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【一章完結】「好きにしていい」と言われたのでハンドメイドコスメを始めました ~ドライな妻が成り上がる一方、旦那様は思ってたより捨てたものではないようです~  作者: 松平 ちこ
一章 嬉々とした出発、目指せ美のスローライフ編

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第42話 素の自分で居られる場所は大切にしましょうね、旦那様

「……ダメではないが」


 魔法の練習と同じく、どこかルゼルヴェの歯切れが悪い。彼の有能さと無能さの境界線が、分かりやすいところだ。

 フルールはそれに、眉根を寄せる。


 ――これ、誠実というか、情けないところを見せてるだけでは?


 話し合いをしたあの日以降、ルゼルヴェは確かに初対面のような態度を改めて、フルールの意向を組むようになった。

 彼を両極端とは思っても煩わしいわけではなく、便利に使っているのが現状だ。


 ――欲しいものリスト、真面目に対応してくれてるものね。


 実際、貴族の令嬢として過ごした記憶では、この世界で独り立ちするための知識が欠けていた。

 前世の社会人までの記憶では、生きる術は持っていても、活用の仕方が分からない。


 ――いっそ、向こうも金づるくらいに思えば良いのに。


 ルゼルヴェは前と違い、フルールのやることに意を唱えず、好きにさせたままでいる。

 フルールは宣言通り、ビジネスの相手として彼を便利に使う態度を貫いていた。


「一度に全部を回ろうとは思ってません。これに関しては、人任せになどと考えてませんので、ちゃんと適時、報告書を作成しますわ。

 今ある地図よりさらに使えるものを、侯爵家にも提出しますので」


「さらに?」


「だって、領土内の正確性がまちまちですわ。未開拓は仕方ないとしても、資源の見落としは勿体ないと思いませんか?

 魔獣討伐に力を入れ、安全が売りだとは分かりましたけれど。その次に、特産と呼べるものがなく魅力がないのは、侯爵家が知らないからに他なりません。

 税や発展に関わってくるのですもの。きちんと把握するべく、ついでに資料を作ろうと思ってます」


 第一にフルールが、やりたいようにやることが重要だ。その片手間に調べたことをまとめあげるだけなら、そう苦でもない。

 ビジネスパートナーなら対等でいるべきなのだから、貰うばかりではいけない。フルールも夫人として、出来ることはするつもりだった。


「――はいよぉ。ルヴェ坊とお嬢ちゃん、お待たせ!」


 トレーを二つ持った女将が現れて、テーブルの上に置く。パンとシチューだった。パンの香ばしい香りとシチューのいい匂いが、鼻腔をくすぐった。


「ありがとうございます」


「やだねぇ、礼なんて。良いところのお嬢様なんでしょう? さっきのも含め、下品で申し訳ないけど、目をつぶってくださいね」


 フルールが礼を言えば、女将はそう言って笑った。どうやらルゼルヴェの身分を知っているらしい。単なるお忍びだけで、ここには来ていないようだ。


 ――素を、見せられる場所なのね。


 多少の無礼は許される、女将もそれが分かっているからこそ、フルールへの態度を変えない。

 見た目通りに評価せず、けれど良い意味で見た目に相応しい対応をする。


「何のことかしら。私もただの客なのだから、女将さんがそんなこと言うのはおかしいわ」


 フルールはにこりと笑って、了承の意を込めて返した。

 それに女将が気をよくして、ルゼルヴェの頭を撫で回す。


「おい! やめろ」


「いやいや、ルヴェ坊には勿体ないねぇ。良い子じゃないか、大事にしなよ」


「ふふ、確かに、好きにして良いと自由をいただきましたわね」


 母子のような距離感だと思いながら、フルールは少しからかった。するとサッと顔色を悪くしたルゼルヴェの反応が予想通りで、さらに笑ってしまう。


「――っ君! 今はちがっ……!」


「ほぉ? ちょっと下で聞いた方が良さそうな感じかい?」


 撫でていた頭を掴んで、女将がにこりと圧をかけて笑っている。ルゼルヴェはやはり青い顔だ。


「女将さんにお任せしますわ。ずいぶんとお会いになってなかったようですし、皆様、私と居ると出来ない話もあるでしょうから。こちらは、お気遣いなくで大丈夫ですわ」


「はぁ!?」


「いやぁ、気の利いたお嬢ちゃんだこと。ならちょっと借りようかね。なに、戻ってきたら少しは使えるようにしとくよ」


「大丈夫ですわ。ご覧の通り、今は問題ありませんので」


「おい!」


 抗議の声をあげても、されるがままのルゼルヴェに本気の抵抗は見えない。だからフルールは、快く手を振って送り出すことにした。


 ――お互いに、会えなくて寂しかったようですし。


 会いたい時に、会っていた方がいい。たくさん話が出来るうちに、していた方がいい。

 連れていかれるルゼルヴェには視線も合わせず、フルールはシチューをスプーンですくった。


「……うん。旦那様の行きつけだけあって、美味しいわ」


 柔らかく煮込まれた分厚い肉を噛みしめて、フルールは頬に手を当てると笑みを深くした。

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