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【三章開始】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第24話 過去の英雄の統治と未来を見据えた統治の価値観

いつもお読みくださりありがとうございます

5月19日投稿するはずだった21話が抜けているのに気づき、割り込み投稿していますm(_ _)m

「よぉ! 元気そうじゃねぇか」


「こちらこそ、介抱していただいたようで、ありがとうございました」


 扉を豪快に開け、体格の良い男が遠慮なく入ってくる。フルールはワンピースの裾を軽く摘み、カーテシーをして出迎えた。


 ――ここの流儀だとしても、ノックも無しなのねぇ。


 その後ろ、ルゼルヴェが気まずそうに横目でこちらを窺っている。彼の方が、まだマナーはマシらしい。

 ルゼルヴェがいる理由、どこまで事情を把握しているのか、素直に聞くべきなのかどうかをフルールは少し思案した。そこへアルディが言葉をぶつけてくる。


「んで? なんか用かよ。お嬢ちゃんが、いい大人を呼びつけてよぉ?」


「あら、お招きしてくださったのに、放置だなんてあんまりですわ。それに、良い大人なんて、ここにはいませんよね?

 誰もいないから私は、フィアビリテとこれからの相談をしていただけですもの」


 ねっと、フルールは振り返り、後ろのフィアビリテに相槌を求めた。彼は肩をすくめて何も言わず苦笑している。

 アルディはと言えば、助けてくれたわりにはフルールに対して横暴な態度を崩さない。

 嫌悪が滲む言動は、大きな子どものようにも感じていた。


「――とまぁそういうことで、結果として血気盛んな殿方の頭を冷やす必要があったから、そうしたまでですわ」


「血気盛んだぁ? 俺は通常運転だぞ。ここは前線なんだからな。頭ん中がお花畑なお嬢ちゃんには、想像つかねぇだろうが」


「ふふ。私の頭の中がお花畑? 多いに結構ですわ。でしたら、ちょっと覗いてみます? ちょうど今、見かけ倒しな前線守護によってサントュール領がモンスターではなく、水害や衰退で滅ぶ行く末が浮かんでるのですけど」


 フルールがここに至るまでに見聞きしたこと、先ほどのルゼルヴェとアルディのやり取りを見ていて、フルールはピキリと青筋を浮かべていた。

 悲惨だったモンスターの被害を全て片付け平穏に導いた男は、反面、家庭と領地を蔑ろにしていたからだ。


「あぁ?」


「ふふふ。この石造りの砦はモンスター対策ではなく、貴方の熱に耐えるために立っているのかしら?」


 安い挑発に乗ってきたアルディの熱風が部屋を覆い、フルールの髪がふわりと翻る。

 それを意外にもルゼルヴェが、戸口から近い壁際で立ったまま、魔法を行使して冷やしていた。

 フルールは驚きながらも、表情には出さずに微笑を浮かべる。


 ――なまじ正しくて強いから、この大きなオコサマを誰も止められなかったのね。


「嬢ちゃん、あんまり大人を舐めるもんじゃねぇぞ。今まで守られて来たんだろうが、ここでは俺が一番強いんだからな?」


「強さの意味を履き違えておいでかしら? 無駄な血を流さないところは尊敬していましたのに、残念ですわ」


 わざわざ冷やさずとも、アルディの熱風は人を襲うレベルではない。ルゼルヴェとの一戦でも、素人目にも手加減しているのが分かった。


 ――武人としてなら、確かに強いのかもね、目の前の彼は。でも、それ以外が残念だわ。誰かさんと、本当にそっくり。


 人の機微に疎く、我が道を往く性分なのだろう。それでいてアルディは、途中で面倒になれば対応も雑になるらしい。

 シンプルな防衛では遺憾なく才を発揮するのだろうが、大貴族の当主としてそれでは失格である。


「ぁあ? これのどこが、恩人に対する礼儀だぁ? 喧嘩売ってんだろうが、表出るか?

 おい、ガキども。これだけ元気ならもう良いだろ。ここは俺の城だ。生意気な小娘をさっさと連れて帰れ」


 その台詞から、倒れた少女の認識はあるらしいのに、アルディの横柄な声は耳を塞いでも聞こえる勢いだ。不器用にもほどがあるだろう。

 ニコニコと笑むばかりのフルールに見きりをつけて、アルディが背を向けた。

 それに対し、ガキと呼ばれたルゼルヴェとフィアビリテは、フルールの方を黙って見つめるだけだ。


「いやだわ、お義父様。ご自身の淑女への接し方が、最初から間違ってることを棚上げしないで下さいな。女と侮るのですから、私も相応に対応させていただいてるだけですのよ?」


 ズカズカと部屋の外へと大股に歩くアルディに向かって、フルールは魔法で風を操り部屋の扉をバタンと閉める。

 くらりと軽い目眩を感じるも、今世、貴族としての矜持がそれをしっかりと立たせてくれた。


「気づいておられますか? もう、昔とは違うのですよ。領内でのモンスター被害が収まったのなら、領民の人口は自然と増えるのです」


「――何が言いたい。それが俺の築いた平和だ。もう、モンスターに喰われるだけの人生じゃ、ねぇじゃねぇか」


 ピクリと反応して、扉の取っ手に手を置いたままアルディが低い声で唸る。

 フルールは駆け引きを止め、真剣な眼差しで背を見つめた。それは、その言葉の重みに対する敬意でもあった。


「いいえ、再び失うのが怖くて、懸命に外側を守ろうとしても内部を整えなければ、いくらでも中で新たな悲劇が生まれるだけですわ。二年前の水害で、貴方は守れなかったから、河川に土嚢を置くことを始めたのですよね?」


「ただの騎士どもの訓練だよ。モンスターが減ったからな、身体を動かさなきゃ鈍るだけだろうが」


 アルディはつまらなさそうに、そう返した。大雨の中、フルールが見たのは河川に残った僅かな土嚢だ。

 けれど流されたり泥水で見えなくなっていただけで、本来の土嚢の量はもっと多かったはずだ。でなければ、そもそも土嚢が高さを保ち残るはずもないからだ。


「では、そう言い訳をして作った土嚢が、今回どうなりまして? 役に立ちましたか?

 二年前に国内で起きた大規模豪雨、サントュール領内の安全性から増えた人口で、新たに開拓された土地の数々。そこで事前情報も何もなく無抵抗に流された家屋や人々は、過去のモンスター被害とはどう違うのですか?」


「だからなんだって言うんだよ。結果が全てだろうが」


「そうですね。ならば、腕試しやくだらない親子喧嘩などせずに、その労力を今後の治水工事に当てればよろしいのですよ。私が作った湖を見まして?

 適切な処理をしていれば、失わずに済むものが沢山ある証明になったかと思うのですが……?」


 潔さは天晴れと言いたいところだが、これでは真意が分かりづらい人間だと、フルールは嘆息する。義父でなければ、関わりたくない分類かもしれない。


「ありゃ、ただの馬鹿のすることだ。捨て身の行動に誇りなんてあるわけがない、威張るんじゃねぇぞ?」


「なら、私が馬鹿をしないで済むように、お義父様が訓練として日頃から行ってくだされば良いのですよ。

 分野に明るくなく、学が足らない自覚がおありなのならば、出来る人間を頼ればよいのです。それは一人では無理な前線の防衛と同じことでしょう」


 多くを語らず誤解を生むだろう言動は、まさに不器用で頑固な父、職人気質といったところだ。妙にひねくれた性格は、どこかフルールと似ていて厄介だった。


 ――同族嫌悪ね。はぁ、彼には私が、自殺しようとしたようにでも見えたのかしら?


 アルディが不機嫌ながらもようやく、まともにフルールを見るものだから、フルールは息をつくと嫌みもなくふわりと笑い返す。

 途端に部屋の空気が和らぎ、男三人ともがなぜか息を飲んでいた。

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