第二十三章 中学生の広美を襲った暴漢
ある日、広美のお得意さんの城田雄介からお座敷のご指名があった。
広美はいつものように、雄介の横で体を密着させておしゃくしていた。
広美は、「いつもご指名ありがとうございます。」と挨拶した。
雄介は、「鶴千代さんは人気No.1の売れっ子芸者で予約もなかなかとれずにいつも苦労しています。仕事でむしゃくしゃした時は、クラブのホステスや料亭で芸者などと話をしていたが、鶴千代さんと話をしている時が一番落ち着くんだ。」と広美を指名した理由を説明していた。
広美は、「それは光栄ですね。仕事でむしゃくしゃしたって城田さんは、どんなお仕事をされているのですか?」と雑談していた。
雄介は、「日雇い労働者だよ。お金をためてここに来る事が唯一の楽しみだ。倉田さんも手を尽くしてくれたが、前科者の俺にはこんな仕事しかないよ。」と仕事の内容は諦めている様子でした。
広美は、「前科者って何をしたのですか?」と倉田一課長が逮捕した犯人だと直感して確認した。
雄介は、「若い女性を見るとムラムラして襲っていたが、騒ぎが大きくなってきたので辞めようとしていると、俺好みのセーラー服の女性を見て、どうにも我慢できずに襲ったが、その時に近くを巡回していた倉田刑事に逮捕された。」と説明した。
その後、広美は雄介といろいろと雑談して帰った。
明日、一課長に確認しようと思った。
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翌日、まさかとは思いましたが倉田一課長に、「私が中学生の時に、私を襲った暴漢は、まさか城田雄介さんですか?」と気になり一課長に確認した。
一課長は、「個人情報になるので教えられない。気になるのか?君も刑事だったら自分で調べろ。」と教えなかった。
広美は、「いいわ、城田さんに直接聞くから。」と一課長室から出た。
一課長は、「林君もようやく気付いたようだな。二人は知り合いのようなので、いずれこのような日がくると思っていたが・・・」と諦めていた。
数ヵ月後、再度雄介から、お座敷の指名があった。
広美はいつものようにおしゃくしながら、「城田さん、あなたが最後に襲ったセーラー服の女性って、この女性ですか?」と広美は自分の昔の写真を見せた。
雄介は驚いて、「そうだが、何故鶴千代さんが知っているのですか?それにこれは当時の写真ですよね。」と驚いている様子でした。
広美は、「やはりそうでしたか。襲わなくてもちゃんと話をすればおしゃくぐらいだったら付き合うわよ。それは私の昔の写真よ。まさかあの時、私を襲ったのが城田さんだったとは驚いたわ。」と笑顔でもう襲わないように促した。
翌日広美は倉田一課長から呼び出された。
「昨日城田から連絡があった。自分が襲った女性が鶴千代さんだったと知り、穴があったら入りたかったそうだ。襲わなくても、おしゃく程度だったら付き合うと言ったらしいな。」と確認された。
広美は、「それで城田の再犯を止められるのであれば、お安い御用ですよ。」と雄介の更生に協力していると主張した。
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翌日、置屋に雄介から電話があり、「本当にこんな俺と付き合ってくれるのか?」と信じられない様子でした。
広美は、「本当よ。飲み屋か喫茶店かどちらがいいですか?これはプライベートなので私の指名料は不要よ。いつがいいですか?」と確認した。
雄介は、「明日、俺は休みなので喫茶店で会って頂けませんか?」と誘い広美も了承した。
その日以来、時々、雄介と私服で喫茶店や飲み屋で会っていた。
そんなある日、広美は一課長から呼び出された。
一課長は、「昨日城田から相談の電話がありました。同じ日雇い労働者から、“お前だけ美人女性と付き合って不公平だ。俺達にも回せ。”と強要された。鶴千代さんを守って下さい。と依頼された。城田には、私の部下で、世間から怖いと恐れられている鬼軍曹に護衛させるから安心しろと伝えておいた。対応して下さい。一人で対応が困難になってくれば正式に三係で対応しろ。しかし、鬼のどこが美人なのだろう。」と指示された。
広美は、「一課長!それはどういう意味ですか?どこから見ても美人じゃないですか。」と不満そうでした。
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一週間後、広美は喫茶店で雄介と雑談した後喫茶店を出た。
周囲に不審な男性数名確認した。城田は何も気付いていないようなので、しばらく城田と付き合う事にした。
二人で歩いていると、雄介の日雇い労働者仲間数名から声を掛けられた。
広美は、やはり来たかと予想通りだと感じていた。
「城田、お前だけずるいぞ。俺達にも回せ。姉ちゃん、そんな男と何の話をしていたのだ?男と女には、する事は一つしかないだろう。おい、皆!どこか人のいない場所で、この女を素っ裸にさせて楽しもうぜ。」と広美の手を引っ張って行こうとしていた。
広美が柔道で全員倒すと、「貴様!ぶっ殺してやる!」とナイフで襲ってきた。
広美が簡単に避けたので、雄介を捕まえて、「大人しくしろ!さもないとこいつを殺すぞ!」と人質を取った。
広美は、「あなた方は仲間じゃないの?薄情な仲間ね。今なら悪い冗談で済むからナイフを渡しなさい!さもないと殺人未遂で刑務所行きよ。」と迫った。
「じゃかましい!」と雄介を刺そうとして振り上げた腕を、広美が拳銃で撃ちぬいた。
銃声を聞いて、近くを巡回していた警察官が来た。
「主任、どうされましたか?」と現状把握しようとした。
広美は、「殺人未遂の現行犯で緊急逮捕!今、署に連絡したから警官隊がここに向かっています。襲った相手が悪かったわね。あなた方も諦めなさい。」と指示した。
警察官は、「襲った?よりによって、京都府警の鬼軍曹を襲うとはな。」と男に手錠をかけた。
労働者達は、「何故城田と付き合う。俺達との違いは何だ!」と不満そうでした。
広美は、「そんな簡単な事がわからないの?では教えてあげるわ。」と手が掛かるわね、と労働者に近づいた。
広美は労働者の腕を強く引っ張った。
労働者は思わず、抵抗した。
その後、広美は労働者の腕をゆっくりと引っ張ると、抵抗なく腕を伸ばした。
広美は、「わかった?こういう事よ。無理に強制すれば人間は無意識に抵抗します。無理なくすれば抵抗しないものなのよ。」と説明した。
雄介は、「なるほど、そういう事ですか。ですから私がちゃんと話をすれば付き合うといってくれたのですね。倉田さんに鶴千代さんを守ってほしいと頼むと鬼軍曹に護衛させると言っていましたが、まさか鶴千代さんが鬼軍曹だったとは驚きですね。」と信じられない様子でした。
広美は、「これに懲りずにまた連絡頂戴ね。」とその場を去った。
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雄介は、職場の現場責任者、北山正から、他の労働者から浮いているので今後仕事を依頼するかどうか検討中だと忠告されていた。
労働者が数名逮捕されたので引きとめられるだろうと判断して、翌日、別の仕事を捜している旨、北山に伝えた。
その時は何も言われなかったので、まだ聞いていないのかと思って、職探しに行くと伝えて職場を後にした。
午後、北山から着信があり、相談したい事があるのですぐに職場に戻るように指示された。
「今、ハローワークで面談の順番待ちをしています。今呼ばれましたので、面談が終了してから行きます。」とハローワークに行かずに喫茶店でゆっくりしていた。焦らそうとしてすぐに電話を切って携帯の電源も切り、もう少しゆっくりして北山を焦らせてから職場に戻ろうと思っていた。
北山は、慌てて再度電話したが、携帯の電源は切られていた。
雄介が職場に戻ると、案の定、引きとめられた。
その時、本社から部長が来て、再犯するような人物を優遇しているとはどういう事だ、と北山が責められていた。
北山は、「城田も、自分が前科者である事を隠して若い女性と付き合っていました。特に優遇していません。」と反論した。
部長は、「その女性から連絡があった。城田君が付き合っているのは京都府警捜査一課の刑事だ。勿論、城田君が前科者だと知っていて別に隠していない。お前が優遇していた労働者達が、城田と彼女が一緒にいる所を襲ったから現行犯逮捕されたんだ。その刑事に聞いたが、お前が城田と彼女が付き合っていると彼らを唆したらしいな。警察に恨みでもあるのかと本社に乗り込んできて問い詰められたではないか。人の目もあり、お前のおかげで大恥かいたじゃないか!君は左遷だ。刑事の眼鏡にかなった城田君を正社員として採用する。」と感情的になっていた。
四月の人事異動で北山は総務に移動になり、総務の経験がない北山は使い走りをしていた。雄介は北山の後任として現場責任者に抜擢され、給料も上がり安定した収入になった。
雄介は正社員の身分を失いたくなく、頑張って仕事していて、日雇い労働者の苦労も知っている為に優しく、年に一回慰労会を行っていた。勿論、料亭で鶴千代を呼んでいた。
その結果、日雇い労働者の人気も高く、やがて本社勤務になり、各現場の統括責任者に任命された。
次回投稿予定日は、8月24日を予定しています。




