第12話:三倍返しの決算報告! ホワイトデー・ショックと永久保有の誓い
1. 3月初旬:ホワイトデー債務危機
「……いいか高坂。今、この学園の全男子生徒は、歴史上類を見ない**『債務超過』**の状態にある」
3月に入ったばかりの放園。窓の外では春の気配が微かに漂い始めているというのに、親友・佐藤の表情は、明日にも倒産を迎える中小企業の社長のように暗かった。
彼は震える手でタブレットを操作し、現在学園内で取引されている「お返し(リターン)期待値」のグラフを俺に突きつけた。
「先月のバレンタイン。お前が三大ヒロインから受け取った『愛の総量』を覚えているか? 神宮寺財閥の時価総額を超えるチョコ彫刻、四宮会計の脳内管理チョコ、そして橘ひまりの物理的物量チョコ……。あれはもはやプレゼントではない。俺たち男子への『巨大な貸付』だ。そして3月14日、俺たちはその債務に対し、**『三倍返し(プレミアム配当)』**という法外な利子を付けて返済しなければならないんだよ!」
俺、高坂優人は、購買で買った安物のパンを齧りながら遠い目をした。
「……佐藤。お前、たまに本当に良いこと言うな。俺、今まさに『自己破産』の申し立てをしたい気分だよ」
『ピコンッ!』
【市場概況:ホワイトデー直前。男子生徒の『お返し予算』が底をつき、学園内の質屋(中古ショップ)が大繁盛】
【注記:高坂優人が「真心が一番大事だよね」と呟いた瞬間、学園内の手作りお菓子キットの在庫が全て買い占められ、ストップ高を記録しました】
「俺の無責任な一言で市場をパニックに陥れるのはもう恒例行事か!」
2. 三つの「特別決算要求」
放課後。俺が「何を返せば命が助かるか」と図書室で頭を抱えていると、三人の「債権者」たちが音もなく現れた。
「優人くん。ホワイトデーについてだけれど……」
神宮寺カレンが、プラチナの髪を揺らしながら俺の目の前に座った。
「神宮寺財閥は、金で買えるものには興味がないわ。私があなたに求めるのは、あなたの『時間』の独占使用権、そして……あなたが私のためにだけ選んだ、世界で唯一の『誠意』よ。もし、どこぞのブランド品で誤魔化そうとしたら、そのブランドごと買収して消し去ってあげるから」
「高坂くん、勘違いしないで。これは事務的な手続きよ」
四宮アリスが、眼鏡の奥の鋭い瞳で俺を射抜く。
「バレンタインの投資に対し、あなたがどのような『成長戦略(お返し)』を描いているのか、厳しく査定させてもらうわ。私の合理性を納得させるだけの『デレ』が含まれていない場合、あなたのホワイトデーは強制的に『居残り補習』で埋め尽くされることになるわよ」
「優人くん! わたし、楽しみにしてるからね!」
ひまりが俺の背中に飛びついてくる。
「高いものじゃなくていいよ。でも、わたしの心が『ぴょんっ!』って跳ねるような、とびっきりのドキドキをちょうだい! もし足りなかったら、来年のバレンタインまで毎日お家に押し掛けちゃうんだから!」
『ピピピピピピピピピピッ!!』
俺のスマホが、警告音を鳴らしすぎてメルトダウンを起こし始めた。
【緊急警報:ホワイトデーの「期待配当」が天元突破。高坂優人の一挙手一投足が、学園経済を崩壊させるか、あるいは神話にするかの境界線にあります】
「……三倍返し。しかも『金額』じゃなく『質』と『ドキドキ』かよ……。難易度がルナティックすぎるだろ!」
3. 3月14日、朝:ホワイトデー・ショックの幕開け
そして迎えた3月14日。
学園は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。
廊下を通る男子生徒たちは、一様に真っ白な紙袋を抱え、戦場に向かう兵士のような顔をしている。女子生徒たちは、その紙袋の「大きさ」と「ブランドロゴ」を瞬時にスキャンし、リアルタイムで「彼氏の誠実ランク」をアプリに打ち込んでいる。
俺が教室に入ると、そこにはすでに三大ヒロインが、それぞれの「本尊」を待つかのように鎮座していた。
「……おはよう、優人くん。準備はできているのかしら?」
カレンが、期待で微かに声を震わせる。
「……高坂くん。監査の時間よ。あなたの誠意、見せてもらうわ」
アリスが、ノートPCのキーボードに指をかける。
「優人くん! 早く早くー!」
ひまりが、期待の眼差しで俺を見つめる。
俺はゆっくりと、カバンの中から三つの「白い封筒」と、三つの「小さな手作りの箱」を取り出した。
「……お前ら。俺は考えたんだ。金やブランドじゃ、お前たちの愛には到底太刀打ちできない。だから、俺ができる『最大限の配当』を用意した」
学園中の視線が、俺の手に集中した。
4. 第一の配当:神宮寺カレンへの「専属契約書」
俺はまず、カレンの前に封筒と箱を置いた。
「神宮寺。……中身を見てくれ」
カレンが震える手で箱を開けると、そこには俺が銀細工の体験教室で指を傷だらけにしながら作った、不格好だが一生懸命磨き上げたシルバーリングが入っていた。そして封筒の中身は――。
「……これ、は?」
「『高坂優人・緊急時優先呼び出し権(無期限)』だ。神宮寺財閥のヘリよりは遅いかもしれないけど、お前が俺を必要とした時、俺は世界中の誰よりも早くお前の元に駆けつける。……それが、俺の誠意だ」
『ギュイイイイイイイイイインッ!!!!!』
【カレン株:ストップ高。学園の記録を全て塗り替える驚異の上昇】
【理由:金で買えない『誠意』と、自分だけの『ヒーロー』を手に入れたことによる、かつてないデレの爆発】
「っ……! 優人くん……あなたって人は……。……一生、この契約、解除させないから……っ!」
カレンが指輪を胸に抱きしめ、顔を真っ赤にして俯いた。
5. 第二の配当:四宮アリスへの「共同管理協定」
次に、俺はアリスの前に進み出た。
「四宮。……これがお前の分だ」
アリスが箱を開けると、そこには彼女の眼鏡をイメージした、手作りのブルーベリー味のアイシングクッキー。そして封筒の中身は――。
「……『高坂優人の全スケジュール・共同編集権』?」
「ああ。お前が俺を管理したいって言うなら、俺の24時間をお前と共有する。いつ、どこで、誰と何をするか、全部お前が把握していい。その代わり……俺の隣の席は、これからもずっとお前の指定席だ」
『ピロリンッ♪ ピロリンッ♪』
【アリス株:年初来高値更新。市場に「真の安定」がもたらされました】
【理由:優人の『人生そのもの』を共同管理できるという、独占欲を遥かに超えた信頼関係に、理性が完全にショートしたため】
「あ……ああわわ……っ! こ、これなら、不慮のインサイダー取引(浮気)も防げるわね……。……責任持って、あなたの人生、看取ってあげるわ……っ!」
アリスが眼鏡を曇らせ、涙目でクッキーを大切そうに仕舞った。
6. 第三の配当:橘ひまりへの「初恋継続宣言」
最後に、俺はひまりの前に立った。
「ひまり。……これをお前に」
ひまりが箱を開けると、そこには二人が昔一緒に遊んだ思い出の公園の「四つ葉のクローバー」を象った、特製のハンドメイド・キーホルダー。そして封筒の中身は――。
「……優人くん、これ、『交換日記』の最初のページ?」
「ああ。幼馴染じゃなくて、一人の男として、お前と新しい思い出を綴っていきたい。……これから先、10年、50年分のページを、お前と一緒に埋めていくのが、俺の願いだ」
『ピコンッ! ピコンッ! ピコンッ!』
【ひまり株:無限ストップ高。もはや数値化不可能な領域へ】
【理由:過去の思い出を『未来の約束』へと昇華させた優人の言葉に、魂が震えるほどの歓喜を感じているため】
「優人くん! 嬉しい! わたし、一生お返事書き続けるよ! 大好きぃぃぃっ!」
ひまりが俺の首に抱きつき、全力で喜びを爆発させた。
7. 決戦:三位一体の「永久保有」
三人のヒロインが、それぞれ俺からの「特大の配当」を受け取り、教室内のボルテージは最高潮に達した。
だが、その時。
『ビーッ! ビーッ! ビーッ!』
学園中の電光掲示板が、真っ白な光を放ち始めた。
【警告:ホワイトデー・グランドスラム達成】
【主要三銘柄が同時に最高値を更新した結果、学園経済は『幸福の特異点』に到達しました】
【これより、高坂優人に対する『全校生徒からの祝福と嫉妬の嵐』が発生します】
「……おい、佐藤。これ、どういうことだ?」
俺が窓の外を見ると、そこには「お返し」に成功した男子生徒たちと、俺の「三倍返し」の伝説を耳にした全校生徒が、俺を担ぎ上げようと押し寄せていた。
「おめでとう、高坂。お前は今日、学園の筆頭株主から……この世界の**『愛の独裁者』**になったんだよ」
佐藤が、空っぽになった財布を握りしめながら、爽やかに親指を立てた。
「優人くん、逃がさないわよ。今夜は私の豪華客船で『契約更新』のパーティーなんだから!」
「高坂くん、手帳の1ページ目は私の予定で埋めるわよ!」
「優人くん、交換日記の書き方、教えてー!」
三人の少女に左右から、そして背後から抱きつかれ、俺の意識はホワイトチョコのような甘い熱量の中で溶けそうになった。
『パラリラパラリラパラリラパーン!!!!!』
【市場閉め:2026年ホワイトデー。全銘柄、青天井。……市場は「高坂優人の幸せ」という名の恒久的なバブルへと突入しました】
俺の高校生活。
止まらない株価、溢れるデレ、そして終わらない三つ巴の愛。
この「ストップ高」な毎日は、きっとこれからも、誰にも予測できないチャートを描きながら、最高値を更新し続けていくのだ。
「……なあ佐藤。俺、明日も生きていけるかな?」
「おめでとう高坂。お前の人生は、これから先、一秒たりとも『売り』の出ない、世界で最も幸せなガチホ(永久保有)銘柄だ!」
(第12話・完)
おまけ:本日の市場ニュース
神宮寺カレン: 貰った指輪に「指紋防止コーティング」と「GPS」を財閥の技術で埋め込み、一生外さないと誓った。
四宮アリス: スケジュール共同編集権を使い、優人のトイレの時間まで「アリスを想う時間」として予約を入れ始めた。
橘ひまり: 交換日記の2ページ目に、すでに「結婚式のプラン(30パターン)」を書き込み、優人を絶句させた。
高坂優人: 胃もたれと、幸福の重圧でダウン。だが、その顔には微かな笑みが浮かんでいた。




