第2章 その40
よろしくお願いします。。。
簡易な演台が神殿を出てすぐのところに置いてある。
そこにゆったりとした所作で歩み寄ったキーペは、慣れた様子で聴衆に向けて会釈した。
「──皆様。本日はお集まりいただき本当にありがとうございます。
今日この日、ぼくたちは新たな救世の乙女をいただきました。
今度こそはこの凍てつきゆく世界を、滅びの宿命から救い出す使命を果たしゆくことを、今この場で皆様にお誓い申し上げます!」
雪に包まれ凍みた大地を揺るがすほどの大歓声と大拍手が辺り一帯を埋め尽くす。
エティは正直、居心地の悪さを感じていた。
(なんかもう。キーペったら大風呂敷広げて!
そりゃもちろん、お役目果たしたいって気持ちはありますけどね?)
キーペから演台へ乗るように招かれたエティ。
そこへ立ってみると人々の期待の眼差しが彼女の全身を貫くのを感じて、今すぐに逃げ出したくなるのだった。
しかしそれはできない。
足が震えそうになるのを、こぶしを握ってこらえた。
一言でいいからあいさつをと言われ、ごくりと息をのむ。
「えっと……エティといいます。
私が元居た世界はここと似た問題を抱えていて、向こうでは逆に夏しかなくて日照り続きでした。
だから、できればせめてここだけでも、問題を解決できたらいいなと思っています。
至らないところもたくさんあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」
エティが深々と頭を下げる。
皆から歓待の温かい拍手が向けられた。
聴衆の最前列中央にいた金属鎧姿の壮年が一歩、歩み出る。
彼は演台に上ってきてエティの隣に立つと、彼女の片手を捧げ持って片膝をついた。
「エティ様。我ら衛士一同、この命を捧げてお守りいたします」
「──! あん……!!」
(あんたが元凶の一端なのね!?)
そう言いたかったエティはその時、頭の中に彼女の意志に反した言葉がひらめくのを感じた。
『ありがとうございます』
『よろしくお願いします』
脳内で選べる選択肢はその二択のみ。
それ以外の言葉を発そうと口を開いても、金魚のように開閉を繰り返すだけで、声になっては出てこないのだった。
(──集中が必要だと言っていたのはこのことなの、キーペ……)
泣きそうになったエティは、まだ脳内で『ありがとう』と『よろしく』を戦わせながら、衛士長の手から引き戻した自分の手を握りしめ、奥歯をかみしめた。
(──冗談じゃないわよ。
こんな制約に負けたりしない。
大切なものは! 守らせてもらうわ!!)
「そんなことはしなくていいわ……!」
どよっ。と動揺して息をのんだ者がいた。
困惑に涙を浮かべるものもいた。
眉間にしわを寄せて気分を害したことを表す者たちも。
そして、守護者たちは。
これまで必ず二択で通過儀礼として流されてきた『乙女の選択肢』に、自分の意志で第三の選択肢を選び取った稀有な存在に対して、様々な感情を抱くのだった。
「聞いてもらうわよ衛士たち!
あんたたちの命はあんたたちのために使いなさい!」
ようやく書きたかったシーンが近付いてきました。
次回はエティの暴発ぶりを書けたら本望なのですが。
どうなることか!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます。




