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【二章完結】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第23話 誰が一番冷たいか

「あ、水蒸気爆発」


「え?」


 フィアビリテに支えてもらって覗いた鉄格子の窓から、離れたところで爆発が見えた。直前に炎が立ち上ったのも見えていたので、意図的なものだとフルールは解釈する。

 何より隣に立つフィアビリテが落ち着いているので、許容範囲なのだろう。


「……素朴な疑問なのだけど」


「はい」


「モンスターの血とか死体で、新しく何か引き寄せたりはしないの? 動物みたいに」


「しますね。普通に。なんならあの二体は音に釣られて出てきた若い個体でしょう。長生きしてる個体程、砦には来ませんから」


 高く、時に鈍い金属音が、響いている。

 叫んでも聞こえそうにない距離で行われているそれ、その近くには、なぜか二体のモンスターらしいものが倒れていた。

 一体は氷の塊だが、もう一体は頭と胴が分かれていて、おびただしい量の血が流れている。


「フィアビリテ。貴方、バケツ一杯分くらいの水は出せるわよね?」


「あ、聞かなくても用途が分かるの不思議ー。そうですねぇ、一般的な浴槽五杯分なら余裕ですよ」


「貴方、やっぱり平民らしくないわ」


 この世界の湯船のサイズは、魔力量の少ない人間が生活魔法で楽に出せる量を基準に作られている。それは人一人が浸かるには十分な量でもある。

 それを魔法に長けた貴族ではなく平民として五杯とは、規格外宣言も良いところだ。

 ちなみに貴族の浴槽は見栄えのために、数人がかりで給水が必要な大きいサイズが主流である。


「やだな、奥様。過去に侯爵家の血も混じってるってだけで、俺自体はコントロールそこそこ、ただ節約してるだけですよ」


「……はぁ、良いわ。で、あそこに出せるかしら?」


「良いですけど。わざわざ止めなくても、勝手に終わりますよ?」


 遠くの動く二人に狙って水をかけるのは、魔法の発動イメージとして難しい。それにフルールは寝起きで、本調子ではない自覚もある。

 安易に魔法を行使したら、容赦なく怒られるだろうとフィアビリテに頼んだ。


「あの無駄な労力、そのまま治水に使えば有用よ。ここで消費させるのは惜しいわ。馬鹿でしょう、あの親子」


「お、さすがに気づきますか。紹介まだなのに」


「似てないけど、よく似てるわよ」


 遠目に見た髪色は同じ、肌は日焼けのせいで似ていない。体格差も似ても似つかない。

 ただ、遠くで見ているせいか戦いに詳しくないフルールでも分かることがあった。


「旦那様が残念な原因は、あの元凶たるお父君の遺伝もあったのね」


 ――水で足りなければ、さらに頭を冷やしてみれば終わるかしら?


 頭に血が上るという比喩がある。血が冷えれば少しは冷静さを取り戻し、この馬鹿げた戦闘が止まるかと、フルールは半ば本気で考え、窓から見下ろしていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇




「――はっ、貴族のガキが一丁前に恋だ、愛だってか?」


 煙の中を突き破るように、アルディがルゼルヴェの前に飛び出した。目をギラつかせ口角を上げたその顔は、先ほどのモンスターのようだ。


「笑わせるな。小細工しても俺に一太刀も返せない奴が、それで誰の腹を満たすんだ?」


「――っ!」


 振り上げたアルディの一撃が重く身体にのし掛かり、ルゼルヴェの足が沈む。

 アルディが畳み掛けるように、ルゼルヴェの懐目掛けて拳を突き出す。


「そんな甘ぇ奴が上にのさばるとなぁ? モンスターの腹しか満たさねぇよ。俺らはただの餌か? ああ?」


「くっ!」


 ルゼルヴェは間に風を起こし、後ろへと飛び回避した。アルディはそれに驚きもせず、大剣を下へ構え直し突進する。


 ザバッ。


「っ!?」


「あぁ?」


 二人の頭上に、大量の水が落ちた。濡れた皮膚の下を這うように、ゾワゾワとした不快感と痛み、熱を奪う冷えを感じた。

 そこへ身体を動かそうとすれば、パキと高い音がなる。


「なん、だ――?」


「かぁ! これがお前の言う惚気か。にしては、えらく冷てぇじゃねぇか」


 訝しむルゼルヴェの横でアルディが吠え、辺り一帯のあらゆる水分を熱風で払った。

 ガリガリと頭を掻くと砦を見上げ、眉間に皺を寄せてうんざりした顔をする。


「お前、マジで日和ったんじゃねぇか? 内から凍らして来たのが分からねぇのかよ。はぁー、おっかねぇな。

 止めだ、止め。興が冷めた。嬢ちゃんも起きたらしいし、来いよ。仕方ねぇから案内してやる」


「……」


 アルディは大剣を担ぎ、ズカズカと大股でルゼルヴェの横を通りすぎると、砦の方へと歩く。

 呆気に取られたルゼルヴェは、何かを言うタイミングを失い、ただ後を追った。身体の違和感はもう無い。


「……」


 見上げた砦の上階で、つまらなさそうな顔をしたフルールと、その後ろで、形容しがたい笑みを浮かべ、フィアビリテがひらりと手を振っている。


 ――水は、フィアビリテだろう。じゃあ、あれは……。


 アルディの言葉と、行き着いた憶測に、ルゼルヴェはヒヤリと今度は物理ではない比喩で冷たさを感じた。

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