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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第41話 さあ、楽しい時間が始まりましたわ

「まさか、君からこうしてエスコートを頼む日がくるとは……」


「私、有言実行しかしてませんけど? 良いではないですか、新年の宴の予行演習として申し分ないですもの」


 馬車が邸の前に到着して、フィアビリテが扉を開く。ルゼルヴェが先に降り、フルールへと手を差しのべた。

 それにフルールも手を乗せてドレスの裾に気をつけて降りようとし――。


「――っ! 一言、言って下さいません!?」


 段差に足を伸ばしたところで、ふわりと足が宙に浮いた。明らかに人為的な風で、身体が浮遊感に包まれる。

 そこへルゼルヴェが手を引き、そのままゆっくりとフルールは地面に降り立つ。


「わざわざ気をつけて降りろなどと、君は子どもでもないだろう?」


「……ルゼルヴェ、そこは魔法を使うところの了解を取るんだよ」


 呆れた声を出したのは、今回御者役のフィアビリテだ。フルールも頷き返し、全力で同意したいところである。


「そういうものか?」


「そういうものですわね。ここ、戦場ではありませんから」


 ある意味これから戦場にするが、フルールが言いたいのはそうではない。

 緊迫した戦場でのフォローに、いちいち了解など取らないだろう。それは分かる。ルゼルヴェが、それをここでも適応していることが問題なのだ。


「それは分かっている。久方ぶりのドレスだろう。君が、動きづらいのではと思ったのだ」


「……旦那様はもう少し、会話を学ばれた方がよろしいですわ」


 カームがこの日のためにと、張り切って髪を結ってくれている。ここで乱すわけにはいかないと、フルールはため息をつくに留めた。

 まぁまぁと、フィアビリテが賑やかに間に入ってくる。


「あ。何かあったら、合図下さいね、二人とも。ここで待ってますから」


「何もないわよ。ここは、サントュールの邸でしょうに」


 フルールが足を踏み入れるのは、二回目だ。出来れば来たくもなかったがと、思わなくもない。


「お帰りなさいませ、侯爵様、奥様」


「……あら。この間とは違って、ずいぶんと形式的に出迎えてくれるのね? でも、おかしいわ。それでもまだ足りないと思うのだけれど、どうしてかしらね?」


 別邸を預かる執事だろう男が、フルールたちを出迎えてくれる。ルゼルヴェは何も言わず無表情だが、どこかつまらなさげな表情だ。

 代わりに、フルールが小首を傾げて話しかけた。


「……それが足の調子が優れず安静にされておりますので、その……、大奥様は、サロンの方でお待ちです」


 数ヵ月前に対面した時は、邸の中をドレスで普通に闊歩していた。いったいいつから足が悪くなったのだろうか。


「そう。私、場所に明るくないの。誰か案内は、もちろんしてくれるのよね?」


「はい! こちらでございますっ」


 案内をかって出た使用人の後ろをついて歩き、持ってきた扇を口許に当てたフルールは、ルゼルヴェに進言する。


「ご気分が優れないようでしたら、旦那様は逃げずに背筋を張っていれば良いですわ。私が頼んだのはエスコートのみ、ですもの。ここから先は任せていただいてもよろしくてよ?」


「……そういうわけには、いかない。私にも、やるべきことはある」


 返ってきたルゼルヴェの声は、わずかに固い。苦手なことは以前聞いたが、思っているよりも根深そうだ。


「それはつまるところデザートの話でしょう。お手紙で通告されても良いくらいのものですわね。ですから旦那様は、横でおくつろぎ下されば良いのですわ」


 それでもルゼルヴェが、フルールが暮らす町へ来る前に、足取りを追ってこの別邸を訪れたことは聞いている。


 ――旦那様、逃げない性根だけは出会った頃から変わりませんわね。それは十分、称賛に値しますわ。


 時には逃げて人任せにすれば良いのに、不器用ながらも自己責任を貫いている。それはきっと、この先で待つ人物のせいでもあるのだろう。


「大奥様、侯爵様と若奥様がお越しにございます」


 使用人と義母とのやり取りの後、中へと通される。温室も併設しているらしく、庭に面した外側半分がガラス張りの造りになっていた。


「本日はお時間とっていただき、ありがとう存じます。改めまして、ルゼルヴェ・サントュール侯爵が妻、フルールでございます」


 庭の景色が良く見えるそこに、テーブルとチェアのセットが一組ある。

 出迎えるでもなく優雅に座る貴婦人へ向けて、フルールは髪が一番映えるようにゆっくりとカーテシーをする。


「まぁまぁ、貴女ったら本当にルゼルヴェの妻だったのねぇ」


「ええ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。先日は突然の来訪でお手を煩わせてしまい、大変心苦しく思っておりました。謝罪の機会をいただけて、恐悦至極に存じますわ」


 白々しい夫人の態度に、フルールも微笑を浮かべ思ってもないことを当然のように並べた。


「さあさあ、お座りになって、息子夫婦とお茶なんて初めてですからね。いつもご婦人方から聞くばかりで、楽しみにしていたのよ」


「そう言っていただけて、私も嬉しく思いますわ。ずっと忙しかったものですから、なかなか時間が取れませんで失礼いたしました」


 使用人が引いた椅子に、フルールとルゼルヴェそれぞれが腰を下ろす。以前より歓迎の雰囲気はあるが、心からもてなす気は全く感じられない。


 ――あくまでも偉いのは向こうで、私を下に見てるのね。


 それでも表面上、フルールへ好意的な様子なのは下心の現れだろうか。とにもかくにも、開戦の火蓋は切って落とされたのだ。

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