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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第52話 開店一日目! お約束がご来店ですよ

「フルール。フルール、見て、見て」


「あら、開店前から人がいるなんて」


 カームに連れられて、フルールが窓を覗くと店の前に集まる人がいた。

 搬入日に続き、昨日も午後からサンプルを配った。その前に衣装合わせを済ませ、全員が白シャツに黒のスラックス、黒のハーフエプロン姿で統一した。


「どうする?」


「相手が誰でも時間は前倒ししないわよ。下に見せちゃうもの、ルールは徹底してね。それがずっと、従業員を守ることになるから」


 カームが確認してくるが、フルールは首を横に振って店舗の決まりを再提示した。

 一日二時間おきになる領都の鐘、朝イチは準備に充てて、昼前の音に合わせての開店に決めた。

 日没後の最初の鐘で閉店。在庫切れも閉店。


 ――いつかは店舗の従業員を雇って、現場は現場で回っていくからね。


 初日のメンバーは、フルールにカームがメインの接客、ガルドが全体の警備。フィアビリテは臨機応変だった。


「朝から人が来てるなら、今日は基本的に売るだけで終わるでしょうね」


 テスターやそれを洗い流すようの什器も、置いてあるが、それの出番はもっと客が少ない時だろう。今は、子どもの走る導線を潰す障害物としての役割が大きかった。


 カーン、カーン。


 鐘の音を聞いたフルールは、店内を見渡した。全員とお揃いの服装は、実はちょっと気恥ずかしい。

 和気あいあいとしていても、フルールの発案による事業で、彼らとは別の上の立場として立っていた。前世ただの社員として同僚がいた同じ立場ではないのだ。


「あら、鐘がなったわ。じゃあ皆、今日はよろしくね」


「はい! 完売目指して、旦那様をギャフンと言わせましょう!」


「そういえば奥様、今回は三日間だけの販売で、ルゼルヴェにはそれ言ってないんだよね?」


「……言ってないわね、好きにしていいと言われてたから」


 意気込むカームにフルールは笑って、フィアビリテの質問には目を泳がせて答えた。

 手紙を書こうとしたけれど、醜態を思い出して書けずじまいだった。


 ――なんて書けばいいのよ! 私から送ったことがないのよ。そんなの、来てくださいって言ってるようにも見えかねないじゃない!


 以前ならただの業務連絡で済んでいたのに、フルールはどうしたら良いのか分からなかった。ルゼルヴェの方からも連絡が無いとなればなおさらだ。


「三日間の試験営業の売上報告と一緒に、次回開店の考察を旦那様にはあげるわ。じゃあ、行くわよ……」


 フルールは扉に手を掛けて、気持ちを切り替える。ここからはオーナーとして、立派にやらなくてはいけないのだ。


「お待たせいたしました! これより開店します」


 サンプルを配ることで店のイメージを付けた固形石鹸、特に庶民向けは入ってすぐの所へ並べた。

 さらにはガルドに運んでもらった巨大な石鹸は、扉を開けていれば外からでも目を惹くものだ。

 ほとんどの人は、まずそこへと集まる。カームが石鹸の近くに立ち、商業ギルドで依頼したウエストポーチの財布で石鹸目当ての客の相手をしていた。


 ――レジの文化って、この世界にはやっぱり無いしね。


 見て回るほどの規模の店舗に、庶民は足を踏み入れることがない。逆に貴族は店の者を家に呼びつける。店内に来る貴族や裕福層もそうだ。用件は店員を呼ぶ。


 ――前世なら、内容によってはカスハラだわ。


 奥に裕福層、貴族層の商品を置いたのは、そのまま誘導して、レジを済ませてしまうためでもある。横に半個室を作ってもいるので、導線としても不自然さを消した。

 興味津々で来た購買欲のない人は、フロアをぐるりと回って、その高額商品を目にして驚いていた。


「――っと、私の出番ね」


 フロアを見ていたフルールは、入ってきた客の一人に目を向けた。

 開店時のピークは過ぎて、スムーズな流れが出来ていた。一番心配した閑古鳥状態は訪れなかったが、お呼びでないお約束は来たらしい。


 ――昼間から酔っぱらいなんて。どこにでもいるわね。


 気づいたガルドにも目配せをして、フルールが前に出る。つまみ出すのは簡単だが、初日なので穏便にしたかった。


「いらっしゃいませ」


「客じゃねぇよ、もうあれは配ってねぇのか!」


 アルコール臭を吐きながら男が突っかかってくる。フルールは微笑を浮かべて、姿勢正しく対応を始めた。


「すみません。あれは開店前のサービスですから、もう配っていませんよ。お気に召したのでしたら、こちらに同じものがありますので、製品をお求めください」


「なら、そこからちょっと分けてくれれば良いだろうが。昨日までタダで配っておきながら、金なんてケチくせぇぞ」


 ――ケチはどっちだ。理解できないでしょうけど、庶民向け固形石鹸の原価率をそらんじてあげましょうか?


 フルールは営業スマイルを顔に張り付けて、内心で毒を吐く。

 利益率にしたら、庶民向けは材料費でトントンでほぼ無いのだ。土地代や店舗代は、ルゼルヴェが購入したので費用に入らない。それでも製造、販売に関わる人件費、諸経費含めれば赤字になる。


「すみませんでした。せっかく足を運んでいただいたのに、説明が至りませんで申し訳ございません。

 ですが何を言われても、昨日までは無償提供で、今日からは正規品のみの取り扱いです。購入されないのでしたら、お引き取りください。またのお越しを、お待ちしております」


 誰でも買えるようにがフルールの趣旨なのだから、ぼったくるのは貴族、裕福層向けで十分だ。そして購入意思の無いただの荒らしは客ではなく、お呼びでもない。

 両手を前に腰を折り、謝罪を口にすると入口を手で示す。


 ――ただの見物客でも、無人のお店より入りやすくなるから、サクラとしては役に立つのだけどねぇ。でもそれ、貴方ではないわ。


「……お引き取りを」


「タダじゃねぇなら、二度と来るかよ!」


 いつの間にか入口に回ったガルドが、開いた扉を示して男に告げる。ガルドの威圧に負けたのだろう、男は捨て台詞を吐いて出ていった。


「フルール、あまり心配をかけるな」


「……ああいう手合い、追い払うだけじゃ治安が悪いわよね。あの元気が勿体ないし。今なら、カスハラ出来ない社畜にしちゃうか、更正カリキュラムなんてのもありね」


「……は?」


 ガルドの心配を余所に、フルールは男が出ていった入口を睨み、貴族としての立場を思い出してボソリと呟いた。泣き寝入りして、酒で流す必要はもう無いのだ。

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