92話 奥方様も何とかね
「……話はよく分かりました。怪しいのはあの、テンポウだったのね」
「はい」
私とアルセイム様の話を一通り聞き終えて、すっかり復調されたミリア様は腕を組みつつ難しい顔をされた。一瞬だけ濡れただけだけれど、まあ怒っても致し方ない、わよね。
えーと、ですね。
空気の読めないナジャは、屋敷内をずんどこ歩き回っては見つけた人、ほぼ使用人に片っ端から水をかけていったわけ。さすがに、ミリア様のお部屋に入るときには私がノックして、失礼して入らせていただいたんだけど。
でも、寝込んでおられたミリア様はともかく使用人たちは元気みたいだったから、推定魔女な敵に連絡を取られるわけにも行かないの。なので、カルメア様同様まずお水をぶっかけて後から説明、ということになってしまって。
ミリア様には一応、「お清めの水を掛けさせていただきます」とだけは申し上げたんだけどね。で、そこからアルセイム様にも手伝っていただいての説明で、何とかご理解いただいたというわけ。
「叔母上は、テンポウと会ったのはいつでしょうか」
「数日前だったと思うけれど。旦那様が突然連れてきてね、知り合いから紹介された使用人だって」
ご理解いただいたところで、テンポウの話を伺うことにする。私が尋ねたらまた何かややこしくなりそうだから、主にアルセイム様にお願いします。ごめんなさい肉体労働担当で。
「まあ、旦那様付きになるようだし良いか、と思ったんだけれど……その次の日にはもう、ああテンポウよね、昔からいたわよねって思ってしまって」
「なるほど」
わあ、やはり魔女っぽい。魔女が魔龍を起こしてはてさてどうなる、なんてことを私が考えても分からないから、主に何も考えずに殴ったほうが良さそう。ええ。
「アルセイム、レイクーリア」
しばらく何かを考えておられたミリア様が、姿勢を正してこちらに向き直られた。名前を呼ばれたアルセイム様と私、釣られてナジャも背をぴんと伸ばす。
「これ、あれなの? クロードのところに潜り込んでた、魔女とか」
「その可能性が高いと踏んでいます。ですから、前回のときと同じお清めの水を頂いてきたんですよ」
「そう……」
ミリア様は、さすがクロード様のお姉様ではあると今のやり取りを聞いて思ったわ。私が知っているミリア様ってテンション高めですぐお怒りになる、という感じだったのだけれど、今は起きたことと聞いた話を重ね合わせて物事を考えておられるんだもの。
……あら、ミリア様が私を見ておられる。睨んでおられる、わけではないようだけれど。
「レイクーリア」
「はい」
「その魔女とっ捕まえたら、私にも殴らせなさい。メイスまで貸せとは言わないから」
「は?」
えっとミリア様、何でまた。いえ、殴りたいお気持ちはよくわかりますが。さすがに龍神様のメイスはお貸しできませんが、良さそうな物はあったかしら。
いえ、そうではなくて。
「叔母上?」
「クロードはともかく、うちにまで入り込まれてたなんて黙ってるわけにもいかないじゃない。私だって、そいつ殴りたいわよ。分かるでしょう?」
「そうですよね」
そのお気持ち、よく分かりますとも。勝手に入り込んできて記憶も良いように書き換えられておまけに体調崩して、ですものね。一発や二発じゃ足りないくらい、殴りたいでしょうとも。
「分かりました。殺さない程度にぶん殴って、しっかり捕まえておきます」
「頼んだわよ」
「はい」
……何でしょう。思わず、ミリア様とがっしり握手をしてしまいました。ですが、この手にかけて原因たる推定魔女は殴れるようにとっ捕まえて差し上げますわ。あと、せっかくですから前回殴れなかったアルセイム様にも。
「主様、ミリア様回復なさったのですから、これで全部ですよね」
「そのはずですわ。後はスリーク卿と、テンポウだけです」
「覚えていなさい。ぼこぼこにしてあげるわふふふふふ」
「あ、あの、奥様?」
ナジャの声で一応現実に戻った私はともかくとして、ミリア様は使用人の皆様におまかせしますわね。とりあえず、敵をミリア様が余裕で殴れるくらい弱らせるまでは。




