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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第44話 重い夫と軽い妻

「何をしているんだ?」


 ルゼルヴェが部屋へと入るところで、フルールは立ち上がってトレーを持っていた。


「せっかくの温かい料理でしたから、もったいないのでお届けしようかと思いまして」


「――いい。ここで食べるから」


 フルールからトレーを受け取って、ルゼルヴェは椅子に座る。

 パンを千切って、少し冷めたシチューの縁にある油の塊をすくって食べる。

 それを見たフルールが、微妙な顔つきになっていた。


「意外か?」


「どちらかと言うと、妙に納得ですわ。私の料理に、拒否をなさってなかった理由が分かりましたもの」


「君の作るものは、どれも旨かった」


 ルゼルヴェが事も無げに言えば、フルールはやや面食らっていた。

 着席を促せば、迷うものの向かいに座り直す彼女の動作を、黙って見守る。


 ――気づかないと、踏んでいたようだが。


 昨日の話よりももっと前、走れないと告白を受けていた。だからフルールが、ダンスを忌避するだろうともある程度予測していた。

 ルゼルヴェが改めて彼女を観察して、気がついたことがあったからだ。


 ――新たな怪我をしていないのは、フィアビリテに確認済み。


 フルールは捻挫が治ってからも癖のように、片足をわずかに引きずって歩いていた。踏み込みが甘くて、足裏を上げきれていない。

 首筋と肩の動きにも、左右で差異があった。ほんの些細な動きではあるが、ルゼルヴェは仮にも剣も嗜んでいる。ちゃんと見れば、不自然さに気づくのも当然だった。


 ――事件性が無かったのは、良かったと思うべきなのか。


 王都へ戻った時に念のためにと追加で調べれば、フルールが負った馬車の事故は自然災害によるものだった。

 近年まれに見る豪雨で、川沿いでは流された家もあったらしい。


 ラフィネの補佐で、幾つかの領地に対し復興支援の手続きをしたのを、ルゼルヴェは思い出した。

 彼女の生家である伯爵領からは、支援の依頼が来ていなかったので結びついていなかった。


 ――伯爵家の主な被害が、領地では無かったとはな。


 豪雨による馬車の転落、両親に守られたことで、大怪我をしながらもフルールは命を取り留めた。

 発見した者によれば、夫人が顔を守り、伯爵が二人を抱きしめていたそうだ。

 目の前にいる彼女に、見える範囲で傷跡はないのはそういうことだった。普段の言動からも、凄惨な事故から生き残ったようにはとても見えない。


 ――使用人に関しても、後を継いだ伯爵が手を回したと言うより、フルールが気を利かせたんだろう。


 馬車の同行者は事故後、何人かが後遺症を理由に暇を願い出て受理されていた。

 部屋に籠ることで周囲を気遣っていたのなら、彼女の怪我についての詳細が素行調査では上がらず、リハビリが不十分なのも納得出来る。


 ――風魔法で補える範囲だと言うのに、あそこまで嫌がるとは。


 夜会へと誘ったのも、良かれと思ってのことだった。白粉関連について、国から彼女への褒賞の話も水面下で動いている。

 以前よりさらに美しくなっている彼女にとって、もはや踊れない程度、後ろ指を指されるものではない。その程度で揺らぐ立ち位置にいないと思っていた。


 ――踏み込み過ぎた、のだろうな……。


 ここもお互いに感心が無かった証拠なんだろう。初対面で気づいてなかったルゼルヴェに、申し開きをする気はこれからもない。


 ルゼルヴェはスプーンで、肉と野菜を一緒くたにして口へと運ぶ。食堂の男たちのために食べ応えを重視する女将らしい、ゴロゴロとした具だ。


 ――先ずは事業を成功させる。


 女将に言われた一言への解決策は、すでに決めていたことの範疇で迷いはない。カルドとカームから暇を出してほしいと、願いを預かったままだからだ。


 ――彼らを直接彼女の雇用に出来れば、少しは助けになれるだろうか?


 ルゼルヴェは食事を手早く済ませ、目の前のフルールを見た。彼女は窓の外を眺めていて、その心情を推し測ることは出来なかった。

 人付き合い――まして誰かを大切に扱うなど、誰にも教わらなかったのだから。何が正しいのか、分からなかった。




 ◇◆◇◆◇◆◇




 チクチクと刺す――ではないが伺うような視線が向けられていると、フルールは先ほどから気づいていた。


 ――旨かったって言ったわよ、あの旦那様が!


 女将の言葉を思い出して、フルールはルゼルヴェの変化に驚いていた。

 期待もしていなかった分、正直かなり間抜けな顔をさらした気もするのだ。


 ――これはあれね、日常のメリハリよ。


 流れ作業の生活だけでは、ただの毎日の繰り返しになる。単調な日々は、人を堕落させてしまう。窓の外、流れる雲を目で追いながら、その思いが景色と重なった。

 ルゼルヴェが時々面倒を持ってくるのは、スパイスとして捉えるのが良いかもしれないと、フルールは考えていた。


「……ご馳走さま」


「あら、お粗末様ですわ」


 庶民の食事の挨拶をするルゼルヴェに、フルールも貴族の笑みで普通に返していた。

 返されると思わずか、目を丸くして固まるルゼルヴェの、その顔がやや赤い。フルールは、彼の反応の意味が分からなかった。

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