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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
二章 いざスローライフの旅へ。楽をするための資源、人材確保編

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第9話 とうもろこしで売られた喧嘩は、ヒゲで返します

「少し早いですが、早摘みのとうもろこしになります」


 招待された村長の家、通された広い部屋でフルールの向かいに村長が座る、その隣を村長の妻が。サイドにはそれぞれ、村の重鎮たちが座っている。


「お嬢様には、少々難しいメニューがこれから出るかもしれませんね、すみません。村の良さはやはり、名物メニューをお出ししたくて」


 フルールの前に出された料理は、焼きとうもろこし丸々一本である。ぷっくりとした黄色い粒のてっぺん、少し表面が焦げていい焼き色がついている。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、食欲をそそられた。


「――奥様」


 後ろに控えたフィアビリテが、その焼きとうもろこしの粒を摘まんで一口、パクリと食べると伺うようにフルールを見る。


「お嬢様、芯からお外し致しましょうか?」


 村長の家を訪れた時から今に至るまで、チクチクと探るような会話をフルールは持ちかけられていた。


 ――夏祭りでよくかぶりついたわね。


「いいえ、結構よ。いただくわね」


「――っ!」


 フルールは澄ました顔で、焼きとうもろこしを躊躇いなく手に取ると、ガブリと齧って食べる。

 ザワリと、村人の驚く空気を肌で感じた。


「……ん、瑞々しくて甘いわね。美味しいとうもろこしだわ。粒も大きく揃って綺麗だし、受粉も丁寧で大切に育ててるのが分かるわ」


「……ずいぶんと、お詳しいのですね?」


「むぐ、……まぁ育てたこともあるからね。不揃いなのも作ったわよ?

 ヒゲのベトベトにまんべんなくって、プランターで気軽にするものじゃないわ。ここみたいな広大な畑でするものよ」


「ぶふ……」


 モグモグと焼きとうもろこしを咀嚼しながらフルールが答えると、唖然とする村人。

 対照的に後ろでは、フィアビリテが肩を震わせていた。そこまでおかしなことを、言っただろうか。


 ――演技、もうお仕舞いなのね。


 後ろを目で軽く振り返り、フルールはじとっと見つめた。当たり障りのないやり取りの間、フィアビリテはずっと毒味と護衛役として、言葉少なく黙って控えていたのだ。


「あら皆様。こちらにお気遣いなく、温かいうちにお食べになってくださいな」


 モグモグモグモグ……。


 フルールは言うが早いか、普通に食べることに集中し始めた。一本丸々となれば、温かいうちに、はふはふと食べきってしまいたい。


 ――普通に美味しいし。


 とうもろこしは収穫後すぐに鮮度が落ちていく、調理は早ければ早い方がいい。

 採れたてだろう焼きとうもろこしは農家ならではで、文句無しに美味だった。


「……お粗末様でした、次は何かしら?」


 そんなフルールを見て、ヒソヒソと交わされている会話におおよその検討はつくが、小鳥のさえずりだと気にもとめなかった。

 汚れた手と口をナフキンで拭き取ると、にこりとフルールは微笑む。


「コーンのスープです」


「あら、ありがとう」


 おずおずと女性によって運ばれてきた次の品は、刻んだ野菜が顔を覗かせたクリーム色のスープだ。

 音も立てずにスープを口へ運べば、まろやかで優しい香りがする。柔らかく煮た野菜がほろほろと口内で崩れた。


 ――うん。いい味ね。


 その後も二品ほど運ばれてきて、フルールはどれも美味しくいただいた。最初からテーブルにのっているパンにも、手を伸ばして食べる。

 フルールは食事を楽しむことなく、もっと腹の探り合いになるかと期待していたが、村人たちはフルールの様子を探るように窺っているだけだった。


 ――あれ?


 食後に運ばれてきたベリー酒を見て首を傾げる。フィアビリテが軽く飲んだ後、フルールに問題ないと勧めてくれた。

 それに苦笑しながら口をつけ飲み、フルールは全員に訊ねる。


「あの、とうもろこしのヒゲ茶はないのですか?」


「とうもろこしの……?」


「ヒゲ……?」


「だって、焼きとうもろこし、コーンスープ、パン生地にも練り込んでますね。チキンのソースへも甘味があって混ぜられていたわ。仰ったように、とうもろこしのメニューにこだわりを感じたの。

 いろいろな方が居るみたいだけれど、この調理を担当した方は、とても丁寧にもてなそうとしてくれたみたいね」


 フルールはテーブルを囲む二十人、その一人、一人、を見て話をする。


「そこまでこだわりがあるのなら、最後はベリー酒ではなく、とうもろこしのヒゲ茶が出てくるかと思ったの」


「ヒゲとは、あのヒゲですか?」


「ヒゲはヒゲでしょう? 先っぽの茶色いの」


 村長が代表したように、フルールに訊ねる。フルールは手をとうもろこしに例え、先端を指差す。


「……ヒゲは食用ではないから、いつも皮と一緒に土にすきこんで……」


「あら、そうなの? なら今年は収穫したら乾燥させてお茶にしましょうよ。

 少し癖はあるけれど、栄養もあるのだから捨てるなんてもったいないわ」


 そう言って、フルールがふわりと微笑めば、後ろでフィアビリテが堪えかねたように吹き出した。


「いい! 奥様、やっぱそうでなくっちゃ。君たちもそろそろ本題に入ったらどう、食事が済んでしまったじゃない?」


「なに言ってるの? ずっと普通に話してたでしょう?」


 ――カスハラも、なんならセクハラもまだ全くなかったわよ。

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