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【二章完結】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第38話 どちらがやらかしたのでしょう、旦那様

「やっと出てきやがった。おせぇぞ」


「待たれる謂れもないが」


 ルゼルヴェが外へ出ると、不機嫌なアルディが出迎えた。

 フルールの魔法で冷やされ、枯れかけていたはずの草花が、生き生きと空に向かって伸びている。月夜に照らされた緑は、瑞々しく風に揺れていた。アルディの仕業だろう。


「んで、呼びつけたのは、また嬢ちゃんの介抱か?」


「要らん。ここからなら領都が近い。任せたいのは、中の男どもの方だ。虫の息だが、貴方なら情報を吐かすくらいわけないだろう」


 アルディが、ルゼルヴェの腕の中にいるフルールについて言及する。

 眠る彼女を起こさないよう、ルゼルヴェは静かに言い放つ。魔力枯渇を起こしたわけではない、疲れて寝ているだけだった。


「ちっ、野郎の世話かよ。何か、最後は詰所にぶちこめばいいのかぁ?」


「必要ない。証拠の一つに添えるだけだ。無くても問題ない。最後は生き餌にでもすればいい」


「ハッ、サントュール式で良いわけだ。そりゃ可哀想な最期だな」


 ボリボリと首の後ろを掻きながら、アルディはルゼルヴェの横を通りすぎる。なんだかんだと、引き受けるらしい。


「それから、首謀者に関してだが――、っ」


 ルゼルヴェが、アルディの背に言葉を投げる。それに顔を向けること無く、ヒラリと手を振って彼は応えた。

 ついでとばかりに、ルゼルヴェの後頭部と背中へ、雑に服が投げつけられる。いつの間に脱いだのか、アルディの上着だった。


「誰だろうと、お前の流儀でやりゃあいい。どいつもこいつもガキじゃねぇんだ。相応の対価は払わせろ。それが責任ってやつだ」


 ルゼルヴェがさらに何かを言う前に、足を止めたアルディが、彼を一瞥して言葉を付け加えた。


「手に余るなら、俺に振れ。ガキのケツくらいは、俺にだって拭ける」




 ◇◆◇◆◇◆◇




 もぞもぞと身じろぎをして、衣擦れの音がする。季節が秋に移り変わり、朝は少し肌寒さが出てきた。フルールは温もりを求めるように、背を丸くする。


「――んぅ」


 朝日の眩しさに、フルールの目蓋が震えてパチリと開くと、日に焼けていない白い肌が見えた。

 そろりと見上げれば、至近距離でルゼルヴェが眉間に皺を寄せて目を閉じいた。辺りは静かで、寝息が聞こえた。


「ひっ……、ぃ」


 乾いた喉から、ひきつれた音が漏れる。ピクリと、ルゼルヴェの眉が動いた。

 彼が目を開けるのと、わなわなと震えたフルールが顔を真っ赤に大声を上げるのは、ほぼ同時――。


「ぃぎゃぁぁぁぁあ!!」


 貴族としてはアウトだろう奇声が、宿屋の建物内に響き渡る。

 ダダダダダッと、勢いよく階段を駆け上がる音がし、部屋の扉が弾けとぶかの如く、バァンッと乱暴に開け放たれた。


「ル、ヴェ坊ぉぉお!!」


「……るさい」


 ズカズカと遠慮無く部屋へと入った女将の怒号に、ルゼルヴェがむくりと起き上がる。そのまま不機嫌を隠さず、じろりと睨んだ。


 ――なんで、なんで、なんで、一緒に寝てるのぉぉお!?


 フルールはと言えば、バクバクと心臓の鼓動をうるさく感じながら、あまりのことに固まったままである。


「アンタ。夜中に来たと思ったら、なにやってんだい!」


「よく――見ろ! 私のせいじゃない、不可抗力だ」


 ルゼルヴェが欠伸を噛み殺しながら、シャツを指差す。そこにはフルールの手が皺になるほどしっかりと、ルゼルヴェの服を握りこんでいた。


「っ!」


 ――なんで、私ぃぃ!?


 バッと手を離したフルールは、両手を擦り合わせるように胸元へ持っていく。

 真っ赤に染まった顔からは、火が出そうなほどの熱を感じていた。


「……それから、彼女は布団を被っているが、私は被ってないだろ。何もしていない」


 ルゼルヴェはチラリとフルールを見た後、毅然とした態度で女将へそう弁明をする。

 二人の間、掛け布団がしっかりと壁の役割を果たしていた。

 女将はと言えばそれをジト目で確認しながらも、手に持ったフライパンをしっかりと力強く握ってる。


「なら、椅子にでも座っときゃ良いんだ。紛らわしいことをするんじゃないよ」


「握られたままじゃ、互いにバランスが悪い。私だって、歩き通しだったんだ。少しくらい横で寝ても、問題ないだろう。夫婦なんだから」


 ベッドから降りると、ルゼルヴェは首筋と肩を揉んでいる。フルールの方を見ず、ばつが悪そうに窓の外を眺めていた。


「同意も得てない。求愛の癖に、何言ってんだい。現に叫ばれてるじゃないか、情けないねぇ、全く」


「――なっ!」


 女将がため息をついて、振り返って目を剥いたルゼルヴェの背中を、フライパンで容赦なく思いっきり叩く。


「……ぐぅ」


 金属の鈍い音が室内に反響し、まともに打撃を受けたルゼルヴェは苦悶に顔をしかめて、歯を食い縛って呻き声を上げた。


「アホなことやってないで、降りて手伝いな。日中に来るならまだしも、急に来るから、まだ何も用意しちゃいないんだ」


 女将は有無を言わさず、ぐいぐいとルゼルヴェを部屋から追い出すと、布団に顔を埋めるように羞恥に耐えているフルールへ声をかけた。


「まだ寝てても良いし、起きるならゆっくりと降りといで。その時には朝食も出来てるだろうからね」


「……すみません。ご厄介になり、ありがとうございます」


 布団からひょこりと顔を半分覗かせて、フルールは謝罪と感謝の意を伝える。

 それに女将は快活に笑いながら、フライパンを肩に担いで部屋を後にした。


「お嬢ちゃんの気にすることじゃ無いよ。あの子らは、いっつも、ああだからね」

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