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【二章完結】「好きにしていい」と言った旦那様、ただのコミュ力ゼロだった~念願のハンドメイドコスメをしちゃいますね~  作者: 松平 ちこ
二章 領地経営に口出しします!

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第16話 雨にまつわる話をしましょう

「今日も、止みそうにないわね」


「……そうですねぇ」


 窓から見える厚い雲に、降り続く雨を眺めてフルールとカームは呟いた。

 数日前から降り始めた雨で、とうもろこし加工技術は伝え終わっている。残すところあとは、どの家が何をするかという振り分けと契約だ。


「てるてる坊主でも作ろうかしら」


「てるて……?」


「あぁ、晴れますようにって、ただのおまじないよ」


 手持ち無沙汰にフルールが笑ったところで、扉をノックする音が三回聞こえた。

 出ようとしたカームとフィアビリテを手で制して、フルールが出迎える。


「いらっしゃい。今日も来てくれて、ありがとう。雨は大丈夫だった?」


 膝を軽く折り目線を合わせてフルールが訊ね中へと招き入れると、二人の子どもがこくこくと頷いた。

 慣れない様子で外套を脱いだ子どもたちの姿は服のサイズが合っておらず、普段読み書きを教え一緒に遊ぶ村の子どもより、貧相な身なりをしている。


 ――雨の日に来るのがすっかり定番になったわね。


 いつも遠巻きにフルールのことを見ている子どもたちへ、声をかけたのが始まりだった。

 日中は家の手伝いをしていたり、身なりを気にしてだろう子どもたちに混ざりに来ることはなく、代わりに雨の日だけフルールの借家へとやって来る。

 初めて訪れた時は一つの外套を仲良く被って来た。それすらボロボロだったので、これから通うなら、とフルールの予備をあげたのだ。


「今日はてるてる坊主を作ろうかと思っていたの、手伝ってくれる? ディリー、ジャン」


「手伝う!」


「まかせて」


 フルールは濡れた外套をカームに任せ、資材置場から古布を引っ張り出す。湿った室内に、ふわりと草花の香りが広がった。


「これ、いい匂い」


「たくさん使って、染み付いたからね」


 製造過程での水気切りや濾したりなど、様々な用途で使った布は、色もまだら模様だ。くんくんと匂いを嗅いだのは、少女のディリー。

 フルールは布を子どもの手でも扱いやすいように、手頃なサイズへと鋏で切り分けた。


「二枚の布のうち、一枚をくしゃくしゃっと丸めて、もう一枚の布で包むの」


「……まるめ、る」


「どっちつかおう?」


 テーブルを皆で囲んで作っていると、フィアビリテが興味深そうにフルールの後ろから手元を覗き込んだ。


「なんだか、人みたいですね」


「てるてる、坊主、だからね? 確か、神に祈る人とか、神に捧げられた女の子とかがモチーフだったかしら」


「え、なんか急に物騒!」


 人数分のお茶を並べながら、カームが驚いて会話に混ざる。

 フルールは歌詞を思い出しながら、てるてる坊主の首の部分を麻紐で縛った。


「実際、そうよ。晴れなかったら、首をちょんと切っちゃうらしいからね」


「え、おまじないって言ってなかった?」


 フルールの手元、ぎゅっと縛ったそれを見て、カームが引き気味に自分の首をさすっている。


「古いおまじないよ? 晴れたら金の鈴や甘いお酒でお祝いだもの」


「えぇ、なんか理不尽……」


 ふるりと身を震わせて、カームは苦虫を噛み潰したように嫌そうな顔をした。

 おまじないとしては起源が分からないほど古く、歌詞は比較的新しいと言っても、それでも前世で生まれるより何十年も前だ。


「元はともかく、これで完成ですか? 顔書いたりは?」


 紐で括ろうと苦戦する少年のジャンを手伝いながら、フィアビリテが言う。


「顔は描かないわ、効果が薄まるとかなんとか。晴れたら顔を描いて川に流したりもする、おまじないだけど……」


「これ、たくさん作ったら、雨は止む?」


「おまじないだから、どうかしらね。ディリーもやっぱり、雨は止んでほしい?」


 作り終えたディリーが、てるてる坊主を見つめながらフルールに訊ねる。

 農村の子だから、天気は気がかりかとフルールは応えた。


「うん。だってこんなに降ってたら……、お家が流されちゃうでしょう? ここは大丈夫だよって母さんが言ってたけど」


「……大丈夫だよ。次、水が襲ってきたら、今度は俺がおぶってでも、おばさん助けるんだから!」


「ジャンが背負えるわけないじゃない! 前みたいに皆、流されちゃうよ!」


「ストップ、ストップ」


 言い合いを始めた二人に、フルールが間に入る。穏やかではない単語に、フルールは同時に地図を思い浮かべていた。


「ディリーも、ジャンも、前は別の村に居たのね? その村が雨で流されたことがあるの?」


「そうだよ。近くの川から溢れたんだって言ってた」


「おばさんが俺を助けてくれて、足を失くしたんだ。だからここの村で住まわせてもらってて、出来る仕事をもらってもいるけど……。

 いつも食うのにも困ってて、雨が続くと仕事も減るから……」


 拳を握りしめ、悔しそうにジャンが声を振り絞っていた。

 雨の日にフルールの家へ来る二人には、手伝ってくれた礼だといって、少なくない報酬を渡している。

 子どもたちが足繁く通う理由は、切実なものだった。


 ――この子達の年齢から見ても、時期は二年前ね。


 フルールの前世を思い出すきっかけとなった馬車事故と同じ豪雨だろう。あの年は、一年を通して国内各地で雨の被害が多かった。

 サントュール領での歴史を、お飾りのフルールは知らない。知っているのは、事業のために見聞きした各産地や大まかな地形についてだ。


「フィアビリテ。貴方、なにか知って?」


「……お恥ずかしながら、詳細までは」


 首を横に振る彼に、フルールはそれ以上言わなかった。代わりに、子どもたちへ優しく笑みを向ける。


「大丈夫よ、あの頃よりもずっと優しい雨だから心配は要らないわ。ここの近くに溢れるような川も流れていないから安心して。

 さあ、てるてる坊主は軒下に飾るまでがおまじないで、今日の貴方たちのお仕事よ。

 お茶を飲んだら家に帰って、ちゃんと飾ってちょうだいね」


 子どもたちへ不安を与えないよう、フルールは笑顔の仮面を被る。

 その表情の裏では、領地の地図と村へ向かうに辺り、これまで見てきた道中の景色などを思い起こしていた。


「フィアビリテ、これから視察に行くわよ」


「……奥様」


「雨で悪いけど、馬を出して連れてって。一度溢れた川は、また溢れるわ」


 子どもたちを見送り、姿が見えなくなったことを確認してフルールはそう指示を出した。

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