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第2話「父親とは名前だけだな。」
この家には父親が居た。普通の家族には当然居なくてはならない存在だ。でも、この家族
には父親が居た。居たとは、過去形だろうか、今居ると言うことだろうか...
誰にも分からない。
父親は不思議な人だった
すべてを受け入れ、
すべてを許し、
すべてを収める。
まるで神様のようだった。
けれど、神様ではない。
父親だ。
ただ、それだけの存在だ。
毎晩、父親は子供の枕元に立って言う。
「父親は偉大なのだ」
静かな声で。
「父親は絶対なのだ」
優しい声で。
「父親は、父親なのだ」
子供は頷く。
頷くしかない。
⸻
けれど、この家に父親の匂いはしない。
食卓にも。
廊下にも。
風呂場にも。
普通ならそこにあるはずの、誰かが生きている匂いがしない。
なのに父親は居る。
声だけがする。
足音だけが響く。
父親は確かにこの家に居るはずなのに、どうしてだろう。
誰も父親がどこから来て、どこへ消えるのか知らない。
ただ毎晩、決まった時間になると現れて。
子供に言うのだ。
父親は凄いのだと。
父親は父親なのだと。




