第22話 サントュール流、親子喧嘩
「おうおう、鈍ったんじゃないのかぁ」
砦の前、開けた場所でアルディが大剣を振り回し目の前の氷を砕くと、ルゼルヴェを煽る。
長い間、撃ち合う音が続いているが、止める者は誰もいなかった。
「……っ」
大振りの隙を突くように、ルゼルヴェは剣を片手にアルディの懐へと斬り込んだ。
ニヤニヤと愉快そうに笑うアルディは、ルゼルヴェの顔面目掛け、蹴りを披露する。
深く踏み込むことでそれを回避し、ルゼルヴェは姿勢を低くしたまま氷の礫を放つ。
「お前の魔法が俺に効くかよ。まぁ剣も無理だが、なぁ!」
アルディの纏う熱気に氷が溶けて、大剣と剣が火花を散らし激しくぶつかった。
ギッシャァァァァア!
ギャォォォォン!
大きな咆哮を上げて、モンスターが上空から二人を目掛けて飛んでくる。
また草むらからもガサガサと音を聞きつけたモンスターが現れた。
「空気読めよぉ。今は、息子との逢瀬だぞ」
「――邪魔だ」
打ち合わせ無しに、切り結んだ姿勢から背中合わせに立つと、アルディが大剣で飛んできたモンスターの首を一刀両断し、ルゼルヴェが茂みから出てきたモンスターを氷像へと変え、真っ二つに切った。
「お前は、本当に小細工が好きだなぁ?」
そのまま何事も無かったように、大剣と片手剣がぶつかり合った。ルゼルヴェの靴が地面に食い込み、ザッと滑る。大剣の勢いをいなして弾くと、ビリビリと剣を握る手が痺れた。
「馬鹿力が……」
「んだぁ? そのお堅ぇ頭は冷えたかよ。人の顔見るなり、切りかかって来やがってよぉ」
ルゼルヴェが忌々しげに吐き捨てると、アルディがやれやれと言った風情で言葉を拾う。
片眉を吊り上げ、ルゼルヴェは片手で首もとを緩めると殺気を込めて睨んだ。
「貴方こそ、いつまでもその余裕が続くと思わないことだ。老いに勝るものなど、あるわけがない」
ルゼルヴェの視線を受け止めて、アルディは首を横へと傾ける。突風が通りすぎその背後の枝を切り落とした。
「ハッ、老いが無ければ俺に勝てねぇのかよ。あの嬢ちゃんの方が、思いきりと火力だけなら目を見張るもんがあったなぁ。どれ、俺が直々に手ほどきしてやろうか?」
「要らん!」
ビキッと音を立てて、後方の砦の外壁を含む辺り一帯が氷漬けになる。
それでもアルディの足元だけは、剥き出しの地面のままだ。一歩、彼が足を踏み出せば、ジュッと音を立てて地表の氷が溶けた。
「はぁ、そよ風吹かせるばかりで芸がねぇな。合わせてやってるんだから、もっと研ぎ澄ませたらどうだ?」
「うるさい!」
先ほどから相殺されている風と氷の魔法、大剣と剣の質量の差でも劣っている。
アルディの鍛えぬかれたことが一目見て分かる筋肉質な体躯、対してルゼルヴェの無駄の無い線の細い身体と、明確な体格差も存在していた。
――全てが正反対だからと言っても、やりようはある。
ルゼルヴェに戦い方を教えたのは、他でもない目の前の男だ。
ルゼルヴェが振り下ろした剣は、アルディに難なく受け止められる。次と言わんばかりにすぐさま身をよじり、ルゼルヴェは回し蹴りを仕掛けた。
「馬鹿真面目に全部こなそうとするから、ミスるんだよ。お前のミスでいったい何人殺す気だぁ?」
「そっくりそのまま返すぞ、領地の安全は貴方の管轄だ。何をしている」
剣を振るい、真っ直ぐにアルディを見据えてルゼルヴェは問う。使えるものは全て使えとは、数少ない男の教えの一つだ。
つまらさなそうな顔をしてそれを大剣の腹で受け止め、アルディはそれに答えた。
「長雨なら、何も問題無かったろうが。アレはお前の管轄でもあるだろうがよぉ?
まぁ、今回は俺が出張る前に終わったんだがなぁ」
「――彼女が、ここにいることがおかしいだろう!」
フルールの家に行き、ガルドから行き先を聞いた。報告書による事後報告はいつものことだが、追いかけた先の村では長期間滞在したにもかかわらず、すでに全員居なかった。
村人に聞けば、砦の騎士と突然出ていったとルゼルヴェは聞かされた。
「好きにさせたやつがよく言うぜ。そんなに大事なら、囲って出すな。
見知らぬ女がビリー坊と領地を回ってるって話は、俺にも上がってきてたぞ。ま、この間まで興味もなかったけどなぁ?」
鼻で笑うアルディに、ルゼルヴェは撒き散らした周囲の水を確かめ――片手剣を、両手に持ちかえ相対する。その手に込めるのは、熱。
「あいにくと、彼女の魅力は自由にしてこそ輝くものだ。愛を知らん男には――到底、分からんだろうがなっ!」
剣が撃ち合った瞬間を狙って、ルゼルヴェは身体に風を纏い、ありったけの炎を放出する。
鈍い金属音が響き渡り、遅れて熱が水に触れる。辺り一帯、水蒸気が二人を囲うようにして立て続けに爆発音が轟いた。
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