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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
二章 いざスローライフの旅へ。楽をするための資源、人材確保編

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第4話 かき氷が食べたい

 ――怠い、暑い。なにかしら?


 早めの昼食を食べた後からなんとなく熱っぽく、夏風邪でも引いたのだろうかとフルールは思った。

 視線の先、幸いにもそばを流れる綺麗な川がある。冷やしたいなと考えて、ショートブーツに手をかけた。


「あれ、フルール何してるの?」


 後片付けを任せたカームが、フルールに気づいて声をかけた。


「暑いから、ちょっと足だけ浸かろうかなぁと」


「これから!?」


 この後、人前に出るのに水遊びなどと言いたいのだろう。カームの突っ込みも分からないでもない。

 とうもろこし畑の視察に、コーンスターチの製造交渉まで視野にいれていた。

 フィアビリテも二人のやり取りに気づいて、窺う眼差しを向けた。


「……ちょっと、だけよ?」


 暑いと自覚したら、どんどん暑くなってくる。服を濡らさないように水の中に足を浸けるだけでも、冷たくて気持ち良さそうだ。


「奥様、暑いって?」


「まだ夏だもの、フィアビリテは暑くないの?」


 隣に来たフィアビリテが、フルールに真面目な顔で訊ねた。彼はフルールの足元を見た後に、川向こうを指差した。


「暑いなら川に入る前に一度、魔法でこの辺りを冷やしても良いんじゃないですかね。ほら、あの辺りに氷か水をたくさん出してみませんか、きっと涼しいですよ?」


 目線を合わせるよう腰を折ったのかフィアビリテの声が、耳の近くでよく聞こえた。

 言われるがままフルールは、思いっきり氷を出した。


「――うわぁ」


 民家くらいのサイズだろうか、太陽に照らされてキラキラと輝く氷塊が前方に浮かんでいた。

 フィアビリテの間延びした声が、真横で聞こえる。


「……あれ?」


 暑さが和らいで、目が覚めたように思考がハッキリしたフルールは、氷塊の大きさに驚いた。

 さすがに、ズドンと落とせば色々と問題だろう。どうしようかと半ばパニックだ。


「あ、いや、こんなの出すつもりじゃなくてね? え、どうしましょう!?」


「あー。奥様、別にそのまま落としても良いですし、心配なら……そうですねぇ。水か雪に変えてみます?」


「変える!? えーと……」


「難しく考えなくていいですよ。塊が溶けたり、大きい塊を細かく小さくしていくのでいいんです」


 慌てて声が裏返るフルールとは対照的に、フィアビリテはずいぶんと落ち着いていた。

 大きな氷を細かくするイメージ、そう言われてフルールはぎゅっと目をつぶると、かき氷を思い浮かべる。


「――っ!」


「あ、お上手ですよー」


 フィアビリテの明るい声がすると、ボフッと冷たい風が吹いた。目を開けると、粉雪が辺りに積もっている。フルールはホッとして身体の力が抜けたところを、フィアビリテに支えられた。


「体調はどうです? 少しは楽になりましたか? 店舗準備からここまで、忙しさにかまけて魔法をあまり使えてませんでしたねぇ。気づかずすみません」


「え、どういうこと?」


「ルゼルヴェから聞いてません? 魔力量が多いと溜め込みすぎると身体に良くないんですよ。ほら足元」


 そう言ってフィアビリテが下を見るので、フルールも倣って下を見た。水に入ろうとショートブーツを脱いだ素足の周り、草が凍りつき、白い氷の地面に変わっていた。


「暑いって言ってたので、肌を通して願望が外に漏れて凍っちゃったみたいですねぇ。あのまま行ってたら、川ごと凍ってましたよ」


「さすがに……、それはないんじゃないかしら?」


 目の前に出来た雪原を見て、フルールは認めたくないと否定する。それは、生活魔法の範囲を遥かに越えていた。

 フィアビリテは、軽い口調で続ける。


「そんなことないですって、ルゼルヴェも小さい時は、部屋中よく凍らせてましたよ。あとはライトの加減が苦手で明るすぎて、目を潰したり。

 奥様は後発魔力だろうって聞いてるので、たぶん生まれつき魔力過多の子どもと同じ感じでは?」


「……子ども」


 とても複雑な心境をフルールがそのまま顔に出したら、フィアビリテに容赦なく笑われた。大変不本意である。


「火とか雷とか風を高出力で出さなければ、まぁ、可愛いものですって。とりあえず領地巡りの間、こういった少ない場所で発散していきましょうか。

 大丈夫ですよ。地形改竄してもいい許可は、すでに貰ってるので」


「さらっと、怖いこと言わないでくれないかしら。人をそんな規格外みたいに……」


「えぇー。あんな大きいの出せて倒れてないんですから、魔法使いとして国にスカウトされるレベルですよ?」


「私、そういうの良いから。今で十分だから」


 平凡貴族として生まれ育ったフルールが、事故をきっかけに前世の会社員時代を思い出した。

 どちらの人生も、特筆するような才を持たずにいたのだ。急に変な方向へ持っていくのは止めて欲しい。

 じとっとフルールが見れば、フィアビリテは肩をすくめて諦めたようだ。


「にしても綺麗な雪ね。シロップがあれば、美味しいかき氷になるのに……。というかここ、このままで良いのかしら?」


 雪が溶けたら辺り一帯水浸しだ。フルールがそう懸念すると、カームがタオルを持って駆け寄ってきた。


「夏だし、すぐ溶けるよ。通り雨程度に思われて終わりだと思う」


「……なら、良かったわ」


 丸く収まってないし、言いわけないのだが、これからは魔力を溜めすぎないように気をつけようとフルールは思うのだった。

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