第十七章 高木記者の妹、刺される一
翌日隆は京都府警の前で出勤してきた広美に声を掛けた。
「凶器の指紋の件、何故教えてくれなかったのだ!兵庫県警の刑事に指摘されて、気が動転したじゃないか!」と怒りをあらわにしていた。
広美は、「だから、指紋採取時に、凶器に指紋が付着していると教えたわよね。」と笑っていた。
隆は、「あんなタイミングで、あんな事を言って!冗談だと思ったじゃないか!」と切れた。
広美は、「どう思おうがあなたの勝手よ。」と雑談していた。
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隆の背後から、手を振りながら、若い女性が、「お兄ちゃ~ん!」と呼びかけながら、駆け寄ってきた。
広美は、「あら、妹さん?あなたに、こんな美人の妹がいただなんて知らなかったわ。」と意外そうでした。
「俺の妹の由紀子です。お前、何故ここにいるんだ!」と広美に美人だと言われて、照れていた。
「私が働いている喫茶店は、この近くよ。出勤してくると、お兄ちゃんが見えたので、声を掛けたのよ。実は結婚したい人がいるので、会ってほしいのよ。」と婚約者を紹介しようとした。
「子供のお前が結婚?まだ早いよ。」と由紀子から意外な事を聞いて、戸惑っていた。
「私、もう二十二よ。いつまでも子供扱いしないで!」と不愉快そうでした。
広美は、「由紀子さんですか?あなたのお兄さんは、かわいい妹を、知らない男に取られると思っているだけよ。気にしないで結婚すれば?」と助言した。
隆は、「余計な事を言うな!」と不愉快そうに、その場から立ち去った。
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隆は出社して、編集長と仕事の打ち合わせなどして、午後、妹の恋人の事が気になり、妹が働いている喫茶店に行った。
喫茶店の店主は、「由紀子さんは、今日は午前中のみの勤務なので、もう帰りました。」と帰宅して、ここにはいない事を説明した。
隆が喫茶店から出ると、前田刑事と巡回していた広美が、京都府警に戻ってきた。
広美は、「由紀子さんに会いに来たの?」と婚約者の事が気になり、聞きに来たのかと思い、声を掛けた。
その時、由紀子から隆に着信があった。
「お兄ちゃん、助けて!」と叫んだ。
隆は驚いて、「助けてってどういう事だ?」と事情を聞いた。
広美は隆の血相が変わり、広美の腕を掴んだので、由紀子さんが、何か事件に巻き込まれたと直感して、しばらく様子を見ていた。
電話を終えた隆は広美に、「由紀子が清滝で、人が殺される現場を目撃して、その犯人に追いかけられている!近くの警察官に向かわせて!」と焦っていた。
広美が、「最寄りの交番に連絡するわ。」と近くの交番に電話したが、不在で連絡が取れなかった。
広美は、「隆さん、乗って!」と隆を覆面パトカーに乗せて、赤色回転灯を点灯させ、サイレンを鳴らして急行した。
広美は途中無線で緒方係長に報告して、近くを警ら中のパトカーにも向かわせるように依頼した。
「緊急車両通過します。進路を譲って下さい!」とスピーカーで呼びかけながら、清滝まで急行していると、途中渋滞に遭遇した。
隆は顔を歪めて、「こんな時に!」と焦っていた。
広美は中央分離帯の切れ目から、対向車線に入るように、運転している前田刑事に指示した。
「緊急車両、対向車線を走る!各車そのまま待て!」と繰り返しながら、対向車線を清滝まで急いだ。
隆は覆面パトカーの中で、ノートパソコンを使い由紀子の携帯をGPS機能で検索して、清滝のどこにいるのか確認して、広美に伝えて、そこへ向かった。
由紀子は覆面パトカーのサイレンに気付いて、警察が来てくれたと、サイレンのするほうへ逃げた。
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広美達が到着して隆が、「由紀子!」と駆け寄り、由紀子も、「お兄ちゃん、助けて!」と駆け寄ったが、由紀子は背後から犯人に服を掴まれて、ナイフで刺されようとしていた。
広美は、「辞めなさい!」と銃を発砲したと同時に由紀子は刺されて、悲鳴と共に倒れた。
犯人は二人組で、前田刑事に、「身柄確保!」と指示して、そこへ到着したパトカー警官と協力して、犯人を追跡した。
広美は隆と由紀子に駆け寄り、確認すると、ナイフが背中に刺さっていたがまだ生きていた為に、救急車を呼び、隆が同乗して、病院に向かった。
広美は緒方係長の指示で、到着した他の刑事達と、付近を捜索して、由紀子の婚約者の遺体と、由紀子が殺される現場を目撃した、中年男性の遺体を発見した。
広美は、由紀子の容体を確認する為に、前田刑事と、由紀子が搬送された病院に向かった。
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病院には隆がいて、「救急車の中で、由紀子は、“彼は私を助けようとして殺された。”と泣いていたが、救急車の中で意識不明になった。由紀子の婚約者が殺されて、由紀子も殺されかけた。由紀子の恨みを晴らしてくれ!」と顔を真っ赤にして憤慨して、広美に訴えた。
広美は隆とは裏腹に冷静で、「私は必殺仕置き人じゃないわよ。殺人犯を逮捕するだけです。その為に、由紀子さんから事情を聞かせて。由紀子さんの容体はどう?」と由紀子の事を心配していた。
隆は、「まだ、緊急手術中だ。」と妹の事を心配していた。
やがて手術が終わり、隆と広美は、執刀した外科医から、由紀子の容体について、聞いた。
「ナイフで刺された傷は、心臓の一歩手前で止まっていました。警察官が発砲しなければ、間違いなく心臓を一突きされて、即死していたでしょう。しかし、肺静脈が傷付いて、出血多量で重体です。恐らく、今晩が山だと思われます。今晩乗り切れれば、快方に向かい、意識が戻れば大丈夫です。」と今晩乗り切っても、意識が戻るまで、安心できないと、由紀子の状態を説明した。
広美は、「念の為に、婦人警察官二名を、病室内部に常駐させます。」と由紀子は警察が守っている事を伝えて、隆を安心させようとした。
隆は、「一人じゃなく二人なのか?犯人グループが由紀子を殺しにくる可能性が高いのか?それだったら、婦人警察官ではなく、男性警察官に護衛させるベキじゃないのか?」と広美の考えている事が、理解できない様子でした。
広美は、「警察官を病室の前に立たせると、物々しいでしょう?だから、医師の許可を得て、病室内部に、警察官を常駐させたのよ。男性警察官を、病室内部に常駐させるのは、問題があり、内部に入れない為に、ニセ医師やニセ看護師を、見落とす可能性は否定できないわ。だから婦人警察官にして、病室内部に常駐させたのよ。婦人警察官も人間よ。トイレに行く事もあるわ。一人だと空白の時間ができるわ。二人にして、由紀子さんの病室には、必ず婦人警察官がいるようにしました。事件は発覚していて、犯人の顔は、私や前田刑事やパトカー警官も見ているわ。それにも関わらず、警察官の前で、由紀子さんを殺そうとしました。犯人は、見られれば都合の悪い事を、由紀子さんが見ている可能性は否定できない為に、襲われる可能性があります。護衛は、格闘技が有段者の婦人警察官を選びました。」と説明して、京都府警に戻り、捜査会議に出席した。
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一課長も出席して捜査会議が開始された。
倉田一課長は、「被害者の身元が判明しました。政治家、堀田総一郎の秘書で、自衛隊の戦車購入に絡んで、堀田総一郎が動いていた疑いがあります。その鍵を握っていた秘書を、遺書まで準備して、自殺に偽装して、殺害した可能性があります。その現場を目撃した、若いカップルが、事件に巻き込まれました。カップルの男性は死亡しましたが、女性は刺される瞬間に、彼女からのSOSで、駆け付けた林主任が、到着して救いましたが、重体です。念の為に、彼女の病室に、婦人警察官を二名常駐させています。」と事件の概要を説明した。
緒方係長が、「犯人は二人組で、林主任の指示で、犯人を追跡した、前田刑事とパトカー警官が、林主任に撃たれて負傷した犯人を、逮捕しましたが、もう一人には、逃げられました。被害者の女性は、まだ口を聞ける状態ではなく、事情は聞けていません。護衛の婦人警察官が交代した時に、捜査本部に、彼女の容体と護衛の現状などを、報告する事になっています。今はまだ意識不明だとの事です。」と現状を説明した。
広美が、「戦車購入については、捜査二課が動いています。私達は殺人事件で動きます。現場の指揮を西田副主任、できるわよね。」と指示した。
西田副主任が、「頑張ります。前田刑事、逮捕した犯人の取り調べをして下さい。須藤刑事と渡辺刑事とで、逃亡した犯人の足取りと堀田総一郎との関連を調べて下さい。」と指示した。
広美が、「捜査二課の情報が必要であれば、私に連絡して下さい。一課長から依頼して頂きます。」と補足説明した。
捜査二課からの情報で、堀田総一郎は、「戦車購入については、一切関与していない。秘書が勝手にやった事だ。」と証言しているとの事でした。
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捜査の結果、実行犯は銀龍会の組員で、堀田総一郎との関係は否定した。
その夜、由紀子の護衛をしている婦人警察官から、「由紀子さんが襲われて、看護師一名負傷しました。犯人を緊急逮捕して、病院の通路の手すりに手錠で固定しています。応援お願いします。」と緊急連絡が入った。
広美は、「由紀子さんは無事ですか?」と心配していた。
無事だと聞いて安心して、西田副主任に連絡して、捜査員と警官隊を病院に急行させた。
翌日の捜査会議で、由紀子さんが襲われた事を説明して、「由紀子さんの意識は戻りましたが、医師から事情聴取の許可は出ていません。由紀子さんが護衛の婦人警察官に、現場にもう一人男性がいた事を告げたそうです。堀田総一郎が、現場にいた可能性があります。」と報告した。
捜査が進展しない状態で、須藤刑事が、「堀田総一郎は、芸者遊びが好きだそうです。林主任、その線から何か解りませんか?」と実家が置屋の広美に期待した。
広美は、「ええ、私も堀田総一郎のお座敷に、何度か顔を出した事があり、よく知っています。母に、堀田総一郎から声が掛ったら、私に連絡くれるように依頼していますが、まだありません。私は堀田総一郎に、鶴千代として貼りつく可能性がある為、今回現場の指揮は、西田君に依頼したのよ。」と広美も気にしている事を伝えた。
次回投稿予定日は、7月31日を予定しています。




