第7話 文字カードで対戦してみましょう
「とった! ぼくのかち!」
「えーん。またとられたのぉ」
「あ! それちがうぞ」
村の広場で、二人一組に分かれた年少組の子どもたちの元気な声が聞こえる。
「はーい、次に行くわよ。準備は良いかなぁ? 次は……V! 牛の、Vだよー!」
この世界の文字は、アルファベットに似ている。フルールは、それらの字を一字ずつ書いた木札のセットを幾つか作り持ってきてた。
現在、地面にカードをバラバラに並べ、カルタ取りの要領でゲームとして遊んでいる。
――子どもは、真新しいことが好きだからね。
探す、見つける、取った、取られた、勝った、負けた。年齢の近い同士でペアを組ませ、ゲームへの興味を刺激し、達成感を味わえるようにした。
ゲームが難しい年齢の子、興味のない子は、村の子守り担当の年長者とフィアビリテが請け負っている。
「ねえちゃん! つぎ!」
「こら! そんな口の聞き方しないの!」
「良いのよ。ここにいる間、私も普通に接してもらいたいから、ね?
……じゃあ行くわよぉ。次は、M! とうもろこしのMだよー?」
興奮する子どもの口調を、補佐してくれる年長者の女性が注意した。
フルールはそれに苦笑しながら、ゲームを続ける。
「――じゃあ次は、誰が一番この木札を高く積めるか、挑戦してみる?」
子どもたちの集中力が途切れ始めたところで、フルールは厚みのある木札を使い縦横斜めと、さまざまな組み合わせを手本として見せた。
フルールの手元を見るなり、子どもたちは、先ほどまで木札を取り合ってた場所であれやこれやと遊び始めた。
――こっちの方がシンプルだから、楽しんでる子多いわね。
木札の取り合いには興味がなかった子が混ざりに来る光景を見て、フルールはくすりと笑う。
ルールの理解が難しい幼児よりも幼い子どもたちは、文字の書かれていないただの木片を渡していた。こちらは積み木のように積んだり、崩したり思い思いに遊んでいる。
「え、奥様。今度はおもちゃ屋さん?」
「こんなの別に珍しくもないわよ」
フルールの後ろから、フィアビリテが声を掛けてきた。器用に子どもを三人も抱えて、良い遊び相手になっているようだ。
「そりゃ、貴族の教育では多少はあるものですし、木札作ってる時はなんとも思いませんでしたけど。相変わらず、手際が手慣れすぎ……」
「子どもをそれだけ侍らせてる貴方に言われてもね……?」
よく見ればフィアビリテの背中にもしがみついている子が居るのに気づき、フルールは感心しながらも半目になった。
「俺はほら、ずっとルゼルヴェに付いてたので、視察で慣れてます」
「いや、視察でそこまで全力出さないでしょ。普通……」
そういうフィアビリテは思いっきり髪を引っ張られてるのだが気にしておらず、カラリと良い笑顔で笑っていた。
「あ、じゃあ、お互い様ですねー」
「……」
――良い父親になりそう。知らないけど。
互いの常識を擦り合わせることはやめて、フルールはふと別のことを考えてしまった。
一緒に過ごすようになってしばらく経つが、飄々としているせいでフィアビリテのことはまだ表面上しか知らないのだ。
「貴方、突然私付きになって以降、王都に戻ってもないけど、大丈夫なの?」
「え? ああ、ここ数年は確かに王都暮らしでしたけど。ちょくちょく地方に赴いたりしてたので、元々抵抗ないですよ。
独身ですし、実家は侯爵家に使えてますしねぇ。帰らなくても別に大丈夫です」
「モテそうなのに? 最初は確かに、イラッとしたけど」
出会いのタイミングが悪かっただけで、普通に見ればフィアビリテは優良物件だろうとフルールが思ったままに言った。
「止めて下さい。ルゼルヴェに絞められます」
「え、旦那様が? まだ夫のつもりなの?」
「書類上は貴女の夫ですよ。……って待って、まさか奥様の旦那様呼びって、夫としての旦那様じゃなくて、そういう――」
「気づいてなかったの? フィアビリテとの顔合わせの時に言ったじゃない、他人ですって」
フルールが至極当然のように言えば、器用なことで、フィアビリテは子どもを抱えたまま頭も抱えたようだ。
「うわぁ。知りたくなかったなぁー。今も脈無しなんですか? こう……、ちょっとくらい好感上がってません?」
「他人から、……パトロンでしょ? ビジネスパートナー、商談相手? お得意様、取引先の責任者?」
フィアビリテに訊ねられ、フルールは考え込んで思いつく単語を上げていく。
以前の内覧時にみっともなく大泣きしたことは、黒歴史として記憶のゴミ箱にぎゅうぎゅうと押し込んだ。
結果、前よりも事務的なやり取りになっているがフルールは気にしないことにする。
――だって、必要な時に顔合わせるくらいで事足りるもの。
ほとんど、人を介してのやり取りだけで成立する関係でもある。対人スキルが壊滅的なルゼルヴェ相手に、前世の記憶もあるフルールが恋愛に発展する可能性は我ながら低いだろう。
「あ、もう良いです。それ以上聞くと、ルゼルヴェと顔合わせられなくなりそうなんで」
「そう? 大丈夫だと思うわよ、旦那様も仕事にそこまで私情は持ち込まないでしょう」
最近では、フルールに夫面することも減ってきていた。フィアビリテに、ガルドとカームの商会の雇用契約書の控えを持ってきたのが良い例だ。
それに最終日に来た時もそう。鍵を閉めて追い出しはしたが、抵抗が少なかったのは事実だ。
――昔の旦那様なら、直接渡してたわね。もっと粘るだろうし。
フルールが話している間も、変わらず遊びに夢中で木札を使って試行錯誤ししている子どもたちを見て、その変化を観察していた。
「あー。ルゼルヴェの精神年齢、やっと幼児くらいだもんなぁ。先長いぞ、これ」
「――ん? なにか言った?」
子どもたちの盛り上がる声にかき消されたルゼルヴェの呟き、その音を拾ったフルールが聞き返した。
「いや、あの木札売れそうだなーと思いまして」
「もう、売らないったら。あの品質なら、領内に無償配布に決まってるじゃない。
売るなら貴族で、木札に色付けるわよ」
話をはぐらかしたフィアビリテの言葉に、フルールはさらりと爆弾発言をちらつかせて答えていた。




