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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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最終話 三日目も無事にやり遂げました!

 書類仕事も片付けて、もうすぐ三日目も終わろうかというところ。


「本日、最終日ですー! 次は、一ヶ月後の出店になりますー。よろしくお願いしまーす!」


「えぇ? オープンしたばかりだろう。毎日開けるんじゃないのかい?」


「ここ販売だけなんですよ~。別のところで商品を作ってて、どうしてもこうならざるをえないというか……」


 ちょうど買って出てきたお婆さんに訊ねられ、フルールは店頭で声出しの傍ら申し訳なさそうに謝罪する。


「そうかぁ、良かったらまた買おうと思ったんだけどねぇ」


「ありがとうございます。皆様から忘れられる前に、またお店開けに来ますね」


 興味本位の客なら、ほとんどがこの三日に買っている。客足がこれからどんどん減っていくのは明白だった。

 使用後のリピーターや噂が広まる時期を見計らって次回の出店時期を選んだ。


「よぉ、姉ちゃん。最終日だって?」


「……あら。冷やかしも、二度目は容赦しませんけれど? 今度は買いに来られたのですか?」


 初日に来た迷惑行為の男が、フルールの目の前に再び現れた。その嘲笑う響きに、客ではないとフルールも険を滲ませる。


「また、お酒を呑まれたので? お酒を我慢すれば、そこの石鹸一つ買えるのですよ。仕事はされてないのですか?」


 事実、一番安価な設定をした固形石鹸は、酒一杯と同程度。庶民でも買えるように、フルールが必死に計算をして、材料費が価格を超えないように合わせて作ったからだ。


「うっせぇ! 金持ちの道楽のくせによ。最終日なんだろ、売れ残ったやつを貰ってやろうって来たんだろうが!」


 カッとなった男が、フルールの手首を掴み寄せ捻りあげた。ぐっと近づいた距離から、強い酒の臭いがする。


 ――嫌なことがあって酒に逃げるのは良い。それを周囲にまで持ち込んだらアウトなのよ。


 この三日、否定的な意見もゼロではなかった。それはこの、生活に無くてはならないものではない商品を扱う上で、貧困層のやっかみを買っているからだった。


「離してくださる? 道楽大いに結構、元々は、私が綺麗になりたくて作り始めたものよ。人の思惑が絡む以上、タダになんてならないわ!

 それにね、お金をいただくと言うことは、それに見合った責任も同時に商品として払ってるのよ。タダより怖いものなんてないの!」


 毅然としてフルールが言い返せば、店内奥からガルドが駆けつけ、男とフルールの間に入った。


「遅くなった」


「良いの、奥に居てって頼んだの、私だから」


 フルールが客寄せで表に出る時、ガルドやフィアビリテまで出てくると、物々しくて客足が遠のくからと事前に取り決めていたのだ。


「羨んで僻んで、それで腹が膨れるの? 無い物ねだりして満たされるの? 不満を抱えたところで、一銭の得にもならないわ。それに、あなただけじゃない。

 さあ、ここにいる皆様、よく聞いて。是非とも広めてもらって結構よ!」


 フルールは息を吸い込むとお腹に力をいれて、大音量で宣言する。


「私はサントュール侯爵が妻、フルール! この領地でハンドメイドコスメを目玉に、その日の夕飯の心配すらしなくて済むようにするわ!

 仕事が無い者には、すべからく職を与えます。偽善者大いに結構!

 次回開店までに領地巡りをして、人の雇用を促すわ。これが私の、侯爵夫人としての慈善事業です!」


「なんだよそれ、そんな都合のいい話……」


「……注目集めて、影で人を売るんじゃないのか」


「少ない稼ぎでこき使って、終わりだよ。酒一杯と同じ商品だなんて、売り上げになるかよ」


 フルールの声で足を止めた人たちに、ざわざわとした困惑の色が見える。それでも堂々と胸を張った。ここまで来たら、もう意地の見せ所だ。


「……貴方が第一号よ。仕事がないなら、私に雇われなさい? ああ、仕事があるなら空き時間だけでも良いのよ」


「誰が……!」


 フルールが手を差し出して明るく笑えば、男は罰が悪そうにそっぽを向いた。

 その喜劇のような一連のやり取りに、周囲の人間はなにも言えない。反応に困っているのがよく分かる。フルールが裕福な身分とは察しても、貴族とまでは思っていなかっただろう。


 ――この三日。旦那様の評判が良くても、前侯爵夫妻の話を聞いてないものね。


 知名度もそうだ。侯爵夫人と名乗りを上げても領民が懐疑的なのは、前夫人がろくでもなかったことの証明だとフルールは思った。


 ――まぁ、一度しか会ってなくても、私も酷い人って思ったわ。


 この親にしてこの子ありと、よく言ったものだと領地の邸を訪れた際、本当に感じたのだから仕方がない。


「――その手を取らなければ、暴行罪で兵に突き出すことになるが、よく考えて返事をしろ」


「あらまぁ。旦那様」


 通りから侍従を連れて、ルゼルヴェが歩いてきた。いつもよりしっかりとした服を着ていて、髪もかき上げている。貴族と一目で分かる出で立ちだ。


「侯爵様だ!」


「え、じゃあ本当に……夫人?」


「領主様!」


 以前も思ったが、ルゼルヴェの顔が割れているからだろう、あっという間に人々の反応が変わる。目の前の男はルゼルヴェを見て腰を抜かしていた。


「お知らせはしてませんでしたのに、何しにこちらへ?」


「最終日なのだから、出資者として見に来ても良いだろう? 調べればすぐに分かることなのだから――で、男。どうするんだ?」


 フルールが形式的に訊ねれば、ルゼルヴェもサラリと返した。座り込んだ男の方へ視線を投げると、冷え冷えと言い放つ。


「ひっ!」


「虐めないで下さいませんか。スカウトしてるのですから」


「……君は、本当に雇うつもりなのか」


「あら、どうせいつものように最初から見ていたのではないですか? 先ほどの啖呵は聞こえてましたでしょう?

 私に二言はありませんわ。どんな者でも雇います」


 胸に手を当てて、フルールはニヤリと笑って宣言する。ルゼルヴェはため息をつくと、周囲へと視線を向けた。


「彼女は私の妻だ。皆、これからよろしく頼むぞ」


 ルゼルヴェの一言に、人々から一気にお祝いムードの歓声が上がる。フルールはそれに内心呆れた。

 三日間で勝てるとは思わないが、ルゼルヴェはやはり、領民からかなり慕われているらしい。


「はい、ということでオジ様? これからよろしくお願いいたしますわ。不満を言う暇も与えませんから、安心して下さいませ」


 フルールは膝を折って、男に目線を合わせると有無を言わさぬ顔で微笑んだのだった。

 男はそれに顔をくしゃくしゃに歪め俯くと、小さく嗚咽を漏らした――。

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