第5話 コーンスターチが作りたくて
フィアビリテの道案内で、先ずは一番とうもろこしの生産量が多い農村へと到着した。
初老の村長を訊ねると驚かれたが、なんとか話を聞いてもらえることになった。
「とうもろこしを買い取り、ですか……?」
「そう。これから収穫、乾燥と新しい備蓄が出来るでしょう? 古くなったとうもろこしで不要な分を買い取りたいの、ダメかしら?」
もてなしは一切必要ないから、村を回らせて欲しいと言えば、たじろぎながらも村長が対応してくれる。
青々とした畑を見ながら、フルールは心弾ませて、にこにこと笑って商談を持ちかけた。
「私らからしたら願ったり叶ったりですが、古いのはやはり……」
「品質が下がるのは分かってるわ。それで買い叩いたりもしない。他と同じように取引してもらって構わないから、安心してちょうだい。
もっと言うと今回限りじゃなくて、毎年お願いしたいのよ。不作の時は、こちらのことは気にしなくて良いから、余剰分だけでね」
「それではあまりにも、貰いすぎというもんです!」
古くて売り物にならない物だと謙遜する村長に、フルールは決めていたもう一つの提案をする。
「なら、ちょっとした手仕事も頼んでいいかしら? 納期は急かさないから冬の手仕事でもいいし、とうもろこしの加工品が色々欲しいのよ。それも毎年、お金も払うわ」
「はぁ……?」
相槌の最後に疑問符がつきそうな村長に、フルールは指折り数えて伝えた。
「乾燥とうもろこしをそのまま納品よりもね。本当に欲しいのは粗挽きと、さらに細かく挽いた物、それから粉もでしょ。あと、コーンスターチなのよ」
もともと飼料として使われることが多いせいで、加工品がなかなか流通していなかった。
今、家にあるのは依頼した物や偶然手に入った物、足りない場合はさらに作ってもいた。安く手に入るのはありがたいが、自給自足以上となると、量がどうしても必要になる。
「コーン、スターチですか?」
「そう。今は欲しい分だけ作ってる状態でね。引き受けてくれるなら、作り方も教えるわ」
正確には、コーンスターチもどきだ。
乾燥とうもろこしを水に浸けて挽くまでは、洗顔に使ったスクラブの時と同じ要領でいい。
そこからスクラブで使う粒の方ではなく、濁った液体の方を使う。時間をかけて液体を分離させ、下に沈殿した白い部分だけを取り出す。
数回その作業を繰り返し、最後は乾燥させて完成だ。
――手間暇かけるけど、亜硫酸もないし、設備もないから、前世には品質が劣るのがねぇ。だからモドキなのよ。
一連の作業を教えるとなれば、しばらくの間この村に滞在することになる。村長はまた驚くだろうと、フルールはくすりと微笑を浮かべた。
――あとね。二人とも、後ろから村長に圧を与えるのは止めなさい。
ただでさえ実際のところは、命令に等しく相手が断れないのを分かってのやり取りなのだ。
それが申し訳なくて、お願いの体でフルールが会話してるだけなのだが、その事が村長をさらに困惑させている。
――村に入る前に言い含めて、実際これなの、ガルドが留守番で本当に良かったわ。
村長に対して、二人が追い討ちをかけるように黒い笑みをするのはいただけなかった。
ここにガルドが加わっていたら、村長を泣かせていたかもしれない。
「……私らが出来ることは、なんなりとさせてもらいます。はい」
チラチラと二人を窺うような顔色の悪い村長は心なしか、どんどんやつれていくようにフルールは思う。
「もう、ただの商談に来た娘に、そんなに低くされたら今後が気まずいわ、村長。
私、皆とは仲良くしたいだけなのよ、ねぇ、カーム? フィアビリテ?」
「うん、フルールとは毎日楽しくやってる!」
「はい。お――フ、ルールは面白いからな!」
キッとフルールが睨めば、二人とも姿勢を正して答えた。フィアビリテにはさらに笑みを深めれば、いつもの奥様呼びを改めたようだ。
「は、はぁ……?」
ここまで来ると目の前の村長が気の毒になってくるのだが、対等とはいかなくても、いい関係を築きたいフルールは根気よく行こうと決意固めていた。
そうして巡った村の中は、のどかな田舎そのものだった。温厚過ぎる村長の気質が溢れているようだ。
「ところで、ここには子どもは何人いるの? 他にも困ったことはない?」
「子ども、ですか……?」
「ああ、誤解しないで? 読み書きの練習にね、子どもたちにおもちゃをどうかと思って」
何を思ったのか青くなった村長に、フルールは慌てて訂正する。
大人に教えるよりも、村の子どもたちに遊びの中で教えた方が、村全体の識字率が上がりやすいと思っての一言だった。




