第31話 笹舟を作って、遊んだことを思い出していただけで
「――はぁ、どうしてこうなったのかしら?」
ガタガタと粗忽な音を響かせて、馬車が揺れている。閉めきられた中からでは空を確認することも出来ず、今が何時なのかも分からない。
フルールにひっつき泣きつかれて眠る、ディリーとジャンの横顔を眺めれば、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「――以上が、今年の目安にはなっております。明らかな余剰分を先だって加工した物が、倉庫に運んでありますので後程ご確認いただければと……」
「ありがとう。急に任せてしまって、ごめんなさいね。お詫びもかねて、代金の他に、加工品を持ってきたの。希望者の皆に配ってもいいかしら?」
家で数日過ごし、再び戻ってきたエルヴァージュの村で、フルールは村長と話をしていた。話が一段落したところで、フルールも家から持ってきた物を提示する。
「ここで買い取った原材料を加工して、最終的には商品として売る形がこうだと、イメージをしてもらえたらいいわ。もちろん、先日の食事会でお約束した通り、今後の引き取りの際に希望者へは販売もするわよ」
「は、はぁ……」
ハの字がデフォルメになりつつある村長の困り顔に、フルールはどことなく苦笑する。
保存料のない現状、作った物のうち液体は特に、一週間程度で使いきることになる。普段使いとして生活に馴染んでから、手に入らないとなれば問題だ。
――人手不足が、課題だっけど。素行も問題なさそうと聞いてるから。
良いタイミングで、ラベンダー畑の作業も一段落していた。村と町を行き来する人手の心配は、要らなくなったといって良い。
「鮮度と品質を優先してほしいの。だから足しげく人が来ることになると思うけれど、気負わず取り組んでくれていいからね。運搬人が滞在中は、雑用などを言付かってくれてもいいから」
「そんな、わざわざお役人の方を煩わせるなんて……」
「私の事業に、上とか下とかはないのよ。無理強いはしないわ。ただ、運搬人にも話を通しておくらから、手が必要な時は遠慮せず頼ってね」
フルールは無駄を省いて、効率を追求する方が好きだ。住み分けだって必要だろう。
それでも新しいことを始める時は、石橋を叩いて渡るに越したことはない。愚痴でさえ貴重な情報源だ。遠慮がちな村長に、フルールは変わらず微笑み掛ける。
――挨拶だけじゃなくて、世間話が出来るくらいには、打ち解けてくれたら行き違いは減るでしょう。
新しいことは、何気ない会話から生まれることもたくさんある。頭の堅いフルールは、場を設けるくらいしか出来ない自覚があった。
――前世の経験則ばっかり、だからねぇ。
義務教育に進学、アルバイト、会社員時代、好きなだけ嗜める読書を始めとしたエンターテイメント。今世と比べれば雲泥の差だったろう。
フルールは村長の家を出て、村を散策する。久しぶりの来訪に、驚く人もいれば声を掛けてくれる人もいた。
「嬉しそうですねぇ、奥様」
「そうね。やっぱり平和が一番だもの」
「え、姉御とか、肉パーティーとかもダメでした?」
「あなたのそれは親しみじゃなくてからかいじゃないの。って、肉パーティーは参加してないわよ、私。フィアビリテたちは、食堂でそんなことをしていたの?」
砦で分かれた夕食、確かに肉だったとフルールは思い出す。
今なら、もう少し食べれそうにも思うが口には出さない。砦に連れていかれるか、フィアビリテやガルドが狩りに行きそうな気がしたからだ。
「肉串は食いたい分だけ、焼きをそれぞれが魔法でしますからね。酒も入るし、熱気がすごいですよ。あ、ちなみにお二人の分は、ルゼルヴェが選んで焼いてましたね」
「……そう。私は、カームと上で良かったわ」
フィアビリテなら、どこでも楽しむだろう。逆に、フルールは酔っ払いに絡まれる想像をして遠慮した。
やはり当面、モンスター食を食べることも、砦へ行くこともなさそうだ。
「あ、お姉ちゃんだ!」
「遊んでくれるのー!?」
「騎士のお兄ちゃん、高い高いしてぇ」
「こら、皆。そんなに集まって迷惑を掛けてはダメ!」
村の開けた場所へ辿り着くなり、フルールに気づいた子どもたちがわらわらと集まってくる。
収穫期でやることはあるはずだが、集中力が続かない子どもは早々に遊びに転じたらしい。
「良いわよ。気にしないで、ちょうど手が空いてるの、ね?」
「まぁ、泊まる予定で来てますからね。奥様のお好きにどうぞ」
フルールが隣を見て確認すれば、子どもによじ登られながらフィアビリテは快諾していた。
以前と同じように、フルールは子どもたちと遊ぶ。フィアビリテがわんぱくな子どもたちを担当し、自然とその距離が離れてしまう。
「お姉ちゃん、こっちこっち~」
「はいはい、急かさなくても大丈夫よ」
あの辺りは確か、野花が咲いていた。また花摘みか、とフルールは子どもたちに返事を返す。以前、花冠や指輪を作れば好評だったなぁ、と。
一度だけ周囲を振り返り、フィアビリテを探すが姿は見えない。いつものことだから良いかと、フルールは結論付けて子どもたちを追いかけた。
「……とうもろこしの皮で、船を作って川流ししても子どもたちは喜びそうね」
花の前で手招きする子どもに微笑を浮かべて手を振り、前世の笹船を思い浮かべていたから、フルールは注意が疎かになっていたのだ。
前世と違って、人がいるから安全などと言うことはあり得ないと、身をもって知っていたはずなのに――。




