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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第53話 二日目の目玉は――その名もバブル君 

 一日目を無事に終え、迎えた二日目。

 売れたものは、ほとんどが庶民向けの商品だった。

 鐘の音と共に店を開け、今日は開店待ちの人が居ないことをフルールは確認する。


「まぁ、想定内ね」


 そう言って店内の奥へと向かうと、一つの什器の移動を始めた。上には大きめの深いボールが乗っている。


「奥様、それどうするんです?」


「フィアビリテ、これ表に出したいんだけど」


「そういうの、運ぶ前にひと声掛けてくれたら良いんですよ?」


「顎で人を使うのは、慣れないの。私でも運べるし」


 店内はフラットで、足の悪いフルールが運ぶのにも支障がない。そんなやり取りを交わしながら、フィアビリテが外へと什器を出してくれた。


「さあてと。こういうのは久しぶりね」


 什器引き出しを開け、中に入れていた小袋を一つ出す。固形石鹸を作った時の木枠にこびりついたカスや、欠けなどを集めたサンプルにもならないものだ。

 量産した過程で同系統の香りごとにまとめても、小袋がいくつも出来ていた。

 ボールの中にその粉を全て入れると、熱めのお湯を魔法で出して加える。

 ふわりと石鹸が溶けて、フローラルの甘い香りが漂った。


「お湯はこれくらいかしら?」


 フルールは長袖のシャツを片方まくり、ボールを斜めに傾けた。什器の天板には穴が開いていて、そこを定位置にボールは安定している。


 シャカシャカシャカシャカ。


 泡立て器のように、指の間も広げて手のひら全体で石鹸水を混ぜ始めた。

 横から、興味深そうにフィアビリテが見ている。


「こんなところで洗濯?」


「洗濯代行ならそれもありかもね。うちじゃないけど。これはこれでデモンストレーションなのよ」


 実際、道を歩く人は、何事かとフルールたちを見ている。前世の泡立ちの良い石鹸と比べると、作っているのは見劣りのする泡だ。それでも、現世では質が良い分類に、十分入る。

 根気よく空気を含ませて混ぜていき、泡を山のように盛っていく。泡が増えなくなりそろそろ限界というところで、ボールを水平に戻した。


「ふぅ、まぁまぁね」


 しっとりとした泡を見映えよく盛っていき、引き出しから木の飾りを出すとデコレーションしていく。


「ちょ、……奥様、それなに……っ」


「可愛いでしょ、バブル君」


 一連の動作を見学していたフィアビリテはツボにハマったようで、肩を震わせて笑いを堪えていた。

 フルールはそれを気にせず、フフンと自慢げだ。

 泡には、丸い形をした薄い木の板、細長い棒などで、味のある顔が出来ている。

 依頼した木工加工で出た廃材を、フルールは貰っていたのだ。


「お店はね。いかに人の興味関心を惹けるかなのよ」


 前世で学生時代、フルールは良い先生に当たった。視野を広く持つこと、アンテナを張り巡らせること、自分の人生をより良く出来るのは、どう生きるか次第だと教えられた。

 浅く広く多趣味になったが、そのお陰で今色々なことが出来ていた。


 ――先生、奥さんにお弁当を作って貰えたのかしら?


 学生の間で大当たりと称されたやり手の先生の願いは、愛妻弁当だった。既婚者なのに、一度も縁がないと聞いた。

 若い頃には自分の誕生日に、奥さんへお弁当箱を献上したこともあるらしい。奥さんと仲が悪いわけではなく、愛妻弁当の憧れだけが夢へと変わったと聞いた。


「学祭で堂々と着るの、すごいわよね」


 つい懐かしくなり、フルールは口許を綻ばせた。再び引き出しを開けて、取り出したのは細長い棒と液体の入った小瓶だ。

 棒の先端を小瓶に浸けて、口に咥えるとそっと息を吹く。棒から小さな泡が生まれ、空へと飛んだ。


「……綺麗ですね」


 魅せるための演出に、フィアビリテが空を見上げて呟いた。

 それを眺めながら、フルールはシャボン玉をいくつも作る。懐かしい記憶と懐かしい遊び、全てに息を吹き掛けて空へと飛ばした。


 ――うん。出来た、出来た。


 フルールの手に持つ棒は、色々な採取をした中で、蓮の茎のようだと思ったものだ。

 蓮のように天然のストローとして使う勇気はなかったが、ぶっつけ本番にしては良い結果だ。


 ――まぁ失敗してたら、指で大きなシャボン玉作ってたけどね。


 呼び込みためのシャボン玉は、フルールには譲れなかった。何の店か、一目瞭然だからだ。

 そもそも大きな声で宣伝をするのは、侯爵夫人としてアウトだと思った。


「なにこれー! お姉ちゃん、僕もやりたい!」


「すごい泡ね。こんなになるものなの?」


「もっと見せてー。綺麗ー!」


 しばらくして、フルールの周りに人だかりが出来始める。

 その光景はかつて、先生にギター演奏をねだった過去と重なった。


 ――こっちの先生は、奥さんが焦げた卵焼きをお弁当に詰めてたのよね。


 夫婦にもいろんな形がある。フルールはそれをふと思い出していた。

 ルゼルヴェとそうなりたいかというと、あり得ないなと自虐的に思いながら。


「はーい。子どもたちはぜひ見ていってね。商品が気になった方は、彼に案内をして貰ってください!」


 中への導線をフィアビリテに頼み、大人たちを任せた。フルールは表で子どもたちとしばらくの間戯れていた。

 入っていく客と、買って出ていく客を横目に、シャボン玉の演出に強弱をつけながら。

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