を振っていた。
「ひまり、お前も着物か。今日はみんな気合入ってるな」
「えへへ、だってお正月だよ? 優人くんと一緒に、2026年を『買い占め』に行く準備はバッチリだよ!」
ひまりは俺の腕にギュッとしがみつくと、つきたての熱々のお餅を差し出してきた。
「はい、あーん! 今年の最初のエネルギー補給だよ! わたしの愛がたっぷり詰まった、自家製・増資モチだよ!」
「増資モチって何だよ。普通に美味いけど」
「ふふ、おいしい? 優人くん。……はい、これ。わたしからのお年玉!」
ひまりがくれたのは、手作りの刺繍が入ったお守りだった。
「……これ、中身は?」
「わたしの『笑顔・無制限使用券』だよ! 優人くんが辛い時、悲しい時、いつでもわたしが笑ってあげる。……これがあれば、優人くんの人生はいつだって『強気相場』でしょ?」
『ピコンッ!』
【ひまり株:ストップ高張り付き。安定感抜群の利回りを記録】
【理由:見返りを求めない『無償の愛(ボランティア精神)』が、かえって優人の心を独占しようとしているため】
「ひまり……お前が一番、癒されるよ……」
俺がひまりの頭を撫でようとした、その瞬間。
「――ちょっと待ちなさい、その『非公式な贈与』!」
「――幼馴染の立場を利用した、不当な利益供与ね!」
背後から、二つの冷たい殺気が迫ってきた。
振り向くと、そこにはリムジンから降りたカレンと、神社から駆けつけたアリスが、般若のような、あるいは天女のような表情で立っていた。
5. 決戦:三社合流の「新春株主総会(初詣)」
「……結局、三人揃うのかよ」
俺は、学園で最も有名な三人の美少女に囲まれ、地元の大きな神社へと向かう羽目になった。
右手にカレン、左手にひまり、そして背後にピタリとマークするアリス。
参拝客たちは、「あれが噂の……一晩で学園の時価総額を塗り替えた男か……」と、畏怖の念を込めて道を開ける。
「いい、優人くん。今年最初のお願いは、私との『共同名義』で出しなさい。そうすれば、神様も私の財力に屈して、願いを叶えてくれるわ」
「……神を金で買おうとするな、カレン。高坂くん、お賽銭は私の計算に基づいた『幸運の素数』で投入しなさい。それが最も当選確率(成就率)が高いわ」
「えー! お願いは『ずっと仲良し』がいいよね、優人くん!」
三人の想いが交錯する中、俺たちは拝殿の前に立った。
俺は二礼二拍手一礼をし、心の中で叫んだ。
(神様、2026年は、どうか俺の胃袋と精神が持ちますように……!)
そして、恒例の「おみくじ」を引くことになった。
「……私の運勢は、当然……『大吉』ね。内容:『恋、思うがまま。相手を資本力で包囲せよ』。……ふん、当然の結果だわ」
カレンが扇子を広げる。
「……私も『大吉』よ。内容:『待人、すぐ来る。相手の逃げ道をシステムで封鎖せよ』。……神様も、私の管理能力を認めているようね」
アリスが眼鏡を光らせる。
「わたしも『大吉』! 内容:『縁談、進む。相手の胃袋を掴めば勝利確定』。……やったー、優人くん! 晩ご飯は何がいい?」
三人が揃って『大吉』。
そしてその対象は、全て俺。
『パラリラパラリラパラリラパーン!!!!!』
【市場速報:新春おみくじパニック。三大銘柄が同時に「絶対勝利の予言」を得たことにより、学園市場に「スーパー・メガ・インフレ」が発生!!】
【予測:2026年の高坂優人は、三人のヒロインによる『全周包囲・完全独占・永久ホールド』の対象となります】
「……あ、あの……俺の運勢は?」
俺が引いたおみくじを開けると、そこにはこう書かれていた。
『運勢:末吉。……内容:愛の重圧に耐えよ。破産(心神喪失)の兆しあり。だが、幸福の総量は宇宙最大。……頑張れ』
「……神様、お前まで俺を突き放すのか……!」
6. エピローグ:2026年、強気相場の始まり
参拝を終え、神社の境内で甘酒を飲む俺たち。
屋根の上には、なぜかタキシード姿で望遠鏡を覗き、元旦から1000億の利益を出している佐藤がいた。
「……おめでとう、高坂。お前の2026年は、昨年を遥かに凌駕する『超弩級の強気相場』で幕を開けたぞ」
俺の隣では、カレンが俺の腕に寄り添い、アリスが俺の着物の袖を掴み、ひまりが俺の膝に頭を乗せていた。
寒いはずの元旦の風が、彼女たちの熱量で、春先のように生温かい。
「優人くん。今年一年、覚悟しておきなさい。……私は、あなたを誰にも渡さない。たとえ、世界中の投資家が相手でもね」
カレンが俺の耳元で囁く。
「……高坂くん。あなたの2026年は、すでに私の帳簿に『私の所有物』として記帳されているわ。……一分一秒、逃さないから」
アリスが、真っ赤な顔で俺を睨む。
「優人くん、大好きだよ! 2026年も、いっぱい一緒に笑おうね!」
ひまりが、俺の首に腕を回して笑う。
『ピコンッ♪』
【最終リポート:2026年・第一四半期、始動】
【目標株価:測定不能(愛の限界突破)】
【筆頭株主:高坂優人。……逃亡不可。永久保有決定】
「……なあ、佐藤。俺、2026年の終わりまで生きてられると思うか?」
(佐藤が、初日の出に向かって親指を立てた)
「おめでとう高坂。お前は今日から、世界で最も『ストップ高』な運命を背負った、幸福な罪人だ」
俺の2026年という名の市場は、最高の、そして最悪の熱狂を孕んだまま。
輝かしい未来という名の「青天井」に向かって、垂直に昇り始めた。




