第40話 前世のアルバイトは販売員です。ラノベも大好きでした
フルールは何もない室内を壁伝いに歩いて、広さを確認する。途中で立ち止まりワンピースの押さえて屈むと、目線を低くして全体を見渡した。
――屈むと良いって、営業さんが言ってたわね。懐かしいなぁ。
前世、モデルルームを見て回った時に言われたのだ。あれは、実際に住んだ時の生活視点をイメージするアドバイスだった。
今のフルールは、入店する子ども目線としてそれを実行した。
「旦那様、内装は好きにして良いのですよね? 什器や棚も、オーダーメイドは可能ですか?」
「君の店だ。好きにすると良い。なんならこの後、商業ギルドへ寄るか?」
大型なら領都で済ませた方が良いだろうと、ルゼルヴェが提案してくる。フルールはそれに、素直に応じることにした。
――家族連れでも、気兼ねなく来れるようにしたい。導線を潰すのが確実ね。
広いと、それだけで走りたくなるのが子どもだ。適切に物を配置するだけで、自然と走れなくなる。多少の動きにくさは、商品の配置の見せどころだ。
「キャスター付きの什器が幾つか欲しいわね。後は水は出せるから、受け皿を置けるように天板に穴を空けてその窪みを……。下は棚にして」
しゃがみこんだままブツブツと声に出し始めたフルールに、ルゼルヴェは眉をやや下げそっと嘆息する。
そうしてあちこち見ているフルールに、何も言わず付き合っていた。
「――お待たせしましたわ、旦那様」
フルールは一通り見てイメージを固め、満足をしたように一人頷くと、入口の横で黙って壁に背を預けているルゼルヴェに声をかけた。
「販売エリアしか見てなかったが、奥は見なくて良いのか?」
「間取り図は見せていただきましたし、バックヤードは、プロの方に任せた方が安心ですわ。私は、販売の仕方だけ構想を練るだけなので……」
ゆくゆくは商品の種類、在庫も多くなる可能性はあるが、初めのうちはバックヤードの優先度は低いだろう。
一般的な使い方に合わせるならば、下手に手を出すより任せた方が安心だった。
「旦那様、オープンの際は、私が直接販売しても?」
「……君の店だ、好きにしろ」
やや間はあったものの、ルゼルヴェはフルールに許可を出した。
「何か、やるつもりか?」
「薬屋でも魔法に関するわけでもないのに、怪しい物ばかり取り扱ってる店です。
滑り出しは赤字も辞さないですけれど。ハードルは下げるべきですわね」
手にとってもらえれば、価値がわかるでは、その最初の取っ掛かりはどうするのか。
「声出しに、デモンストレーション。試供品の配布は考えていますよ。定石としては」
アルバイト時代を懐かしんで、フルールは言う。ルゼルヴェは軽く目を見張り、感心するように笑みを深くしていた。
「まるで露店だな」
「親しみやすくて、いいではありませんか。ああそれと旦那様、領内で幅広く求人をお願いしたいです」
他では見ないやり方だと、ルゼルヴェが言うがそこに小馬鹿にしたり、下に見る様子は見られなかった。
だから、フルールはさらに彼に提案をすることにする。
「接客要員か?」
「それも必要ですが、今回は手仕事です。納期も量も問わず、木板に字を刻んでもらいたいです」
個々の商品のラベル、店のカードなど紙で投入するには、単価が高すぎる。
薄い木板に最低限の注意書きを記して、商品の購入時に渡せたらと考えた。その狙いはもう一つ。
「ただし、字のかけない。給金を必要とする方を優先で。子どもや孤児院も大歓迎です」
「字が書けなければ、そもそも文字を書けないと思うが」
フルールの条件に、ルゼルヴェが意味を掴みあぐねたようだ。すぐに聞き返してきた。
「見本をお渡しして、真似てもらうのですわ。商品に直接関わるものでもないので、急いで揃える必要がありません。
木彫りをするうちに嫌でも形を覚えて、領内の識字率が上げることが目的です」
「なるほど。領内に周知することで侯爵夫人として事業の宣伝も兼ね、給金を払えば経済も回ると。
今後の製品作成の人手の足掛かりの意味もあるな。だが受け取りなどは、人がいるだろう。領地は広いぞ」
さすがと言うべきか、ルゼルヴェの頭の回転が早く、フルールの考えについてくる。
「最初は、視察のついでに行こうかと。その後は、各生産先で納品の受け取り窓口を作れば良いのです」
原料の生産先、加工場所、保管場所。それらは商品の種類が増えれば、増えるだけ必要になる。
災害などに備え、都道府県の地域ごとに、わざと事業を分けるやり方と同じだ。
「……領地全体を巻き込むつもりだな?」
「領内で貧富の差など作れば、それこそ侯爵夫人の贔屓や娯楽と捉えられませんもの。慈善事業の予算も割くのですから、やるなら徹底的に、ですわ」
にんまりと笑みを深くして、フルールは笑った。ルゼルヴェの顔を見れば、プレゼンは合格のようだ。




