第28話 モンスター肉を食しながら
明日、砦を出発することとなり、今日はそのままこの客間で過ごすことになった。
男三人は騎士らと食べると、食堂へ赴いている。その後、治水工事の段取りも詰めるのだろう、気にせず先に休んで構わないと護衛であるフィアビリテからも言われた。
「串に刺さった焼き物が、前侯爵様が切ったエルベットのお肉で。そっちがルゼルヴェ様が仕留めたティーグルの煮込みだね。あとは野菜のマリネと堅パン」
「カームはモンスターの、肉? 今までも食べたことがあるの?」
「そうだねぇ、今でもたまに領内の市場でも流れてくるよ。昔はどこも家畜が飼えなかったから、肉と言えばモンスターだったらしいし」
料理を部屋へと持ってきて説明をしてくれたカームに、モンスターに疎いフルールが好奇心で訊ねれば、彼女は当然のように返した。
「理に適った資源の有効活用ね」
――食文化は、その場所によって色々だものね。
フルールはすんなりと受け入れると、串肉をパクリと頬張った。
前世では、資格を設け毒のあるふぐを調理してわざわざ食べる国の出身だ。見た目に違和感がなければ、忌避などあるわけもない。
――模型実験の後、パン粥だけだったから、美味しい!
さらに加熱すれば無毒になるからと、資格がなくとも扱える魚で鰻がある。食への意欲はすごいものだ。
「フルール、初めてのわりに大丈夫そうだね」
「だって、見た目はただのお肉なんだもの。言われなきゃ分からないわ。弾力があって旨味が強い気はするけど、臭みとかもないし平気よ?」
――私はイナゴやハチの方が、食べるの勇気がいるわね。
見た目というのは大事だろう。様々な料理で親しまれているタコやカニだって、毒がなくともその見た目から、他所の国では食べない場合もあった。住む地域によって、趣向が変わるいい例だ。
――ワニや蛙は鳥味らしいし。蛇やウーパールーパー、スズメやウズラなんかもあったわね。
縁が無かったから食べたことはないけれど、本音で言えば虫よりは興味があった。
モグモグと咀嚼しながら、例えるならばなんだろうかとフルールは考えていた。
「カームはさっきモンスターの名前をそれぞれ上げていたけれど、どんなものか知ってるの?」
「ああ、それなら調理を手伝ってきたから見て来たよ。エルベットが羽の生えた大きな鳥って感じ。羽が固くて鋭くて、手袋借りたけどさ、それでも抜くの大変だったなぁ!
ティーグルの方は四本足のがっしりとした体躯で、身がたくさん取れたね。全身が毛に覆われてて、皮も色々と使えるんだって!」
テーブルを囲んでの食事、カームが串肉から肉を千切りながら嬉々として語っていた。
動物園に初めて行った、子どものような目をしている。内容はとても血生臭いが。
「……貴女、戻ってこないと思ったら何してるのよ。迷惑かけてないでしょうね?」
「フルールの方こそ、寝起きなのになんか話をしてるでしょ? 邪魔したら悪いかと思って、調理場に行ってたんだよねぇ。普通に混ぜてもらったよ。ふふん、可愛がってもらったから、私!」
フルールは遠足の感想を聞く保護者のような心境になりながらも、部屋に戻ってきてたなら顔を出せばいいのにと思ってしまう。
フルールだって、この部屋で十分に気まずい想いをしていたのだ。
「本音を言ってみなさい、本音を」
「え、混ざりたくなかったから呼ばれるまで逃げてたよ。私、もう侯爵家のメイドじゃなくて、フルールの商会の人間だし。当然じゃない?」
「もう……」
追及すれば、想像通りフルールと同じ答えが返ってくる。ぷっと吹き出すと、どちらともなく、くすくすと二人で笑い合いながら食事が進んだ。
久しぶりの食事でフルールが胃もたれを起こした分は、カームが喜んで残りを食べていた。
「――そういえば、明日はどっちに帰るの? とうもろこし?」
食後のティータイムの準備をしながら、カームが話を振ってくる。邪魔をしないように眺めていたフルールは、片手を頬に当てて小首を傾げる。
「日も空いたからね。子どもたちが大丈夫か心配だけど、とうもろこしよりも、先ずは家に帰ろうかなって。留守をガルド一人に任せきりでしょう? そっちも気になっているから……」
雨の中、家へと帰した子どもたち、あれからずっとフルールが居ないことを気にしすぎていないかは引っ掛かる。けれど七日も経ってしまったのなら、さらに数日延びても誤差だろう。
それに村も収穫期にも入る。ならば一度家に帰り、商品を抱えて再度立ち寄った方が、村の大人たちへ良い手土産と商談になると考えていた。
「ああ、あのフルールに反抗してきた男たち……」
「昔のことよ。生活にゆとりがなければ、人は一時の感情で荒れることもあるわ」
「それ、万人への言い分にはならないよ。やったら駄目なことは、駄目だもの……」
険を滲ませてカームが唸るのを、フルールは仕方ないなぁと苦笑する。
カームは侯爵家に使える前は平民だったそうだ。ルゼルヴェに拾われる前のこともあって、思うことがあるのだろう。
「カームの言い分も正しいわ。でも、本当にどうしようもないことも、世の中にはあるわ。
貴女が裁量を下すことがあれば、その時は貴女信じる正義に則れば良いのよ。じゃないと、心がしんどくなるからね。そんなこと、無いことが一番だけれど」
納得のいっていない顔をしながらも、カームが両手で頬を叩いて気持ちを切り替える姿に、フルールは可愛いなぁと老婆心で見つめていた。
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