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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
二章 いざスローライフの旅へ。楽をするための資源、人材確保編

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1話 旦那様を追い出して、先ずは、閉店準備といきましょう

「はい、旦那様。ご足労ありがとうございました。では、さようなら」


 フルールは店舗の二階から持ってきた紙の束をルゼルヴェに渡すと、にこやかな営業スマイルを見せた。


「いや、君。ちょっと話――」


「もう店じまいですわ。ここにはガルドとフィアビリテがいます。男手は十分にありますし、報告書は今、渡したもので全てになります。

 正装して来られる程お忙しいのであれば、どうぞお引き取り下さいな。こちらも忙しいので失礼しますね!」


 フルールは扉をキッチリ閉めると、ガチャンと表の鍵まで掛けた。ルゼルヴェを完全に追い出す念の入れようだった。


「三日のうちの最終日の最後に来たのは、まだ褒めてあげるわ。でも、顔が売れてるのに正装して来る意味はないわね!」


「……フルール、強い」


 鼻息荒くフルールが言いきると、カームが吹き出して笑っていた。

 プルプルと肩を震わせているフィアビリテも視界の角で捉えていた。


「だってカーム。昨日、尊い方から流行りの恋愛小説を旦那様にプレゼントしたって聞いたのだけど、あれどう見るの?」


「あー。それ言われると読んでるかも?」


「絶対に、かの方から遊ばれてるわね」


 軽く話を交わしながら、フルールは店内を見渡す。カームは売れ残った商品を木箱に詰めていた。


「今回は女性客が多かったから、粗塩は人気が無かったかしら?」


「フルールに言われた通りヒアリングしてると、日焼けと乾燥気味な人が多かったかも」


 残った商品の割合をざっと見て、フルールが評価をするとカームも同意を示した。


 ――塩はスクラブとしてお手頃だけど、毛穴が引きしまって、さっぱりするからなぁ。


 さらに傷があると塩が染みるため、安価ではあってもここでは万人受けではなかった。

 ハーブを混ぜたシンプルな固形石鹸が無難で、店内で一番売れていた。


「そうね。冬ほど乾燥してないにしても、夏は汗をかくから、保湿とかケアもやっぱり適度に必要よね。

 買いに来た人たちは、多少なりとも身なりを気にした人なわけだし」


 この世界は生活魔法で誰もが水を出せるため、最低限の衛生面は整っている。その分科学が発達しておらず、発展具合で言えば全てではないが、中世に似ている部分も多かった。

 お金を出してまで、美容や身なりを気にするのは庶民では少数なのだ。


 ――ギルド関係は、役所やハロワを彷彿とさせるくらいには、しっかり機能してたのに。


 チグハグな世界観には、フルール自身も早く慣れなければと課題ではあった。


「次の出店は秋だから、さっぱりよりも保湿の類いは多めにしても良さそうね」


 カームに後片付けを頼んで、フルールは奥に向かう。ルゼルヴェが来る前に絡んで来た男を、ガルドが拘束していたのだ。


「ガルド、何もそんなガチガチにしなくても……」


「フルールに手を上げたんだ、そうはいかない」


「ちょっと痣がついたくらいじゃない。数日で消えるわ」


 手を離してと伝えれば、ガルドは男から手を引いてフルールの側へ来る。

 頭を垂れて黙った男に、フルールは軽くしゃがむと目線を合わせた。すぐ後ろでガルドの視線が厳しくなったのを感じる。


「さて、雇用するってことでいいのよね?」


「お、奥様。すみません、でした……」


「謝罪は良いわ。私が誰かも知らされず、誰に唆されたのかしら? 雇い主として最初の質問よ」


 今さら青くなって謝る男に、フルールはどうでもよさげに対応をする。口がでかいだけの男が身分に弱いのは、見ての通りだった。


「フルール、それはどういう……」


「今日までに来た迷惑客の半分は、初見なのよ」


 ガルドに訊ねられ、フルールは視線を男に固定したままサラリと答える。


「ここでの商売は初めてだけど、ずっと見ているのが私の仕事だったからね。性別、体格、年齢、身なり、姿勢、歩き方の癖、髪の長さ、誰がいつ来たか、なんてすぐ分かるわよ」


 前世での古いレジ打ちなら、年齢選択のボタンを押して会計を始めなければならなかった。そのたくさん来る客層把握など、今世の人数とくらべれば、出来ない方がどうかしている。


「サンプル配りでも、この三日間でも、二度も来たのはほんの数人だけど。嫌がらせ目的なら、誰かに唆されたと考えるのが普通でしょう?」


 この男は初日の一人目。威勢の良さを買われて二度の犯行に及んだのかも知れないが、フルールからしてみれば情報源にしか見えない。

 以前家に押し掛けてきたごろつきとは、状況が違う。フルールの側には、ガルドもフィアビリテもいたのだ。臆する必要が無かった。


 ――気を付けなさいと、忠告ももらってるしね。


 店頭でわざわざパフォーマンスにしたのは、それらへの牽制も兼ねていた。きっと、どこかで見ているはずだ。


「ね? 誰に雇われたの?」


「……フード被ってたんで……分かりま、せん。たぶん、女。……金払いが良くて、酒場で何人か引っ掛かって。

 いちゃもんつけて来いって、商品を持ってきたら、買い取るとも言ってて……それで」


「そう。で、貴方たちは私にまとめて借りが出来たわけね。たくさん働いてもらおうかしら。大丈夫よ、身の安全も保証してあげるわ」


 男の話を黙って聞き終え、フルールは黒い笑みを浮かべると優しく言うのだった。

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