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【二章完結】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第27話 旦那様が模型で実験しています

「……嬢ちゃん、アイツにゃもったいねぇ、な」


「どうして、関係を修復しないのです?」


 フルールは部屋から出ないと約束をして、フィアビリテをルゼルヴェの元へ行かせた。

 今、部屋にはアルディとフルールだけだ。彼がフッと鼻で笑い、窓の外を眺めながら言った。その眼差しは、どう見ても子を見守る父親だった。


「ああ?」


「昔はどうか知りませんけれど、今はわざとも入っているように思いますわ」


「……今さら、生き方なんか変えれるかよ」


 何がと明言しないフルールの言葉を汲み、眉間に深く皺を作ると口をへの字に曲げて、アルディは渋い顔をする。組んだ腕の上、指を叩き、まるで、苦手なことを前にした子どものようだ。


 ――ちゃんと向き合えば、もう少しまともになれるだろうに。


 フルールはアルディを見上げて、その瞳をじっと見た。周りをよく見ていて、口が悪いが、面倒にしつつ最後は世話も焼く。さっき訊ねてきた騎士との関係も、悪くなさそうだった。


「どこまで知ってんのか、知らねぇがよ。昔はな。モンスターが領内にうじゃうじゃ居たんだよ。毎日どっかの畑に、家畜、町や村が襲われるんだぜ?

 先代が戦死して、俺が後を継いだんだ。必死に毎日やってきて、今じゃこうだな。このまんま貫き通せば誉れだが、崩れちまえば夢物語で終わる。いつ死ぬとも限らねぇのに、今さら愛想なんて振り撒けるかよ」


「不器用なのね。……でも、そうね、人は死ぬわ。簡単に」


 真面目に返してきたアルディを意外に思いながら、フルールもなるほどと返した。

 上に立つ者として、アルディは家族よりも領地へ自分の一生を捧げたのだろう。


「……おい。若ぇのに、口先だけで二度と馬鹿言うな」


「別に軽んじて無いわよ。言葉の通りだもの。死ぬの、簡単に。私も、誰かも、呆気ないものね。……長寿を全うする方が、稀だわ」


 フルールが謝らずに言えば、その表情を見たアルディが軽く目を見張る。怒っていたはずの彼は、舌打ちをするとそのまま何も言わなかった。

 血生臭いことと無縁な前世でさえ、人は簡単に死ぬのだ。比べられるほど似通った状況でも環境でもないが、それでも確かにここでも人は死ぬだろう。例外はない。


 ――この人は平和を勝ち取っても、まだ失うことが怖いのね。


 一度目の生でいつ死んだかなど、フルールは覚えていない。それほど、呆れる最期だったのかも知れない。

 そうして見つめたのは窓の先、綺麗に片付けられた血溜まりのあった場所だった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「なぜここに来た」


「なんでって、奥様に下に降りて見てこいって言われたから。連れてくるのも、と思うと……ねぇ。部屋から出ないと仰いましたし、この砦で何かある方がおかしいし?」


「あるだろうが」


 土を操り、生まれ育った領地の風景をそのままイメージして生成した模型を前に、ルゼルヴェは最終確認をしていた。模型など初めて作るが、色々と転用出来そうだと思う。

 背後の気配に振り返れば、フィアビリテが入り口から出てくるところだった。


 ――ああも普通に接して、何を。


 上階を睨むように見上げれば、フルールとアルディが二人で並んでいる。モヤモヤと胸のうちに渦巻いたのは、不快な何かだ。


「そう目くじら立てなくても、雨と魔力枯渇で倒れた奥様を脇に抱えてたくらいだし。アルディ様に下心は皆無だったぞ?」


「……脇に?」


「ああ、荷物のようにね。あの人らしいでしょ。それでいて低体温に気づいてるし、温度管理もしてくれたわけだけど」


 肩をすくめて話すフィアビリテに、ルゼルヴェは大きなため息をはいた。額に手を当てかけ、砂で汚れているのを思い出して止める。


「さっさと終わらせて戻るぞ。水量の再現は、お前に任せる」


「えぇ。ルゼルヴェ出来るでしょ」


「王都に居たから、雨など知らん」


 明らかに呆れた声を投げられるが、ルゼルヴェはそれに素っ気なく返す。その視線は未だ上を向いていた。フルールの唇が動き、何か話しているらしい。


「いやいや、奥様の説明思い出してよ。水量は徐々に増やすのでいいんだって言ってたでしょ?」


「加減が出来る気がしない」


「なんでだよ!?」


 水や川の仕組みを理解した方がいいと、フルールは確かに言った。砂の削れ具合、川底の変化を把握すれば、必要な対策が見えてくると。


 ――倒れるほどの魔力枯渇を起こしながら、よくも平然としている。


 フルール自身のことは一切話さないくせに、出所の不明な知識を利益度外視で振る舞うのは相変わらずだった。


「良いから、やれ。人に水をかけたくらいなら、まだ余力はあるだろうが」


「あ、根に持ってたな。あれは奥様の命だからチャラでしょうよ」


 ルゼルヴェがフィアビリテの魔力残量を指摘すれば、彼は悪びれもなく言う。諫めるどころか一緒になって主人に水をかけるなど部下として良いのかそれで。


「根に持つ? お前の方がどうかしている。護衛を命じたのに、対象を守らないとはどういう了見だ?」


「色々あったんですよー。ちゃんと報告するから話を聞いて。いい加減、こっちを見てくれませんかねぇ?」


「――早く済ませて、戻るぞ」


 ルゼルヴェは視線を模型へと戻して、フィアビリテに指示を出す。

 フルールがアルディと何をやり取りしていたのか、見上げる姿勢では詳細が分からない。ただ、フルールの表情が一変したのは分かった。


 ――くそ。


 形容しがたい想いを嫌でも自覚させられて、ルゼルヴェは無理矢理意識を切り替えるように模型を凝視した。


『そんなに大事なら、囲って出すな』


 先代が亡くなったからと、王都にルゼルヴェと妻を残して領地へ戻ったアルディ。それから両親が顔を合わせた場面を、ルゼルヴェは知らない。


 ――自分のことを棚に上げて、何を言う。


 フィアビリテが器用に、川上から全ての模型の川に水を流していく。それを目で追いながら、ルゼルヴェはやはり思考を切り替えることが出来なかった。


『これからは君に誠実であると、行動をもって証明し続ける』


 それは以前フルールとの話し合いで、ルゼルヴェが立てた誓いだ。両親のようになりたくはなかったのに、自由にして良いと突き放した結果、彼女を傷つけたことへの償いだった。


 ――拒絶はされなくなった。話も出来る。


 でも、その先はまだ分からない。今はもう手袋もなく、凍傷の傷跡一つ残っていない手を握りしめる。

 眼前で徐々に増えていく水流によって崩れてく模型を、ルゼルヴェはただ眺めるしか出来なかった。

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