第13話:新学期の「ポートフォリオ再編」! クラス替えという名の強制分売(スピンオフ)
1. 4月、新年度相場の幕開け
「……いいか高坂。新年度の4月、それは投資家にとっても学生にとっても、過去の損益をリセットし、新たなポートフォリオを組む**『リバランシング(再構築)』**の季節だ」
2026年、4月8日。
満開の桜が舞い散る私立八重洲学園の校門前で、親友・佐藤は、新調した制服の襟を正しながら、厳粛な面持ちで語りかけた。
彼の視線の先には、昇降口の壁に貼り出された「新クラス名簿」の巨大な掲示板。そこには、数千人の生徒の運命……いや、今後の「市場価値」を左右する残酷なリストが並んでいた。
「去年一年、お前という『超優良銘柄』を独占し続けた三大ヒロイン……神宮寺カレン、四宮アリス、橘ひまり。だが、学園運営(理事会)もバカじゃない。特定のクラスに資本が集中しすぎる『市場の独占』を危惧し、今年は**『独占禁止法』**的観点から、お前たちを引き離す『強制分売』を仕掛けてくる可能性が極めて高い!」
俺、高坂優人は、新しいクラスでの平穏を祈りながら、掲示板を凝視した。
「……佐藤、頼むから不吉な予測を立てないでくれ。俺はただ、今年こそは普通の、波風の立たない『インデックス投資』のような穏やかな学校生活を送りたいんだ」
『ピコンッ!』
【市場速報:2026年度・始値決定。学園内の「クラス替えリスク」により、全生徒の情緒が乱高下中】
【注記:高坂優人が「平穏に過ごしたい」と呟いた瞬間、学園内の「静養室」の利用予約がストップ高を記録しました】
「俺の平穏への願いが、なぜか病弱需要としてカウントされてる……!」
2. 理事会の「市場介入」と、引き裂かれる三銘柄
掲示板の前に人だかりができた。その中心で、悲鳴と歓喜が入り混じる。
俺は人波を掻き分け、自分の名前を探した。
「……あった。3年A組、高坂優人。……えーと、隣の席は……」
その名前を確認しようとした瞬間、背後から凍てつくような、そして爆発的なエネルギーを孕んだ三つの声が重なった。
「――認めないわ。こんな『不当な資産配分』、神宮寺財閥の総力をもって差し止め請求( injunction )を出すわよ!」
「――計算違いだわ。私の管理プログラムによれば、高坂くんと私は同じA組に配置される確率が99.8%だったはず……。これは何者かによる『相場操縦』ね!」
「――優人くんと離れ離れなんて、絶対ヤダ! わたしの『幼馴染プレミアム権』を無視するなんて、運営に異議申し立てだよ!」
振り返ると、そこには新学期の光を浴びて、神々しいまでのオーラ(と殺気)を放つカレン、アリス、ひまりが立っていた。
彼女たちが手元のスマホで確認しているクラス名簿……そこには、残酷な現実が記されていた。
高坂優人:3年A組
神宮寺カレン:3年B組
四宮アリス:3年C組
橘ひまり:3年D組
見事にバラバラ。学園理事会による、徹底的な「リスク分散」が行われていた。
『ピピピピピピピピピピッ!!』
【緊急警報:クラス替えショック発生。三大銘柄が同時に「売り気配」を通り越して「暴動」に突入】
【予測:このままでは、ヒロイン不在のA組は価値が暴落し、ヒロインたちが集結した他クラスではオーバースペックによる爆発が起きます】
「高坂くん、そこを動かないで」
カレンが、スマホでどこかへ電話をかけ始めた。
「……ええ、私よ。神宮寺家の全保有株を担保に、この学園の理事会を『敵対的買収(TOB)』して。……ええ、5分以内に。……目的? 3年A組の座席表の書き換えよ」
「甘いわね、神宮寺さん。買収なんて時間がかかるわ」
アリスが、生徒会特注の暗号通信機を取り出す。
「生徒会会計として、学園のシステムサーバーに『緊急メンテナンス』という名のバックドアを仕掛けたわ。今この瞬間から、全校生徒のクラスデータは私の指先一つで再編集される……!」
「二人とも難しいことしすぎだよ! わたしはもう、A組の教室に自分の机を持って行っちゃったもん!」
ひまりが、どこから持ってきたのか学習机を担いで、猛ダッシュで校舎へ消えていった。
「……おい、お前ら。教育の根幹を揺るがすような介入はやめろ!」
3. A組の「空売り(不在)」と、恐怖の転入生
なんとか三人の暴走を止め、俺は3年A組の教室に入った。
クラスメイトたちは、俺の顔を見るなり「あ、あの……筆頭株主様、おはようございます!」と、なぜか神を拝むような態度で迎えてくれた。
だが、教室内には不自然な空席が三つある。……本来、カレンたちが座るはずだった、俺の周囲の特等席だ。
「……あー、高坂。災難だったな。でも、これでようやく俺たち男子にも、平穏な『普通』が戻ってくるんじゃないか?」
同じくA組になった佐藤が、窓際の席で安堵の溜め息をつく。
「そうだな。寂しい気もするが、これが本来の学校生活なんだろうな……」
だが、その「普通」は、チャイムと共に粉々に粉砕された。
ガラッ! と、教室の扉がこれ以上ない勢いで開け放たれた。
そこに立っていたのは、担任の教師……ではなく、真っ赤な顔で息を切らした四宮アリスだった。
「……ハァ、ハァ……。間に合ったわ。……高坂くん、安心なさい。3年A組の定員を、生徒会の『特別管理条項』によって緊急増枠(増資)させたわ。……これより、三名の『特例転入生』を迎え入れる!」
「な、なんだってぇぇぇっ!?」
アリスの後ろから、優雅に髪をかき上げるカレンと、ヘラヘラと笑いながらVサインを送るひまりが登場した。
「神宮寺財閥が、この校舎の修繕費として100億円の『追加出資』を決定したわ。その条件はただ一つ……私を、あなたの隣の席に配置することよ。……文句はないわね、優人くん?」
カレンが、特注の黄金のネームプレートを俺の隣の机に置いた。
「わたしも! わたしも、お母さんがお弁当を毎日クラス全員分作るからって言ったら、みんな『ひまりちゃんA組に来てー!』って署名してくれたんだよ!」
ひまりが、大量の唐揚げのパックを掲げてアピールする。
『ギュイイイイイイイイイインッ!!!!!』
【市場速報:3年A組、バブル再来。三大銘柄の電撃参入により、教室内の『幸福指数』が前日比5000%を記録】
【判定:理事会の分散投資戦略、開始10分で完全破綻しました】
4. 放課後の「市場開放」と、新たなライバルの予感
結局、3年A組は「高坂優人と、その独占的保有者たち」によって、去年以上に過熱したマーケットへと変貌を遂げた。
授業中も、右からはカレンが「消しゴムがないわ」と手を繋いできそうになり、左からはアリスが「この数式の答え(愛)を教えなさい」と密着し、前からはひまりが「優人くん、あとの休み時間何食べる?」と振り返ってくる。
休み時間になれば、他クラスの「株主(生徒)」たちが、A組の熱気にあやかろうと窓越しに群がり、教室内はもはや取引所の床のような騒がしさだ。
「……なあ佐藤。俺、このクラスで一年間、正気を保てると思うか?」
「おめでとう高坂。お前のクラスは現在、国連から『世界一幸せな経済圏』として暫定保護されることが検討されているぞ」
だが、そんな平穏(?)なバブルの中に、一陣の風が吹いた。
放課後。俺がカレンたちに囲まれて帰ろうとした時、昇降口で一人の少女が立ち塞がった。
見たことのない制服。長い黒髪をなびかせ、その手には「高坂優人・調査報告書」と書かれたファイルを持った少女。
「……見つけたわ。学園の経済を一人で支配する、伝説のマーケット・メイカー。……そして、私の『未公開株(運命)』の相手」
その少女が不敵に微笑んだ瞬間、俺のスマホが、これまで聴いたことのない「特殊なアラート音」を鳴らした。
『ピロリンッ! ピロリンッ!』
【新銘柄上場:謎の転校生・如月ミア、新規公開(IPO)】
【属性:海外からの刺客・天才投資家】
【初期評価:カレンたち三大銘柄を脅かす『空売りの女王』の異名を持つ】
「……な、なんだよ。また新しい銘柄かよ!」
「優人くん、あの女、誰!? 私の資産に手を出そうなんて、100年早いわよ!」
カレンが俺の腕を強く引き寄せ、戦闘態勢に入る。
「……データの整合性が取れないわ。あの如月ミア、私の管理プログラムをバイパスして接近してきた……!」
アリスがノートPCを高速で叩き、防壁を築く。
「優人くんはわたしのなんだからね! 新規参入は禁止だよー!」
ひまりが俺の前に立ち、威嚇するようにヘラを構える。
如月ミアは、冷徹な瞳で俺たちを見据え、一歩踏み出した。
「……既存の銘柄には興味がないわ。私は、この学園の市場(恋)を根本から破壊し、私が再構築する。……覚悟しておきなさい、高坂優人。あなたの心、私が『強制決済』してあげる」
『ドォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!』
【2026年度・第一四半期、波乱の予感:新興銘柄の参入により、学園市場は『四つ巴の全面戦争』へと突入します!】
5. エピローグ:止まらない強気相場
夕暮れの校門。
俺はカレン、アリス、ひまり、そしてなぜかストーキングを始めた新入生・ミアの四人に囲まれ、物理的に身動きが取れなくなっていた。
「優人くん、私のリムジンに乗りなさい! あの女を振り切るわよ!」
「ダメよ高坂くん、生徒会室で彼女の素性を徹底的に洗う(デューデリジェンス)必要があるわ!」
「優人くん、一緒に逃げよう! わたしの自転車、二人乗り(違法)なら時速60キロ出るから!」
「……無駄よ。私のアルゴリズムからは、誰も逃げられないわ」
俺の高校生活、3年生。
最高値を更新し続ける三人の愛に、世界中から集まる新たなライバルたち。
俺という名の「唯一無二の銘柄」を巡る、時価総額無限大のラブコメディは、もはや学園という枠を飛び出し、宇宙規模のインフレへと加速し始めていた。
「……なあ佐藤。俺、卒業までに結婚させられてる気がするんだけど」
(校門の影で、新銘柄の登場による相場変動を予測して1兆円の追加利益を狙う佐藤が、初夏の光の中で親指を立てた)
「おめでとう高坂。お前の人生は、これから先、永久に『売り時(別れ)』の来ない、史上最強のダイヤモンド・ハンド(握力強)銘柄だ!」
俺の2026年、新年度。
さらなる波乱と、甘すぎる暴騰を孕んだまま、激動の「第2シーズン」が幕を開けた。
(第13話・完)
おまけ:本日の市場ニュース
神宮寺カレン: A組のクラス委員に「賄賂(豪華ランチ券)」を使って就任。実質的なクラスの支配者となった。
四宮アリス: 教室の四隅に「優人監視用カメラ」を設置しようとして、先生に「それはプライバシーの侵害(インサイダー防止法違反)」と止められた。
橘ひまり: A組の出席番号が優人の隣になるよう、名字を「橘」から「あ橘」に変えようとして市役所で門前払いされた。
如月ミア: 優人の自宅の隣の空き物件を、即座にキャッシュで買い叩いて入居完了。
高坂優人: 全身の筋肉が、四人からのプレッシャーで鍛えられ始めた。……逃げ切れる日は遠い。




