第14話 魔法へも知識チートを転用しました
「奥様、これを今まで人前でしたことは?」
「ないわよ? というか、干し肉も今、初めてなのに……。一人だったから前の時も、時短でドライハーブ作れないかぁって、そう思って落胆したのよ?
失敗したなら、もう使い道もないやり方だし、それを人前でなん……って、どうしたの?」
目の前のフィアビリテは口許に手を当てて、ブツブツと小さくなにかを呟いている。
隣にいるフルールでも、その声は小さすぎて聞こえないほどだ。
「奥様、これ人前ではしないでくださいね。絶対」
「話を聞いてたかしら? そもそも属性の話をした時に、フィアビリテが信じないからからでしょう?」
様子のおかしいフィアビリテに、フルールは意味を掴みあぐねて居たたまれず口を尖らせ反論した。
普段軽い言動の彼が、あまりにも真剣に釘を刺すよう言うので、フルールは怒られている気分になってきた。
言われるがままに披露して、こちらに非があるわけがないのに変な話である。
「あぁ、そうですねぇ……。今、ここで把握できて良かったと思うべき、かなぁ?」
フルールの不機嫌さを読み取ったのだろう、フィアビリテは息を吐き出すとへにゃりといつものように笑った。
「――で、やっぱり水なの、私の属性?」
「他は見てないから分かりませんが、水への適正は文句無いと思いますね。……あれを水とするなら、ですけど」
話題を戻して振れば、フィアビリテはどこか乾いた笑いだ。フルールはもう気にするのをやめて、水分が抜けて置物のように固くなった野鳥をツンツンと指でつつく。
――あ、剥製にも似てるかしら。
「水かぁ。どうせなら何か事業に活かせる方で適正が欲しかったわねぇ」
ドライハーブだけでなく、石鹸の乾燥を早めるのにも、魔法を使うと自然乾燥より香りが飛ぶのだ。
失敗の追求の前に店舗を構え、バタバタとしていたので諦めたとも言える。
「あー。それは、奥様のコントロール次第ですね」
「そうなの?」
「水やりとか料理とか楽ですよ。あとは使い方ですね――ほら、ちょうどこんな風に」
手のひらに飲み水程度の水を出したフィアビリテは、それを大きく空に向かって投げた。飛んでいた野鳥に当たると、ガサガサと木々を揺らして落ちた。
「貴方。弓、要らないじゃない」
「俺は魔力量多くないので、乱発無理ですよ、これだって水と加速のための風と使ってますし。ルゼルヴェの横でかじった程度ですからね」
フィアビリテはそう笑うが、十分大したものだとフルールは思った。そこでふと気になって聞いてみる。こんな機会でもなければ、聞かないだろうからだ。
「旦那様の属性は? 聞いても良いのかしら?」
「ああ、よく使うのは風と水。苦手なのは火ですね。一通り出来ちゃう人ですからねぇ」
「……はぁ。対人スキル以外はご立派ね」
――よく使う、苦手って、全部一通り扱えるのは扱えるってことじゃないの。
フィアビリテの言葉選びに、フルールは呆れる。唯一の欠点がコミュニケーション能力とは、生きてく上でもっとも必要そうなのにと思ったのだ。
ただルゼルヴェの場合、権力とその他のスペックが強すぎて人生で大きな問題にはならなかったのだろう。
「そこ、奥様が指導してくださって良いですよ? 調教っていうんですか、奥様好みにしちゃってください」
「嫌よ。過去に誰もしなかったことを私に押しつけないで」
もやっと胸に芽生えたわだかまりを、フルールはそのまま手のひらの水球に見立てて、木に向かって勢いよく投げた。
まっすぐ飛んだ水球は、木にぶつかると大きな音を出し弾けた。
「あ、飲み込み良いですねぇ」
「水風船を投げるみたいで、これ良いわね」
しばらくの間、ぽこぽこと水球を出して、フルールはストレス発散に投げていた。
一つの木に当てるだけでは、そこだけ水浸しになり根腐れもするだろうと、適当な木を選んで的当てゲームのように遊ぶ。
「奥様、そろそろ水に形つけてみましょうか。試しにこれとか」
先ほど落とした野鳥を回収し、下処理を終えたフィアビリテが戻ってくると、フルールに提案する。
「……そこで試しに矢を持ってくるとか、細長くて難しくない? 貴方、教える気ないわね?」
「見た目通りにしなくていいんですよ。要するにイメージですから、初めては横長にさえなればそれで」
矢筒から矢を取り出したフィアビリテが、フルールに見せた。
ムッとしたフルールは手のひらを見つめると、左手を的の木の方へ伸ばし、右手を耳の横へ持っていき弓をつがえる仕草をした。
――イメージ重視なら、別にアニメとかでも良いわよね。
魔法の無い前世は、想像力に溢れていてファンタジーは多種多様だ。
対してこの世界は、生活魔法なら息をするように使える。飲み水を出す、冷やすための氷を出す、身の清めのお湯を出す、調理の火をつける、照明の光を出す、風を出して髪を乾かす。
そんなただ出すだけという、非常にシンプルなやり方に限るが。
――昔のスプリンクラーも、部屋の中に豪雨が降ったみたいになったわね。あれ、魔法で集まってくれて本当に良かったわ。
その上となると、イメージが大事だとフィアビリテの様子から推察する。
呪文も無くて、教え方も感覚に頼ったものらしい。きっと、見て、学び、覚えるものなのだろう。
科学的な根拠を加えたら、どんな影響があるのか。
ハンドメイドには向いてないかと決めつけて諦めていたけれど、試すのも悪くないかもしれないとフルールは思い始めていた。
「アイスアロー」
フルールは声と共に魔力が身体から抜けてヒヤリと冷たい物を近くに感じると、右手を緩め引いた。
ヒュッと風を切る音がして、幹に氷の矢が刺さった。静かなそこで、ガサガサと木の葉が揺れる。
――ふふん、どうかしら。
小さい頃にテレビで観た、魔法少女が必殺技で光の矢を放ったシーンをフルールは真似た。
水で動物のを模した物は、アニメで見たことがあるが、矢は見慣れない。村に着く前に氷を出した経験から、氷矢にしようと決めた。
「……奥様、天才?」
「残念。俺の教え方が上手いとか言い出したら、的にしようと思ったのに」
「え、怖っ!」
ポカンとしたフィアビリテの呟きに、ちょっとだけ意趣返しのつもりで、フルールはいたずらっ子のように言った。




