第21話 最前線の日常
いつもお読みくださりありがとうございます
5月19日投稿するはずだった21話が抜けているのに気づき、割り込み投稿していますm(_ _)m
「――っ!?」
どこからともなく聞こえる爆発音と地響きに、フルールはハッと意識が覚醒する。
「あ、起きた?」
「……カー……、ム?」
全身が重怠く、喉がカラカラで声が掠れた。
カームはフルールを支えて起こすと、サイドテーブルからコップを取り出した。魔法で水を出してフルールに渡す。こくりと飲んだ冷たい水が、身体に染み渡るのを感じた。
「え、と……?」
フルールは水を飲みながら、目に入る景色に困惑する。石造りの室内は全く馴染みの無いものだ。
さらに時々、爆発音が響き、建物全体が揺れている気がする。
「あ、どこから話したら良いのかな。とりあえずここ、砦。サントュール領にモンスターが出るのは知ってるよね?
ここ、その防衛の最前線なの。で、今聞こえるのは全部、気にしなくて良いやつ。そのうち慣れるよ」
「突っ込みどころが、多すぎるわ……」
「本当にねぇ。私も驚いたよ? フルールたち見に行くだけって聞いてたのに、帰ってこないし、騎士が来て、ここに連れてこられるし、慣れたけど」
カームが軽い口調で、フルールに話す。話を聞きながら、空になったコップに水を入れて飲めば、フルールは徐々に頭が働き始め、起きる前のことを思い出した。
「そう! 雨よ!!」
「ほら、ちょっと前に止んだよー? 晴れて良かったねぇ」
呑気な声を上げるカームが指す方を見れば、部屋に角にある鉄格子の小さな窓から明るい光が差し込んでいる。外は晴れているのだろう。
「そう、ね……?」
――鉄格子?
馴染みの無い鉄格子の存在感は強かった。石造りも相まって、強い閉塞感を感じる。
寝かされていたベッドも質素で固く、どこかの映画の刑務所のようにすら感じる。
「それでねぇ。フルールは魔力枯渇で倒れたんだって、今日で一週間かな」
「――そんなに!?」
「……あぁ、お元気そうで。廊下まで聞こえてますよ。奥様」
呆れの過分に入ったフィアビリテの声がして、フルールが振り向くと、部屋の入口に彼が立っていた。
「カーム、そろそろ交代。昼食取っておいでよ」
「ありがとう、フルールと食べようかな。消化に良いもの作ってもらってくるね」
パタパタと駆けていく背を見送って、表情を消したフィアビリテが口を開く。
怒っているのだろうことは想像に固くない。逆の立場なら、フルールだって怒るからだ。
「奥様、先日はどうも。……次は無いので、そのつもりで。熱も、無いですね。
それと、ああ見えて、カームも心配していたので、奥様ご自身が懲りてもらえると、大変嬉しいんですけどね?」
「……謝ったり、しないわよ。貴方が折れないんだから、あの時はあれが最善だもの。で、報告を聞かせてもらえるのかしら?」
フィアビリテは当然のようにフルールの額に手を当て、カームが座っていた椅子に腰掛ける。
フルールはそれを指摘せず、さらに詫びもせずに報告を促した。
「はぁ……。奥様が空けたらしい穴は、綺麗な湖になってますね。そのお陰か、川沿いに巡回した騎士によれば大きな被害も無いそうですよ。
領地の被害については、報告待ちと言ったところでしょうが、ざっと見て回った騎士たちによれば、災害と呼べるものは見てないそうです」
「騎士……?」
「魔力枯渇で倒れた奥様を最初に介抱したのが、前侯爵様でアルディ・サントュール、ルゼルヴェの父君です。
あの場所からは滞在する村よりも、山にあるこの砦が近かったので、ここで今、世話になってます。魔力枯渇は重度ほど初動が肝なんで」
一旦言葉を区切り、フィアビリテは剣呑に目を細める。
「魔力を使いきっただけなら、動けなくなる程度で済むんです。それを奥様は……。
医師が言っていましたよ。枯渇した状態で、さらに強い魔法を放っただろうと。なに考えてるんですかね?」
「あの時も、さっきも言ったわ。やれることをしただけだもの。私だけが怒られる謂れはないわよ」
地を這うような低い声は、それだけフィアビリテが本気で言っているのだろう。
その強い眼差しを真っ向から受け止めるには、客観的に見てどちらの言い分も正しいだけに、フルールは居たたまれない。
少し怖じ気づきながらも、フルールは視線をやや下げて彼を見返し反論する。
――知らなかったもの。
彼らが治水を知らないのと同じように、フルールの場合は魔法を知らない。フィアビリテの憤りも、もっともだろう。フルールだって、一週間も寝込んでいるとは思わない。
「だからって、有事の度にこんなことなさる気で?」
「必要ならば……そう、でしょう? 少なくとも雨に関しては、治水工事をキチンと行えば防げることなのだから、矛先は旦那様たちでしょう」
フィアビリテに悪いと思いながら、フルールが謝罪を口にしないのはそう言うことだ。
すでに足首を浸かるほどの雨量があった。あの場を何とかするのに、やり過ぎたとは思えない。
「……」
ずっと続いている騒音、カームは慣れると言ったが、一際大きな爆発音が聞こえ建物全体が揺れているのが分かる。天井から砂がパラパラと降ってきて、沈黙が部屋を満たした。
「……はぁぁ。奥様の考えは分かりました。次からは傍を離れなければ良いだけなので。まさか、突き飛ばしてくるとは思わなかったですしね」
「突き飛ばしたのは、その……、悪かったわ。怪我はない?」
長いため息をこれ見よがしについたフィアビリテの、纏う空気が軟化する。
その事にホッと肩の力を抜いて、フルールは上目遣いで彼の顔色を窺った。
「アレで怪我したら護衛辞めて、それこそ、ここで修行コースです。
ああ、しばらく安静にしててもらいたいので、お暇でしたら治水工事の案があれば作ってもらって良いですよ。即時対応が出来るはずなので」
「即時?」
「はい。さすがにモンスター討伐が日常茶飯事と言っても、この騒がしさが毎日な訳ではないですよ?
奥様の言う適任者……達がですね。暴れてる音なんですよ、これ」
フィアビリテが苦笑して、外を指した。時々聞こえる爆発音と地響きはそう言うことらしい。




