第8話:文化祭は欲望の取引所! 伝説の「ミス・コン」と暗黒のショートセラー
1. 狂乱の文化祭前夜
「……いいかお前ら、今年の『八重洲祭』は例年とは違う。これは単なる文化祭ではない。学園経済の覇権を賭けた、最大級の**『公開買付合戦』**だ!」
実行委員長の四宮アリスが、メガホンを手に校庭で宣言する。
学園内は、もはや文化祭の準備というよりは、ウォール街の取引所のようになっていた。各クラスの出し物は「収益率」と「顧客満足度」によってリアルタイムで格付けされ、校舎の壁面には巨大な電光掲示板が設置されている。
俺、高坂優人は、その中心で「ゴミ拾い」という名の雑用をこなしていた。
「高坂、ぼさっとするな! 今、神宮寺財閥がスポンサーについた2年B組の『超高級・執事喫茶』の株価が、コーヒー一杯10万円という狂った単価にもかかわらず暴騰している。対抗馬である1年C組の『橘ひまりの焼きそば屋』は、薄利多売の物量攻勢でシェアを奪いに来ているぞ!」
親友の佐藤が、タブレットを三枚同時に操作しながら叫ぶ。
「佐藤、お前いつからそんなに有能なディーラーになったんだよ……。俺はただ、静かにたこ焼きが食べたいだけなんだ」
『ピコンッ』
【市場概況:文化祭ブーム到来。全校生徒の平均資産残高が、前日比300%を記録】
【注記:高坂優人が「たこ焼きを食べたい」と呟いたため、学園内のたこ焼き粉の先物取引がストップ高になりました】
「俺の一言で小麦粉の価格を動かすなよ!」
2. ミス・コンの賞品は「俺の24時間」
事件が起きたのは、文化祭初日の午前。
アリスが全校放送で、とんでもない「特大材料」を発表した。
『――本年度のメインイベント「ミス八重洲コンテスト」。その優勝者には、学園理事会および生徒会から、特別な「排他的権利」が授与されます。……その内容は、筆頭株主・高坂優人くんの「24時間・完全プライベート専属権」です!』
学園中が、地鳴りのような咆哮に包まれた。
「な、なんだってぇぇぇぇっ!?」
俺の叫びは、校舎を揺らす「買い」の注文音にかき消された。
「……聞いたわよ、優人くん」
背後から、凍てつくような、けれど熱を帯びた声がした。
振り返ると、そこには黒いドレスに身を包んだ神宮寺カレンが立っていた。彼女の瞳には、かつてないほどの投資意欲(殺意に近い愛)が燃えている。
「あなたの24時間を、他人に渡すなんて万死に値するわ。私がこのコンテストに『神宮寺財閥の全リソース』を投入して、あなたの存在を完全に非上場化してあげる」
「高坂くん、勘違いしないで。これは学園の秩序を守るための公的介入よ」
アリスが、実行委員の制服を脱ぎ捨て、なぜか自らコンテスト用の白いドレスに着替えながら現れた。
「あなたが神宮寺さんのような個人資本に独占されるのは、独占禁止法に抵触するわ。私が優勝し、あなたを生徒会の『永久管理物件』として接収するのが最適解よ」
「優人くーん! わたしも出るよ!」
エプロン姿のひまりが、焼きそばのヘラを突き出して参戦する。
「幼馴染の特別枠で、優人くんの24時間を『食べ歩きデート』で埋め尽くしてあげるんだから!」
『ピピピピピピピピピピッ!!』
俺のスマホが、警告音を鳴らしすぎて煙を吹き始めた。
【緊急警報:ミス・コン市場、爆発。主要三銘柄が「高坂優人の専属権」という単一資産を目指して全力買い(フルレバ)を開始しました】
3. 暗黒のショートセラー(空売り屋)現る
コンテストが盛り上がる中、学園の掲示板に不穏な「売り情報」が流れた。
『高坂優人は、実はすでに他校の女子校生と婚約している。ミス・コンの賞品は紙屑になる』
このデマが流れた瞬間、カレン、アリス、ひまりの株価が急落を始めた。
「なっ……!? 優人くんに、私以外の……いいえ、私たち以外の『裏銘柄』がいるというの!?」
カレンの顔が絶望で真っ青になる。
「そんな……! 私の『監査』を潜り抜けて、隠し資産を持っていたなんて……!」
アリスが膝をつく。
「優人くん……嘘だよね……?」
ひまりの目から涙が溢れる。
【市場崩壊:パニック売り発生。全銘柄、ストップ安付近まで垂直落下中】
【理由:筆頭株主・高坂優人の「不貞疑惑(ジャンク化)」による信用不全】
「おい、誰だよそのデマ流した奴は! 俺にそんな知り合いはいない!」
俺が叫んでも、パニックに陥った生徒(投資家)たちは止まらない。
このままでは、彼女たちの自信も、学園の経済も、全てが灰になってしまう。
「ひゃははは! 傑作だな!」
校舎の屋上に、一人の男が立っていた。
他校の制服を着た、不気味な笑みを浮かべる少年。彼は「空売りの天才」と呼ばれる他校の相場師だった。
「八重洲学園の幸せなバブルをぶっ潰して、暴落したところで全部買い叩いてやるよ。恋愛なんて数字の遊びだろ?」
「……お前、よくも彼女たちを泣かせたな」
俺の心の中で、何かが「逆指値」を超えて爆発した。
4. 伝説の「買い支え」演説
コンテストの特設ステージ。
絶望に沈むカレン、アリス、ひまりの前で、俺はマイクを奪い取った。
「全員、黙って聞けぇぇぇぇっ!!」
全校生徒の視線が俺に集中する。
「他校の野郎が流したデマに、俺の最高の銘柄たちが怯える必要なんてねえ! 俺が婚約してる相手? そんなの、今ここで俺を奪い合ってる、世界で一番価値のあるこの三人に決まってるだろ!!」
学園中が、静まり返った。
「神宮寺カレン! お前は冷たいフリして、俺の作った焦げた玉子焼きを宝物みたいに食べる、世界一可愛いツンデレ銘柄だ! 自信を持て!」
「っ……! 優人くん……!」
「四宮アリス! お前は合理的とか言いながら、俺を管理したくて耳まで赤くする、世界一不器用で愛おしい公的銘柄だ! お前の管理なら一生受けてやる!」
「あ……あわわ、高坂くん……!」
「橘ひまり! お前は俺の隣にいるために、一番努力して、一番笑ってくれる、世界一元気をもらえる最強の幼馴染銘柄だ! お前の焼きそばは俺が全部買ってやる!」
「優人くん、大好きぃぃぃっ!」
俺は屋上の男を指差した。
「空売り屋! お前のデマなんて、俺の『無限増資(愛)』の前では無力だ! 今すぐ買い戻して(損切して)消え失せろ!!」
その瞬間。
『ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!』
【市場復活:超弩級の「買い戻し」が発生。カレン、アリス、ひまりの株価、旧来の最高値を1000%上回る驚異的な垂直上昇を記録!!】
【判定:空売り屋、ロスカットにより全財産喪失。強制退場となりました】
「ありえねええええ! 感情の力が、論理を……資本を凌駕したというのかぁぁぁっ!」
空売り屋は絶叫しながら、どこかへ連行されていった。
5. 優勝者は「俺」が決める
コンテストの結果発表。
しかし、もはや順位なんてどうでもよくなっていた。三人の株価が揃って無限大を記録し、システムの測定不能が起きたからだ。
「……優人くん。結局、誰が優勝なの?」
ドレス姿の三人が、俺を囲む。その距離は、もはやソーシャルディスタンスどころか、密着を超えた「合併」の状態だ。
「……優勝は、お前ら全員だ」
俺は三人の手を(無理やり)握った。
「俺の24時間は、8時間ずつ三分割して、三人に平等に捧げる。それで文句ないだろ!」
「「「ないわけないじゃない!!(ないよー!!)」」」
三人の抗議の声と共に、俺の体はステージの上で三方向に引っ張られた。
カレンは俺を豪華客船へ連れて行こうとし、アリスは生徒会室での「居残り補習」を強行しようとし、ひまりは実家での「家族会議(お泊まり)」を主張する。
『ピロリンッ♪』
【文化祭・大引け:本日の総取引額、日本の国家予算を超過】
【理由:三人のヒロインが、高坂優人の「8時間」を「24時間」に増殖させるための時空歪曲理論を提唱し始めたため】
「佐藤……助けてくれ……。俺、明日生きてるかな」
(ステージの下で、屋台の収益で100年分の生活費を稼いだ佐藤が、札束の山の上で親指を立てた)
「おめでとう高坂。お前の明日という名の「市場」は、24時間365日、絶え間ない買い注文で埋め尽くされることが確定したぞ」
俺の高校生活は、文化祭の夜の打ち上げ花火と共に、誰も到達したことのない「神の領域」へと突き進んでいくのだった。




