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黒いナニカ  作者: 「名無し」と「ナニカ」
ナニカの記憶
9/11

続編4「飴玉ひとつ」

「坊や、ひとりかい?」


声をかけられて顔を上げると、知らないおばあさんが立っていた。


夕方の公園。


ブランコに座っていた僕の前に、おばあさんはゆっくりしゃがみこむ。


しわだらけの目が、やさしく細まった。


「寂しそうじゃのぉ」


僕は首を横に振った。


寂しくなんかない。


僕は待ってるだけ。


友達を。


僕だけの、はじめてのお友達を。


おばあさんは少しだけ困った顔をして、それから鞄をごそごそ探った。


ころん。


赤い飴玉がひとつ、掌に転がる。


つやつやしていて、夕日にきらきら光っていた。


「ほれ」


差し出されたそれを、僕はじっと見つめる。


「どうして?」


「昔の人はのぉ、いい子に飴をやるもんじゃ」


おばあさんはそう言って笑った。


やわらかくて、あったかい顔だった。


「お前さん、いい子みたいじゃから」


僕は飴玉を受け取った。


ひんやりしていた。


「……僕、いい子?」


「そうじゃとも」


おばあさんはすぐに頷いた。


その答えが嬉しくて、僕は少しだけ笑った。


おばあさんは空を見上げるみたいにして言う。


「知っとるかい。神様は、いい子の願いを叶えてくれるんじゃよ」


「神様?」


「そうじゃ」


ゆっくりと頷く。


「悪い子の願いは叶えん。でも、いい子ならちゃんと見とる」


僕は黙って聞いていた。


おばあさんの声は、不思議と安心する。


「昔から言うじゃろう。いい子にしてないと神様に見放されるって」


「……僕は?」


おばあさんは少しも迷わず言った。


「お前さんは大丈夫じゃ」


そして、にっこり笑う。


「だって、いい子じゃもの」


胸の奥がぽかぽかした。


「お願いしたら、叶う?」


「叶うとも」


「なんでも?」


「なんでもとは言えんけどの」


おばあさんはくすっと笑った。


「でも、本当に欲しいものなら届くかもしれん」


僕は飴玉を強く握りしめた。


「どうやってお願いするの?」


「手紙を書くんじゃ」


おばあさんは人差し指を立てる。


「神様へって書いて、枕の下に入れて眠る。そうしたら神様が読んでくれる」


「ほんと?」


「ほんとじゃよ」


その目は、嘘をついているようには見えなかった。


「ワシも昔、叶えてもろうたことがある」


「なにを?」


少しだけ照れたように、おばあさんは笑う。


「家族じゃよ」


しわだらけの指が、そっと膝を撫でる。


「ワシは子供を産めん体での。でも神様が、じぃさんと会わせてくれた」


その声は、とても優しかった。


「だから今でも感謝しとる」


しばらくして、おばあさんは立ち上がった。


「そろそろ帰らんとの」


そして僕の頭を、そっと撫でる。


あたたかかった。


「飴玉ひとつに、感謝をひとつ。忘れんようにな」


おばあさんはゆっくり歩き出した。


何度か振り返って、手を振って。


やがて夕焼けの向こうに消えていった。


僕は手のひらを開く。


赤い飴玉がひとつ。


きらきら光っていた。


いい子なら、願いは叶う。


神様はちゃんと見ている。


おばあさんは、そう言った。


僕はずっといい子だった。


ちゃんと静かにしていたし。


ちゃんと言うことを聞いた。


悪いことなんて、ひとつもしていない。


だからきっと。


叶う。


その夜。


僕は生まれて初めて、手紙を書いた。

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