表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/125

第39話 感情のジェットコースター

誤字報告ありがとうございます! m(_ _)m

「はぁぁぁぁあ」


 一人きりになった室内で、フルールは布団に潜り身悶える。

 静まり返ったそこに、鳥の鳴く声が耳に優しく聞こえた。


 ――寝てても良いって、それじゃあ、いつまで……。


 籠っていたところで、気まずさが緩和されることはない。それに、人の家だ。いつまでも居座るわけにもいかないだろう。


「……温かかったのが、悪いのよ」


 二度寝をしようとしたのは温かくて、心地よかったからだ。嗅ぎ慣れない香りは、決して嫌ではなくて。

 規則正しい鼓動のリズムは、かつてのコチコチという目覚まし時計の音を彷彿とさせた。


「懐かしくなって、しまうじゃない……」


 階下からだろう、鳥の声に混ざって物音もしてくる。バタバタと騒がしいそれは、今世ではなく、前世の両親を思い出させた。


 ――全部、夢を見たせいだ。


 思い出すことなんてなかったのに、一度開いた記憶の蓋は、なかなか閉まってくれない。


「ダメね。起きないと」


 袋小路な思考を中断して、勢いをつけてベッドから起き上がる。

 砂埃でパサつき汚れた栗色の髪に気づき、服装にも目がいく。ルゼルヴェから借りたシャツに上着、ワンピースのままだった。


 ――それもそうか。


 女将の話では、夜中にここに着いたのだ。ルゼルヴェは言葉通り、何もしなかったのだろう。

 フルールは上着を脱いで、近くの背もたれつき椅子に掛けた。シャツ、ワンピースと脱ぐと、イメージ通りに魔法を発動する。


 ――むしろ、見ていたらうるさいかも。


 頭のてっぺんから手の先、足の先まで順番に手を当てて滑らせ、水蒸気でざっと汚れを取り除いていく。

 その途中、赤黒くなった皮膚がいくつも目についた。霜焼けというか、氷結魔法での自業自得だろう。


「服は……」


 空中に水球を作り、シャツとワンピースを放り込むと洗濯機の要領でザブザブ洗う。

 最後は、衣類に残った水分を汚れと一緒に蒸発させれば完成だ。


「……上着は、さすがに」


 切られたままのワンピースを着た後、シャツのボタンを上までかっちりと留める。

 背もたれに掛けた上着を見つめて、フルールは悩む。貴族の服は、ややこしいものが多い。借りた上着にも、刺繍が施されていた。


「せめて皺だけでも、取りましょう」


 スチームアイロンを思い浮かべて、蒸気を魔法で作り出す。襟、袖、裾と手を取って一つ一つ処理していく。

 最後は汚れた水を、フルールは窓を開けて外へと向けた。


「原子分解……」


 極端なイメージだ。そこまでとは行かずとも、細かく、細かく、分解して風に溶けていった。


 コン、コン、コン。


「……はい?」


 ノックが三回響き、フルールは扉を開けた。フルールの身なりに意外そうな顔で、軽く目を見張ったルゼルヴェがそこにいた。


「仕方ないではないですか。身支度は一応整えたのですけど、服が他にありませんの。そんな不躾な目を向けないで貰えません?」


「ああ、いや……。そうではなくて、だな」


 ルゼルヴェは着替えたのだろう。髪も整えられ、真新しいシャツにズボンのラフな出で立ちだ。対するフルールは、と卑屈になってしまう。


 ――って、これじゃまるで、服をねだってるみたいじゃない!


 しどろもどろなルゼルヴェに、フルールもそうじゃないと、はたと気づいて決まりが悪くなる。


「……服、服か。置いている私の予備でよければ持ってくるが。女物を、すぐはさすがに……」


「大丈夫です。私はこのままでも構いませんから、ご用件を! 朝食ですか!?」


 律儀に思案して返してくるルゼルヴェに、フルールは噛みつくように返事をした。

 どうにも調子が戻らない。頭の中は絶賛、台風でも到来したかのように騒がしい。


「朝食……それも、そうだが。女将は起きた時で良いと言ったが……、その、君のことだ。すぐに知りたいだろうと思ってな」


「……なんですの?」


 ルゼルヴェの真面目な雰囲気を察知して、フルールも意識を無理矢理に切り替える。


 ――何か、問題があったのね。


 じっと見返した彼の瞳からは、何の感情も読めない。昨日の件ではないと気づくと同時に、スッと胸の内が冷えた。

 


「……領都にある君の店舗、何者かに荒らされたとのことだ」


「――見に行きますわ」


 冷えるどころか、昨日に続いての出来事に、フルールの気持ちは恐ろしいほどに凪いだ。先ず必要なのは、正確な状況確認だ。


「はい、はい、はい。先ずは、朝飯を食べてから行きな! あとお嬢ちゃん。そんな男物のシャツにワンピースなんて、事後に見えかねない服で出てくもんじゃないよ」


「じっ――!?」


 声が裏返ったフルールの絶句する挙動に、階段を上ってきてた女将はなんでもないように、その横のルゼルヴェに視線を向ける。


「この食堂にある服で一番近いサイズは、ルヴェ、アンタのだよ。さっさと貸してやんな。その後、ちゃんと店で見繕ってから、店舗に行けば、誤解も何も生まれやしないさね」


「誤解って、女将さん!」


「グチグチ言うんじゃないよ。噂なんて、背びれに尾ひれに、あることないことつくもんだ。今でさえ、外から良からぬ噂が出回っとるんだからね」


「領都にも回っていたか」


 今日これからの行動が、女将によって段取りを組まれていく。何もないことなど女将も知るところなのにと、フルールが抗議する横で、ルゼルヴェが冷静に話を聞いていた。


「意図的に流されてるんだ。私に聞こえないはずがないよ。まぁ、ここでまともに話を聞く連中は少ないさ。向こうからすれば、面白くないだろうねぇ」


「あの! 何の話ですか!!」


「サントュール侯爵家と王家が、悪政を始めたというものだ」


「領都で独占販売を始めるとも言ってるね。下らない話が好きな連中だよ、全く」


「はぁ!?」


 話が見えず置いていかれたことに、フルールが憤慨すれば、返ってきたのは涼しい顔をして噂の内容を口にする二人だ。

 事の重大さが分かっていないはずがないのに、えらく落ち着いたものだった。

ブクマ、リアクション、評価等々、いつもありがとうございます

四半期ランキング、209位をキープしております( ;∀;)


ドタバタしていますフルールをこれからも見守っていただければ!(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ