2話(親友)
声の方に走った。「学こっち」とっさに振り向いた。若い男が今にも折れそうな棒でゾンビと格闘している。その反対で12歳ぐらいの女の子が立てずに尻をついて泣いている。「数豊、さすまたで押さえろ」数豊が突進して民家の塀におさえつける。すかさず学が包丁で刺す。返り血が放物線を描き塀にきかかる。血はオタマジャクシのように先端を膨らませて落ちる。ゾンビが首を精いっぱい伸ばして口を開ける。「カチッカチッ」歯が擦れる音が聞こえる。「数、もっと強く抑えろ」口をまた開けたときだった。男がやつの口に棒を突っ込んだ。ゾンビの口からどす黒い血がたれていた。学がやつの首を深く刺しこんでからは動かなくなった。「ハァハァ」男が荒い息をしながら言った。「死ぬかと思った。ハァハァ、三月ちゃん」女の子は下を向いてうずくまっていた。「ずっと目閉じとったんか、もう大丈夫や」男は女の子の頭を撫で、微笑んでみせた。学が汗を拭いた「一旦落ち着ける場所に行こう」男の息も落ち着いてきた「このすぐ近くに拠点があるから…」2人を見て学が急かす「早く」男が女の子を肩車して歩きはじめた。学は歩きながらずっと周りを見ていた。「助かったわー、ほんまに」学と同じ身長で少し日焼けした若い男だった。「安全なとこなんか?」「保証するって」一分くらい歩くと古風な寺が見えてきた。土壁の塀に囲まれている。下から見ても、瓦屋根が他の民家よりも、のっぽなのが分かる。門の横にある小さな扉から屈んで入った。男の横顔を見ると学と同い年くらいの青年だった。中に入ったが、意外とこじんまりとした寺だった。「学、一応、塀の中確認してくる」「数、ありがとう」一段落して本堂で話を始めた。「改めて自己紹介しとくと俺は信太、こっちが…」「山田三月です」「学」「僕は数豊です」「信太さんは何歳?」「高校三年で17。そっちは」「大学一年で18歳」「中学一年で13」「小学6年生」三月の声は緊張していた。「ここ食料あるん?無かったら俺等のとこ来たらいっぱいあるけど…」「ちょっとしかなくて、情報集めに歩いてたとこで襲われて」「なら日が暮れる前に移動しよ。すぐ近くの学校やから」三月が信太の服をつまんだ。「三月ちゃん、大丈夫やで!もしものときはお兄ちゃんの元陸上部の筋肉で背負うから」信太がほっぺにエクボをつけた。数豊が学に視線を送った。「行こ」日が沈む間近の街を小走りで移動する。街灯は佇むだけで働きやしない。正門にゾンビが徘徊していて裏門をよじ登って入った。「早く、手貸せ」倉庫の中は蒸し暑い事を知っていたから保健室にある程度の食料を運んだ。「飯の用意してきます。学、手伝ってや」「うん」職員室のコンロで防災米を炊いた。数豊が辺りを見回して口を開いた。「あの女の子のことやけど、移動が遅くなってる」「嫌でも強くなるよ。男手も増えたし、気遣ってやってくれるか?」「分かったよ」4人で米と魚の缶詰を食べる。信太が拳を握って言う。「塩の味が懐かしいわー、数豊くん?魚残してんのもったいないって」「あげます」「信太ってなんか明るいよな」「そう?もしかして嫌なん?」学は微笑んで返した「全然、にぎやかなってよかった」信太と三月は保健室のベットで寝た。ソファで学と数豊が横になった。数豊が学にささやいた「一旦は落ち着いたな」「うん、明日は工具店に行こう、学校の守りを固めるべき」「あの子も連れていくん?」「手貸してやって」「ふーっ」数豊が曖昧に答えた。信太は片目を空けて少し微笑んでバレないようにあくびをした。
翌朝、4人で20分ほど歩いて工具店を目指した。移動する時の役割分担も決めた。学が先行し、ピストルと包丁を持つ。数豊はさすまたを持ち、右を警戒する。三月がリュックを持ち、左を見る。信太がさすまたとナイフで後ろをカバーする。学が声を立てる「若干狭い道やぞ、索敵警戒」「右前、一体おる、距離50メートルぐらい?」「小走りで行くぞ」都会の道路には事故した車が横たわり、とても車両では走れない。時々、首輪をつけた犬や猫が家と家の間の狭い道を闊歩していた。寄ってくることもあったが絶対に触らないようにした。「三月さん疲れてないですか?」「うん歩ける」敬語を使う数豊を、信太はこっそり横目で見ていた。こうして工具店に着いた。信太を見張り役にして三人で中に入る。釘、木板、金槌やらをリュックに詰めて帰路につく。(さっきの狭い道は通りたくない)「ここから迂回する」大通りを歩く。「右側見えにくいから注意して」少し歩くと大きな病院が見えてきた。三月が泣きながら震える声を出した「信太、あれ、見て」足を止めずにはいられなかった。病院の駐車場に目を疑うものがあった。それはゾンビが何重にも重なり倒れた、屍の山の数々だった。「ヒタ」死体が1メートルほど積み上がっていた。さらに恐ろしいのは、積み重なったゾンビたちが共食いをしていることだった。「ヒタ」足がなかったり手がなかったりしても貪ることをやめない。最後の一人になるまで貪り続け、生きながらえようとする。「ヒタヒタ」「緊急事態宣言の時、病院に人が押し寄せてあんなことになったんだ」「三月ちゃん見ないほうがいいよ」それは目を奪われている時だった。「ヒタヒタヒタヒタ」裸足の足音が近づいてくる。「三月、後ろ」裸足の女が三月のリュックサックにかみついた。学はとっさに体当たりをした。女は倒れ込み今にも立とうとする。すかさず信太と数豊がさすまたで押さえる。包丁を首に何度も何度も突き刺した。三月はあまりのショックで凍りついていて、息ができなかった。学は冷静だった。「三人いればゾンビ一体くらい何とかなるな、リュックに入ってた昼飯はもう食べられへん」信太が三月を慰めながら言う「いっつも非常食ばっかやと飽きるし今日はどっかコンビニでも行こや」数豊が周りを見ながら学に言った。「行くなら早く行こ」10分ほど歩いてコンビニを見つけた。「おい、これ」信太が指を差した。なんと、入り口に細い木の板が一枚張り付けられていた。「カップラーメンある!」信太が笑ってリュックに詰めた。「信太トイレしてくる」三月が信太に声をかけ店の奥へ行く。誰かの視線が学を見ていた。「仲間を集めろ」学たちは全く気づいていない。学が索敵のために店の外に出た時だった。「ギギギギ」鉄パイプやら金属バットを引きずって6人の若い男がぞろぞろ無言で近づいてきた。学は一歩後退りして、腰の後ろに隠したピストルをパンツの奥に押し入れた。「こ、こんにちは」「誰の島で勝手に食料取ってんや?」野太い声の大男がバットを肩にかけた。「みんな集まれ、島ってなんですか」「ここはオレらの島や、さっさと出ていけ」信太と数豊が出てくる。野太い声が響いた「お前ら中確認しろ」ぞろぞろと2人の男が入っていった。「ちょっと待ってください中には……」「おい!班長、女の子がなかにおったぞ」三月を乱暴に連れてきた。学が睨みつける「その子返せよ」大男がすかさず睨み返す。「俺らの食料を置いていけ」学がみんなに指示した。「食料を渡そう」小柄な男が高い声で言う。「なぁ、この子ボスに持っていくか」大男は1秒ほど沈黙して今にも泣きそうな三月の頭を掴んで顔を凝視した。「いくつや」三月が声を震わせる「……12です」学は腰に手を回した。信太がさすまたを両手で掴んで前へ出た「その子返せよ」大男が学たちを見つめる。ほかの男達は鉄パイプに両手をかける。何秒か沈黙が流れた。大男はため息をする。「若すぎる」学がすかさず言う「食料は返しますから」大男が学を睨む。「この子は返す、早くされ」食料を渡して帰った。三月は泣かなかった。帰り道は誰も、ひと言も喋らなかった。学校に戻ってみんなで飯にした。やっと信太が口を開いて頭を撫でた「三月ちゃんは泣かんくて偉かったで」数豊が学に視線を送った。学がそれに気づいた。「信太、三月ちゃんっていうのやめろ。もう三月や」数豊も三月も視線をそらした。三月は黙ってご飯を食べていた。「ほんまやな」信太はいつも微笑んでるが今日は真剣な顔で学の話を聞いた。数豊が口を開く。「アイツラのことやけど……これからあんなヤツが増えるやろ。敵はゾンビだけじゃないで」学は下を向いて聞いていた。信太がみんなのうつむいた顔を見渡して励ます。「まぁ俺らはピストル持ってるから死ぬことはないって、なぁ?ほら飯くおう」学が焚き火の淡い光に照らされながらゆっくり言い始めた。「俺が甘かった。視野が狭かった」頭を右手で抱え込んでいた。数豊が目をそらして学の肩に手を添える。「学、頼りにしてる」信太がすかさず声をかける「学一人の責任じゃない」学は深呼吸して言った。「いつか都市の食料は尽きる。そしたらこの学校で暮らすなんて無理や」そう言って無造作に工具店で取ってきた板を燃やし始めた「食料が足らん。身の安全も…もっとちゃんとするべきやった……もっと…ちゃんと…」焚き火の炎をまっすぐと見ていた。信太が学の肩に手を置いた「学は一人じゃない、頼れよ」「ありがとうな」微笑んで返した。自分の手を握る。「これからのことや、信太、数、三月、俺たちは田舎に移動する。自分らで食料を取れるようにしなあかん」みんなうつむいているところ、信太はみんなの顔を見ていた。「こういうときはこうすんねん」信太が手を出した。「ほら!」みんなで手を出した。「田舎に行くぞー!えいえいおーー!」「おー!」火を囲んでみんなでクスクスと笑った。その夜、学は一人でスマホを片手にノートにマップを書き写していた。次の日から大移動のための準備を始めた。「信太、食糧と水の分担を担当して」「数は武器を点検しつつ、理科室とかにあるガスバーナーとかマッチとか使えそうなもんを全部かき集めろ」「三月は倉庫に行って手回しラジオを取ってきつつ学校の中から周りにゾンビがいないか見てきて」信太が手を叩いて言った。「俺らで絶対生き残るぞー」「おー!」準備は万全だ。三月と数豊のリュックにはマッチや食料が詰め込まれた。さすまたや包丁はきれいに磨かれた。夕方みんなで最後の飯を食べた。「いよいよ明日やな」「どういう道で行く?」数豊が学に聞く。「まず滋賀へ抜ける。滋賀なら琵琶湖があるから水に困らん。水田も豊富にある」スマホの地図を取り出し、指さした。「今は守口市におる。そこからずっと北東に進む。大阪を出て京都に入る。都市部は避けつつ滋賀に到着する。ここは都市部やから道路が使えんけど田舎に近づけば車も使えるやろうからいつかは乗ろう。」「よし!」「明日は寝屋川市に入る」「みんなで絶対生き残るんや」みんなで顔を見合わせて床についた。
翌朝、方位磁針を右手に学校を出る。数豊は鍋をすっぽりと頭に被っている。学も信太も小ぶりの荷物を背負い、いつでも戦えるようにした。「小走り用意」「索敵警戒」時々、学が声を出して指示を出す。寝屋川市と青い看板が見えた。「右の事故車遺体ある。息止めろ」2日で寝屋川市を縦断した。食糧管理は信太に任せていた。「あと2日で補給やな」「枚方市に入って学校を探そう」寺や保育園のような柵や塀のある建物で夜を越した。夜は懐中電灯を真ん中に、布でくるまって話をした。好きなものや楽しかったことを言い合う。「三月が好きな食べ物はケーキ」信太が答えた「おれはステーキ」「甘いものが恋しいですよね」数豊が小声でささやいた。学は耳を傾けながらマップを確認しているが、たまに相槌を入れる。「三月はなんのケーキが好きなん?」「ストロベリーショートケーキ!」「いちごの甘さがスポンジを際立たせるんよな」信太はいつもいい相槌ををする。外ではゾンビが柵から手を伸ばしている。「僕はモンブラン」「えーモンブラン好きなのー?」「嫌いなんですか?」「苦手ー」「それは三月さんがガキやからやな」数豊が笑って言った。「一年しか年変わらんくせにー!」学はマップを片手にほほ笑んでいた。
日が登ってから出発した。まだ都市を抜けられないが、たまに4人でしりとりぐらいはできるようになった。市の境についたとき、ケーキ屋さんによってやった。「砂糖ぐらいはあるやろうし、いっといで」信太と学が外で待ち、数豊と三月が入っていく。店のガラス越しに2人が砂糖をなめているのが見える。「学、ありがとうな」信太が鼻をかいて言った。「信太が来てくれたからや。こっちこそ」突然、信太がさすまたを構える。ゾンビがゆっくりと近づいていた。学が店の中に叫ぶ「2人とも行くぞー」信太がゾンビの横に回る「俺が足を」「分かった」信太がゾンビの足めがけてさすまたで突進する。失敗しただるま落としのようにやせこけたゾンビの体が倒れかかる。「今や!」学が足の右足のけんをさしきる。「数、早く!」数豊がさすまたで押さえ込む。のどをかききって終わらせた。三月がハンカチとアルコールを取り出す。「はい、学」「ありがとう三月、こいつだいぶやせてるよな信太」「あぁこのままさっさとくたばっていけば、いつかは……」信太は空を見上げていた。必要なとき以外は戦闘を避けて、新たな学校を目指した。昼飯を終えて歩き出した。民家が立ち並ぶところだった。「ん?学!右前の路地、人が通った」「追うぞ」路地を抜けると線路が横切っていた。「線路の奥に何か走っていった」線路の奥の道端で一人の女の子が電柱に隠れようとしていた。線路の柵をよじ登って数豊が声をかける。「大丈夫?」その時だった。反対から一人の若い女が走ってきた。その後ろから若い男が2人、近づいてきた。片一方の男は小学生4年生くらいの男の腕をつかんでいる。女が電柱に隠れた少女に叫んだ「遥ちゃん、逃げて」信太が女に近づいて声をかける「何があったんですか?」学は数豊と三月を後ろにつかせる。「数、防御体制。三月、後ろ見とけよ」女は困惑して言う。「仲間じゃないの?」「仲間?なに?」女が信太に近づく。学は包丁を握って言った。「信太そいつから離れろ」男たちが近づいてくる。「学何ゆってんだよ」女が涙をながして信太の腕を握る「助けて」「そいつもグルかもしれないだろ、信太!」動いていないのに学の息が荒くなる。「そんなことゆってる場合かよ」男たちが距離をとって叫んだ。「その女をこっちによこせ。この男の子見えるやろうが?」男はナイフを男の子の首に当てた。もう一人の男は出刃包丁で構えている。「ハァハァ」息が荒くなる。学は女を睨む。信太が叫んだ「学焦るな」「学!」数豊がさすまたを握りしめ前に出る。男たちが一歩ずつゆっくりと近づいてくる。学は体中が熱くなってることを感じて深呼吸した。「動くな」腰の後ろに手を回しゆっくりと拳銃を構えた。男たちは顔を見合わせ立ち止まる。「動いたら撃つ」「カチャ」撃鉄を後ろにひく。「ゴクリ」男たちはおどけて顔を見合わせた。「その男の子をこっちに」「ゆっくりだ」男の子がゆっくり歩いてくる。「ナイフを置け」出刃包丁とナイフが地面に横たわった。「お前らゆっくり後退りしろ」男達は腰を低く曲げて手を挙げて後退りした。「あっち向け」男達の視線を反対にした。「今からお前らを撃つ、当てられたくないなら走って逃げろ」男達はそれを聞くなり一目散に走り去った。学は拳銃を構えたまま動けなかった。「学もう終わったよ」信太が肩をたたいた。学はまだ息が荒く、瞳孔が開いたままだった。それを見た信太がみんなに言う。「とりあえず学校に行こう」枚方市に入る。女が信太に話しかけた。「あの人、いつもあんなんなんですか?」目を大きく開ききって歩いている学を指さした。「いや、いつもは冷静なんやけど、疲れてたんかな」中学校に入った。学は顔を洗ってやっと深い呼吸ができた。「信太ごめん、迷惑かけたな」「頼れって言ったろ?数豊が防災倉庫を開けて飯の用意してるわ」信太は優しい微笑みを見せた。「そうか」学は下を向いていた。校長室のソファでみんな腰掛けた。数豊と若い女が鍋を机に置いて、三月が倉庫から食べ物を持ってきた。「開くでー?」信太がふたを開けると、ふっくらと炊けた白米が光沢を見せた。「ほらみんなこっちも」三月が倉庫から保存食の羊羹を持ってきていた。「久しぶりの甘いもんですね」数豊が男の子に手渡す。学は少しばかしポカンとしていた。女が白米をよそっていく。学は校長椅子を持ってきた。皆で机を囲んだ。「いただきま~す」学が白米を口に入れて話し始めた。「3人の名前と年齢を教えてください」「私は秋です」学はやっと女の顔を見た。黒く光沢のある髪を垂らした、綺麗な若い女性だった。「秋です。大学1年生の18歳です」目尻が淡く赤色なっていた。「遥です9歳です」遥は補聴器をしていた。「みなと11」男の子は小さな声で、真っ黒に焼けた子だった。4人の紹介をして本論に入る。「何で逃げてたん?」秋が水をゴクリと飲んで口を開いた「3人で行動してたんだけど突然見つかって、あの人たちが急に走り出してきて、怖くなって…止まってって言っても止まらなくて……」「そうか」「ここに2週間ぐらいは落ち着けるよね?」秋は校長椅子に座っている学を見た。「いや、それはない。あいつらがもし、もっと大きな軍団だったら…俺らのあとをつけていたら…」学はため息をついて話し続けた。「どのみち俺らは滋賀に行く。早く着くことに越したことはない」「滋賀って…遠くない?」学はノートを見ていた。信太が明るい口を開く「今いけば稲刈りの時期に十分間に合う」秋がコップを置いた。「私が言ってるのは…」学が遮った「田舎に近づくにつれて道も使える。それまでは頑張ろう」数豊や遥はじっと聞いていた。信太が横にいた遥の目を見て微笑んだ「まぁ人が増えたからさ、ゾンビに襲われてもへっちゃらやで。俺らはもう3体も倒してるんやで」三月も数豊も誇らしそうに笑っていた。学も信太に呼応した「おれは5体な」信太が手を伸ばして言う「こういうときはこう!」数豊、三月、学次々に手を伸ばした。「皆で滋賀に行くぞー!」「デザート食べません?羊羹ありますよ」「お砂糖も!」
夜、食料をまとめて明日の準備をした。学は信太と数豊と秋を呼んで話をした。「今日の夜は順番で見張りをする。疲れてるやろうけどいけるか?」学が秋に聞いた。「うん。年長が働かなあかんもんな」
翌朝、持ち物の点検をして学校を出た。「学、これ方角合ってんの?」「ちょっと曲がってる、ありがとうな信太」何分か歩くと黄緑に染まった丘が見えてきた。「これって」信太が学の肩をたたく。「うん、淀川の堤防」登ってみると、枚方の街が足元に広がる。小高い丘になっていて周囲では低い草が風に揺られている。舗装された道がまっすぐ奥へ伸びている。三月が笑って言う。「ひろーい!学!あそこ小さな畑がある」街の中にもにもようやく、ポツポツと小さな田畑が現れるようになった。「何人かは堤防の上に残して畑に行こう」畑にはナスビやトマトの株が鎮座していた。「ネギあるー!」堤防の上の学が叫ぶ。「しんたー!種にする用も、取っといてやー」握り飯を片手に歩いた。信太が学にトマトを手渡した「今日はどこに泊まる?」「保育園かと思ってる」トマトにかじりつく。「全員警戒」信太が呼応する「けいかーい」「もうすぐ病院に近づく。堤防をずっと進めば大丈夫やろうけどな」病院を離れた距離から横目に見て進んだ。病院の建物の外についている階段の柵にゾンビが倒れていて、まるで柵に干された布団のようだった。何度かゾンビと出くわしたが、さすまたで押さえつければ何ともなかった。左手に淀川が流れ、堤防を進んだ。右手には大きなマンションが、学たちを遠くから見下ろしていた。前までかすんで見えていたはずの山々も緑がかって見えるようになった。人けのない建物を転々として歩いた。「シャッターが閉まった家を見つけるんやでみんな」「信太あれ閉まってるよ」「学、3時の方向」信太と学がその家に食料を取りに行く。2人が街に入っていく。街は堤防の開かれた土地とは違う。いつも誰かに見られているように薄暗い。バールでシャッターを壊して入った。「信太は二階を」信太のバールと学の包丁でカチンと音を鳴らした。学が台所をあさっているところだった。「バタン」「うわー」信太の声が聞こえた。急いで階段を駆け上がった。「信太」二階の通路で信太が腰を抜かしていた。枯れたように黒ずんだ老人の死体がベッドに横たわっていた。「この部屋にははいらないでおこう」「シャッター閉まっててもおるんやな」学が味噌漬けの小さな壺と缶詰を、信太が乾燥パスタと米を持って堤防に戻った。淀川の土手の木陰で調理した。数豊はみなとと木の枝でチャンバラしている。遥と三月と秋はおにぎりを作っている。(数豊もああいう一面があるんだな)「ほんとはああやって笑ってるのが普通だよな、学」「そうだな、信太」学は別の方をサッと向いた。真っ昼間の太陽のもとで、学と信太は堤防に登り、一緒に望遠鏡を使って街を見ていた。何度かゾンビが徘徊してるのが見える。「信太、人が多すぎる。1日の食料を集めるのに必死で進むペースが落ちてる」信太が返す。「でも、靴擦れしてる子もおる」学が頭をかく。「大丈夫やって学、稲刈りまで一ヶ月以上あるんやから」「……」優しい声が聞こえる。「でも食料のことは問題やで」振り向くと秋がおにぎりを持って上がって来ていた。「ちょっとは休みな、お二人さん」秋が学におにぎりを渡した。学は、秋が信太におにぎりを手渡すのを、横目に見ていた。「今日は近くの学校に泊るよ。今日はここまで、進まん」秋が笑った。堤防のすぐ横にある小学校を見つけた。みんなは一旦堤防に隠れさせた。信太と学が学校の校門をよじ登る。2人を教室から見る影があったが気付かなかった。「学ー!職員室あったぞー!」夕暮れに照らされた地面の影がさっと動いた。「ほらここ」「二階にあったんか」ドアを開けようとした時、聞いたことのある音がした。「カチャ」「カチャ」2人の動きが止まった。




