第13話 フルールの魔法適正
改めまして、本日分の更新です
明日からはまた毎日更新、時間未定で行えるように頑張ります
「……んー。今日はどうしましょうか」
「前みたいに、魔法を出すだけじゃないの?」
野鳥の処理を終えたフィアビリテが、周辺に動物が居ないことを確認する。汚れた地面などはフルールが水を出して洗った。
ただ狩りを中断し、フルールの魔法の順番が回ってきたと意図は分かるものの、初めてのことなので、その先の要領を得ない。
「前は、調子崩してましたからねぇ。魔力が漏れてたし。今は、余裕があるのでコントロールの訓練が出来そうだなと」
フルールの顔色や体調を確認したフィアビリテは、何から始めようかと思案しているようだ。
「具体的には?」
「奥様の魔力量の理想は、魔法使いレベルのコントロール力ですかね。
誰もが使える生活魔法は単に出すだけなんですけど、ほら、ルゼルヴェがやった玉ねぎのスライスとかは魔法使いの技量の応用です。
意のままに操るのが高等魔法って分類ですねぇ、魔法使いの基準が先ずそれです。その次が魔力量らしいですよ?」
「そこ、求められてるものは大差ないでしょう?」
任意で行使するには練習あるのみだろう、そうなれば魔力量だって求められる。
魔力量が多い場合、溜め込むと体調不良になるのであれば、結果どちらも欠かせないと言える。
「さすが奥様、まさにそう。――ということで、まずは親和性もありそうな水、極めましょうか」
「狩りに使える前振りはどこへ……」
「いやいや、一応理由ありますから。水、広さがあれば安全でしょう?
火で家の中が燃えることもないし、風や雷、光辺りみたいに、やり過ぎて壊れたり、怪我をする心配も少ないんですよ。
奥様はこの間も氷を出してたので、水属性に馴染みがありそうですし!」
「その属性が、よく分からないんだけど?」
「ああ、誰でも使える生活魔法は水、火、風、光と言った微細なものを出してますよね。
そこから魔法使いはさらに、生活魔法を特化させたってレベルじゃない威力を誇るんですけど、そこに向き不向きが出てきます」
フィアビリテによる魔法講座が始まった。とても助かるというか、フルールには素直に面白いと受け取った。
――私の製品開発に活かせないかしら?
「向いてることを相性が良いとか、親和性がとか言いますね。で、見たまんま水属性とか火属性とか言います。なので、今のところ奥様は、水、氷辺りなのかなって」
「……植物から水分を抜くのは、水?」
「……おかしいなぁ。魔法分野で聞いたことないのが出てきた気がする」
フルールは以前、ドライハーブから水分を抜いたことがある。香りも抜けてしまったので、あれ以来その魔法はしていない。
思い出してフルールが訊ねれば、フィアビリテは困ったように笑った。その目はとても、胡散臭そうな眼差しをしている。
「信じてないでしょ。昔、ドライハーブを早く作ろうと試行錯誤したのよ――見てなさい」
フルールは、手近な木の根もとに生えている草を摘み、それをフィアビリテの前に付き出した。
――ええと。あの時はどうしたかしら?
草を見つめて、フルールが手順を思い出していると、目の前のフィアビリテがぎょっとする。
「……ストップ、ストップ、奥様!」
「あ、ほら出来たじゃない」
フルールの手元には風に吹かれ、カサカサと音を鳴らす枯れ葉があった。綺麗に水分が抜けたのだろう、触るとパリパリと音を立てて崩れていく。
「……奥様、これにも同じのお願いして良いですか?」
目元を抑え、しばらく黙っていたフィアビリテが真剣な声で、いくつも狩った中から両手に乗るくらいの野鳥を選んで前に置いた。
「え、私。植物にしかしたことないわよ?」
「これもすでに狩り終えて死んでます。物ですよ。たぶん、ドライハーブと原理は同じです。干し肉にすると思って、してもらって良いですから」
「……出来なくても、指差して笑わない?」
ドライハーブの時は一人だった。ずぶの素人だからとはいえ、失敗を笑われるというのは、フルールはこの後が気まずくて嫌だった。
ここは知らない山の中である、気恥ずかしくて逃げることも、どこかに閉じ籠ることも出来ない。
「俺がいつ笑ったんですか」
「……ことあるごとに、小馬鹿にしてるわね」
「あれは、冗談じゃないですか。……笑いませんから、お願いします」
――それもそれで、いいわけないのだが。
フルールはじっと睨んでから、フィアビリテの目に気圧されて、地面に置かれた野鳥へ手を伸ばす。
矢で射た傷近くに触れて、目を閉じる。動物も血液とは別に、細胞に水分を持っている。フィアビリテは、おそらく要領が同じだと言った。
――動物から水分を取るとミイラかしら? でも、干し肉って言ってたし。
イメージを固めて、フルールは魔力が流れるのを感じた。初めて家を水浸しにして、それを魔法で片付けた時、ごっそりと魔力が抜けた経験をした。
それ以降、なんとなく流れというものが分かるようになった。
「……あ、出来た」
「あー。出来ちゃいましたねぇ……」
閉じた目を開けて前を見れば、先程よりも明らかに体積が減って、小さくなった野鳥が地面に転がっていた。
「んじゃあ、こっちは干し肉と言わず、魔力たくさんでやってみて下さい、奥様」
フィアビリテは、先程と同じサイズの野鳥を隣へ並べた。フルールは意味が分からず、ただ言われた通りに魔力を流した。
「……これくらい、かしら?」
「うーん、こう来たかぁ……」
地面にコロンと転がったのは、先程よりも小さくほぼ皮と骨になっただろう野鳥。
質量も軽くなっているのだろう、風に遊ばれてゆらゆらと左右に揺れていた。
――例えるなら、やっぱりミイラかしら?
そこに、フィアビリテのなんとも言えない声が落とされる。口調は軽いのに、彼らしくないその響きは何故かとても重たかった。




