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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第46話 ここからの成長に期待しましょう

 ルゼルヴェが馬車の暴走に気づいたのは、荒事に慣れているからだ。

 そして被害を最小限に収めることが出来るのは、領地では自分だけだとも分かっている。


 ――理性的な彼女なら、察してくれる。


 一言告げて制止が掛からなかったのを肯定的に受け取り、ルゼルヴェは振り返らなかった。

 その後も馬車が通った道での被害状況の把握と対処は、領主でもあるルゼルヴェにとっては居合わせたのだから当然と言えた。


「ここはもう良いから、行け!」


 だから、駆けつけたフィアビリテがフルールが居ないことに気づき、すぐさま顔色を変えたことの意味が、ルゼルヴェには最初分からなかった。


「二人で当たった方が早いだろう。現場を離れるなど、私の立場で出来るか」


 重傷者が居なかったことが幸いなほど、馬車が通った道はそれなりの被害があった。

 怪我人の応急処置を、ルゼルヴェは指示を出しながら手伝っていた。


「お前は相変わらず、感情に疎いやつだな! どうせ彼女も、その場で置いてきたんだろう!?」


「彼女なら、平気だろう?」


 家に暴漢が押しかけても、平然と森へ出てやり過ごそうとした豪胆さだ。

 他者を想いやる貴族らしい彼女は、指示をしなくても手伝ってくれているかもしれない。怒るフィアビリテに、ルゼルヴェは心底意味が分からなかった。


「――たった一年だ。彼女が馬車の事故に遭って、まだ一年しか経っていない。

 確かに、事態の収束だってお前の責務だ。どちらがどうとは言わないさ。馬車を浮かせるなんて、ルゼルヴェにしか出来ないのだから、助かった人が多いのは事実だしな」


 フィアビリテは髪を搔きむしり怒鳴りたい衝動を抑えて息を吐き出した。いつになく真剣に、語彙を強めてルゼルヴェに話しかける。


「ただな、やり直したいと思ってるなら、傷の深さを見誤るな。あの事故は、ルゼルヴェと婚姻する前だからなおさらだ。

 本当に彼女が吹っ切れているなら、それはそれで良いんだ。そうじゃない場合、知る前から決めつけるな。

 分からなくても分からないなりに、お前は逃げずに向き合え。それが、これから男として負うべき責だろうが」


 手当ての手を止めて耳を傾けていたルゼルヴェの胸ぐらを掴み、フィアビリテは彼を立たせた。


「女将には話をつけてきた。事後処理を終えたら、俺はカームを呼びに行くから、お前たちは食堂に居ろ。

 次第によっては、お前は王都に帰ってもらうからな――行け!」


 突き放すように手を離し、フィアビリテが中心となって事後処理に当たり始める。

 ルゼルヴェは言葉の意味が飲み込めないまま、フルールの元へと足を動かした。

 別れた場所へと行けば、フルールは女と立ち話をしていた。


「……あら、旦那様。もう大丈夫なのですか?」


 ルゼルヴェに気づいたフルールが、微笑を浮かべて訊ねてくる。その立ち振舞いに、ルゼルヴェはやはりと思う。


 ――杞憂じゃないのか?


「フィアビリテが代わって対処している。ここでは顔が利くから彼で問題ない。

 君が構わなければ、事態が収束するまでランチをした食堂へ行こうと思うのだが……」


 それでもフィアビリテが言ったように、フルールを食堂へと誘う。周辺はしばらく騒がしく散策どころではないからだ。


「ええ、私は構いま――」


「貴女、侯爵様の連れだったの!? ダメよ、侯爵様。医師に見せなきゃ、彼女さっき倒れたんだから!」


 了承するフルールの言葉に被せて、女が割って入ってきた。彼女にではなく、ルゼルヴェへと進言してくる。


「あ……、誤解ですわ。ちょっと驚いて転んだだけですもの、心配要らないですから」


「おー。旦那、聞いちゃダメだぞ。その子が震えてたのは、俺も見たからなぁ!」


 騒動で壊れた物資を脇へと運びながら男が言う。弁解していたフルールが気まずそうにしていることから、ルゼルヴェは嘘ではないと判断した。


「――っ! 旦那様!?」


「二度目だ。諦めて、大人しくしていろ」


 ルゼルヴェはフルールを難なく抱き上げ、森でのことを引き合いに出す。あの日も、下ろすことはしなかった。


「助言感謝する。困ったことがあれば、向こうに部下が居るから使ってくれ」


 フルールを気遣った男女に声をかけ、ルゼルヴェは宿屋を目指す。行き交う人々は誰もが、救護しているのだろうと受け取っていた。その好意的な視線が、ルゼルヴェは居たたまれなかった。


「……あの、本当に大丈夫ですから」


 なおも気丈に振る舞おうとするフルールに、チラリと視線を一度投げてからルゼルヴェは目を反らす。


「すまない」


 フルールの血の気の失せた顔色に、人々からの言葉に、何かを間違えたことにはようやく気づいた。

 ルゼルヴェはたった一言、それだけ返した。ただそれ以上の言葉を、何も持ち合わせて居なかった。


 白い結婚で契約を交わした時も。怪我をして野宿をしようとしていた時も。家で冷たく突き放された時も。

 酔っていた時でさえも、彼女の最初の一言目は、いつだってルゼルヴェの目をまっすぐに見てきた。


 ――分からないなりに。


 それが今、揺れる瞳でフルールは目を合わせようとしていなかった。

 ルゼルヴェに分かるのは、それだけだった。

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