91話 事情を話してさあ行こう
さて。スリーク伯爵は今どうにもできないわけで、そうするとやれることは決まってくる。
「ならば、今のうちに屋敷の中を清めてしまおう。叔母上にも、すまないが一瞬だけ濡れてもらうことになるな」
アルセイム様のおっしゃる通り、スリークのお屋敷の中をさっさと清めてしまわなくてはならないわけよ。もしここにテンポウが帰ってきたら、即座にざばっと水をぶっかける、その邪魔をさせないためにも。
ところで、当然ミリア様にもお水をかけるわけで。そうなると。
「もしかしたら、お身体を悪くされている原因がジェシカ様と同じかもしれませんわ。それなら、回復なさるはずです」
「え、ジェシカ伯母様、そうだったんですか!」
「だから、魔女が消えてからかなり回復しているんだよ。叔母上も、そうなるかもしれない」
あらカルメア様、驚くのはそこですか。ま、まあ詳しい説明とかお聞きになっていないと思いますし……いいですわね。
そんなカルメア様に、アルセイム様は優しいお言葉を掛けられた。
「スリークの問題が落ち着いたら、また遊びに来てくれるかな? 母上もきっと喜ぶ」
「はい、ぜひ! レイクーリア様ともお茶を飲みたいですわ!」
「ええ、お待ちしております」
どういうわけか私も気に入られてしまったのだけれど、まあ嫌われるよりは悪くないわ。だから、にっこり笑って頷いてみせる。カルメア様、可愛らしいですしね。
さて、ここは落ち着いたので、さっさとお清めをしなくてはならないわね。と思っていたら、ナジャが「それはそれとして」と声を張り上げた。見ているのは……あら、カルメア様ね。
「カルメア様あ、このあたりに龍神様の祠はございますか?」
「あ、うちの裏庭に……」
「では、その祠にお参りしてナジャが来た、とお伝えくださいませんでしょうか。スリークのお屋敷にある祠ですから、カルメア様がご挨拶なさるのが一番だと思います」
お屋敷の敷地内に祠があるのはまあ、当たり前といえば当たり前ね。領地をお守りくださる龍神様を、人として領地を治める領主がお祀りするのは当然のことですもの。
カルメア様に祠に行っていただくのは、ナジャが水をまきたいんでしょうね。その間にカルメア様に、こちらの龍神様にお話を通していただく、と。いいのかしら、それ。
「わ、分かりました。ミシア、供を」
「よ、よく分かりませんが承知しました」
「トレイス、護衛をしてやってくれ」
「承知」
私がいろいろ考えている間にカルメア様は、ミシアというらしい侍女を連れてとっととお部屋を出て行かれた。少し慌て者なのは、今後大丈夫かしらと思わなくもないけれど。道中はトレイスもついていったし大丈夫でしょうけれど、問題はこちらの龍神様ね。
「あれで、こちらの龍神様に通じるのかしら?」
ナジャが来た、とお伝えしただけでこちらの龍神様は、事態をご理解くださるかしら。魔龍に関してはここから離れたところのお話だし、魔女は……前の時、ナジャも分からなかったものね。
そういう非常事態だということを、ご理解いただけるのかしら?
「アナンダ兄様のお清めの力がかかってますから、少なくともそういう力が必要な事態だってのは分かってくれると思いますよー。分かんなくても、私に話聞きに来るでしょうから」
おいおい。
クロード様なら、即座にそうツッコミを入れるところでしょうね、これは。
ああもう、こちらの龍神様に失礼なことになっているかもしれないわね。仕方がないわ、いずれにせよ後でお参りして謝罪しましょう。今は緊急事態、と言っていい状況ですもの。
さあ、カルメア様の部屋を出て屋敷の奥へ行くわよ。
「ナジャ、頼むぞ」
「お任せくださーい。じゃんじゃん清めちゃいますよ!」
アルセイム様の短いお言葉に、例によりまくって空気を読まない明るい言葉で答えるナジャ。こら、じゃんじゃんってお水を浪費するんじゃありません。
「だからナジャ、そのお水はアナンダ様管轄のお水でしょうが」
「あ、てへ」
もう、本当に分かっているのかしら、この子ったら。




