表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二章完結】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/121

第30話 家に帰ると美容品のことが頭から離れません

「へぇ、フルールったら、姉御って呼ばれたの?」


「笑い事じゃないわよ、カーム。恥ずかしいんだから」


「そりゃあ、フルール様とか会長呼びも嫌だって言うなら仕方ないですよねぇ?」


「フィアビリテまで、意地悪だわ」


 少し早い夕食、帰宅してテーブルを囲めば、話題はラベンダー畑のことになった。

 仰々しく呼ばないでほしいと願ったものの、男たちから姉御呼びが変わることはなかった。


「でも、ガルド、本当にありがとう。おかげで来年は、ラベンダーの収穫量がうんと増えるわ」


「男たちが、やる気になっているからな。俺はほとんど見ていただけだ」


 ガルドは面食らった後、目元を和らげ僅かに口角を上げている。その耳が少し赤くなっているのを見て、フルールは嬉しくなって笑う。


「貴方だったから、そうなったのよ。誇っていいと思うわ」


「素直に受け取っておきなよ、ガルド」


「……ああ」


 カームにまで言われ、ガルドが短く答えていた。

 実際、フルールがやってもうまく行かなかった気がする。ギスギスした最初のやり取りを思い出し、さらに面倒事を増やすだろう自覚もあった。


 ――村人ともああだったものね。浮浪者相手にはきっと目も当てられないわ。


 とうもろこしの一連のやり取りを振り返り、フルールはスープを飲んだ。

 上に立つのには、向いていない性分だと思う。身体を動かし数字を追いかけてる方が、ずっと好きだった。


「でも、奥様。あんなに広くして、ラベンダー? そんなに必要なんですか?」


「もっと広くても良いわよ。ラベンダーからも精油が取れるし、肌の調子を整えてもくれるから、化粧水や石鹸、花ごと入れてのスクラブ……は、今もあるわね。

 とにかく、使い道はたくさんあるのよ。ついでに養蜂も出来たらとっても良いなって、ミツロウでハンドクリームも作りたいし」


「ハンドクリーム?」


「今の保湿液も良いのだけど、パッとは使いにくいでしょう? 洗い物や洗濯後に手軽に使える物も、作りたいのよねぇ」


 オリーブ油を使った保湿はさっぱりと仕上がり、今までの季節にはちょうど良かった。

 ただ、液体は使い勝手が良いとは言いがたく、これから冬に入れば、乾燥が堪える時期だ。


「水仕事に携わると、どうしても手がぼろぼろになるじゃない? 冬はそこから雑菌が入って病気にもなりやすいわ。肌を柔らかく洗い上げて、仕上げのクリーム、ハンドケアセットなんてあると良いわよねぇ」


 固くなってしまった皮膚には、さらりとした保湿だけでは焼け石に水なのだ。

 酷いあかぎれなどには、もちろん薬だろうが、それだって値が張る。風邪薬もだ。予防線を張れるに越したことはない。


「ざっ、きん?」


「冬に皮膚がばっくり割れて、なかなか治らない思いをしたことない? あそこから病気の元が入り込むのよ」


 キョトンとするカームに、フルールは自分の指先を示して説明をする。

 ああ、とカームは頷き、斜め向かいに座るフィアビリテも感心したように納得顔だった。


 ――それにミツロウがあると、口紅とかも作れるだろうし。


 血色よく見える商品を作れば、冬場は貴婦人が良い資金源になるだろう。

 材料を買うばかりでは高くつく、今年は間に合わなくとも、来年には安価でとフルールは思いを馳せていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「これが、その品?」


「はい。本邸の使用人たちは、日常的にこちらを使っているそうです。さらに領都の方でも、三日間限定で販売されてました。

 その前日には、わざわざ無償で配って話題性を煽っていたようです」


「……へぇ、気にくわないわね。私を差し置いてそんなことしているなんて、探りを入れてくる他家もそうだけれど。最初見た時から、あの小娘は、いけすかなかったのよ」


 テーブルに置かれた、瓶の一つを手にとって女は眺める。社交に出なくなって久しい中、ここ数日手紙が届くようになったのだ。

 親しくもない間柄で届く内容はどれも同じ、本邸の人間が美しくなったことについて、秘訣を教えろと乞うものだ。


『ハッキリと言っていただき、感謝申し上げます。夫よりこちらへと言われ伺いましたが、余所者が入る余地はないだろうと存じておりましたので、私の方も気まずく思っていましたの。

 新居を探す良い言い訳が出来ましたわ。お時間をいただき、ありがとうございました。では、失礼いたします』


 突然の先触れはあったものの、失礼極まりない訪問。初めての対面ではこちらの顔を立てることもしない。

 感謝などと口でのたまい微塵にも思っていないことは、あの目を見れば明らかだった。意思の強い瞳は、愁傷さの欠片もない。


「本邸と領地では配っておきながら、こちらへは話も通さないなんて、私への当てつけかしら?」


 適当な理由をつけて、本邸の使用人を呼び寄せた。見た瞬間から、これのことかと憤りを感じたのだ。

 髪は艶やかに光沢があり、肌には皺が見られず潤いを閉じ込めたようにみずみずしい。


 ――許せないわ。高位貴族に連なる私よりも、そこらの人間が美しいですって?


 使用人の分際で、その場にいる誰よりも清潔感があり、輝かしく綺麗だと思った。年齢に抗えない肌を化粧で誤魔化しているこちらが、惨めになるほどに。


「若いから躾がなっていないのね。せっかくルゼルヴェにも言い聞かせてきたのに、すっかりあの男に似て可愛げがなくなってしまって……。ああ、どうしてあげましょうか」


 瓶に映る自分の顔を見て、女は口角をゆっくりと上げると、憎らしげにその笑みを深くする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ